元テレビ東京アナウンサー・赤平 大さん「息子の発達障害はADHDとASDと高IQの混ざり合い。ひとりひとり違うからこそ、まずは学ぶことから始めた」

「発達障害」という言葉が一般的になりました。でも、「どういう障害なの?」と聞かれると、きちんと答えられない人も多いでしょう。元テレビ東京のアナウンサー・赤平 大さんはご自身のお子さんが発達障害だと診断されてから、勉強を重ねてきました。そしてフリーアナウンサーの仕事の傍ら、450本(2023年4月時点)もの動画でさまざまな視点から発達障害について発信しています。論理的でわかりやすく、そして父親としての愛にあふれたお話、聞いてみてください。

息子が4歳のとき、保育園の先生に指摘されるまで気づかなかった

――息子さんが発達障害だと気づいたのはいつ頃でしょうか

保育園の先生に指摘されたんです。4歳のときですね。私は全く気づいていませんでした。これ、発達障害あるある、なんです。いろんなお子さんを見ている保育園の先生は比較対象があるから、わかりやすいのでしょう。

ある日先生から「ほとんどの言葉を理解して読めている。英語も理解しているようですが何か勉強をしたのですか?」と聞かれたので、「いえ、何もしていないんです」と。
すると、「もしかしたら、何かあるかもしれませんね」という言い方でした。日本人の先生だと言いにくい傾向があるのですが、外国人の先生で、発達障害についてかなりフラットにとらえていたからこそ、伝えてくれたのかもしれません。

元テレビ東京アナウンサーの赤平大さん。現在中学一年生の息子さんの発達障害がきっかけで、起業へ。

ただ、当時は言われてもあまり気にしていませんでした。わざわざ何かアクションする必要があるのか、わからなくて。しばらく経ってから検査を受けてみるとADHD(*1注意欠如・多動症)という診断でした。

加えて知能検査の結果は俗に「ギフテッド(3)」と言われるような高いIQでした。その後勉強して分かったのですが、息子はそのほかにもASD(*自閉スペクトラム症)LD(学習障害)の傾向もあることに気づきました。

1 不注意・多動性・衝動性の持続的な様式
2「空気が読めない」「人の気持ちを読み取るのが苦手」「ひとり遊びが多い」「こだわりが強い」「感覚刺激に対して過敏すぎたり鈍感すぎたりする」などの特性を併せ持つ
3同年代の子どもと比べて突出した才能を持つ子どものことを表す言葉 

「発達障害って何?」わからないから勉強を始めた

――そのような診断が下り、びっくりしませんでしたか?

びっくりも何も、「発達障害って何?」というのもよくわかりませんでした。私が鈍感なのか、息子と生活する上で不自由はないし、何にも気にしていませんでしたから。やがて、小学校に上がるときに区の職員から「お子さんは通級指導(通常の学級に在籍して学びながら、一部は別室で指導を受ける。いわゆる「通級」)です」と書類で渡されました。小学校では一般クラスに在籍しながら、週に2コマ、発達上特性のある児童が受ける通級の授業を受けていました。

 

「学べば学ぶほど発達障害は難しい」と話す赤平さん

いわゆる「小1の壁」でしょうか。小学校に上がり、いろいろと管理型の生活に変わってくると、困りごとが増えていきました。

入学して最初の週からトラブル続発でした。授業中座っていられない、教室にいられない、どこかに行ってしまう。「そういうことって最初のうちはよくありますよね」と言われたりするけれど、うちの息子は度が過ぎているんです。通学のときも、急に衝動的に道路に飛び出してしまうし。

「これはコトだぞ」と思い、私は発達障害の勉強をし始めました。

発達障害はひとりひとり違うから理解されにくい

「発達障害の子はたくさんいますよ。理解できます」というふうに言われることがよくありますが、発達障害で「数人の事例を見て全てを分かった気になる」のはとても危険だと思います。最近、「ニューロダイバーシティ」という言葉をよく聞くようになりましたが、これは「脳や神経、それに由来する個人レベルでの様々な特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、それらの違いを社会の中で活かしていこう」(4)という考え方です。
4 経済産業省HPより 

発達障害は多様で、11人違います。さまざまな特性が組み合わさり、重ね合わさりながらその子の個性になっている。だれかひとりを見て、他の人に「なんとかなりますよ」と言うのは、無責任に感じるので私は言わないようにしています。発達障害の理解はめちゃくちゃ難しい。私は論文を500本以上読み、たくさんの専門家の先生にインタビューしてきました。それでも、まだまだ学ばなければならないことだらけです。私が発達障害を勉強する上で「師匠」と呼んでいる先生は「ニューロダイバーシティは沼だ」とおっしゃるくらいです。

集中力が途切れやすい、コミュニケーション下手…

――赤平さんから見て、お子さんはどんな特性がありますか?

うちの子の場合はまず、食べるのが下手です。たとえば、丼物などは丼を片手に持って口に近づけてかっ込みますよね。しかし保育園時代の息子はテーブルに丼を置いたまま、口との距離が遠いままでかっ込もうとするので、ほとんどこぼれてしまうんです。そういった、「モノとの距離感」のようなものが鈍い特性があります。「きちんと座る」ために必要なコアの筋力も弱い傾向があります。

そして、落ち着いて勉強をするのが難しい。集中力は途切れやすいです。それから衝動的。道路にいきなり飛び出してしまうのはずっと続いていたので、私は小学校の6年間、送り迎えをしました。

ADHD、ASD、LDの傾向に加えて、高IQでもある息子さんの発達障害に関して、父親として誰よりも理解している。

対人関係も苦手ですね。他人と自分との境界線があいまいです。自他の分離ができない。たとえて言えば「クラウド」みたいな状態なのですよ。クラウドにファイルアップすると、全員で共有できるじゃないですか。そんなふうに、自分の頭に入っていることは共有できる、みんなが知っていると思ってしまうことがあるんです。だからコミュニケーションがうまくできない。

人にうまく伝えられないから、無視されたり苛立たれたりを繰り返し、だんだん相手も彼と関わることをあきらめていく。発達障害がある人は努力し続けています。でもうまくいかない人が多くて、つらい思いをしているんです。「分かってもらえない」っていう感覚をいつももっている。

ただ、好きなことはたくさんある子です。ゲームも好きだし、人のことも基本は大好きなんですよ。うちの子はよくも悪くも「関わりたがり」です。自他の分離はできないけれど関わりたがるので、なかなか友達関係がうまくいかなくて、ちょっとかわいそうだなと思いますね。

自傷・他害などの二次障害に発展しないように

――では、赤平さんのように発達障害の子を持つ親御さんはどうすべきだと思いますか?

発達障害は病気じゃないけれど、生きづらさが重なるうちに、うつになったり、自傷・他害 など二次障害を起こすことがあるんです。「生まれてきたのが悪いんだ」などと自分を責めると自傷行為に走ることがあります。「俺を理解しない世間が悪いんだ」となると、他害、犯罪に走ってしまうケースもあります。こうした二次障害を防ぐことが最も重要だと思います。

そのためには、発達障害についての一般的な知識を持った上で、自分の子どもはどんな特性をどんなふうに持っているのかを、しっかりと理解することだと思います。その上でたくさんの支援法や専門家、施設を調べ、自分の子供にマッチするオーダーメイドのサポートをできればと思っています。

発達障害の場合、中学生になると支援が大幅に減ります。そのときまでにどうしたらいいかを、子どもと一緒に考えていけるといいですね。

そしてもうひとつ、社会も発達障害のことをもっと知ってほしい。発達障害は当事者の変化より、周辺の理解が最も重要です。多くの障害については団体があります。子どもの場合は保護者団体がある。けれど、発達障害の保護者団体は目立ちにくいんですよ。なぜかと言えば、発達障害ひとりひとりの特性がとても違うから。保護者の痛み、困りごとがバラバラすぎて、共感してまとまりにくいんです。

「うちの子を救う」のは大前提だけれど、保護者として、社会に何をわかってもらえばいいか。それはいつも考えて周知したいので、地元の地域にある発達障害の保護者団体で活動もしています。

 

――発達障害の子を持つ親は、社会に何を訴えたらいいのか。それを考え続けた赤平さんは、大きなアクションを起こしました。後編の記事では短期間で発達障害専門の動画サイトを立ち上げた赤平さんの思いを伺います。

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お話を伺ったのは

赤平 大|あかひら まさる

元テレビ東京アナウンサー。現在はフリーアナとしてWOWOW「エキサイトマッチ」「ラグビーシックスネーションズ」ジェイ・スポーツ「フィギュアスケート」など実況、ナレーターとして「ザ少年倶楽部プレミアム」など担当。
2015
年から千代田区立麹町中学校でアドバイザーとして学校改革をサポート。2022年から横浜創英中学・高等学校でサイエンスコース講師を担当。発達障害学習支援シニアサポーター、発達障害コミュニケーション指導者などの資格を持つ。早稲田大学ビジネススクール(MBA2017年卒 優秀修了者。発達障害専門メディア インクルボックス運営。incluvox | インクルボックス

 

取材・文/三輪 泉 写真/五十嵐美弥

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