発達障害のある子どもがいきいき育つ「お手伝い療育」のすすめ。力加減が肝心の「おにぎりづくり」で創意工夫の経験と家族にふるまう喜びを学ぶ

この連載では、発達障害のある子どもの療育に携わってこられた言語聴覚士・社会福祉士の原 哲也先生が、家事のお手伝いを通じて行う療育をご紹介します。子どもの自尊心が育てながら、家族も喜ぶ「お手伝い療育」。今回のテーマは「おにぎりづくり」です。

子どもが幸せになるために必要な「愛情」と「勤労意欲」を育てる

連載を始めるにあたり、なぜ「お手伝い療育」をおすすめしたいかをお話しましょう。

グランドスタディーと呼ばれる有名な調査があります。1938年から現在まで75年間にわたって社会的に成功した724人の人たちを追跡調査したもので、その調査は、子どもが成功して幸せになるには、次の2つが必要だと結論づけています。

それは「愛情」「勤労意欲」です。

この2つはどこで育つのか?それは家庭に他なりません。家庭で行われることの中で特に大切なのが「家事」です。幼いころの「お手伝い」によって、成功と幸せにつながる、「愛情」と「勤労意欲」を大きく育てられるのです。

発達障害の特性のある子どもにも家事のお手伝いが有効な理由

発達障害の特性のある子どもにとっても、家事のお手伝いは非常に有意義です。

1.取り組みやすい

自閉症スペクトラムの子には

家事は①活動内容が視覚的に示される、②やり方が決まっている、③ゴールがわかりやすい、④何回も繰り返される、という点で、自閉症スペクトラムの子どもにとって、わかりやすく、取り組みやすいものです。

ADHDの子には

また、家事の多くは段取りが肝要、すなわち実行機能を必要とします。実行機能とは、目標を立て、プランを練り、必要に応じてプランを変更し、ゴールする力のことですが、ADHDの子どもはこの実行機能に課題を抱えることが多くあります。ADHDの子どもにとって、家族に伴走してもらいながら家事をすることで実行機能を使う経験を積むのはとてもよいことです。

2.褒められる経験が自信につながる

「お手伝いをしたら家族が喜んでくれた」という経験を積むことは、子どもたちの、人に対しての興味や繋がりを作る契機になり得ます。また、その特性からどうしても叱られることの多い発達障害のある子どもにとって、お手伝いをして褒められる、認められる経験は、自己肯定感を育てる上でとても大切な経験になります。

3.同じことを繰り返すので熟達できる

家事はいつも同じことを繰り返すため、熟達しやすく、子どもも「スペシャリスト」になれます。そのこともまた、自己肯定感を育てることにつながります。

お手伝いの過程の中で、子どもは自尊心を育て、家族への愛情を育てていきます。働いて人に喜んでもらうことに喜びを感じます。「愛情」と「勤労意欲」という、成功し幸せに生きるために必要な力が育まれるのです。それは定型発達の子どもも発達障害のある子でも同じです。

さあ、お手伝いをしてもらいましょう!そして、親子で思い合い、喜び合う幸せな毎日を作っていきましょう!

 【第1回】おにぎりづくり

第1回目のテーマは、「おにぎりづくり」です。子どもも大人も大好きなおにぎりを、子どもと一緒に作ってみましょう。

対象年齢
2歳~

期待できる効果
・力加減をしながら両手を使う経験
・形や具材、海苔の巻き方などの創意工夫の経験
・家族に「ふるまう」経験、喜んでもらう経験、みんなで味わう喜び

準備するもの
ご飯、海苔、具材、サランラップ、しゃもじ、ボウル

準備
手をよく洗い、必要なものを準備する

初心者編

おにぎりの握り方
① 熱いご飯をボウルに入れて、しゃもじを使って、空気に触れさせながら、粗熱を取る
※熱いご飯でやけどをしないためだが、冷めすぎると握りにくくなるので、冷ましすぎない
② 手にラップを広げ、粗熱をとったご飯をラップの上に載せる
③ 具材をご飯の真ん中に押し込む
④ ラップの四隅を一か所にまとめてねじる
⑤ ご飯がまとまったら、好きな形(丸、三角、俵型など)に成形する。
⑥ 握り終えたら外側のラップを剝がし、お好みで海苔を巻く。

子どもと一緒に握るには

① 最初に保護者が①~⑥の工程をやってみせます。
② 次に子どもに握らせます。
③ 必要な援助をします。
・保護者がラップを子どもの手の上に広げる
・適量のご飯をラップに載せてあげる
・具がうまく入れられなければ子どもが入れたい具を聞いて、大人が入れてあげる
・握るのがうまくいかないときは、保護者が手を添えて握るなど

「おいしくな~れ」などの呪文を唱えながら握るのもよいですね。
手先の不器用さがある子どもでも、保護者が一緒に握れば、三角、丸、俵型など、好きな形を作れます。手を添えて握った場合でも子どもは十分に、「できた!」という達成感を得られます。おにぎりの型で成型することもできますが、ぜひ、手で握る経験をさせてあげたいです。

上級者編

小学生くらいになったら、ぜひラップを使わない本格的なおにぎりづくりに挑戦してみましょう。

おにぎりの握り方
 熱いご飯をボウルに入れ、しゃもじを使って粗熱を取る
② 手に水をつける
③ 手に塩をつける(この塩加減が味の決め手)
④ しゃもじで適量のご飯を乗せる
⑤ 具材はお好みで入れる
⑥ 最初は全体的に軽く握り、最後はぎゅっと握る
⑦ 好みで海苔を巻く

③の塩加減と⑥の握り方次第で、おにぎりのおいしさは大きく変わります。
子どもが、もっとおいしいおにぎりづくりを目指して試行錯誤するのも素晴らしい経験になります。

具材も、いろいろな具材を試してみる、複数の具材を組み合わせる、具材に調味料を加える、ゴマやふりかけ、油などをご飯に混ぜる、など、子どもの発想やアイディアを聞いて、いろいろなバリエーションを考えるのもきっと楽しいでしょう。

ことばがけのポイント

1.手で形を示しながら、どういう形にするかを子どもに聞きます。(「まる?」「さんかく?」)
2.握り方のコツがわかりやすいように「ふわっ」や「ぎゅ」などの擬音を添えましょう。
3.子どもが作業しているときには、子どもが安心できるように、「そうそう」「いいね」などの声をかけましょう。
4.家族で食べるときは、「ありがとう」という感謝のことば、「○○ちゃんが一生懸命作ったのよ!」と子どもの頑張りを労うことばをたっぷりとかけてあげましょう。
「○○ちゃんのおにぎり、さんかくだね」「おいしい」「塩加減ばっちり」子どものおにぎりの素晴らしさを子どもにわかりやすく、表現してあげましょう。

 気を付けること

1.べたべたする感覚を嫌う子どもには適さないお手伝いです。そのような場合は、具材を選ぶ、海苔を巻く巻かないや巻き方、塩加減の確認などについて保護者が質問し、子どもが答えるという形で参加してもらいましょう。
2.集中力が短い子どもには、子どもが興味を示すプロセス1つだけの参加でかまいません(ラップをねじるだけ、海苔を巻くだけなど)。
楽しく、無理せずがとても重要です。
3.「もっと、こうしたほうがいい」というアドバイスは、良かれと思ったものでも子どものやる気を削ぐので、基本的には控えたいです。

子どもの成長と幸せを願いながら、一緒におにぎりを握りましょう!

おにぎりはテレビでも度々特集されるほど、奥深く、極めがいのある料理です。バリエーションも豊富で、創意工夫のしがいがあります。
おにぎりは、「御結び」とも言います。「結ぶ」ということばには、「人との関係をむすぶ」「人の想いや願いを留まらせる」という意味があり、そして「結ぶことで神霊の力が生み出される」とも言われます。

親子で作るおにぎり=御結びは何を結ぶのでしょう。ときにはそんなことに思いをめぐらせ、子どもと家族の幸せを願いながら、子どもと一緒におにぎりを握ってみてください。

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この記事を書いたのは

原哲也さん
原 哲也|言語聴覚士・社会福祉士
一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業、国立身体障害者リハビリテーション学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダのブリティッシュコロンビア州の障害者グループホーム、東京都文京区の障害者施設職員、長野県の信濃医療福祉センター・リハビリテーション部での勤務の後、『発達障害のある子の家族を幸せにする』ことを志に、一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPANを長野県諏訪市に創設。発達障害のある子のプライベートレッスンやワークショップ、保育士や教諭を対象にした講座を運営している。著書に『発達障害のある子と家族が幸せになる方法』(学苑社)、『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)がある。

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