【世界初・シジュウカラの言葉を発見!】動物言語学者・鈴木俊貴さんの子ども時代「僕がずっと生き物を観察していたから、両親は東京から自然豊かな茨城へ引っ越そうと決めたそうです」

身近な鳥であるシジュウカラが、20以上の単語を組み合わせて文を作っていることを、世界で初めて解明した動物言語学者の鈴木俊貴さん。著書『僕には鳥の言葉がわかる』は発売後増刷続きで、大きな話題となっています。
インタビュー前編では、鈴木さんの観察に熱中していたという子ども時代、そしてシジュウカラの言葉の発見についてお話を伺いました!

さまざまな生き物を飼育、夜の雑木林を探検、観察が大好きな子ども時代

――鈴木さんはどんな子ども時代を過ごされていたのでしょうか。

鈴木さん:いろいろな生き物を観察するのが大好きな子どもでした。2歳の頃の写真を見ると、ベビーカーに虫取り網がささっているんですよね。いちばん幼いときの記憶もその頃で、クロヤマアリというアリを観察していたものです。クロヤマアリがアスファルトの隙間から出入りするのが面白くて、ずっと観察していても飽きなかった。

家ではカブトムシやクワガタ、カメ、トカゲ、ダンゴムシ、カタツムリ、カニや魚、なんでも飼っていました。虫かごやプラケース、水槽の中で、彼らが住んでいる環境を少しでも再現して、じっと近くで見てみる。姿かたちの違う生き物が「この世界をどうやって見ているんだろう」って、なんとなくわかる気がするけど、なかなかわからなくて。それを空想する子ども時代でしたね。

クロヤマアリもそうですが、珍しい鳥を見た場所とか、生き物に関することはかなり鮮明に覚えています。この間もGoogleマップで子どもの頃にカブトムシを捕まえた木を見つけたほどです。

――それはすごい! 子どもの頃のご両親とのエピソードなどはありますか?

鈴木さん:両親は家にどんどん虫や魚が増えても、止めることはなかったですね。部屋の中でヘビが逃げて驚いていたことはありましたが(笑)。

僕は東京生まれなのですが、4歳くらいで茨城県に引っ越したんです。あとで知ったのですが、僕がすごく生き物に興味があったから、父親が利根川や渡良瀬遊水地、広い雑木林があるようなところで暮らそうと決めたそうです。引っ越してからは、東京にはいなかった鳥をたくさん見ましたね。アオゲラというキツツキ、それにヒレンジャクというきれいな冬鳥を見たことが記憶に残っています。

夜、父親と懐中電灯を持って雑木林に入って、生き物を探したのもいい思い出です。夜の雑木林は昼間見る世界とは全然違うんですよ。枯れ葉にそっくりな蛾とか、昼間は枝にそっくりなナナフシモドキも、夜になると活発に歩き回っている。蛾の幼虫も昼間は鳥に食われないようにじっとしているけれど、夜になると動くんですよ。

なにに会えるかわからない暗い森に入って懐中電灯を照らしていろいろな発見をするというのは、すごく面白い体験でしたね。

「小学5年生になると夜の8時に雑木林に行って虫を観察したり、捕まえたりしていました」と鈴木さん(画像はイメージです)。

――子どもの頃からかなり観察力がおありだったのですね。

鈴木さん:すぐに本とかに頼るんじゃなくて、“自分で気づく”のが楽しくて、とにかく観察していました。たとえば、アゲハチョウの幼虫は、つく葉の種類が決まっているんです。サンショウとかミカンの葉です。だからその葉も一緒に持って帰るんですよ。蛾の幼虫だったら、それがついてたところをよく観察して、フンが落ちてて葉っぱを食べた跡があったら一緒に持って帰る。それで、羽化するところを見るのが楽しかった。

セミの羽化を初めて見たときの記憶もあります。真っ白な羽が出てきて、それが広がっていく様子がすごくきれいで。セミの幼虫は必ず天敵が少ない夜に羽化するんです。そういうのを夜更かしして観察するのが大好きでした。今でも夏にセミの幼虫がいると捕まえて家のカーテンにつけて、羽化するところを見て、体が固まったら翌朝逃すっていうのを毎年やっていましたし、今でもやっています。

セミの羽化の様子(画像はイメージです)。

高校生になると双眼鏡で鳥を観察。飼うのとは異なる世界を知る

――鳥も小さい頃から好きだったのですか?

鈴木さん:鳥も好きだったのですが、子どもの頃は双眼鏡を持っていなかったので、なかなかじっくり観察できませんでした。でも高校生のときにお年玉で双眼鏡を買って、鳥を観察するようになって。家で生き物を飼うのとは全然違う新鮮な感覚がありました。

プラケースの中の生き物の場合、エサはこちらで用意するものだし、天敵もいない状況ですが、野外の鳥は真逆です。鳥は自分たちでエサを探しているし、たまにタカのような天敵が襲いに来て、必死に逃げたりするわけです。そうすると鳥どうしで「タカが来た」と伝え合ったり。そんな世界もあるのだと知りました。

それで、生き物がこの世界をどう見ているのか知るためには、彼らの住んでいる世界に人間側が入って観察しなくてはいけないと思ったんです。

シジュウカラには言葉がある! 世界で初の発見

――鈴木さんがシジュウカラの言葉を研究テーマに選ばれた理由や、その魅力を教えてください。

鈴木さん:僕は小学2年生のときから動物学者になりたくて、卒業文集にもそう書いていたんですね。高校生くらいからは鳥の研究をやりたいと思い、大学に進学しました。

ただ、鳥の研究といっても、いろいろなテーマを考えうるわけです。そのときもやっぱり、本や論文を読んで調べるのではなくて、自分でいろいろなところに行きました。離島にも行きましたね。毎日鳥を観察していて、でもなかなかいいテーマが見つからなかったんです。

4年生で卒業研究が始まって、ほとんどの研究者は先生にテーマをもらうのだけれども、僕は意地でも自分で見つけてやろうと思って、さまざまな場所に足を運びました。

シジュウカラは、今では森だけではなく街中でも見ることができる身近な野鳥(写真提供:鈴木俊貴さん)。

卒業の研究のため、軽井沢に3か月籠ったことが転機に

長野県の軽井沢には多種多様な鳥が生息しているのですが、そこの山荘に籠って観察を行っている際、シジュウカラが声を使い分けていることに気づきました。

シジュウカラは鳥の中でも、鳴き声の種類がずばぬけて多くあります。最初はデタラメかもと思っていたけれど、全くそんなことないということに気づかされたんです。たとえば、仲間を呼ぶときは「ヂヂヂヂ」って鳴くし、空にタカが現れると「ヒヒヒ」って鳴いて、そうするとみんな逃げる。これは面白い世界があると思って、研究をしようと決意しました。

ヒヒヒ(タカだ!)と聞いて空を見上げるシジュウカラ(写真提供:鈴木俊貴さん)。

詳しくは『僕には鳥の言葉がわかる』に書いていますが、いろいろな実験と観察を繰り返した結果、シジュウカラの言葉は感情の表れだけではなくて、本当に人間の言葉との共通点をたくさん持っているということが、次々と判明したんです。

「ヘビ」とか「タカ」という意味の鳴き声を出せたり、それだけじゃなくて「警戒して、集まれ(ピーツピ・ヂヂヂヂ)」のような文章を作ったり。「お先にどうぞ」と翼の動きをジェスチャーとして使うこともできるんです。

シジュウカラはそういった高度なコミュニケーションが世界で初めて見つかった動物なんです。それはチンパンジーでも見つかっていなかった。そんなびっくりするような発見が、実は身近にいる鳥でわかったというのが面白いところですね。

◆シジュウカラの鳴き声一例

「ヒヒヒ」:空にタカを見つけたときの声
「ジャージャー」:「ヘビ」という意味の声
「ピーツピ」:「警戒しろ」という意味の声
「ヂヂヂヂ」:「集まれ」という意味の声
「ピーツピ・ヂヂヂヂ」:「警戒して・集まれ」という文

――鈴木さんの発見は、世界を驚かせました。そうして立ち上げた「動物言語学」とは、世界をどう変えていくものなのでしょうか? 後編では観察のコツなども合わせて伺いました。

後編はこちら

シジュウカラはヘビが来ると、「ジャージャー」と鳴く!累計10万部突破の『僕には鳥の言葉がわかる』著者・鈴木俊貴さん「本当の発見というのは、いつも身近な自然の中にある」
前編では子ども時代の話や、シジュウカラの言語について伺いました 動物には言葉がないというのは思い込み! 動物言語学の立ち上げ ...

話題沸騰、累計10万部突破!『僕には鳥の言葉がわかる』

「面白くて読みやすい」と爽快な読後感が大人気!  シジュウカラの言葉を知るための実験と観察の過程が、先生による手描きの愛らしいイラストとともにスウッと頭に入ってきます。鈴木先生の「シジュウカラのことが好きだ、もっと知りたい」という熱意に胸を打たれる1冊。ぜひ読んでみてくださいね!

お話をうかがったのは

鈴木 俊貴|東京大学准教授 動物言語学者
1983年東京都生まれ。日本学術振興会特別研究員SPD、京都大学白眉センター特定助教などを経て現職。文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本生態学会宮地賞、日本動物行動学会賞、World OMOSIROI Awardなど受賞多数。シジュウカラに言語能力を発見し、動物たちの言葉を解き明かす新しい学問、「動物言語学」を創設。愛犬の名前はくーちゃん。
X @toshitaka_szk

取材・文/平丸真梨子

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