目次
書かずに覚える「ミチムラ式」。3つのポイント
漢字は書いて覚えるもの。そう思っている大人も多いでしょうし、実際に書いて覚えたという人がほとんどでしょう。でも書かずに唱えて覚えるのが「ミチムラ式」です。ミチムラ式なら、文字を書くのが苦手な子でもラクラク漢字を習得できます。
ミチムラ式の漢字学習のポイントは、大きくは3つあります。
-
①「部品」の組み合わせを唱えて覚える~3年生までの漢字をしっかりと覚えればあとはグッと楽に!
- 「ミチムラ式」では、漢字を構成する部分を「部品」、それ以上分解すると線の構成になってしまう漢字を「基本漢字」と呼んでいます。
どんなに難しい漢字でも、パーツでバラバラにすると「基本漢字」「部品」「カタカナ」で構成されています。
たとえば「遊」という字なら、「ほうへん、ノ、いち(一)、こ(子)、しんにょう」というパーツに分けられます。
「一」「子」は基本漢字で、残りは部品とカタカナ。それをひたすら唱えます。部品を唱えるうちに「ほうへん」「しんにょう」といった部首も覚えることができます。
小学校で習う漢字は全部で1026字ですが、そのうちの90%は3年生までに習う基本漢字と部品の組み合わせで構成されています。ですから3年生までしっかりと覚えれば、あとはグッと楽になるのです。
②漢字のなりたちを知る~知れば、漢字への興味がグッと深まる
「部品」の意味がわかると、その漢字のなりたちがわかります。
たとえば「遊」の「しんにょう」には「人が道を歩く、進んでいく」という意味があります。また「ほうへん、ノ、いち(一)」はセットで「旗がなびく」という意味がありますから「遊」という字は、目印の旗の近くを子どもがあちこち歩き回る様子から「遊ぶ」ことを表しているのです。こんなふうに漢字のなりたちがわかれば、頭の中はすっきりと整理されるでしょう。
-
③「漢字のタイトル」を唱えて覚える~音読みと訓読みを一緒にマスター
「漢字のタイトル」とは、その漢字を使った同音異義語のない熟語と音読み、訓読みを示したもの。
たとえば「遊」なら「遊園地のユウ、あそ_ぶ」が、漢字のタイトルになります。小学校3年生ぐらいだと、訓読みは思い浮かぶけれど、音読みがなかなか出てこないことがしばしば。なぜなら学校では訓読みを先に習うため、音読みは習得しにくいからです。
また、音読みには同音や似た音が多く、音読みしかない漢字も多いので、音読みにセットした熟語を覚えることによって、その漢字が使われる場面や意味を知ることができるのです。
そして、4年生以降は音読み熟語が圧倒的に増えるので、音読みができないと、教科書を読むことすら難しくなります。ですから、漢字のタイトルもひたすら唱えて、音読みと訓読みをマスターしていきます。
「ミチムラ式漢字カード」は、書き順も自然に覚えられる
漢字一字の読み書きを覚えるときは「ミチムラ式漢字カード」が便利です。
カードのおもて面には、漢字一字と部品の組み合わせ方(書き方)、うら面の上段には「漢字のタイトル」下段には1,2年生は使われている言葉、3年生以上は同音異字が書かれています。
使うときは、「うら面→おもて面」という順番。たとえば「観」なら、うら面で「カンキャクのカン」と読み上げてから、表面の「ノ・ニ、ふるとり合体、みる」と唱えます。
目をつぶって何度も唱えて、その文字が頭に浮かぶようになったら、そこで初めて書きます。
とにかく、まずは何度も唱えて、部品の場所を確認します。書くのは最後で、頭に浮かんでいるものを再現するのです。漢字を見ながら書き写すのはやめましょう。
ちなみに漢字カードの部品の組み合わせは、基本的に教科書の書き順どおりに構成しているので、唱えたとおりに書けば、正確な書き順も身につくようになっています。
部品の名前と書き方を示す「部品カード」もついています
発達障害のお子さんにも学びやすい「漢字eブック」~音声と写真付きの電子書籍
ミチムラ式漢字カードの進化版が「ミチムラ式漢字eブック」という学年別の電子書籍です。「ミチムラ式漢字eブック」は、漢字が苦手な子だけでなく、発達に凸凹のある子にも学びやすいとうれしい声をいただいています。
ミチムラ式漢字eブックの特徴は、タッチペン一つで、文字の「読み方」や「書き方」の音声を聞けたり、その文字の組み合わせの解説やなりたちを読めたり、イメージ画像を見ることができたり、五感をフルに使って学べること。また、読み方ごとの豊富な語例集もあること。
たとえば「遊」というページを開き、
・「よみかた」をタッチ→「遊園地のユウ、あそ_ぶ」と読み上げ
・「かきかた」をタッチ→「ほうへん、ノ、一(いち)、こ(子)、しんにょう」と読み上げ
・「ぶひん」をタッチ→「しんにょう、てん、ろの最後から道に伸ばす、人が道を歩いたり、進んでいく意味がある部品だよ」と「しんにょう」の意味を説明
・イメージ写真をタッチ→複数のイメージ写真が掲載されています。「お遊戯」や「遊泳禁止」、「遊覧船」、「遊具」などの画像をタッチすれば、そのシーンがあらわれる
ミチムラ式漢字eブックが発達障害の子に有効なワケ
なぜミチムラ式漢字eブックが、発達に凸凹のある子たちに向いているのでしょうか。それは、彼らが文字を書くのが苦手で、とりわけ漢字を書くことにエネルギーを消耗してきたからです。ですから彼らにただ漢字を書かせるという意味のわからない単純作業をやらせてはダメなのです。
だからといって彼らがどこに興味を持って、どこに食いつくかはわかりません。耳から聞くのが好きなのか、目で見るほうが好きなのか、それもわからない。
でもミチムラ式漢字eブックは、音声を聞く、解説を読む、画像を見る、といったチャネルがたくさんあるから、彼らの興味に合ったものを見つけやすい。結果的にその子に寄り添った教育を実現できるのです。
体験談手記がこちらから読めます
親子でいっしょに楽しむことで、学習効果が倍増します!
「ミチムラ式」漢字学習は、ぜひ親子でいっしょにやりましょう。
そもそも勉強は、子どもだけでやらせるものではありません。大人が「なるほどね」「知らなかった!」「面白いね~」なんて言いながら、いっしょに楽しむと、それが子どもに必ず伝染します。これは、わたしが長年教師として現場で教えてきた実感です。
実際、いっしょにやってみると、大人も漢字の意味やなりたちなどを初めて知って感動することが多いと思いますよ。
苦手なところは、必ず下学年に戻って復習を
そして大切なことは、復習すること。苦手なところは、必ず下学年に戻って復習しましょう。先にもお伝えした通り、小学校で習う漢字の90%が、小学校3年生までに習う組み合わせですから、漢字でつまずいている子は2年生、3年生に戻ると、復活できるでしょうね。
「ミチムラ式」のルーツは、盲学校での指導経験
「ミチムラ式」が生まれた背景には、私自身の長年の盲学校での指導経験があります。
目の見えない子は、一般的に点字を使いますが、パソコンを使うようになると、漢字の知識も必要になります。どうやって教えようかと考えていたときに、私は昔から「頭」という漢字を書くときに
「一(いち)、口(くち)、ソ、一(いち)、一(いち)、ノ、目(メ)、ハ」
と呪文のように唱えていたことを思い出しました。これは使える! つまり漢字を分解し、カタカナや簡単な字の組み合わせで説明できるに違いないと考えたのです。
しかし、盲学校の子は、訓読みの意味はすぐにわかるけれど、音読みが難しい。つまり「日が照る」はわかるけれど、「日照」という言葉に置きかえられないのです。
そこで「日(にち)」が「照る」のは「しょう」と読むから、「日照(にっしょう)」で、明るくするのは「照明(しょうめい)」と、漢字の意味と音読みを教えてあげました。そうすると「ああ、そうか」と納得。そして、「夜間照明のショウ、て_らす。日(にち)へん、刀(かたな)、口(くち)、灬(れんが)」と唱えながら、部品の組み合わせの意味を面白く教えていったら、子どもたちはあっという間に覚えたのです。
かつて私は盲学校の子どもたちに、何をしてあげたら、この子たちが一歩ずつ進んでいけるだろう、と真剣に考えていました。そのときに指標となったのが「笑顔」でした。「ああ、わかった」と子どもたちの笑顔が引き出せると、その学びは、その子のものになっていたのです。そういった、たくさんの笑顔が引き出せるツールこそ「ミチムラ式」なのです。
記事監修
1955年、福井県生まれ。77年から福井県立盲学校に、79年から横浜市立盲学校に中・高等部理科教諭として勤務。横浜市立中学校教諭を経て、98年より横浜市立盲学校に小学部教諭として再び勤務する。2000年以降、視覚障害児のために漢字教育を始め、02年「点字学習を支援する会」を設立し会長となる。『視覚障害者の漢字学習』シリーズを刊行。
2008年より横浜市の小学校に異動し、2012年に退職。01年度第11回特殊教育学習ソフトウェアコンクール障害児教育財団理事長奨励賞、05年読売プルデンシャル福祉文化賞大賞、09年第17回にってん野路菊賞など受賞歴多数。著書に『口で言えれば漢字は書ける! 盲学校から発信した漢字学習法』(小学館)、『全員参加!全員熱中!大盛り上がりの指導術 読み書きが苦手な子もイキイキ 唱えて覚える漢字指導法』(明治図書出版)などがある。
取材・構成/池田純子 写真・イラスト提供/かんじクラウド