運動が苦手な子や、発達が気になる子のための「運動療育」とは?
――まさやコーチが、子どもたちの運動に関わるようになったきっかけを教えてください。
まさやコーチ:今、理学療法士になって8年目なのですが、はじめは急性期病院で大人の方のリハビリに関わっていました。ですが、もともと子どもが大好きだったこともあり、病院勤務時代も不定期で子どもの運動教室を開催したりしていました。そんななか、他業種にチャレンジしてみたいという思いから、病院を退職しマーケティングや営業の仕事をするようになったんです。その仕事を通じて偶然出合ったのが「へやすぽアシスト」です。営業としては断られてしまったのですが(笑)、「へやすぽアシスト」のことを知るうちに、「ここで子どもと関わってみたい」と強く感じました。そしてもう一度連絡して、見学やレッスンをさせていただくようになり、現在に至ります。
――いろいろな経験を経て「へやすぽアシスト」にたどり着かれたのですね。
まさやコーチ:そうですね。実際にレッスンをするようになり、子どもたちが「できない」「難しい」「嫌だ」と言っていたことが、「できた!」に変わる瞬間に立ち会えること、そしてそれを子どもだけでなく親御さんとも共有できる時間が何よりうれしく感じて、この仕事にのめりこんでいきました。
――「へやすぽアシスト」のレッスンはどんな特徴があるのですか?
まさやコーチ:「へやすぽアシスト」では、発達が気になる(発達障害)、もしくは運動が苦手なお子さん向けの、運動による発達支援(運動療育)を行っています。たとえば「ボールをキャッチする」という動作一つをとっても、目でボールを捉え、落下点を判断し、ボールの大きさに合わせて腕を動かす、などさまざまな動きが組み合わさっています。そういった複合的な動きをするには、脳からの指令で体の筋肉をうまく動かせるようになることが必要なんです。「へやすぽアシスト」の運動療育ではさまざまな運動を通して、脳と筋肉の感覚統合という根幹部分の発達を目指します。「オンライン」かつ「マンツーマン」ということも大きな特徴で、一人ひとりに合わせてプログラムを組み合わせて運動領域や発達支援を行っています。
――子どもに合わせたプログラムを作ってもらえるのですね。

まさやコーチ:たとえば「なわとびが苦手」と一言で言っても、その原因は「連続でジャンプできない」、「腕と足をタイミングよく動かせない」「道具をうまく使えない」などさまざまです。ですから、その子が苦手なポイントや原因を丁寧に見立て、それに合ったプログラムを作っています。
――学校や集団レッスンでは、細かな原因まではわからないですよね。
まさやコーチ:そうですね。なわとびが跳べない子は、ひたすら練習をするのが一般的です。けれど、縄跳びはよくも悪くも、できたかできてないかが一目瞭然な種目で、できないことが自信の喪失につながることもあります。ですから、まずはなわとびを跳ぶために必要な体の準備をすることが大切なんです。
――運動の前に、まずは土台作りということですね。

まさやコーチ:上の図のように、「発達」というのはピラミッドのような構造になっています。1番上(第4段階)にあるのは、なわとびのように複合的なスキルが必要な運動や、箸を持つ、文字を書くというような手先を使う動き、集中力やコミュニケーション力のような部分です。多くのお子さんはこの部分を伸ばすために習い事をしたり、練習をしたりしていますが、子どもの発達というのはピラミッドの下の部分から順番に積み上げていくため、上の部分だけを伸ばすというのは難しいんです。
ですから、私たちのレッスンでは家庭でできる運動遊びなどを通して「土台」をしっかりと作ることを大切にしています。土台にある「前庭覚」というのは、重力や回転、揺れやバランスを感じることができる感覚、「固有覚」は手足の位置や関節の動きを把握したり、力加減ができる感覚のことです。これらの土台があってこそ、ものを操作したり、体をイメージ通りに動かしたり、姿勢のバランスをとったりすることができるようになるということです。
たとえば文字を書くという動作を一つとっても、「固有覚」が出来上がっていないと、指先の力加減が難しくて筆圧が強すぎたり、弱すぎたりすることがあります。消しゴムで消すときもノートが破れるほど力を入れてしまったり、体に力が入りすぎて、指先のコントロールができなくなってしまうというケースもあります。
――土台作りにはどんなことをするのがよいのでしょうか?
まさやコーチ:本来なら、ピラミッドの下の部分にあるような感覚は日常生活や外遊びなどを通して鍛えられるものなのですが、今の子どもたちはとにかく運動量が少ないため、ピラミッド全体が小さくなりやすいんです。そのため、「へやすぽアシスト」で提案しているような運動遊びなどを取り入れて、意図的に土台作りをしていくのがよいと思います。風船やタオル、洗濯ばさみなど、家庭にあるものを使って、成功体験を増やしながら自信と発達の土台を育てられます。
身近なアイテムを使って「集中力アップ」や「姿勢改善」も!
――発達が気になるお子さんにおすすめの、家でできる運動遊びを教えてください。
集中力アップに「風船ポンポン片付けゲーム」
まさやコーチ:まずは集中力をアップさせる運動遊びをご紹介します。たとえば授業に集中できず、廊下を通った先生に意識がいってしまったり、救急車の音に反応してしまったりするというお子さんもいると思います。このようにいろいろな情報に意識を向けてしまう子には、風船を使った「ポンポン+お片付けゲーム」がおすすめです。
まずはただ、風船をポンポンと手で弾ませます。これは簡単に見えますが、適切な力加減を調整しながら、風船に視線を集中させるという練習になります。次に、このポンポンという動作を持続させたまま、床に置いた小物を指定の輪に入れるというチャレンジをしてみましょう。風船を落とさないように集中しながら、ものを拾う動作に注意を切り替えていくという訓練です。
おもちゃなど好きなものを置いて「いくつ入れられたかな?」とゲーム性を持たせたり、「お菓子を入れた分だけ食べてOK」としたりするのも楽しいです。個人差はありますが、継続して練習することで「座っていられる時間が延びる」などの変化が出やすいです。
姿勢をキープする「タオルの船」
まさやコーチ:「子どもの姿勢が悪くて困っている」というお悩みもよくいただきますね。この動画のように子どもがタオルの上に乗り、親御さんがそれを引っ張るという運動遊びをご紹介します。タオルから落ちないようにすることで力の入れ方、バランスの取り方をトレーニングすることができます。姿勢がよくなると無駄なエネルギーを使わなくなるので、子どもが疲れにくくなるという効果もあるんです。
トレーニングで「文字が上手に書けるようになった」という声も!
――運動によって「お箸を持つ」や「字をきれいに書く」などの日常動作の改善もできるのですね!
まさやコーチ:「字がきたない」「箸がうまく持てない」というお子さんは、ティッシュを使った「くしゃくしゃ&アイロン伸ばし」をやってみてください。
ティッシュくしゃくしゃ&アイロン伸ばし
片手だけを使ってティッシュを破らないように丸め、同様に片手だけでゆっくり丁寧に広げます。この運動ではまず指先の力加減の調整力、そしてアイロンのように広げるときはどこかの指を固定し、他の指で広げるため、指の「分離運動」を体感できます。
慣れたら2枚重ねになっているティッシュを1枚ずつに分けて、1枚は小さく丸めて小指・薬指で軽くはさみ、もう1枚のティッシュで先ほどと同じ課題に挑戦してみましょう。「持つ指」と「動かす指」を分ける感覚が、筆圧・運筆や箸操作の基礎になります。勉強前や食事前に30~60秒、週3回程度行うのを習慣にしてみてください。
――「へやすぽアシスト」のレッスンを受けたお子さんにはどんな変化がありましたか?
まさやコーチ:ASDのある小学2年生のお子さんのケースですが、その子は体幹の弱さや姿勢の崩れ、筆圧の不安定さに加え、力加減が苦手で生活音(足音やドアを閉めるときの音など)が大きいことも課題でした。運動にも自信がなかったので、まずは運動を「楽しい体験」に変えることからスタートし、土台作りと興味に合わせた練習(縄跳び・ボール・サッカーなど)を積み重ねました。

半年ほどで縄跳びが少しずつ跳べるようになり、その後前跳び40回に到達。1年ほど経つ頃には文字が枠内に整い、力加減も改善されました。何より、「練習すればできるようになる」という経験をしたことで、心の面でも変化していったのが私としてはうれしかったですね。はじめは小さなことからでも成功体験を積むということは子どもにとって大切なことなんだなと改めて気づかされました。
――ありがとうございました。子どもの土台作りの大切さがよくわかりました! まさやコーチに紹介していただいた運動は、家にある身近な道具で楽しくできるので子どもも続けやすそうです。ぜひみなさんも取り入れてみてくださいね。
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お話を伺ったのは
PAPAMO株式会社「へやすぽアシスト」代表コーチ/理学療法士
オンライン運動・発達支援サービス「へやすぽアシスト」の代表コーチとして、レッスンを通じて、全国の親子に「遊びながら育つ運動の楽しさ」を届けている。
これまでに1,000人以上の子どもを対象に、延べ3,000回以上の運動・発達支援を実施。特に、発達が気になるお子さんや運動が苦手なお子さんへのサポートに力を入れ、一人ひとりに合わせた指導で「できた!」という成功体験を積み重ねることを大切にしている。
また、東京パラリンピックではドイツ・ベラルーシ代表選手のトレーナーを務めるなど国際的な経験も持つ。
取材・文/平丸真梨子