発達障害の子どもの「できた!」を増やすABA療法とは?【発達障害・行動の科学療法ABA vol.1】

ABA(エービーエー Applied Behavior Analysis 応用行動分析学)は、アメリカやカナダのほとんどの州で現在標準的に行われている、発達障害のお子さんへの有効性が広く認められた療育方法です。問題行動を減らし、好ましい行動を増やすことを教えることができるABAは、最近、日本でも注目され始めています。

日本でいち早くABAを自閉症のお子さんに取り入れ、ABAホームセラピーの普及とセラピスト育成に取り組んでいらっしゃる「NPO法人つみきの会」の藤坂龍司代表に、ABAについて詳しく教えていただきました。

“発達障害児の知能や社会性は改善できる”と考えるABA

現在、日本では、乳幼児健診制度が充実し、自閉症などの発達障害の早期発見の体制はかなり整っているといえます。そのなかで発達の遅れが明らかになった子どもたちへの支援のアプローチは、さまざまなものがありますね。今の日本で主流なのは、健常児の子どもの発達過程の研究成果を自閉症児等への療育に当てはめた「発達論的アプローチ」や、自閉症の認知特性を尊重し“障害を持ったままでも生きやすいように社会を変えよう”と環境を整える、バリアフリー発想の「TEACCH(ティーチ)」などでしょうか。

 一方で、ABA(応用行動分析学)は、“自閉症児の知能や社会性は改善できる”という考えに立った療育方法です。

「行動」には、持って生まれたものがあることは否定しませんが、通常考えられているよりもずっと多くの行動が後天的に学習されたものであり、学習が可能なものだとABAではとらえています。発達障害の子どもたちが言葉を発しなければ、積極的に言葉を教えますし、友達と遊べないのであれば、遊び方を教えます。

一見、対処療法的で障害の真の原因にアプローチするものではないように見えますが、こうして1つ1つ学習をさせていくという手法こそが、ABAが発達障害児の知能・社会性の改善に大きな効果をあげている理由だと言えるでしょう。

「自閉症に有効な治療法はない」は、すでに過去のもの

何より強調したいのは、ABAの改善効果は、世界中の大学・研究機関での長年にわたる研究データによって実際に証明されており、非常に科学的で信頼性の高いものである、という点です。なかでも米国UCLAのロバース博士らの研究チームが開発した「ABA早期集中療育(早期集中行動介入、EIBI)」という方法は、自閉症の症状の改善に画期的な効果を上げて注目されています。

ロバース博士らは、2-3歳の自閉症幼児19人に対して、ABAに基づく平均週40時間の11の療育を、2年以上にわたって施しました。前半は大学から派遣された学生セラピストが、親とともに家庭で療育を行い、後半はセラピストの付き添い付きで徐々に健常児の集団(プリスクール)に入れていきました。

その結果、子どもたちが小学校に入った時点で行われた追跡調査で、19人中9(47)が知的に正常になり、しかも付き添いなしで小学校普通学級に入学したことがわかったのです(治療前に知的に正常域だったのは2)

一方、比較のために用意された二つのグループ(一つは週10時間未満のABAしか施さなかった19人、もう一つは全くABAを施さなかった21)では、知的に正常域に入り付き添いなしで普通学級に入った子は、40人中1人だけでした。

 

1987年に発表されたこの画期的な研究結果を機に、アメリカではABAの有効性について一気に注目が集まり、今日、アメリカとカナダのほとんどの州で、自閉症など発達障害の診断を受け必要と認定されれば、公費または医療保険でABAセラピーが受けることができるようになりました。「自閉症に有効な治療法はない」というこれまでの常識はすでに過去のものとなりつつあるのです。

 

もちろん、ABA早期集中療育を受けた子どもがみんな普通学級に行けるとは限りません。ですがABAは、多少の差はあれども、すべての子どもの成長を促すことができます。なぜならそれは、ABAが、ヒトをはじめすべての動物に共通する「行動の基本原理」に基づいた、科学的な行動アプローチ法であるからです。

ABAの基礎知識 3つの「行動の基本原理」

では、発達障害に有効なABAとは、いったいどのような療育方法なのでしょうか?

行動や学習の科学である「行動分析学」の成果をさまざまな分野に応用するABAは、障害児療育だけでなくスポーツトレーニングや企業の人事管理など幅広い分野で活用されています。

行動分析学を確立したのは、1930年代米国、B.F.スキナー博士です。博士は、さまざまな動物の行動を観察する中で、“行動の変化の本当の原因は、行動の前の出来事ではなく、むしろ行動の後に起こる出来事にある”ということに気づき、行動の基本原理をいくつも発見しました。これは簡単に言うと、「人の行動は<ごほうび>で変わる」ということです。

つまり、人の行動は、そのあとに生じる結果(ごほうび、あるいは不快)によって、その行動が増えるか減るかが決まるという“法則”があるということです。なぜ行動が増えるか(維持されるか)、減るか(なくなるか)、スキナー博士が発見した3つの大きな原理を紹介しましょう。

【行動の原理1】強化(reinforcement)/好ましい行動を増やす、維持するために有効な手続き

第一の行動の基本原理は「強化」です。

人は何らかの行動の直後に、その人にとって<ごほうび>となるものがあると、以後その行動は増加(あるいは維持)します。この、行動が増えたり、維持したりすることを「強化」といい、<ごほうび>となるものを「強化子」といいます。

何か教えるときにABAが最も重視するのが強化です。好ましい行動を維持したり、新しい行動を教えるときには、この「強化」がとても有効になります。逆にいうと、「行動の直後に強化子を与えない限り、その行動は増えない」というのがABAの鉄則。ABAでは、新しい行動を覚えるのが苦手という発達障害の特性を持つ子どもたちにも、「強化」を繰り返すことで行動形成できるように教えていきます。

 「強化子」によって、「行動」が増加するのが「強化」

例えば、遊びのあと子どもが片付けをしていて、それを見てお母さんがほめました。すると、その子どもは次の遊びのあとも片付けをするようになりました。

 

 「片づける」という行動が、「お母さんのほめ言葉」という「強化子」によって増えました。これが「強化」です。

 

強化子は、ほめ言葉のように誰かが意図的に与えるものばかりではなく、自然にもたらされる場合も多くあります。例えば、窓を開けるといい風が入って気持ちがよくなる。だから、毎朝窓を開けるようになる。これも強化です。このように、行動のあとに「よいこと(ごほうび/強化子)」が出現してその行動が強化される(増える、維持される)ことを「正の強化」といいます。

 

また、嫌なこと(不快)が取り除かれたときにも、その行動が維持・増加することがありますね。例えば、頭が痛いときには、頭痛薬を服用します。すると痛みが緩和される。だから、頭痛のときには薬を服用するようになる。これも強化です。

「薬を飲む」という行動が、「痛み(不快)を取り除く」ということによって維持(増加)されます。このように、すでにあった「不快」が取り除かれてその行動が強化される(増える、維持される)ことを「負の強化」といいます。

【行動の原理2】消去(extinction)/問題行動をやめさせたいときの基本となる手続き

第二の行動の基本原理は「消去」です。行動の後にごほうびが与えられなくなると、その行動は減少します。これを「消去」といいます。行動が減ったり、なくなる法則です。

「強化子」が与えられず、「行動」が減るのが「消去」

例えば、先ほどの例で、最初は片付けを進んでやってくれた子どもをほめていたけれど、だんだんそれを当たり前として子どもをほめなくなったとします。すると、子どもは、ほめられないとつまらなくなって、だんだん片付けをしなくなります。これが消去です。

「片づける」という行動に、「お母さんのほめ言葉」という強化子がなくなったことによって、その行動が減少してしまったのですね。

「消去」は、発達障害児の問題行動に対処するときに基本となる、とても重要な手続きです。問題行動を叱ってやめさせるのではなく、その行動の「強化子」(ごほうび)になっているものは何かを考え、その強化子を与えないようにすれば(=消去)、自然に減っていくということです。「叱る」より、まず「ごほうびを与えない、得をさせない」。この発想がとても大切です。

 

【行動の原理3】弱化(punishment/罰)/嫌なこと(不快)を与えることで、行動を減らす手続き

第三の行動の基本原理は「弱化/罰」です。

「弱化/罰」には、「注意する」「叱る」や、「ごほうびを取り上げる」などがありますが、あくまで“罰”ですので基本的には使用しません。工夫を重ねてもどうにもならないときの最終手段と考えてください。あくまでも、問題行動を減らしたいときには、「消去」(+好ましい行動形成)の手続きで対応します。

困った行動を減らす・なくすための「強化子」を見つける

「行動の基本原理」が見えてくると、「行動の強化子(褒美)」が何であるかを考えることがとても大切だということが分かりますね。強化子があれば行動は維持されるし、なければ行動は減り、なくなるわけです。ということは、「困った行動」がいつまでも続いている場合は、その行動を維持する何らかの「強化子」があるということです。

行動をなくすための「強化子」をみつけるABC分析

行動を減らす・なくすためには、まずその強化子を見つけます。その際には、問題行動そのものよりも、その前後に起こっていることに注目する必要があります。事前の状態(Antecedent)と行動(Behavior)行動の結果(Consequence)を書き出すと、その行動がどんな結果(強化子)をもたらすのかが見えてくるはずです(これをABC分析といいます)。

 事例で考えてみましょう。

スーパーで子どもがひっくり返ってかんしゃくを起こしています。見ていたお母さんは、あまりの勢いに根負けしてお菓子を買ってあげました。それで子どもは泣き止みました。

 

 状況を整理すると、子どもはお菓子がほしいのですから、この問題行動は「お菓子を買ってもらえる」という結果によって強化されていることが分かりますね。

もしかしたら「わが家はたまにしか買ってあげていないのに、どうして…」という親御さんもいるかもしれません。でもたとえ「たまに」であっても買ってもらえるのであれば、その子にとって「かんしゃく」する意味があるわけです。「もしかしたら今日は買ってもらえるかも」と、いつまでもその行動を維持させてしまうわけですね。

 困った行動を減らす「消去」は「好ましい行動の形成」とセットになることが多い

このような場合は、強化子となっている結果をなくせばよいのです。かんしゃくを起こしているときには、お菓子を買わないことです。これは「消去」の手続きです。叱ったりなだめたりせず、子どもをスーパーの隅にでも誘導し安全を確保したら、かんしゃくが収まるのを辛抱強く待ちましょう。ほかのお客様の迷惑や視線が気になるのであれば、車の中など、邪魔にならない場所に連れていき、泣き止むのを待ちます。かんしゃくを無視し、泣きやんだらその日は帰ります。

ちなみに、こんな場合は「好ましい行動」も教えてあげたいですね。それが「かんしゃくをおこさず、買い物に一緒に行ける」であれば、今度のときはかんしゃくをおこさずにスーパーで過ごせるように仕向け、できたことをぜひ強化(その子の要求をかなえる、好きなお菓子を買ってあげるなど)してあげてください。

最初は、かんしゃくを起こしたくなるほど長時間スーパーにいてはいけません。まずは短時間で出て、かんしゃくを起こさなかったことを確実に強化することが重要です。そして、だんだん少しずつスーパーにいられる時間を長くできればいいですね。このように、「消去」は「好ましい行動の形成」とセットになることが多いです。

できた!を増やすABA。お子さんのために、家庭でできることがあります

「行動の基本原理」をベースにした行動の科学、ABAを用いた対処法はNPO法人「つみきの会」のサイトの体験記&リポートをぜひ参考にしてください。

NPO法人「つみきの会」とは

ABAホームセラピーに取り組む親たちと、それを応援するセラピストや医療・療育・教育関係者の集まりで、ABA療育の普及のために2000年から非営利で活動しています。2019年現在の会員は全国に1600人以上。ABAセラピーの勉強会や親御さんたちをつなぐ交流会も定期的に開催しています。ABAに関心のある人ならだれでも入会できます。

 

監修・藤坂龍司

NPO法人つみきの会代表、株式会社NOTIA代表。コンサルタント。わが子が2歳のときからABA家庭療育に取り組んだ経験を生かして、つみきの会を設立。以後、ABAホームセラピーを日本に普及させる活動に取り組む。「自閉症の子どものためのABA基本プログラム2 家庭で無理なく楽しくできるコミュニケーション課題30」学研教育出版(井上雅彦共著)などの著書あり。兵庫教育大学大学院学校教育研究科修士課程修了。臨床心理士。

取材・構成/赤塩和香子

12月15日(土)に、セラピストによるやさしいABA勉強会が横浜で開催されます

本場アメリカで学び、幼稚園や学校などで活躍。ABAセラピストとして豊富な経験を重ねて、現在は㈱NOTIAでスーパーバイザーを務める松井絵理子さんが、日本にABAを広めたいという思いで今年度から始めたゆるっとABAキャラバンABAをまったく知らない人でも楽しく学べる、ゆるっと勉強会です。

 日時:20191215日日曜日 9:301130

場所:横浜市健康福祉総合センター

参加費:一般2000円(一家族2名まで) 学生1500

ゆるっとABA @横浜

申し込み:https://form.run/@yuru-YOKO-R

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