息子の「スカートめくり」は、いたずらではなかった 。発達障害にありがちな“誤学習”のしくみ【療育アドバイザーが解説】

発達障害の本人の特性や周囲の対応によって、不適切な行動や偏った解釈を正しいものとして身に付けてしまう現象のことを「誤学習」と呼びます。特にASD(自閉スペクトラム症)では、全体を見ず、局所的な情報だけに注目して間違ったルールを導き出してしまうことがあります。療育アドバイザーの藤原美保さんに、療育の事例から解説していただきました。

母親から相談された5歳の息子の「スカートめくり」

軽度の知的障害を伴う自閉スペクトラム症の5歳の息子さんの件で、あるお母さんから、息子さんが頻繁に「スカートめくり」をするようになって困惑しているという相談がありました。

お母さんによると、後ろから突然スカートをめくるのだそうです。今のところ他の人に対してすることはないようなのですが「今のうちにやめさせたい」というご相談でした。

「スカートめくり」というと、子どもがいたずら心で同学年の女の子のスカートをめくるイメージかもしれません。しかし、自閉スペクトラム症のお子さんの行動を考えるときは、まず「なぜ、その行動をするのか」を一緒に探すことが、重要です。

自閉スペクトラム症の子の行動には「本人なりのきっかけ」がありがち

まず、誰かがやっているのを見てまねしているのか?と考えがちですが、そんな単純ではないことが多いのです。お母さんに、状況を整理するための質問をいくつかしました。

・めくるのはお母さんだけ?→ わからない。ただ、園で同じことをしているという話は、先生からは聞いていない

・ 家でだけ? → ほとんど家。ただ、公園でも一度あった

・どんなとき? → わからない。突然めくられる

・やった後はどんな対応をしている? → 「ダメだよ」と口頭で注意するが、効きめがない

「突然めくられる」「理由がわからない」というのは、相談の入口でよく聞く言葉です。けれど、自閉スペクトラム症のお子さんの行動には、本人なりの“きっかけ”が隠れていることが少なくありません。

 園では「スカートめくり」をしていない

まず、ヒントになりそうな点から考えてみました。

園で保育士の先生に聞くと、他の園児もしておらず、スカートめくりがよくあることというわけではなさそうです。ここから、いくつかのことが見えてきます。

保育士の先生は、動きやすいジャージやパンツ姿でいることが多く、スカートを履いていないことがほとんどです。一方で、スカートを履いている女の子の園児もいるようですが、他の園児に対してはしていないので、「子ども」は対象ではないらしいということが分かります。

そして、年齢的にも性的な興味はまだ早い段階です。そう考えると、これは性的な行動というより、「何かを見て、まねをしている」、あるいは 「まねをする場面を間違えている」と考えるほうが自然に思えました。

「突然めくる」場面を探ってみると…

お母さんの普段の服装をうかがうと、長めのふんわりしたスカートを履くことが多いそうです。そこで、もう少し細かく聞いてみました。

・一日中スカートを履いているのか、途中で着替えるのか

・スカートを履いているあいだ、ずっと執拗にめくってくるのか

すると、「ずっとめくるわけではない」が、「突然めくられる」のだそう。もし、四六時中めくるのなら、スカートをめくるという行動自体が楽しいのかもしれませんが、そうではない。ということは、めくる行動を引き起こす“何かのスイッチ”があるのではないかと私たちは考えます。

そこで、これまでにめくられた場面を、思い出せる範囲で挙げてもらいました。

1. 洗濯物をたたんでいるとき

2. タオルを出すとき

3. ベッドの下に服を片付けたとき

4. リビングにいるとき(テレビを見ているときなど)

5. 玄関にいるとき

6. 砂場で遊び道具を片付けていたとき

一方で、台所で料理をしているときにはなかったといいます。ここで、ひとつ引っかかったのが「ベッドの下」でした。「スカートめくり」と聞くと、立っている人のスカートをめくる場面を思い浮かべがちです。けれど、ベッドの下に服を片付ける動作は、立ったままではできません。

そこで、「お母さん、そのとき、しゃがんでいませんか?」と改めて確認しました。すると…

・タオルをしまう棚は低い位置にあり、しゃがむ

・洗濯物をたたむときは座っている

・リビングでも床に座っている

・ 玄関では、靴をそろえるときにしゃがむ

つまり、「お母さんがスカート姿でしゃがんだとき」に、息子さんのスカートめくりが始まる、という共通点が見えてきたのです。

ちなみに、ここまでを聞き出すのに、1時間以上かかりました。なぜなら、お母さんは「スカートめくり=いたずら」だと思っていたため、「なぜするのか」という背景に、なかなか意識が向かなかったからです。これは決してお母さんの落ち度ではなく、誰でも起こり得る、ごく自然なことです。

見えてきた「お母さんのスカートが引きずらないように」というきっかけ

整理した結果、たどり着いた結論はこうでした。

息子さんは、お母さんのスカートの裾が地面や床について引きずっているのが気になり、引きずらないように持ち上げたかったのではないか、ということです。

きっかけと思われる出来事が分かりました。以前、家族で出かけたとき、お母さんがしゃがんだ拍子にスカートの裾を引きずってしまい、泥で汚れたことがあったそうです。そのとき、お父さんが裾をそっと持ち上げてくれたそうです。

ただ、それは半年以上前の出来事で、しかもお父さんは、指で軽くつまんで持ち上げた程度。お母さんは、その小さな場面が今のスカートめくりにつながっているとは、思いもよらなかったようです。

おそらく息子さんは、幼く「つまんで、そっと持ち上げる」という動作が発達的にまだ難しいため、それが「めくる」という大きな動きになってしまっていたのかもしれません。

行動が修正されないのはワケがあります

定型発達の場合、こうした“間違った学習”をしても、その後の経験の中で自然に調整され、やがてスカートめくりのような行動は消えていきます。

ところが自閉スペクトラム症の場合、一度入力された情報を書き換えるのに時間がかかることがあります。だからこそ、本人だけで修正されるのを待つのではなく、周囲の大人の側の対応が必要になるのです。

今回のケースでは、

・いったん、お母さんにスカートを履くのを控えてもらう→“スイッチ”そのものを減らす

・ 本人の言語理解がもう少し進むのを待って、ていねいに説明する

という対応をとることにしました。

「いたずら」や「問題行動」と決めつける前に

自閉スペクトラム症のお子さんは、ある行動を目にしたとき、それをそのまま自分のなかに取り込んで模倣することがあります。

しかし発達が未熟な段階では、見たとおりの動きにはならず、まったく別の行動に見えてしまうこともあります。

自閉スペクトラム症のお子さんの“誤学習”は、周囲の人の何気ない行動が、思わぬ形で取り込まれた行動であることが、実はとても多いのです。

「いたずら」「困った行動」と見える行動の奥に、本人なりの理由が隠れていることは少なくありません。やめさせ方を考える前に、「この子は今、何をしようとしているのだろう」と一度立ち止まってみてほしいのです。やみくもにダメと叱るのではなく、行動背景が分かると大人側で工夫できることも増えます。それを考えることが、お子さんの行動を理解することに繋がります。

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記事監修

藤原美保|株式会社スプレンドーレ代表

保育士、公認心理師。発達障害の女の子の性教育や身だしなみ教育を行う放課後等デイサービスLuce(ルーチェ)を2022年まで運営。現在は障害のあるお子さんと保護者が一緒に通うことができる脱毛サロンLuceを運営(施術中に療育相談に対応可)、子育てや療育相談、事業所での性教育のやり方、職員研修やコンサル、講演等を行う。著書に『発達障害の女の子のお母さんが、早めに知っておきたい「47のルール」』、『発達障害の男の子のお母さんが早めに知っておいて良かったこと70』(エッセンシャル出版社)、『発達障害の女の子の「自立」のために親としてできること』(PHP研究所)がある。

YouTubeで「子どもの対応おたすけチャンネルMamma mia」を配信中

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