小学生の時期こそ、読解力や国語力を育む絶好のチャンスです。そのためには、小学校低学年(1年生・2年生・3年生)や小学校高学年(4年生・5年生・6年生)にふさわしい、学年別の家庭学習が欠かせません。小学生の「読む・書く・話す・まとめる力」を伸ばし、ひいては人間力を高める家庭でできる学年別学習法とは? 国内屈指の進学校、麻布中学校・高等学校の国語科教諭である中島克治先生に教えて頂きました。
目次
小学校低学年(1年生・2年生・3年生)の家庭学習法
小学校低学年では「書く力」をつけておく
学習に欠かせないのが「書く」作業です。これは国語に限りません。実はこの「書く」ことによって、文章を的確に読む力が育つのです。低学年のうちは、日々の自宅学習の中で、教科書の本文をノートに書き写すようにすると良いでしょう。
たとえば、物語や詩などは、筆者の考えによって改行されています。そういうものを機械的に書き写していくことで、文章や言葉の切れ目などが理解できるようになっていきます。その積み重ねによって、子どもはいろいろな言葉をさらに深く身につけていけるのです。
また、一度丁寧に書き写した文章は、音読したときにとても読みやすく感じられるものです。句読点の位置や改行、文の切れ目などもすんなり入ってくるでしょう。
ノートをきれいに書く習慣は学習効果を高める
読解力というテーマからは少し外れるかもしれませんが、ノートをきれいに書く習慣づけは学習効果を高めます。学んだことをノートに自分なりに整理して書くことは、学習内容を正確に理解する助けになるからです。
「ノートをとるのが苦手」という子どもたちはいますが、それは、単純に「書くことが苦手」なだけのようです。このような苦手意識を持たせないためにも、低学年のころから字を丁寧に書く習慣づけをしておくと良いでしょう。
もちろん、高学年であってもそれまでに書くことに慣れていないようであれば、この段階から始めたほうがいいですね。その子の能力に合わせて段階を踏んで進めていきましょう。
✔【第1段階】書き写し学習の基本:教科書をノートに書き写そう
具体的な書き写し方を紹介します。小学生にとって最も身近な教材は教科書です。第一段階では、学校で使っている国語の教科書を利用し、本文を書き写すことから始めてください。書き写すときのポイントは次のようになります。
- 教科書の文章を、マス目に合わせ、一字一字丁寧に書く
- 改行や句読点など、本文に忠実に書き写す。
- 正しく書き写せているかどうか、漢字や表記の間違いを親がチェックする。
- 間違ったところは消さずに赤鉛筆で線を引き、正しいものをその横に書く。
書き写す分量は、毎日少しずつでもできるように、たとえば、1日1ページずつにするとか、一つの段落ごとにするなど、取り組みやすいボリュームに調整しましょう。大切なことは、できるだけ毎日書くことです。
毎日少しずつでも書き続けることで、書くスピードは上がりますし、一度書いていますから、声に出して読んだときに、以前より上手に読めるはずです。また、丁寧に書けるようになったり、少しずつ自分なりに努力してきれいな字を書けるようになってくれば、それだけでも達成感を感じることができます。
✔【第2段階】書き写し学習の発展:見出しをつけてみよう
書き写すことに慣れてきて、単元も三つ分ぐらい写し終えたあたりで、少し戻って、より深い学習をしましょう。
まず、初めて出てきた言葉の意味を辞書を使って調べたり、漢字の書き順などもあらためて確認します。
次に、まとまりごとに内容をごく簡単にまとめます。新聞や雑誌の「見出し」のような感じで、内容をワンフレーズで表現してみましょう。たとえば、ある登場人物が出てくるシーンだったらその紹介をしたり、ちょっとした事件があったらそれを一言でまとめていくといった具合です。
見出しのつけ方にはコツがあります。それは、
・そこに書かれている内容の最も大切な部分を盛りこむこと。
・表現はできるだけ短くまとめること。
です。新聞や雑誌の見出しも参考にするといいですね。見出し作りに慣れていない場合は、なるべく短いまとまりごとでつくるとよいでしょう。慣れてきたら少しずつ長いまとまりでつくるようにしてみてください。本の内容をまとめる能力、読解力の基礎ができあがっていきます。
✔【第3段階】書き写し学習の仕上げ:「学習のまとめ」に挑戦しよう
第一段階で書き写した、単元の終わりにある「学習のまとめ」(教科書によって呼び方は異なります)を参考に、あらためて本文を読み返し、親子で読解を深めていきます。ここでは「このとき主人公はどのように思っていましたか」などと、基本的な読解が求められています。「解答」はありませんが、ごく簡単な質問ばかりですから、お父さんやお母さんにも十分対応できるはずです。このようなまとめの学習も、答えはノートに書かせましょう。まず、子どもに考えさせてから、親が内容を確認します。もし答えが間違っていたら、もう一度一緒に考えてあげましょう。間違っていてもいいのです。子どもなりに考えたことを評価して、その上で、正しい答えへと導いてあげるようにしてください。
「叱らない」が、親子で学習するときの鉄則
3つの段階ごとの学習方法を解説してきましたが、3つの段階すべて見てあげるのは難しいという方もいらっしゃるはずです。そんな場合でも、ぜひ第1段階の「書き写し」だけは続けてください。もう少し頑張れるというなら第2段階まで、というように無理のない範囲で続けましょう。
親子で学習するときの鉄則は「叱らない」です。つい横から小言を言ったり、注意したりしたくなりますが、そこはぐっと我慢。そもそも宿題ではない自宅学習に取り組んでいるのですから、それだけでもほめてあげるべきなのです。
教科書の書き写し学習が終わったら
もし、教科書すべての書き写しを終え、余力があれば、学習の総仕上げとして、教科書全体を振り返りをしてみましょう。「どのお話が面白かった?」「どんなところがよかったかな?」などと親子で話し合ってみたり、ちょっとした感想文を書かせてもいいですね。また、教科書の中で一番気に入った場面などを、絵や文字で構成した一つの作品にしたら、夏休みの自由研究にもよさそうです。
「教科書は全部終わったし、もっと何かやることはないの?」といううれしい声が聞こえてきたらどうしましょう。親心としてはここで「じゃあ次はドリルをやろうか」と言いたくなります。しかしながらが、少なくとも低学年のうちは、もう少し書き写し学習を続けてください。書き写す対象はイソップやアンデルセンなど、童話がおすすめです。子どもの気に入った作品から選ぶといいですね。
小学校高学年(4年生・5年生・6年生)の家庭学習法
読んだ本の内容を400字でまとめてみよう
小学校4年生ごろになって「書き写し学習」によって丁寧に文字が書けるようになり、漢字や語句の意味を調べたり、段落ごとの見出しもうまくつけられるようになってきたら、ワンランク上の学習にチャレンジ。それは「読んだ本の内容を400字にまとめる」という学習です。
この学習を通して、その作品を注意深く読み取り、正確に理解する力が育ちます。ストーリー展開や登場人物、重要なエピソードをもらさず確実にまとめるのは意外に難しく、そのため読解力が効果的に高まるのです。もちろん、毎日のようにやるのは難しいかもしれませんが、できるだけ月に1冊本を読み、400字に要約する学習をやってみてください。
要約学習に適した本とは?
要約学習に使う本選びをするとき、これまであまり読書をしてこなかったという子どもの場合は、好きなジャンルや、学年をさかのぼっても読みやすい作品を選ぶとよいでしょう。一方、低学年のころから読書が習慣化している子どもであれば、日ごろあまり読まない名作を中心に選んでみましょう。
✔読解力を高めるには、文学作品がおすすめ
読解力を高めたいのであれば、行間を読み取らなければならないような文学作品をおすすめします。いわゆる名作の中でも比較的読みやすいのは、学校が物語の舞台になっていたり、秘密基地を作るといった、読者と同世代の子どもが主人公の作品です。登場人物に感情移入しやすく、心情の変化なども読み取りやすいと思います。また、ボリュームがあり読みにくい作品でも、少年少女向けとしてやさしく書き直されたものもありますので、小学生のうちはそういうもの活用しましょう。
当記事の最後に「小学校のうちにぜひ読んでおきたい本」をご紹介しています。ぜひ参考になさってみてください。
400字にまとめる意味
「なぜ400字なの?」と、疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。実は400字というのは非常にまとめやすい文字数なのです。作品の中の重要ポイントを押さえて書くために必要な最低限の文字数だといってもいいでしょう。いったん400字でまとめられれば、そこからさらに100字や200字に文字数を減らすのも比較的簡単にできます。反対に800字や1000字と文字数を増やしていくための幹として生かすこともできます。小学校高学年の子が書いてまとめるということを考えても、400字はちょうどいい文字数です。
本の内容を子どもに語らせよう
400字に要約するには、少しずつ段階を追って進めていくとよいでしょう。
まずは、子どもに読んだ本の内容を言葉で説明させてみます。時系列にストーリーを追って話すだけだとは思いますが、そこに登場人物や場所、主要なエピソードを交えることができていれば、とりあえず合格です。
次の段階では、できるだけまとめて話すことを意識させます。ついダラダラと話しがちですが、サブ的な内容はごく短くして、中心となるエピソードを詳しく語らせたり、登場人物も主要メンバーにしぼるなど、要約のコツをさりげなくアドバイスできるといいでしょう。
何回か語っているうちに、だんだん物語を的確にまとめるコツがわかってきたようなら、いよいよ400字にまとめて書く学習に移りましょう。
5W1Hを書き出してみよう
新聞のニュース記事などでは、「見出し」よりも長い「リード」という文章によって、要約する段落があります。このときに、ポイントをもらさず書くために必要だといわれているのが「5W1H」です。
5W1Hとは、
・WHO(誰が)
・WHAT(何を)
・WHEN(いつ)
・WHERE(どこで)
・WHY(なぜ)
・HOW(どのように)
という意味です。これが物語文を要約するときも役立ちます。ストーリーの中から5W1Hを書き出すことで内容が整理され、要約の助けになるからです。
5W1Hに、「結末」を加えて、表の項目にします。この表に、それぞれを箇条書きで書き込んでいきましょう。表が完成したら、次はこれをもとにして物語の要約文を書いていきます。
要約文の書き方
先ほどつくった表をもとにして、大まかなストーリーの流れと、エピソードや登場人物を確認します。自分なりに工夫して、人物関係などを見取り図にしてもいいですね。その中からとくに重要なエピソードを中心に、表作りで確認した5W1Hをもらさずにまとめていきます。
✔要約のコツは、物語の盛り上がり部分を見極め、そこにボリュームを置いてまとめること
要約するときに陥りがちなのは、ストーリーの前半部の説明に大半を費やしてしまい、後半の要約の内容が薄くなってしまうことです。要約のコツは、物語の盛り上がり部分を見極めて、そこにボリュームを置いてまとめること。とりあえず慣れるまでは、書き出した箇条書きのエピソードをそのままつなげていくだけでも十分です。何回か書くうちに、少しずつ文章としてまとめられるようになっていくはずです。また、400字という制約も慣れるまでは難しいかもしれません。はじめのうちは文字数についてはおおむね400字としながら、300〜500字程度であれば許容範囲としておきましょう。
もう一つ、どう書き始めていいのかわからないということもよくあるケースです。そんなときには、本のカバーや帯などにストーリーのさわりが書かれていることもありますから、参考にしてもいいでしょう。そこから少しふくらませたり、追加していけばいいのです。
✔要約するという学習に「正解」はない
この要約するという学習には「正解」はありません。むしろ、大人が気づかなかった視点を持っていたり、より深く読み取っていることもあるはずです。この学習で大切なことは、
・ストーリー全体を見渡せる能力を育てること
・言いたいことをより短い言葉で表す工夫をこらせるようになること
です。物語の中で使われている表現も使いながらアウトプットすることに意味があります。
苦手意識を持たせないためには?
小学校のころの得意不得意や、好き嫌いの感覚をずっと引きずると、いいことがありません。くれぐれも安易になぐさめたり、苦手意識を助長するのはやめましょう。そのためには、子どもの能力を信じることです。すべてはここから始まります。「何があろうと大丈夫。この子はちゃんとできるようになるはずだ」という思いと、「どうして間違えたのか」という具体的な検証の努力が合わさったとき、子どもは伸び始めます。
✔国語の読解問題が解けなかったら、ひたすら復習することがおすすめ
国語については、読解問題が解けなかったのであれば、ひたすら復習することをおすすめします。国語の場合は勘違いによる本文の誤読、文章の主旨が読み取れない、設問の読み取り間違いなどがミスの定番です。これらを丁寧に復習し、なぜ間違ったのかを反省するだけで必ず次につながります。こうして間違いの性質を一つ一つ見極め、少しでもできるようになれば、子どもも自信が持てるようになります。
小学校のうちにぜひ読んでおきたい本
中島克治先生がおすすめする小学校のうちに読んでおきたい本を、先生の感想とともにご紹介します。なお、本書では170冊もの本が掲載されています。学年を気にせずに、興味のある本から手に取らせてみてください。
低・中学年向けの本
『100万回生きたねこ』
100万回目にして初めて、“飼いねこ”ではなく“のらねこ”として生きたねこの話。感動的なラストシーンを親子で感じてみてください。
『ぼく おかあさんのこと…』
主人公の男の子はお母さんの身勝手な振る舞いが嫌い。子どもは主人公の気持ちに共感すると同時に、お母さんが自分を想ってくれていることも気づくことでしょう。
『だるまちゃんとかみなりちゃん』
大人気シリーズの1冊。かみなりちゃんの家族の温かさが印象的です。
高学年向けの本
『最後のひと葉』
生きる希望を与えようとする気遣いの心の美しさをこの作品を通じて感じ取ってもらいたいですね。
『ああ無情』
犯した罪は消えませんが、主人公のよさは消えないことに気付けるはず。
『おれは歌だ、おれはここを歩く─アメリカ・インディアンの詩』
人間であることの誇りと力強さ、大いなる自然の存在に気づき、生の活力を引き出してくれます。
参考書籍『できる子は本をこう読んでいる 小学生のための読解力をつける魔法の本棚』
『できる子は本をこう読んでいる 小学生のための読解力をつける魔法の本棚』について
「本を読むのに国語ができない」、そう悩んでいる親御さんは多いのではないでしょうか。ではどんな本をどう読めば、読解力がつくのでしょうか。麻布学園の国語教師である著者が、「本を読むのに国語ができない謎」を解き明かし、家庭でできる国語力アップのための読書法を公開します。また、読解力は、勉強のためだけでなく、人が豊かに生きていくために必要な、判断力や思考力のベースにもなります。そんな人間力を育むためにおすすめの、170冊のブックリスト付きです。
『できる子は本をこう読んでいる 小学生のための読解力をつける魔法の本棚』(著/中島克治 定価:本体1300円+税/小学館)
著者・中島克治プロフィール
中島克治(なかじま・かつじ)
麻布中学・高校を経て、東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科博士課程に進んだ後、麻布中学・高校国語科教諭となる。著書に『小学生のための読解力をつける魔法の本棚』『小学生のための読解力をつける読書紹介文ノート』『中学生のための読解力を伸ばす魔法の本棚』『本物の国語力をつけることばパズル』(全て小学館)がある。
文・構成/HugKum編集部