「中学受験=難関中学をめざす」だけではない! 発達障害のある子どもに公立中以外の「その子自身に合った学校」という選択肢を

発達障害のある子どもが「中学受験」。それは現実的に「アリ」な選択肢なのでしょうか? 自身も発達障害当事者であり、発達障害のある子を育てる親でもあるブロガー・コミックエッセイ作家のモンズースーさんは、4組の当事者家庭を取材して、著書『発達障害っ子の中学受験』を出版しました。「地元の中学に進学させることへ不安がある」という保護者たちの切実な思いから見えてきたのは、偏差値ではなく「子どもが安心して過ごせる場所」を求める中学受験のリアルでした。モンズースーさんが取材を通して感じた中学受験の可能性や難しさ、そして子どもへの関わり方について、当事者と親、双方の視点から伺います。

発達障害のある子どもが「自身の特性に合った学校に進学する」ための中学受験

――モンズースーさんは、当事者として「発達障害」について、体験したことや考えなどを本やブログなどで発信されていましたが、そこに「中学受験」を組み合わせた本を書こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

モンズースーさん:私自身は中学受験を経験しておらず、地域柄、中学受験についての情報も全く持っていなかったんです。でも、あるときネットの記事で、「発達障害だから中学受験を勧められた」という話を読んで興味を持ちました。

最初は「発達障害」と「中学受験」ってあまり結びつかなかったのですが、調べてみると、意外と「こんな特性を持った子に、こんな学校なら合いそうだな」という情報が次々と出てきたんです。

でもその頃は、「発達障害の子の中学受験」に関する情報がほとんどなくて、私立中学を選べるような子でも、なかなか情報にたどり着けないんじゃないかと思ったんです。だから、もっとそういう世界を知ってもらうために、「発達障害がある子の中学受験」の本を書こうと思いました。

 ――『発達障害っ子の中学受験』の取材を通して、発達障害のある子どもを持つ家庭が中学受験を考える際に、共通して抱えていた悩みや迷いは、どのようなものがありましたか。

モンズースーさん:それぞれ事情は違いましたが、「地元の中学校に進学させるのが不安」という悩みは共通していましたね。

中学生って、思春期と重なっていろいろと難しい年頃じゃないですか。うちの子もそうなんですが、発達障害の特性があるわが子がその中に入っていって、うまくやっていけるビジョンが持てないと感じている方が多かったです。

だから「できるだけ中学校生活を安心できるところで過ごしてほしいという思いから中学受験を決めた」というところが、みなさん共通していたように思います。

――やはり私立中学だと、地元の公立中学にはないような特徴があったりするのでしょうか。

モンズースーさん:公立だと、先生個人でそれぞれやり方が違ったりすると思うのですが、私立だと先生たちがある程度組織化されていて、学校全体で同じ考え、意識のもとに動いているように思います。

公立とは違って先生の異動がなく、ずっと同じ先生に見てもらいやすいというのもいいなと思いました。発達障害のあるお子さんの中には、先生をはじめ環境が変わることにすごく敏感な子も多いですよね。公立だと「いい先生がいるな」と思っても、いなくなってしまうこともありますから。

あとは、タブレットなどデジタルなことを積極的に取り入れている学校も多く、そういう学校だとスケジュール管理や宿題の提出などが全てタブレットひとつで済むので、親も子も安心だなと思いました。

 ――取材された家庭の事例から見て、 発達障害のある子どもにとって「中学受験をすること」は、 どのような意味や可能性を持つ選択肢だと感じましたか。

モンズースーさん:自分に合った場所を選べることが、中学受験の大きな可能性だと思います。私は、環境によって障害はなくなることもあると考えているのですが、まさに中学受験がそれだと思うのです。その子に適した環境で学ぶことで、困りごとを減らして本人が安心して過ごせるようになるなら、いいことですよね。

学力が高い発達障害のお子さんだと、自分の得意なことを伸ばせる私立中学に行ってから勉強もよくするようになったという話も聞きます。

中学時代の苦い経験から、わが子には個性に合った学校に行ってほしい

――中学受験をした発達障害の子がいる複数のご家庭に取材した中で、いちばん印象に残っていることは何ですか?

モンズースーさん:取材した中で、あるお母さんが、「二度と中学時代に戻りたくない」と言っていたことが印象的でした。他の親御さんの話を聞いても、自分に中学時代の苦い経験があるから、子どもには地元の公立校への進学ではなく中学受験に挑戦させたいと思った人はいるようでした。

中学の独特な社会って、大人より生きづらい部分があると思うんです。私自身も中学時代より、社会のほうがむしろ自由度が高くて過ごしやすいと思っています。

今は少し違うかもしれませんが、私たち親世代が中学生の頃って、地元の中学校って結構荒れていたり、体罰が当たり前にあったりしていましたよね。今ほど学校側の子どもや保護者に対するサポートも手厚くなかったですし。

定型発達の子でも大変なのに、発達障害の子はとくにトラブルが多くなってしまいがちです。そんな状況を自分の子に当てはめて考えると、地元の公立中学に通わせることに不安になるんだろうなと思いました。

――モンズースーさんは、仮に自分が小学生のときに「中学受験」という選択肢があったとしたら、やってみたかったと思いますか?

モンズースーさん:私も発達障害がありますが、地元中学以外の選択肢があるなら、やってみたかったと思いますね。すごく社会が狭い田舎で育ったので、それ以外の世界をその時期に見られたなら、見てみたかったなと。

また、読者の方からの感想で、大人の発達障害の方から、「親がここまで自分のことを考えてくれるなんてうらやましい」という意見をいただきました。本に出てくる親御さんたちは本当にお子さんのことをよく見ていて、「わが子にとっていちばんいい学校はどこか」を考えているんだなというのが伝わってきます。

――中学受験というと、名門校を選ぶ過熱した受験戦争のイメージがありますが、そうではない側面もあるというのが意外でした。

モンズースーさん:発達障害のある子に限らず、今は定型発達の子の親御さんでも、「わが子の個性にあった学校選び」という観点から、偏差値の高い名門校以外の中学受験を考えている親御さんは多いようです。

普通の小学校の平均より低いくらいの学力でも入れる学校や、不登校の子を受け入れている学校など、一人一人の個性を大切にしてくれるような多様な学校があります。中には中高一貫校もありますから、中学受験をして入ってしまえば高校受験をしなくていいというのは、子どもにとってメリットだと思います。

――取材を通して、「中学受験の難しさ」を強く感じたのはどんな点でしたか?

モンズースーさん:子どもの努力や学力ももちろんですが、シンプルにお金が関わってくることではあるので、誰もが選べる選択肢ではないということですね。あとは、地域格差がすごく大きいなと思いました。都内だったら選べるけれど、田舎だと選べないこともあるので、地域によってはスタートに立てないということが難しいなと思います。

発達障害がある子の中学受験、親はどうフォローしたらいい?

 ――取材した家庭の中で、受験の結果にかかわらず、子どもとの関わり方として共通していた姿勢や工夫があれば教えてください。

モンズースーさん:今回取材した中で共通していたのは、「得意を伸ばす」ということでした。発達障害、中学受験に関わらず、子育てにおいてはよく言われることですが、発達障害の場合、とくに得意不得意の凹凸が大きく出るお子さんが多いので、親御さんも得意を見付けやすいのかもしれません。

そうして得意なところを伸ばしていくと、自動的に他のところも引っ張られて伸びていったり、苦手なところをカバーできるくらい点がとれたりするので、親御さんも工夫して得意を伸ばそうとしていたように思います。中学受験には、一教科入試というものもありますしね。

――発達障害がある子に限らず、中学受験は「子ども自身が中学受験に意欲的になること」がとても難しいように思います。発達障害がある子の場合は、「子ども自身の受験へのモチベーション」はどう高めていったらよいと思いますか?

モンズースーさん:子どもによっても違うとは思うのですが、目標を見付けることが、モチベーション向上や、自分からやる気になるきっかけになるのかなと思いました。ある進学塾の先生も「目的があって受験する子は強い」と話していましたね。

本人が「その学校に行きたい理由」があると、うまくいきやすいのかなと。発達障害がある人は、目標を見付けると自分からのめり込んで集中できることが多いので、そこがうまくはまるとよいのだと思います。

――定型発達の子の中学受験と比べて、発達障害の子の中学受験では、とくにどのようなことに気を付けたほうがいいと思いますか?

モンズースーさん:発達障害がある子は特性がある分、ストレスを感じやすい子が多いように思います。中にはストレスを抱えていることにも自覚がなかったり、うまく発信できなかったりするので、疲れてつぶれてしまうこともあるでしょう。

だからこそ、ストレスや体調面など、定型発達の子よりも周りの大人が気を付けて見てあげないといけないと思います。そして、負荷の掛け方も気を付けて、名門校を狙うというよりは、その子自身に合った、学力的にも無理なく入れそうな学校選びをした方がいいのではないでしょうか。

「中学にも選択肢がある」子どもの将来に悩む親に知ってほしい

――あとがきにあった「中学にも選択肢がある」という言葉が印象的でした。取材や執筆を経て、「中学受験」に対する印象はどう変わりましたか?

モンズースーさん:中学受験というのは「レベルの高い難関校をめざす」というイメージがあったのですが、取材をしてみると実際は「子ども自身に合った学校をめざす」ことを大事にしている家庭が多かったです。

だから、金銭面の話は別として、「特別な家庭の特別な子だけができるイベント」ではないし、そこまで手が届かない遠い世界のことではないと思うようになりました。

――発達障害のある子どもの将来に悩む親御さんたちに、伝えたいことがあれば教えてください。

モンズースーさん:発達障害のあるお子さんを地元の中学に行かせるのが不安だと思っている親御さんは多いと思うのですが、地元の中学以外にも選択肢があることを知ってもらえたらいいなと思います。

もちろん選択肢は多くはないですが、調べてみたら決してゼロではないことが分かると思います。『発達障害っ子の中学受験』が、そういう世界を知るきっかけになったらうれしいです。

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お話を聞いたのは…

モンズースー ブロガー・漫画家

長男を出産後、ADHDと診断される。発達障害グレーゾーンの息子二人を育てる母。日々の生活をブログで随時更新中。『生きづらいと思ったら 親子で発達障害でした』(KADOKAWA)、『発達障害と一緒に大人になった私たち』(竹書房)など、困りごとをテーマにした多くの漫画作品を刊行。

モンズースー KADOKAWA 1,650円

『生きづらいと思ったら 親子で発達障害でした』の著者モンズースーが描く、中学受験体験コミックエッセイ。
“発達障害の子だからこそ”個性にあった進路を中学に進学するタイミングで考えることの大切さを実感した著者が、発達障害っ子の中学受験に挑んだ家庭を取材し、その体験談をコミックにまとめた。
ひとりひとり異なる特性を持つ4人の子どもたちと家族が、「受験を決意した理由」「塾選び」「学校選び」「勉強方法」「発達障害の診断を受けるか(薬を服用して受験に臨むか)」「緊張の合否」「受験した学校へ進学して感じたこと」などテーマごとに、向き合った壁や大切にしたことなどを描く。
マンガの間には、医師の視点&中学受験専門家の視点で、親の不安を解決するコラムも充実。

取材・文/佐藤麻貴

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