「わたしにもらった」「〇〇ちゃんからあげた」…子どものちぐはぐな物言いは直すべき?【言語聴覚士・奈々先生の子どものことば相談室】

「うちの子、ことばの発達がゆっくりなのでは?……」子育てをしていると、幼児期、学齢期と様々な段階で、ことばの発達の不安に悩まされるものです。気になる子どものことばや口周りのお悩みを、多くの親子の「ことばを育むお手伝い」をされている、言語聴覚士の寺田奈々先生に相談してみました。今回は、立場によって言い方が変わることばや、助詞の選び方が苦手なお子さんとのやりとりについてのお悩みです。

何かをもらったとき、「わたしにもらったの」「○○ちゃんからあげたの」などと、ちぐはぐな言い方をしてしまうことがあります。正しい表現をどのように教えればいいのでしょうか

立場によって言い方が変わることば(「あげる」「もらう」など)と、主語をつなげる助詞の選び方が曖昧なために、全く違う意味で伝わってしまうことがあります。子どもが助詞をうまく使いこなすにはどうすればよいでしょうか? (4歳・女児の母)

文法に則してことばを上手に使うのは、子どもにとって難しいこと。時間をかけてゆっくり取り組む気持ちで

お子さんのことばの発達過程では、「生活言語」から「学習言語」へ移行する就学前後の時期によくあるお悩みのひとつです。
生活の場面で、相手と自分の二者が関わるエピソードを説明する文を理解したり自分で組み立てて伝えたりする力(生活言語)は、その後の学校でのお勉強(学習言語)にもつながっていきます。

文法的に「ここがおかしい」とただ添削するだけでなく、伝えたい内容をまずは確認して

「わたしが〇〇ちゃんにもらったの」や「〇〇ちゃんが私にくれたの」のような文を「あげ・もらい文」と呼び、難しい表現です。
例えば、お子さんが「わたしにもらったの」と言ったとき。確かにおかしな文になっていますが、はたして正解は何でしょう?

<に>を<が>に変えて、「わたしがもらった」と言うのがよいでしょうか?

それとも、<もらった>を<くれた>に変えて、「わたしにくれた」と言うのがよいでしょうか?……

このように、いくつかの可能性があり、それぞれ反対の意味になります。
そこでまずは、「お子さんが本当に言いたかったことは何か?」を探っていきます。

子どもが何を言いたかったか、を知ることが大切

「○○ちゃんがくれたってこと?」「もらったのはだれ?」のように、角度を変えてたずね、状況を把握していきます。そのあとで、お子さんが本当に言いたかった内容が反映されていて、文法的にもただしい文章を言い、お手本として聞かせてあげましょう。

生活の中でじっくり時間をかけてやりとりするタイミングがなかなか取れないということもあるかもしれませんが、ぜひ丁寧に繰り返し続けてあげてください。

<が・で・に・を>などの助詞が付くようになったら、ことばの発達は概ね完成時期を迎えると思われがちですが、実はその後も新たな表現の獲得はまだまだ続いていきます。一歩ずつ進んでいくお子さんのことばの発達を応援してあげましょう。

「正しい文で話す力」や「語い力」以外の必要な力にも目を向けて

また、文を正しく組み立てる「文法の力」やいろいろな単語をたくさん知っている「語い力」にばかり注目してしまいがちですが、実は大切なことがそのほかにもあります。

「エピソードを話す」「説明する」ためには、頭のなかでうまくイメージを描くことも、とても大切です。この時期、今、目の前で起こっていること(現前)について話すのは比較的上手ですが、過去のことや未来の予定のことなど、目の前にないこと(非現前)について話すのは難しく、ことば足らずになりがちです。

イメージをことばにするお手伝いをしてあげる気持ちで、子どもの話す番を奪わないよう、さりげなく助け船を出してあげられたらと思います。楽しくお話しできて、「伝えられた!」という経験をたくさん積めるとよいですね。

こちらの記事では寺田先生に「子どものことばの育み方」を伺っています

言語聴覚士・寺田奈々先生に聞く【子どものことばの発達】遅れ、吃音に悩んでいる親御さんは相談を
子どものことばの発達には順序があります。ことばの習得のために必要なこととは ことばの発達のために必要な4つの力 ことばの発達のた...

教えてくれたのは

寺田奈々|言語聴覚士
慶應義塾大学文学部卒。養成課程で言語聴覚士免許を取得。総合病院、プライベートのクリニック、専門学校、区立障害者福祉センターなどに勤務。年間100症例以上のことばの相談・支援に携わる。臨床のかたわら、「おうち療育」を合言葉に「コトリドリル」シリーズを製作・販売。専門は、子どものことばの発達全般、吃音、発音指導、学習面のサポート、失語症、大人の発音矯正。最新の著書に、『0~4歳 ことばをひきだす親子あそび』(小学館)がある。

取材・構成・イラスト/べっこうあめアマミ(https://twitter.com/ariorihaberi_im

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