「自己決定力」とは?
ここで言う自己決定力とは、単に決めることができることではなく「自分が満足のいくような選択ができる力」のことを言います。
満足のいく選択をするには、
①「自分の求めるもの」「自分にとって大切なものが何か」を自分自身でわかった上で
②いくつかの選択肢を想定し
③さまざまな条件を考えあわせてどの選択肢をとるかを決める
ことが必要です。
人は自己決定をすることで充足感を感じる
人間には、自分自身の行動を自らの意思で決定したい(自律性の欲求)という基本的心理欲求があります。自己決定力はまさにこの自律性の欲求を満たすものです。
自己決定力を高め、自己決定に基づいた行動をすることで人は充足感を感じるのです。
AIの時代に、自分らしい人生を切り拓くために
ところで近年、AIの台頭などによって、何かを尋ねればAIがたちどころに答えをくれる、そういう時代がやってきました。そんな中で人は、自分で思考せず、なんでもかんでもAIに聞いて答えをもらおうとするようになりつつあることが懸念されています。
しかし、なんでもかんでもAIに答えをもらっていたら人は自分の判断、ひいては自分という存在に自信が持てなくなりはしないでしょうか。そして、自己決定のために「私は何が好き? 何がいや? 大事なものは何?」と自分に問うことがおろそかになり、その結果、唯一無二の「自分らしさ」がわからなくなりはしないでしょうか。

私は自分で選んで自分らしい人生を切り拓いてこそ、生きる意味があると思っています。ですから、子どもたちにはAIを過剰に頼るのではなくて、自分で考え、自分で選んで人生を生きてほしい。自分の考えや価値観や信念を持ち、それに基づいて判断して、人生を切り拓いてほしい。そう思うのです。
そのためには、小さいうちから自己決定力を育てることが大切です。では、自己決定力を育てるにはどうしたらいいかを考えていきたいと思います。
自己決定力を育むためには
自己決定の経験を積ませる
一般的には自己決定ができるようになるのは、自己主張が高まる3~4歳からとされていますが、見ていると2歳でも「これがいい」と主張することは多くあります。
ごく幼い頃から子どもは、自分で決めたい、自分らしい選択をしたいと思っているのです。さて、自己決定力を育むには、子どもに選択の機会を与え、自己決定の経験を積ませることが一番です。
その際に大切なことは、大人が適切な選択場面や選択肢を提示することです。以下の2点に気を付けます。
①養育者が受け入れられる選択肢を用意して子どもに選ばせる(例:ジュースにするか牛乳にするか)
②子どもが選びたくなるような魅力的な選択肢を提示する(例:遊園地に行くかプールに行くか)
答えられそうなら「なんで牛乳がいいの?」のように、理由を聞いてみましょう。問われることで子どもは、自己決定の理由を振り返り、それを人に伝える経験ができます。

子どもが決めたことは尊重する
基本的には、子どもが決めたことは尊重します。子どもがせっかく決めたことを否定したり、養育者の考えや意見を押し付けたりすることは避けたいものです。
そうならないために、先ほどでお伝えしたように、養育者が受け入れられるように選択場面を設定し、選択肢を用意することが大事なのです。
例えばレストランで、好きなものを選びなさいとメニューを渡し、4,000円のステーキを選んだら「そんな高いのだめよ」と言うのではなく、「(予算におさまる)ハンバーグにする? エビフライにする?」と選択肢を与えて選ばせるのです。
「自分でするか?」「 お母さんが手伝うか?」など、ときには援助を受けることも選択肢に加えてもよいです。ただ、いくら自己決定力を育てることが大切でも、なんでもかんでも子どもの決定を受け入れることは適切ではありません。幼児や小学生の判断力はまだまだ未熟だからです。
特に生活リズムに関すること(就寝や起床、食事の時間、動画やゲームの時間など)については、子どもの「こうしたい」を参考にしつつも、基本的には養育者がきちんと決めてください。
自己決定力を育む中で得る、大切なこと
自己決定力を育むために選択機会をつくり、子どもの選択を尊重することには、自己決定力を育むだけでなく、さまざまな効用があります。
まず、自分が決めていいという感覚は、子どもの中に自分自身の人生をコントロールできているという感覚を育てます。これは子どもを支えるものであり、生きていく上でとても大事な感覚です。

また決めたことを尊重されることで、子どもは自分自身に自信を持ちます。同時に子どもは、自分の決定を尊重してくれた人のことを信頼します。そしてその人のことばに耳を傾け、その人との間であれば「折り合う」ことができるようになります。
人の意見を聞き、そして「折り合う」ことは子どもが成長していく上でとても大事なことです。周りの大人が子どもの決定を尊重して、子どもに信頼される大人になることで、子どもはこれらの大切なことを学ぶことができるのです。
第16回 何のお手伝いをするかを自分で決める

子ども自身に、お手伝いの内容を決める機会を与え、子どもの自己決定力を養いましょう。
対象年齢
2歳以上~
期待できる効果
・自己決定力の向上
・親子の信頼関係の構築
・社会性の向上
・能動性の向上
選択肢の作り方
① 興味がある家事を選択肢に入れる
やったことのある家事の中で、子どもが意欲的にやってくれた家事から選ぶようにする
② 選びやすいようにする
数が多いと迷うことがあるので、ある程度数をしぼる
③ 一緒にやるという選択肢も入れる
一人ではいやだが、養育者と一緒ならいいという場合もあるので、一緒にやるという選択肢も入れる
ことばがけのコツ
・子どもが選ぶのを迷っていたら、そのお手伝いの効果やどのくらい時間がかかるかなど、選びやすくなるような情報を適宜伝える
例:
「風呂掃除してくれると、お風呂大好きなお父さんが喜ぶよ。10分くらいかかるかな」
「○○ちゃんはポテトサラダが好きだから喜ぶだろうね~。でも全部やったら30分かかるかな」
など

発達障害の特性のある子の場合の留意点
自己決定力はぜひとも育てたい大切な力ですが、発達障害の特性のある子の中には、提示された選択肢に優先順位をつけて、そこから選ぶことがとても難しい子どもがいます。ときには選ぶことが負担であることもあります。
このような子どもの場合には、お手伝いであれば、子どもが興味を持って意欲的にできそうなことを養育者の方が選んでお願いしましょう。
例えば、水遊びの好きな子どもに「庭の水やりお願いします。水をいっぱいまけるよ」というようにです。
水まきのお手伝いがすごく楽しくて、「これ楽しい」という印象が残ったら、次回、選択肢に「水まき」が入っていたら、「これ楽しかったからやりたい」と「選ぶ」ことができるかもしれません。
自分で決める経験が、子どもの将来を支える力を育てる
大人は何が効率的で合理的かを知っていますから「あれをして」「これはだめ」、と子どもに指示しがちです。忙しい毎日の中で、ついついそうしてしまう大人の気持ちはよくわかります。
しかし、「こうしなさい」「ああしなさい」と指示し、言うことをきかせてばかりでは子どもの自己決定力は育ちません。自己決定力を育てるには、まず養育者が自己決定力を育むことの大切さを認識することが大事だと思います。そして可能な限り、さまざまな場面で適切な選択肢を設定して子どもに決めさせ、その決定を尊重しましょう。
お手伝いの場面でも子どもにとって負担になっていないかを気を付けながら、小さなことから少しずつ自分で決める機会を作ってみましょう。それは子どもの将来を支える力になり、同時に、子どもとあなたとの間に信頼関係を築くことにつながります。
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この記事を書いたのは…
一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業、国立身体障害者リハビリテーション学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダのブリティッシュコロンビア州の障害者グループホーム、東京都文京区の障害者施設職員、長野県の信濃医療福祉センター・リハビリテーション部での勤務の後、『発達障害のある子の家族を幸せにする』ことを志に、一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPANを長野県諏訪市に創設。発達障害のある子のプライベートレッスンやワークショップ、保育士や教諭を対象にした講座を運営している。著書に『発達障害のある子と家族が幸せになる方法』(学苑社)、『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)がある。
