経営知識ゼロの主婦が“抱っこ紐収納カバー”を自作し5万円で起業→子育て世帯が殺到する人気店に!仙田忍さんが仕事と子育てに葛藤して得た大きな気付き【後編】

「働きたいのに働けない」――。子育て中にそんな社会の矛盾に直面し、5万円だけを手に起業した一人の主婦がいます。抱っこひも収納カバー「ルカコ」の創業者・仙田忍さんです。5年間の不妊治療を経て二人の子どもを授かったものの、待ち受けていたのは“保育園の壁”。その経験から「同じ悩みを抱えるママたちが働ける場所をつくりたい」と立ち上がり、なんと30人のママを一気に採用!今までに50名以上のママ雇用を生みました。しかしその道のりは順風満帆ではありませんでした。経営の知識ゼロで挑んだことで、事業が成長するほど、子育てとの両立という新たな葛藤も…。

事業拡大への道のり、家族との揺れる思い、子育てで得た大きな気づき。ジェットコースターのような13年を走り抜けた仙田さんの言葉には、キャリアや育児に悩む皆さんの背中を押してくれる要素がたくさん詰まっています。

前編では不妊治療のお話や事業を始められたきっかけを伺いました

「働きたくても働けない」待機児童問題に直面した専業主婦がお小遣い5万円で起業!5年間の不妊治療・体外受精からの出産…、自宅で作った“抱っこ紐収納カバー”が転機に【仙田忍さん|前編】
5年間の不妊治療、体外受精を経て授かった命 ――仙田さんは2013年に「ルカコ」を立ちあげましたが、もともと、歯科衛生士として10年...

経営の知識ゼロで直面した現実

――待機児童問題に直面し、ご自身で2013年に「ルカコ」を立ちあげましたが、実際30人ものママたちを一気に雇用して、事業は大丈夫だったのでしょうか?

仙田さん:自分としては、夫の扶養の範囲内で月10万円くらい稼げればいいな、くらいの気持ちで始めたのですが、とにかく忙しくて。家では子育て、会社では商品の製作と発送、夜はサイトの更新。経営の勉強をする時間も、きっかけもないまま、時間が過ぎていきました。経費という概念もなく、使う時間も知識もなく、通帳にはどんどんお金が貯まっていきました。そんなある日、税務署から想像を超える額の納税通知書が届き驚きました。無知って怖いですよね。

自分に知識があれば、もっとスタッフの働く環境をよくできたし、これから継続するためによい働き方や運営ができたはず。ちゃんと経営について勉強しなくてはいけない、と思いました。それで法人化することにしました。当時は会社を大きくしたいとか、儲けたいとか、そういう気持ちはまったくなくて、ただただ育児と毎日の業務に必死でした。

「困りごとを解決できる店舗をつくりたい」でもスタッフは猛反対して……

――現在は抱っこ紐収納カバーから事業を広げ、抱っこ紐の専門店も展開されていますね。

仙田さん:カバーを作り続けているうちに、抱っこ紐についていろいろなメーカーの抱っこ紐について詳しくなっていることに気が付きました。お客さんからの質問を受けるうちに、それぞれの抱っこ紐のメリットやデメリット、たくさんの抱っこ紐の知識が自分のなかに増えていました。

抱っこ紐について説明する仙田さん

仙田さん:それで抱っこ紐選びに困っている人は意外に多いのかもしれないと感じました。量販店には有名どころの2〜3種類しか置いていないし、店員さんも十分な時間を割けない。購入した後の抱っこ紐の装着方法について聞くところもない。だからネットショップだけではなくお客さんの声を実際に聞いて、ラクになる装着方法をレクチャーできたり、抱っこ紐収納カバーを実際に見れて買えるお店があればと、店舗をオープンすることにしました。でもスタッフは猛反対で…。

自分で夏休み1か月かけて店舗をDIY

――どうしてですか?

仙田さん:店舗が駅から歩いて15分から20分はかかる場所だったんです。「困っている人はいるかもしれないけれど、駅前ならまだしも、ここまでくる人はいないのでは?」と。スタッフの気持ちもすごくわかりました。実際、内装をつくるのには300万円かかると言われていて。だからなるべくコストがかからないように自分で作業することにしました。結果、約30万円くらいで内装を作ることができました。

夏休みの約1か月間、夜の11時から12時の1時間毎晩1人で作業し、店舗をDIY

抱っこ紐を試着比較できるお店をオープン

――それで2017年に大阪店をオープン、東京店を2022年にオープンされたんですね。

仙田さん:はい。当初は抱っこ紐収納カバー「ルカコ」を販売したり、抱っこ紐のレクチャーや選び方などを案内したりしていたのですが、お客様の声から「抱っこ紐をいろいろ試着比較できるお店がない」、「選び方がわからない」という困りごとがあることがわかりました。そこで、たくさんの種類の抱っこ紐やヒップシートキャリアを試着比較しながら、購入できるお店があればと、40種類以上の取り扱いを始めました。これだけの種類を取り扱うお店も、ご案内できる知識があるスタッフがいるお店もここにしかないので、全国から来てくださるようになりました。

たくさんの抱っこ紐を取りそろえる東京店

仙田さん:東京店には関東はもちろん、長野や岩手、新幹線にのって名古屋からも。大阪店にも関西だけではなく岡山や広島、九州からもご来店いただいています。最近は海外からのお客さんも増えてきています。

ルカコストアは現在完全予約制とさせていただき、ありがたいことに週末はあっという間に満席になるお店になりました。

大事にするのは「ここにしかない価値」

――事業をするなかで仙田さんが大切にされていることはありますか。

仙田さん:困っているけど、誰もやらないだろうな、という手間がかかることをずっと逆手にとってやってきたからこそ、ここにしかない価値にすることができたと思います。

起業した当時のスタッフの子どもたちも今では大きく成長しました。「元いた専門職に復帰したい」「正社員で働きたい」「起業したい」とそれぞれの道を選び、スタッフたちも巣立っていきました。ミシンのそばで過ごしていたお子さんがもうすぐ大学受験なんて聞くと感慨深いですね。

仙田さん:当時から変わらず一緒に働いてくれている、10年以上のスタッフもいます。店舗では、私の想いに共感しながら、ご自身の育児経験も活かして働いてくれており、長い時間をともに積み重ねてきたことを実感します。

起業したときも、ママたちの新しい働き方を考えたときも、そして今も。根っこにあるのはずっと“困りごとを解決したい”という想いと、育児が大変だったときの”過去の自分を救いたい”という想い。

今育児に奮闘しているママやパパに私たちの育児用品や接客で「育児がラクになりました、お世話になりました。」と感じていただけたらうれしいです。

「自分がかっこいいと思う生き方をすればいい」コシノヒロコさんの言葉で吹っ切れた

――事業が忙しい中で、お子さんとの時間はどうされていましたか。

仙田さん:実はそこが一番の葛藤でした。子育てと仕事の両立のために、子どもを優先できる働きやすい環境を作りたいと起業したはずなのに、忙しくなればなるほど、自分の子どもを見てあげられない。ちゃんとしなくちゃいけないのに、できない。そのジレンマで、すごく苦しかったです。

――その葛藤を、どうやって乗り越えられましたか?

仙田さん:ご縁で世界的デザイナーのコシノヒロコさんにお会いする機会があり、そのジレンマについてお話を聞くことができました。

「私なんて世界中を飛び回っていて、子どもとの時間は本当に少なかったと思う。でも、大人になった子どもたちは今、一緒に仕事をしてくれて、『お母さん、かっこいい』って言ってくれる。それが答えじゃない? 子どもには子どもの人生があるし、私には私の人生がある。自分がかっこいいと思う生き方をすればいい」と。

自分がかっこいいと思う生き方を楽しもうと思ったと話します

仙田さん:人生の大先輩の言葉で、目の前がパーッと開けました。そうか、私は私らしく生きていいんだ、と。それからは、「ちゃんとしなきゃ」という呪縛から解放されました。母である前に私であり、誰かのための前に、まずは自分のために。自分がかっこいいと思う生き方を楽しもうと思えました。きっとその背中を子どもたちは見てくれているはずだと、そう思えるようになりました。

「あなたも人生を楽しんでほしい」夫への想い

――ご主人は大手企業で管理職をされていてすごく忙しかったのですよね。仙田さんご自身もお忙しいなかで、家庭のことは……?

仙田さん:起業当初、夫は単身赴任をしていました。管理職だったので戻ってきてからも、朝早くから夜中まで働き、家族や友達との時間、趣味や自分自身の時間がほとんどない状況が続きました。このまま定年まで働いたとして、夫の人生としてよかったと思えるだろうか? と心配になりました。

夫からすると「家族のためにがんばって働いてるのに」という気持ちもあったと思いますが、「子どもたちのお父さんはあなたしかいない。あなた自身の人生も楽しんでほしい。」と伝えました。

本当にいろいろな葛藤があったと思います。その後結果的に会社を辞め、家事や育児を全力でサポートしてくれました。ルカコの経理や人事なども担ってくれています。

高校生たちに講演することもあります

――仙田さんご自身も助かった部分も大きいのではないでしょうか。

仙田さん:はい。私が苦手な部分を全部担ってくれていて、本当に助かっています。でも何より、彼自身の人生が豊かになっていればうれしいなと。時間的な余裕ができたことで、いつのまにか小学校のPTA会長になっていたり、地域のバレー部に入っていたり。何より子どもたちとの時間ができたことがうれしい反面、逆転して私が仕事に追われている状況に反省しています。あのときの夫の気持ちもほんの少しわかった気がします。

人生において本当にすべてのサポートをしてくれている夫には感謝しかありません。

起業当時4歳だった長女は高校生に。事業の相談をすることも

――お子さんたちは、今どのように成長されましたか?

仙田さん:長女は、気がついた頃には起業していたので、それが当たり前だったようです。小学校で将来の夢を発表するときに「いつかお母さんのような、社長になりたいです」と言っていたことがあり、本当に報われた気持ちになりました。

娘が中学生の頃に私のことを道徳のサブテキストに授業で取り上げていただいたり、高校では探究授業をさせていただいたりする機会があり、今年ももしご依頼があれば、娘の授業をする可能性もあります。すごく感慨深いですね。今は高校生ですが、数字やデータを見たり、プレゼンテーションをするのも得意なようで、事業のことで意見を聞くこともあります。

娘と息子と幼い頃に撮影

仙田さん:一方、長男は小学校の頃、すごく荒れていました。他のお母さんと違うことが嫌だと感じていたと思います。どう接していいかわからず、難しかったですね。がんばって関わろうとすればするほど、距離を感じる。中学生になって、少し距離を置くようにしたら、逆に落ち着きました。母の日に私の好きなお菓子を買って会社に恥ずかしそうに持ってきてくれて、そのときはすごくうれしかったですね。男の子なりの優しさなのかなと思っています。

子どもたちには自分の人生を思うように生きてほしい。何かあったときには相談できる、そっと見守る立場でいられたらいいなと思います。

「子どものために、が子どものためにならないことも」自分の人生を楽しんで

――最後に、子育てに奮闘しているママたちへメッセージをお願いします。

仙田さん:振り返ってみると、「子どものために」と思ってやっていたことが、必ずしも子どものためになっていなかったな、と感じることがあります。親だから子どものためにベストを尽くしたい、できる限りの環境を整えてあげたい、という気持ちになりがちです。でも、それが親のエゴになってしまうこともある。

もし今、「子どものために」とがんばりすぎているお母さんがいたら、一度少しだけ距離を置いて、自分の人生に目を向けてみてほしいです。自分がワクワクすること、後悔しないことをやってほしい。それが結果的に子どものためにもなるんじゃないかな、と。自分の人生を、思いっきり楽しんでください!

前編から読む

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お話を伺ったのは

仙田忍さん 株式会社ルカコ 代表

株式会社ルカコ代表取締役。歯科衛生士・介護支援専門員(ケアマネジャー)資格保持。5年間の不妊治療・体外受精を経て2児を出産後、待機児童問題に直面。自身の経験から抱っこ紐収納カバー「ルカコ」を製作し、5万円で起業。その後事業を法人化。累計販売数は12万個を超える。これまでに「子育てを優先しながら、短時間だけ働ける会社があれば」と延べ50人以上のママの雇用を生み出してきた。現在「1店舗でたくさんの抱っこ紐を試着比較、相談できるお店がない」困りごとを解決し、実店舗のルカコストア(大阪・東京)も運営。完全予約制で週末はあっという間に満席の人気店に。

ルカコ公式HPは>>こちらから

取材・文/HugKum編集部

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