【モンテッソーリ×食育】料理研究家いしづかかなさん「食べることは、生きるを教えること」

海と山のすぐそば、江ノ電がのんびりと走る湘南。自宅で、親子料理教室「kids kitchen atelierデキタヨ!」を主宰するのが、親子料理研究家のいしづかかなさんです。

国際モンテッソーリ協会公認教師の資格を持ち、8歳と5歳の子どもたちのママでもあるいしづかさん。「デキタヨ!」では、モンテッソーリ教育の考えにもとづき、食を通して子どもの心や体、頭を育む講座を行っています。心地よい食卓づくりや、子どもと一緒に台所で過ごすヒント……。親子の「食」にまつわる、さまざまなお話をうかがいました。

「食べること」は「生きること」です

今、親が子どもにしてあげられることは?

「食事」というと、口から食べて栄養を摂って、体を大きくするというイメージがありますよね。でも、食事は作るだけ、食べるだけではないのです。

たとえば「ごはんは、椅子に座って食べるんだよ」と教えることでマナーという知識を得るし、「ごはんは左、汁物は右」と配膳を知ることで、空間認知力が身につきます。お箸やスプーンを使ったり、汁物が入ったお椀をこぼさないように持ったりすることで、指先や手首の力も鍛えられる。

そしてなにより、「みんなで一緒に食べるとおいしいね」と、心も育まれます。「食べること」は、生活や暮らしのすべてにつながる、すなわち「生きる」ことなのです。

でも、親は、子どもの体を心配するあまり、ついつい「どんなものを、どれくらい食べさせたらいいか」といった栄養バランスばかりに意識が向いてしまうもの。ですから、子どもに多少好き嫌いがあったり、少食だったりすると悩んでしまうのです。

「食べさせる」よりも食に「関わる」ことを大切にしたい

そこで、栄養面の問題はさておき、この時期は「食べさせる」よりも、食に「関わる」ことを重視してみませんか?

たとえ野菜が苦手でも、ちゃんと「知って」いたら、野菜に興味が出てきます。調理前の野菜の姿を見たり、触ったり、においをかいでみたり……それでなにか学びを得ることができれば、まずはそれでじゅうぶん!

そもそも子どもは、自分が知らないものは食べたくないもの。「今はタケノコが旬なのよ」といっていきなり食卓にタケノコを出されても、魅力を感じてくれません。山で土から生えているタケノコを見た、スーパーで皮のついたタケノコを見た……こんな経験があって「それ、知ってる!」という安心感が、食べる気持ちにつながるのです。

なんでも「知る」ことが大切。知ってはじめて「これはどんな味がするんだろう?」と食べる意欲がわいてくるのです。そのために、子どもがどんどん食に触れ、関わるチャンスを作ってあげたいですね。

 食に触れる機会は、台所以外にもたくさんあります

ダイニングキッチンで水耕栽培

 にんじんや豆苗、かぶ……。わが家のキッチンやダイニングテーブルでは、つねになにかが育っています。にんじんの葉っぱを知らないお子さんも、たくさんいるのではないでしょうか。

水耕栽培は、葉の部分を少し切って、水をはったお皿にのせておけば、ぐんぐん伸びてくるので、かんたん。成長の様子がよくわかるので、植物の性質を知り、自然への発見や理科や化学の勉強にもつながります。

豆苗は、子どもたちが選んだもの。ずいぶん伸びてきました。「これは、種から育てた……あっ、種じゃない、豆だね!」と、豆が種になるということを発見したのも、豆苗のおかげ。愛着がわいて、食べるタイミングがなかなかつかめずにいます(笑)。

散歩も食につながる発見がいっぱい

子どもたちと散歩に出かけたら、山菜を摘んだり、どんぐりを拾って調理して食べたり。落ちた桜の花は、息子がボウルの中で洗って水気をふいてから塩を振り、ペーパータオルなどに包んで押し花にします。

こうしてできた桜の塩漬けは、おにぎりや蒸しパンにのせていただきます。

買い物も食材を知るチャンス

スーパーに買い物に出かけたら、いろんな野菜や果物をどんどん紹介します。わが家の食卓ではよくほうれん草と小松菜が登場するのですが、夫がそのたびに「これはどっち?」とクイズを出すのもおなじみの光景。

このような日常を過ごしているので、わが家の子どもたちはすっかり野菜や植物に詳しくなりました。息子は、幼稚園で植物博士のようになっているようです。食に関わる機会は、台所だけでなく、こんなふうに日常のさまざまな場面でたくさん見つかります。

いっしょに「食」に関わっていると、子どもの好き嫌いが気になりません

実は、息子も少々好き嫌いがあるのです。でも、私はまったく気にしていません。

たとえば、食卓だけのシーンでごはんを残していたら「え、どうして食べないの?」と、とてもモヤモヤしてしまうはず。でも、先ほどお話したように、植物博士のように山菜にも詳しい息子。小さなころからいっしょに台所に立ち、つねに台所仕事に関わっているので、息子が「食」を決して嫌いではないことがわかっているのです。

野菜をゴシゴシ洗ったり、じゃがいもを切ったり。合間に、びんに入ったクコの実をつまみ食いしているのを見つけて「あ、この子、こんな渋い味覚を持っているんだ」なんて発見したり(笑)。

嫌いなものはあるけれど、毎日元気でご機嫌に過ごしている。広い目で見るとちゃんと食べているし、心も体も頭も)しっかり育っている。それならいいか、と寛容になれるのです。

無理に食べさせようとして、子どもに嫌な記憶を残してしまうことだけは避けたいもの。子どもが、食に対してポジティブな気持ちがあれば、好き嫌いを克服するチャンスだって、この先いくらでもあると思います。食は、楽しむもの。味はもちろん、作る過程や会話、その時の音や空気……五感をフルに稼働させて、親子で存分に楽しみましょう。

子どもと安心して料理をするための、台所準備

子どもと台所に立つ際は、環境を整えることが大切です。

子ども目線の「動線」

安全第一はもちろん、子どもが作業しやすいように子どもの目線に立って「動線」を意識してあげましょう。

子どもが使う道具は、出しやすい高さに収納

たとえば、子どもが使う道具は、子どもが自分で出しやすい高さや位置の引き出しに収納します。

包丁は布巾とセットで安全に

わが家では、包丁も刃の部分を布巾に包んで、安全な状態でセッティングしています。子ども用の包丁は、サンクラフトの台所育児シリーズを使っています。

作業するところにマットを置く

また、子どもが作業するところにはマットを置くといいでしょう。作業するたびに、子どもが自分で出し入れするのです。これは、モンテッソーリ教育でも作業をする際に取り入れられているもので、自分の作業スペースを明確にする効果があります。また、マットにものを配置することで、右から左に使う、上から下に使うなど、仕事の手順を視覚的に把握することができるのです。

味噌や小麦は広口のびんに移し替える

味噌や小麦粉などは、袋に入ったままではどうしても扱いにくいもの。うまく開けられずに、こぼして散らかしたり、癇癪につながることもあります。そこで、広口のびんに移し替えておきましょう。こうすれば、子どもでもかんたんに使えます。道具にも少し配慮することで、子どもとの料理のハードルはぐんと下がりますよ。

知的興味と料理をつなげよう

子どもといっしょに料理をすると、親子のコミュニケーションもとれるし、いろいろなことを教えてあげられるし、子どもの小さな成長も見逃しません。

わが家の子どもたちは、1歳を過ぎたころから台所に入り、私といっしょに作業をしてきました。二人とも、すでにできることが多くなり、「お手伝い」ではなく「自分が作れる料理」を作る段階に入っています。

息子は今、ちょうど「文字」に興味を持ち始めた頃。「じゃあ、さっき自分で作ったのりたまのレシピを書いてみようか!」と誘って、積極的にトライしています。文字を書きたい欲求に加え、自分のレシピが残る魅力、書くこと本来の楽しさ……。これを体験できるのは、料理のおかげです。食は、作ってテーブルで食べるだけでなく、知的興味にもつながり、子どもの世界を大きく広げるきっかけにもなる。今のうちから関わらない手はありませんよね。

では、今回はこのへんで……。次回は、料理に関して年齢別に「できること」の目安や、実際に親子で作ってほしいおすすめメニュー、「重ね煮」のレシピをご紹介します!

 

プロフィール

AMI国際モンテッソーリ協会公認教師|親子料理研究家
いしづか かな

モンテッソーリ教師の資格を持つ母として子育てをスタート。 食の大切さと、親子で過ごす楽しい時間に重きを置いた日々の中で、たどり着いたのが「親子料理」という過ごし方。 二人の子どもたちと一緒に作ったごはんやおやつは6年間で1500品以上。 重ね煮・発酵食・養生食をベースとした体にやさしい料理を身につけられる親子料理教室「kids kitchen atelierデキタヨ!」を主宰。 湘南を拠点に親子料理教室運営のほか、大人向けの講座・執筆・レシピ開発・監修事業・出張講座など「親子の食にまつわる環境整備」を軸に活動中。  https://lit.link/ishizukakana

取材・文/三宅智佳

撮影/山本彩乃

構成/HugKum編集部

子どもの食を考えよう!

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