役所広司と吉沢亮の初共演作『ファミリア』“嘘”のないフィクションに揺さぶられる人間ドラマ

名優・役所広司主演✕『八日目の蝉』(11)の成島出監督のタッグで放つ心揺さぶる感動作『ファミリア』。役所さんと吉沢亮の初共演作としても話題を呼んでいる本作は、日本映画としてはかなり冒険的なアプローチをした快作でした。

役所広司が吉沢亮と初共演!成島出監督とは3度目の主演✕監督タッグ

©2022「ファミリア」製作委員会

お正月休みも終わり、また慌ただしい日常のルーチンが始まりました。そんな中でご紹介する映画は、1月6日本日より公開された、役所広司主演、吉沢亮共演で放つ渾身の1作『ファミリア』です。

メガホンをとったのは『八日目の蝉』(11)の成島出監督。役所さんは、成島さんの監督デビュー作『油断大敵』(03、役所広司✕柄本明のW主演作)と、反戦映画『聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-』(11)でも主演を務めました。『ファミリア』は成島監督との3本目となる主演✕監督タッグ作となりましたが、3作とも気骨さが際立つ秀作で、パンチの効いたメッセージに胸が熱くなります。

©2022「ファミリア」製作委員会

『ファミリア』『オリヲン座からの招待状』(07)や『洋菓子店コアンドル』(10)などで知られる脚本家いながききよたかが長年温めてきたオリジナル脚本の映画です。国籍や文化、境遇など、あらゆる垣根を超えて、“ファミリー”を作ろうとする人々の物語ですが、独特なアプローチをしたからこそ生まれたリアリティに心を射抜かれました。コロナ禍での撮影中断をはじめ、いろんなハードルを乗り越えて完成した作品ですが、だからこそ、“今”を捉えた映画となりました。

本物を描く脚本に応えた役所広司、吉沢亮と演技初挑戦の在日ブラジル人俳優たち

©2022「ファミリア」製作委員会

役所さんが演じる主人公は、山里で1人暮らしをする陶器職人の神谷誠治。ある日、アルジェリアに仕事で赴任している学(吉沢亮)が婚約者のナディアを連れて一時帰国してきます。学は結婚したら会社を退職し、父の仕事を継ぎたいと切り出しますが、誠治から反対されます。また、誠治と学は、半グレに追われていた在日ブラジル人青年のマルコスを助けたことで、彼やその恋人エリカたちと交流していくことに。

しかし半グレから目をつけられたマルコスやその友人ルイは、その後、窮地に追いやられていき、さらにアルジェリアに戻った学とナディアにもとんでもない悲劇が襲いかかります……!

本作が秀逸なのは、フィクションなはずなのに、“嘘”がない点です。それには、ちゃんと理由がありました。

©2022「ファミリア」製作委員会

まずは、脚本を手掛けたいながきさんが、実際に愛知県瀬戸市の窯業の家に生まれ、隣の豊田市に在日ブラジル人たちが住む団地があるという環境で育ったこと。また、劇中で学たちが見舞われる悲劇についても、実際に起きた事件を参考にして描かれていること。そういったバックグラウンドがありつつ、いながきさんが時間をかけて緻密な取材を重ねて仕上げた脚本なので、実に生々しいです。

次に、在日ブラジル人役は、ほぼ“本物”でいくというこだわりです。劇中で存在感が光るマルコス役のサガエルカスやエリカ役のワケドファジレ、ナディア役のアリまらい果たちが、オーディションで選ばれた演技初挑戦の新人だったことは、あとから知りました!

©2022「ファミリア」製作委員会

そして、何よりも座長といえる役所さんの傑出した存在感が大きい。その一流ぶりは、冒頭の5分でわかるかと。本作は陶器職人である誠治がろくろを回すシーンから始まりますが、その達者な手つきは熟練の職人技そのもので、そこから一気に作品の世界観に引き寄せられます。そんな役所さんと初共演し、フレッシュな在日ブラジル人キャストと共に汚れのない瞳を見せた吉沢さんも、本作において大きな役割を担いました。

“ファミリー”をベースにした物語が地続きで訴えかけるメッセージとは?

©2022「ファミリア」製作委員会

ちょうど今、NHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」でもリーマンショックの衝撃が描かれていますが、本作でも1980年代のバブル景気やリーマンショックでの不景気を体験した在日ブラジル人の苦悩が色濃く描かれ、そこから難民や差別、テロなど、様々な問題にメスを入れていきます。ただ、まったく説教くさくないのは、そういった現在もはびこる社会問題を、私たちに地続きで伝えてくれるから。

本作は、あくまでも“ファミリー”を描くことを根底に置いた上で、説得力のある人間ドラマを魅せてくれます。それは、自分が孤児で父親を知らずに育ったから、学との接し方がわからないという誠治や、新しい家族を迎えようとする学とナディア、幸せな家庭を築きたいマルコスとエリカはもちろん、俳優でギタリストであるMIYAVIが演じる恐ろしくも残酷な半グレのリーダー・榎本海斗が在日ブラジル人を心の底から憎む理由でさえも、きっちりと“ファミリー”が関わっています。

だからこそ、いろいろな立場の登場人物たちの葛藤に感情を揺さぶられてしまう。また、本作における“ファミリー”とは、単なる血縁関係や婚姻関係だけではなく、幅広い意味を持ったものであることは、観終わってからしみじみと痛感させられそう。

そんな『ファミリア』は心に凄まじい一撃を食らうような骨太な人間ドラマですが、観終わったあとの余韻はどこまでも深く優しい。こういう映画こそ、現在子育て中のママやパパはもちろん、子どもたちにも観ていただきたいなと、心から思いました。なんていうか、世界そのものがまさに地続きであることを、改めて実感させてくれるんです。

加えて、2023年も心を豊かにさせてくれる映画をたくさん観ていただきたいと思います。

『ファミリア』は1月6日(金)より公開中
監督:成島出 脚本:いながききよたか
出演:役所広司、吉沢亮/サガエルカス、ワケドファジレ、中原丈雄、室井滋、アリまらい果、シマダアラン、スミダグスタボ、松重豊/MIYAVI、佐藤浩市…ほか
公式HP:familiar-movie.jp

文/山崎伸子

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