【不登校×バウンダリー】朝起きない、ゲームばかり…親はどこまで関わるべき? 公認心理師・植木希恵さんに聞く「親と子の境界線」とは

子どもが不登校になると、「朝は起こしたほうがいい?」「ゲームばかりしていて大丈夫?」など、親としてどこまで関わればいいのか迷う場面が増えていきます。

そんなとき、親子の関わり方を整理するヒントになるのが、「バウンダリー(自他境界ライン)」という考え方です。公認心理師の植木希恵先生に、親と子の「課題」をどう分けて考えればよいのか、日常の具体的な場面や声かけとともに伺いました。

「学校に行きたい」は誰の気持ち? 親子だからこそ大切な“境界線”とは

――植木先生は、不登校の子どもと関わるうえで「バウンダリー(自他境界ライン)」を大切にされています。まず、バウンダリーとはどのようなものなのでしょうか。

植木希恵先生(以下、植木先生):バウンダリーとは、自分と相手との間にある境界線です。私たちには気持ちや考え、お金など自分に属する領域があります。私はこの領域を「じぶんゾーン」と呼んでおり、これらはバウンダリーによって守られています。

自分の体や気持ち、考え、持ちものなどは「じぶんゾーン」にあるもの。
親子であっても、それぞれに大切な「じぶんゾーン」があります。
『不登校・行き渋り…タイプ別でわかる 「学校に行きたくない」と言われたときの親のかかわり方』より
イラスト:鈴木衣津子

――親子は近い関係だからこそ、境界が曖昧になりやすいこともあるのでしょうか。

植木先生:そうですね。不登校や発達障害のある子どもたちと20年以上関わる中で、親自身の気持ちと子どもの気持ちが混ざってしまったり、子どもの課題まで親が背負い込んだりする場面を多く見てきました。

特に不登校の場面では、「学校に行きたいよね」「勉強したいよね」「友達と仲良くしたいよね」など、保護者が「子どもも同じ気持ちのはず」と考えてしまいがちです。

でも、親子であっても、違う人間です。長い目で見れば、子ども自身がそう思うこともあるかもしれませんが、今はまだそのことに向き合うタイミングではなかったり、実は親のほうが焦っていたりすることも多いと感じます。

親子関係や人間関係を考える上で大切なのは、「自分とほかの人は違う人間なんだ」という前提に立つこと。この視点を持つことが、あらゆる人間関係の基本となります。

「子どもが起きたい」のか「親が起こしたい」のか。迷ったら“誰の課題?”を考える

――親と子のバウンダリーを意識するとき、まずどんなことから整理していけばよいのでしょうか。

植木先生:まずは、「誰が望んでいるのか」「困っているのは誰なのか」を考えてみることです。

たとえば、不登校の保護者から「朝、起こしたほうがいいですか?」と相談されたとき、私はまず「お子さんが起きたいのか、親御さんが起こしたいのか、どちらですか?」と聞くようにしています。

親が「朝起きてほしい」と思っていても、子ども自身は今は起きたくないこともあります。その場合は、親の側が「なぜ私は(子どもに)起きてほしいのだろう」と、一度立ち止まって考えてみるのです。

――親自身が、「なぜそうしてほしいのか」を整理するのですね。

植木先生:その通りです。「生活リズムが崩れるのが心配だから」なのか、「このまま学校に戻れなくなるのではと不安だから」なのか。まずは、親自身が何を心配しているのかを考えてみます。

そのうえで、たとえば「お母さん(お父さん)は、あなたが朝起きられなくて、やりたいことができなくなるのが心配なんだけど、どう思っている?」と、自分の気持ちとして伝えることが大切です。

――親の思いを伝えたうえで、子どもがどう思っているのかも確認するということでしょうか。

植木先生:はい。親子でも、考えていることが同じとは限りません。そこを確認しないまま「朝は起きたほうがいい」と話を進めようとすると、意見が分かれた際に「どちらが相手の言うことを聞くか」という問題にすり替わってしまうこともあるのです。

一方で、すでに昼夜逆転している状態が続いていて、生活リズムが乱れている場合は、親子だけでどうにかするのは難しいでしょう。スクールカウンセラーや医師など専門家を交えて話をすることをおすすめします。

――バウンダリーが大切だとわかってはいても、「誰が望んでいるのか」「困っているのは誰なのか」の課題の切り分けが難しい人もいると思います。その場合に効果的なアプローチはありますか?

植木先生:ひとりで考えていると、どうしても同じような思考をめぐらせてしまいがちなので、相談機関を見つけて誰かに話してみるとよいですね。相談先が見つからなかったり、人に話すのが難しかったりする場合は、AIを壁打ち相手として活用する方法があります。

「この状況でバウンダリーを引くには、どのような視点がありますか?」「私のこの行動は、バウンダリーを超えていますか?」と具体的に質問してみましょう。「超えています」と言われたら、「じゃあ、どうしたらいいですか?」と気軽に聞いてみるとよいと思います。

境界線を引いたら終わりではない。「なじませゾーン」で考えを伝え合う

――「これは子どもの課題」と分けてしまうと、今度は「じゃあ親は何も言わず、放っておけばいいの?」という疑問も出てきそうです。

植木先生:そこがとても大事なところです。バウンダリーを引くだけであれば「子どもは子ども、私は私」と切り離すこともできます。でも、親子関係はそれではうまくいきません。そこで大切になるのが、「なじませゾーン」でやりとりすることです。

――「なじませゾーン」とは、どのようなものでしょうか?

植木先生:親と子、それぞれの「じぶんゾーン」を一歩越えて、お互いの考えや気持ちを伝え合う場所のことです。

ここで「私はこう思っているけれど、あなたはどう思う?」「お母さん(お父さん)はここが心配なんだけど、あなたの考えも聞いていい?」というように、自分の思いを相手に伝えたり、相手の考えを聞いたりします。

『不登校・行き渋り…タイプ別でわかる 「学校に行きたくない」と言われたときの親のかかわり方』より
イラスト:鈴木衣津子

――境界線を引いて分けるだけではなく、その間でお互いの考えを調整するのですね。

植木先生:そうです。自分の気持ちを伝えることも、相手の考えを聞くことも大切です。バウンダリーを意識しながら、こうしたやりとりを少しずつ重ねていくとよいでしょう。

ゲームばかり、勉強しない…親が「気になる」とき、どう関わる?

――とはいえ、日々の生活では「どこまで本人に任せていいの?」と迷う場面もあります。ここからは、よくあるケースをもとに、バウンダリーを意識した関わり方を伺います。

①【ゲームばかり】まずは親が“何を心配しているのか”を考える

――子どもがゲームをしたり、動画ばかり見たりしていると、「このままで大丈夫?」と心配になる保護者も多いと思います。

植木先生:まずは、ゲームや動画ばかり見ていることの、何が心配なのかを考えてみてください。「依存するリスクが心配」なのか「周囲から取り残されるのでは」と不安なのか。後者であれば、それは親側の心配ですよね。

本人にとって嫌なことを考えないために、ゲームや動画が必要な場合もあります。親の心配だけで「やめなさい」と決めるのではなく、「あなたはどう考えている?」と、まず本人に聞いてみることが大切です。

②【勉強しない】本人の“予定”を聞いてみる

――勉強をしない、宿題に手をつけないという場合はどうでしょうか。

植木先生:本人なりの考えやタイミングがあるかもしれません。「手伝えることはある?」「いつごろやる予定?」と、先に聞いてみるといいと思います。

何も聞かずに待っていると、親のほうはだんだんイライラして、「いつまでやらないの!」と怒りたくなってしまいますよね。先に確認しておけば、本人なりの予定がわかりますし、まだ考えていないのであれば、声をかけるタイミングを一緒に決めることもできます。

③【人とのつながり・進路が心配】まずは親が支援先とつながってみる

――支援先やフリースクールを探したいけれど、本人は動こうとしない。また進路選択の時期も迫ってくると、親は焦ってしまいそうです。

植木先生:親は先のことが見える分、「このままで大丈夫?」「進路はどうする?」と焦ってしまいますよね。そんなときは、まず親のほうが支援先につながっておくことが大切です。

いくつか候補を探したり、見学に行ったりしてもよいですね。これはあくまでも「子どもをそこに行かせる」のではなく、「自分が心配だから、自分が見に行く」という親側の行動です。親自身が相談できる場所を持ち、一人で抱え込まないことも大切ではないでしょうか。

バウンダリーの練習は「持ちもの」から。日常の小さな場面で試してみる

――バウンダリーを意識したことがない人が、家庭で実践するとしたら、どこから始めるのがおすすめですか?

植木先生:一番取り入れやすいのは、持ちものだと思います。たとえば、子どものおもちゃがリビングに放置されていると、親としては「早く片づけなさい!」と言いたくなったり、自分で片づけたくなったりしますよね。

そんなときは、まず「気にしているのは私」「これは子どものもの」と切り分けてみましょう。そのうえで、「お母さん(お父さん)は、みんなの場所にあなたのおもちゃが気になるんだけど、自分の場所に持っていってもらえる?」と伝えてみるのです。モヤモヤをためずにすぐに聞くのがポイントです。

子どもが話したがらないときは? “押してダメなら引く”も大切

――こちらから話しかけても、子どもが応じないこともありますよね。そんなときは、どのようにしたらよいのでしょうか。

植木先生:子どもが無視したり、「もういいでしょ」と会話を終わらせようとしたりすることもありますよね。親は心配だからこそ、つい「押してダメならもっと押す」になりがちですが、そんなときは「押してダメなら引く」ことも大切です。「そっか、じゃあまた今度聞くね」「話したくなったら教えて」と伝え、また違うタイミングで声をかければいいのです。

バウンダリーを意識した「親子の対話」を

――最後に、不登校の子どもがいる保護者をはじめ、子育ての中で「どこまで関わればいい?」と悩んでいる方へメッセージをお願いします。

植木先生:子育てに悩んでいること自体が、子どもに愛情を持って、真面目に向き合っている証拠です。まずは、「私は愛情深い人間なんだ」と思ってほしいです。

ただ、心配するあまり先回りしたり、子どもの課題まで背負ったりすると、せっかくの思いがうまく伝わらないこともあります。だからこそ、バウンダリーという考え方を少し取り入れてみてください。

親と子は、近いけれど違う人間です。「あなたはどう思う?」「私はこう思っているんだけど」と、お互いの気持ちを少しずつ確かめていく。こうしたやりとりが、親子の対話につながっていくことを願っています。

こちらの記事もおすすめ

【不登校】HSCの息子が入学式直後から行きしぶり…沢木ラクダさんに訊く4年間の記録。付き添い登校から特別支援学級、親の送迎卒業まで。親子の変化と乗り越え方とは?
入学式直後に始まった行きしぶり。 わずか1か月ほどで不登校へ ――前回のインタビューでは、入学直後からHSCの息子さんの行きしぶりが...

著書もチェック!

植木希恵 1980円(税込)

本当にその子に合った、不登校・行き渋りへの向き合い方がみつかる。
――予約の取れない「不登校・発達障害個別指導教師」が教える、親子がラクになる「こころの距離感」のつくり方。

本書は、単に「学校復帰」をゴールにするのではなく、自分と社会の間にある「なじませゾーン」を育て、子どもが自分らしく社会で自立していくための実践的なガイドです。

人とのかかわりのズレを3つのタイプに分類し、それぞれに合わせた親のかかわりのポイントを紹介。本当にその子に合った向き合い方が見つかります。

お話を伺ったのは

植木希恵 公認心理師

公認心理師。ファシリテートスクール「きらぼし学舎」代表。県立広島女子大学(現・県立広島大学)生活科学部人間福祉学科卒業。同大学大学院生活科学研究科人間福祉専攻心理分野修了。大学院では文部科学省指定研究に参加。カウンセリングルームで心理スタッフ・心理カウンセラーとして勤務したのち、家庭教師、中学校講師などを経験。2014年に「きらぼし学舎」を開業し、不登校や発達障がい傾向のある子どもとその保護者をサポートしている。著書に『不登校・行き渋り…タイプ別でわかる 「学校に行きたくない」と言われたときの親のかかわり方』など。

◆ファシリテートスクールきらぼし学舎 公式ホームページはこちら

この記事を書いたのは

牧野未衣菜 ライター

子育てや教育分野を中心に取材・執筆。また、認定NPO法人で、不登校やさまざまな困難を抱える子どもたちと関わっています。2児の母としての子育ての実感も重ねながら、日々の悩みや、子育てのリアルな声を丁寧にすくい上げ、やさしく伝える記事づくりを心がけています。

編集部おすすめ

関連記事