日本初!ANAグループの「発達障害のある子と家族」の搭乗体験プログラムが素晴らしい理由

昨年と今年の1月に、2年連続で開催された「体験搭乗プログラム」は、ANAグループと成田国際空港株式会社(NAA)とが共同で開催したもの。対象は発達障害がある子どもたち(今年は大人も参加可)で、成田国際空港で開催されました。プログラムの内容や、参加者の反応などをANAグループの担当者に伺いました。

なぜ発達障害のある子の「体験搭乗」が大事なの?

発達障害児が飛行機に乗るまでには難関がいっぱい

発達障害のある子が、飛行機に乗るには、いろいろな難関があります。まずは慣れない環境の空港でのチェックイン。搭乗手続きののち、行列に並んで保安検査。もしブザーがなったらボディチェックで体を触れられます。そして、待合室で待ったのちに、搭乗開始。搭乗橋という狭くて暗い道を通り抜けて飛行機内へ。機内に入ると、エンジン音やオイルの匂い。シートベルトに拘束されるのも気になるし、機内のトイレは狭くて水を流す音が普段より大きくてびっくり、などなど。挙げたらキリがないくらい苦手を感じるポイントがあります。

飛行機に乗れないから田舎に帰省もできない!?

感覚過敏があり、音や匂い、触覚などに敏感。じっとしていることが苦手。新しい慣れない環境でパニックになることもあるなどの特性がある発達障害のある子どもたち。上のステップを考えただけでも、「子どもがいつパニックを起こすかわからない‥‥」と心配する親御さんの気持ちもわかります。周囲に迷惑をかけられないから、移動はマイカーでいける範囲内に留め、そもそも、飛行機での移動は選択肢にない。だから、遠方に祖父母や親戚がいて帰省したくても、できないと諦めている人もいるそうです。

体験をすることで、場に「慣れる」練習を

そこで、「すべてのひとに優しい空を」とのユニバーサルなサービスポリシーを掲げるANAグループと、空港のユニバーサルデザイン化を進めているNAAが、一般社団法人 日本発達障害ネットワーク(JDDnet)の監修・協力のもと、昨年1月に日本で初めての「体験搭乗プログラム」を開催しました。「はじめての場」や「はじめてのこと」が苦手な子どもたちに、搭乗体験をしてもらうことで、「(空港や飛行機は)怖くないよ」「こうすれば安心だよ」ということを学習してもらうのが目的です。

ANAのオペレーションサポートセンター品質企画部の堯天さんは「移動の幅が広がるということは、その人の経験の幅が広がることにつながると私たちは思っています。公共交通機関として何かできることがあるのであればと思い、企画しました」と、言います。

アメリカでの実施に続き、日本で初めて開催

このような搭乗体験プログラムは、海外ではすでに行われていたこと。ロサンゼルスでは、現地の自閉症協会のような団体が主催で、自閉症のお子さんと家族向けの搭乗体験プログラムを実施しています。2017年にはアジア圏で初めてANAが飛行機を用意してプログラム実施に協力。堯天さんはロサンゼルスのプログラムを見学し、日本でもやりたい!と思い、2018年1月の実施にこぎつけたそうです。

体験後「旅行に出かけてみたい」という子も

発達障害の子に伝わりやすい工夫も

日本発達障害ネットワーク(JDDnet)のホームページで参加者を募集。去年も今年も約20家族が参加しました。受け入れるスタッフは、あらかじめ発達障害の特徴や特性、求められる対応などについて学ぶ講習を受け、知識を得たそうですが、もしもの時に備えて、ドクターや療育担当者などの専門家も付き添いました。

プログラムでは、空港での搭乗手続き、保安検査、機内への搭乗、着席などを体験。1年目と2年目とでは、プログラム内容を見直し、子ともたちの集中力に配慮して時間をコンパクトにし、説明をビジュアル化して、体験内容について先の見通しが立つようにするなど、より発達障害の子に伝わりやすいように改良されました。

プログラムをきっかけに常設となった「クールダウン・カームダウンのための部屋」

発達障害のある子どもたちが、パニックになることを予防できるように、搭乗口前の待合室に設置したのが、クールダウンやカームダウンができる部屋。この部屋に入ってロールスクリーンを下せば、周囲の環境と遮断され、余計な感覚情報を減らすことができます。この部屋は、1年目の体験プログラムをきっかけに、現在も成田空港の待合室に常設されています。空港にこんなコーナーがあるとわかるだけでも安心します。他の空港はもちろん、全国の駅など、公共機関にこういう場ができるといいですね。

※現在は、成田国際空港第1および第2ターミナルの国内線待合室に設置しています。詳しくは成田国際空港のWebサイトをご確認ください。

https://www.narita-airport.jp/jp/bf/service_info14

ストレスボールになるオリジナルグッズをプレゼント

昨年の参加者に配布されたプレゼントのひとつ、「ぷにゅ丸くん」は、ストレスを逃すのにぴったりの触感!もともとあったANAのオリジナルグッズだったそうですが、握るとぷにゅっとつぶれる感覚が、ストレス解消のためのストレスボールにぴったり。慣れない場所でドキドキしたり、イライラしたりしたときに、手元でぷにゅぷにゅして気分を落ち着けることができます。機内で、ドリンクサービスと「ぷにゅ丸くん」のプレゼントを受け取った子どもたち。飛行機を降りた後には、客室乗務員とハイタッチ!で体験は終了です。

当事者だけでなく支援者側の学びにも

子どもの苦手と対処法がわかるメリットも

体験したファミリーからは「いい経験ができた」という声が多く、お子さんから「旅行に出かけてみたい」という声も聞かれました。例えば、音、ベルトの締め付け、暗いところなど、お子さんなりの苦手がわかれば、イヤホンを持参しればいいのか、どこで注意をすればいいのかなどの対処法もわかります。何より、飛行機に乗ることができたという体験は、お子さんの自信につながり、「また乗ってみたい」という意欲につながったようです。

発達障害の理解を深めるための社会的責任も

「この『体験搭乗プログラム』を開催する1番の目的は、発達障害のあるお子様とご家族が搭乗体験できることですが、お客様を受け入れるスタッフが、ご本人たちを目の前にしたときに、どういう対応をしたらよいかを実際に学べる経験につながった」とANAの堯天さん。セミナーや資料などで学んでもわからないことは多く、実際に触れ合ってみてわかることが多いのは、お互いさまということのようでした。

周囲の理解が広がれば、飛行機の旅がもっと身近に!

発達障害を理解してもらうことの難しさは、ぱっと見た目でわからない障害であること。そのため、何らかのきっかけでお子さまがパニックになったりした際に、「どうして騒いでいるのだろう?」「なんで、あのお母さんは注意しないのかしら?」などと、周囲から冷たい目で見られることがあります。その目が怖くて外出できないというご家庭もあるでしょう。

堯天さんは続けます「私たちが、こういう取り組みをしていますと発信することで、“発達障害の人は飛行機に乗るときに、こんな心配をしているんだ”と、周囲の方に知っていただく機会にもなればと思っています。もし飛行機の中で騒いでいても、暖かい目で見守ってもらえる社会になれば、発達障害のお子さまをお持ちのお母さんたちの悩みも軽減できると思います」

参加者アンケートでも希望が多かったという地方での開催も実現していってほしいものです。

発達障害についての理解が広がれば、旅行に行ったり、映画を見たり、美術鑑賞ができるなど、経験できることの幅がグンと広がるのかもれません。本人たちが体験を重ねて慣れることも大切でしょうが、同時に周囲にいる人たちが、あたたかく受け入れてくれるようになることを願います。

取材・構成/江頭恵子

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