【子どもの発達障害】3歳児健診で診断されることが多いってホント?

発達障害は「早期の気づき(発見)」と「早期支援」が大切。その訳は?

早期の気づき(発見)につながっている「3歳児健診」では、何がわかるのでしょうか?3歳まではわからないものか?などを、乳幼児健診に関わっている言語聴覚士の中川信子先生に伺いました。

発達障害は生まれてすぐにはわかりません

「発達障害」には、ASD(自閉スペクトラム症)や注意欠如多動症(ADHD)、学習障害(LD)など複数の障害のタイプがあり、それぞれに特性があります。

また、複数の特性を併せ持つケースもあります。さらに、それらの特性の出方にはグラデーションのような濃淡があり、ここからが「障害」、ここまでは「非障害」と線を引くのが難しいものです。

特性が強く出ると、社会適応が難しくなることが多いのですが、特性が薄くとも、周囲の無理解が重なることで社会不適応を起こすことがあります。それは、周囲との違いに悩み、いじめの被害、不登校、ひきこもりなどの二次障害を起こすリスクがあるということです。

日本には世界に誇る乳幼児健康診査のシステムがあります

これは母子保健法に定められたもので、誰もが無料で乳幼児健康診査を受けられます。出生後1カ月、3〜4カ月、9〜10カ月、1歳6カ月、3歳と定期的に子どもの発達や健康について医師や保健師などのチェックを受けられます。(市町村によっては6〜7カ月、2歳、5歳などにも実施するところがあります)

発達障害は生まれてすぐにわかることは難しく、発達過程のなかで気づかれることがほとんどです。たとえば、重度の知的障害があると、運動機能にも発達の遅れがあり、乳児期後半には異常がわかることが多いです。また、ことばの発達の遅れからも知的障害があることを予測することができます。自閉症も知的障害を伴うケースであれば、1歳半健診で気づいてもらえることが多いでしょう。

1歳半健診では、まだわからないケースが多い

 

1歳半健診の認知検査では、指差しや積み木などの検査があります。指差しの中では「要求」「応答(可逆)」「叙述(定位)」ができるかを確認。積み木は運動機能、目と手の協調運動、指の分離、集中力などをみます。また、簡単な単語などの「ことば」が出ているか、共同注意(共感・社会性)ができるか?なども確認します。ただ、健診に入る専門家の構成にもより、細かい健診内容は自治体により異なります。

明らかな知的な遅れや健康面の心配などがわかるケース以外は、もし1歳半健診で気になることがあっても、いきなり診断につなげることはありません。子どもの発達には個人差が大きく、家庭環境など生育環境が問題を抱えていることもあるため、家庭訪問や電話相談、個別相談などのさまざまな育児支援を通して、発達障害があるかどうかを見極めていくというステップを取る自治体がほとんどです。

知的障害のない発達障害は3歳児健診での発見が多い

いっぽうで、知的障害のない発達障害や、発達特性が軽度である場合、運動機能に目立った遅れがなかったり、ことばも出ていたりするため、1歳半健診では問題なしとされて、発見が遅れることがあります。

ASD(自閉スペクトラム症=高機能自閉症、アスペルガー症候群なども含む)のなかでも知的障害を伴わない場合や、ADHD、LDの子どもたちは、家庭で過ごす間はなんとかなっているけれど、集団生活を過ごすことや学習をする上で、問題が出てくることがあり、3歳児健診や幼稚園・保育園などの集団生活の中で発見されることが多いのです。

3歳児健診では、園生活など集団生活も始まるため、1歳半健診より社会性を重視してみる傾向があります。

周囲に関心がない、目が合わない、ことばが遅れているなどの様子があると、専門医にかかることや療育センターなどに通うことを勧められます。つまり、「早期の気づき(発見)」が重視されるのは、「早期支援」につなげるためなのです。

二次障害の発生を予防するための早期支援

「早期支援」が大切なのは、お子さんが持つ発達特性を、保護者をはじめとする周囲の人たちが早くから理解し、適切に接してほしいからです。

ちまたには、さまざまな訓練法や治療法がありますが、お子さんの発達特性を完全になくすことはできません。この発達特性と一生付き合うことになることを、家族がいち早く理解することで、子どもの将来について見通しを持つことが大切です。

発達特性が強い場合は、障害者手帳を取得するなど、福祉的な支援を受けることが必要になるかもしれません。ただ、発達特性が残っていても、社会生活の中でうまく活用できることもあります。特性をなくそうと躍起になって訓練をして、逆に自己評価を下げてしまうより、先にあげた二次障害の発生を予防することの方が大切です。

早期支援は親支援。不安があるのは当たり前

そうは言っても、わが子に障害があることをすんなりと受け入れることは難しいものです。健診前にすでに保護者が子どものようすに違和感を持ち、「もしかして」と思っていた場合は、「やはりそうだった」という気持ちになるかもしれませんが、そうでない場合、急に指摘されても「そんなことはない!」と否定的な気持ちになるのも当然です。

そこで、「早期支援」ではまず親支援を大切にします。グループワークに誘って親同士で話せる場を提供したり、カウンセラーとゆっくり話をすることなどを繰り返しながら、少しずつ保護者の理解を促します。そして、子どもの発達特性を理解し、二次障害の予防のためにやるべきこと、やってはいけないことなどを伝えていきます。

お子さんの発達特性は、濃い薄いの個人差はあるものの、将来にわたってある程度は残る可能性があります。そう聞いて、子どもの将来に不安を感じない保護者はいないでしょう。その不安に寄り添い、共感してくれるのが「早期支援」です。

保護者がなんとか納得をして、お子さんの障害を受け止めることができてはじめて、お子さんの支援ができるようになります。そして、保護者と支援者たちが、お子さんを早期から支援することが、二次障害を予防することにつながります。

発達障害の認知が広がってきたとはいえ、社会で受け入れてもらえず、子どもが苦労するシーンはきっとあるでしょう。そのとき早い段階から保護者が理解しているだけでも、お子さんにとっては生きやすさが違います。

お話を伺ったのは

中川信子先生

言語聴覚士。「子どもの発達支援を考えるSTの会」代表。「サポート狛江」代表。東京都狛江市を中心に1歳6か月健診、3歳児健診後のことばの相談や、就学前の時期に発達の遅れなどについて相談を受けている。『発達障害とことばの相談』(小学館)など著書多数。http://www.soratomo.jp

構成/江頭恵子

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