発達障害の息子が麻布中学に合格。赤平 大さんが「発達障害への理解」のために夢中で始めた動画ビジネスとは

4歳のときに息子さんが発達障害と知り、中学一年生になる今も寄り添い続けているフリーアナウンサーの赤平大さん。最近では息子さんが麻布中学に入学したことが大きく話題になりました。けれど、赤平さんはそれを「成果」とは思っていません。では、赤平さんは発達障害を通して何を社会に訴えたいのか。今回は赤平さんが運営する「インクルボックス」の事業にも触れながら、お話を伺います。

発達障害の息子が麻布中を本気で目指したのは2ヶ月前

――赤平さんの息子さんが発達障害という特性を持ちながら麻布中学に合格した話は、大きな話題になりました。しかも塾にも行かず、勉強時間も限られる中、麻布中を志望校にしたのは受験の2ヶ月前なんですね。

息子はADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉症スペクトラム)、LD(学習障害)が複雑にからみ合いながら、高IQでもありました。

鉛筆で文字を書くのが苦手だし、11時間しか勉強に集中できなかったりと、中学受験をするには困難な特性がいろいろありました。ただ、息子の発達障害の特性のひとつに「ルーティンへのこだわり」があり、それを活用して「毎朝学校に行く前の1時間は勉強」「病院や空港の待ち時間のような隙間時間は勉強」など特性を学習に繋げる工夫をたくさんトライ&エラーしました。

このような勉強法を小学校1年生の頃から続け、算数検定を受けたり先取り学習をしたりコツコツ続けました。そんな経緯のなか、昨年12月、長男から「麻布に行けるなら行ってみたい」と言われたんです。当時の偏差値は50台でしたが、結果に関わらず自分の限界を越える経験をして欲しかったので「やるからには本気で合格」を息子と狙いました。2ヶ月で大幅に偏差値を上げるために、息子の特性に合った発達障害学習支援法でサポートし、その結果合格したといういきさつです。

――最初から麻布を目指していたわけではなかったのですね。

実は、当初は横浜にある発達障害に手厚いことで有名な私立中学に行こうと息子と言っていて、入学の準備をしていたんです。個別指導計画が充実していて、その子に合わせた教育が受けられ、友達もできやすいのではないかと。ただ、私が千代田区立麹町中学校の学校改革を手伝っていた関係から、当時の麹町中学の校長、工藤勇一校長(現・横浜創英中学校・高等学校校長)に息子に関していろいろとアドバイスをいただいていました。息子が小学3年の時その工藤校長が「息子さんには麻布が合うと思いますよ」と言ってくださったんですよね。でも、中学受験を考えていなかったので、とくに目指すわけでもなく「麻布=偏差値の高い学校」という程度の認識でした。

入学してみると、やはりいろいろなことがあり、当初から父親として大変だなという思いも重ねました。息子は今のところなんとかやっているようです。ただ、もししんどくなったらいつでも転校していいからね、と言っています。「無理をしない」というのも、発達障害の子には大切なことです。

発達障害の子は「精神年齢」と「知的年齢」の開きを理解してもらいにくい

発達障害の我が子も、「肉体年齢と精神年齢の乖離が大きい」と話す元テレビ東京アナウンサー・赤平大さん
発達障害の我が子も、「肉体年齢と精神年齢の乖離が大きい」と話す元テレビ東京アナウンサー・赤平大さん

――息子さんが12歳になり、小さな頃とはまた違う課題がありますでしょうか。

発達障害の子は肉体年齢と精神年齢の乖離があると言われています。特にうちの子は高IQなので、この場合乖離が大きくなる事があるそうです。例えば、精神年齢は小学校1年生程度だけれど、知的年齢が高校1年生程度、というように。大きくなると、その幼い部分に周囲が違和感を覚えますよね。

精神年齢の面で言うと、対人関係やリテラシーなど自然に取得していくモラルが身につくことが遅かったり、その機会が得られないということがあります。息子は小学校6年間での深い友人関係が多くありません。だから揉める、話し合う、空気で察するなどという経験がことごとくない。コンビニで買い物をするのが大変、電車に乗るのが大変、同年代のほかの子より、いろんなことが遅れています。でも、できることをやるしかないのです。

「インクルボックス」で発達障害の理解を高める動画を制作

――赤平さんはお子さんをケアしながら、一方で社会の中で発達障害の理解を深めるような動画を作っていますね。

『インクルボックス』という、発達障害やギフテッドの支援者向けの動画メディアです。発達障害のお子さんをお持ちのパパママや、幼稚園・保育園・学校の先生、同僚に発達障害者の方がいるビジネスパーソンなどが、発達障害やギフテッドを理解いただき、支援しやすくするための専用チャンネルです。

忙しい日々の中の隙間時間でも観ていただけるよう、10分以内の動画を制作、1分動画もあります。

キーワード検索で知りたい支援方法も簡単に動画で見られます。現役のテレビ制作チームが作っている動画で見やすい字幕、聴きやすいナレーション。2022年からスタートして現在450本の動画を配信しています。

動画の配信事業をおこしたのは啓蒙のため、息子が幸せに生きていくため

「発達障害をすべての方に理解してもらう」のが事業のいちばんの目的。

――すばらしいですね! そのように発達障害の啓発活動をする理由は……。

発達障害・ギフテッドは100人いたら100通り、パターン化できないのです。私も論文を読みあさり、民間資格を複数とり、講演を何度やらせていただけるようになっても、まだ足りないと思っています。そんな中で本人もパパママも苦しんでいる。ならば、まずは社会の理解を高めなければならない。啓蒙が重要だと思ったんですね。そのためには、メディア、とくに動画が相性が良いと考えました。私たちのような動画のプロが早く安く学べるコンテンツを提供することができればと思いました。「発達障害を理解してくれ」と旗を振るだけじゃなくて、現実に落とし込むことを考えたんです。

それも何より息子のためです。息子が幸せに生きていくために私は学び、声を上げ、動画も制作する。息子が成長するまでに発達障害を理解する社会が成立する事が『インクルボックス』最大のミッションです。

「恥ずかしいから来ないで」と言われる日が来ようとは…

――お子さんは日々成長しますね。親がじっくりと寄り添える小学生の頃と、自立が始まる中学生では、関わり方も変わってくるかもしれません。

小学校の頃はずっと送り迎えをしていました。持ち物のチェックも勉強もみんなやってきました。中学になって忘れ物をしたので、「届けに行くから校門のところにいて」と連絡したのですが、「恥ずかしいから校門に来てほしくない」と言うんです。成長したなぁと思いました。「ああ、サラダ記念日だ」と()

「息子が幸せに生きていくために私は発達障害を学び、声を上げ、動画も制作します」

――俵万智さんのサラダ記念日ですね。「いい」「うれしい」を表現するのがサラダ記念日ですね、でもそれは親を卒業していくという少し寂しい記念日ではないでしょうか。

まさにそうなんです。それで感慨にふけっていたら、息子が「サラダ記念日って何? ほかにどんな記念日があるの? スープ記念日とかメインディッシュ記念日とか?」と言ってくるので、おもしろくてまた寂しくて。

親はいつでもそういう存在ですね。安全に生きていってほしい、だまされずカツアゲもされず……、と思うけれど、そういう親の心配をよそに、子どもは子どもなりに成長していくのだなぁと思います。それを見守るのが親の務めなのかもしれませんね。

 

赤平さんが始めた発達障害専門の動画メディア「インクルボックス」のトップページには「インクルージョンをもっと身近に」というコンセプトが掲げられています。多様な個性を持った人々が混ざり合い、互いに尊重できる。困りごとを抱えた人のことを理解し、助け合える。そんな世の中になるための一助となるサービスを、HugKumは今後も応援していきます。
「インクルボックス」は会員制ですが、無料視聴できる動画も多数あります。まず知ることから始めてみてください。

incluvox | インクルボックス

赤平大さんのインタビュー 前半はこちら

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お話を伺ったのは

赤平 大|あかひら まさる

元テレビ東京アナウンサー。現在はフリーアナとしてWOWOW「エキサイトマッチ」「ラグビーシックスネーションズ」ジェイ・スポーツ「フィギュアスケート」など実況、ナレーターとして「ザ少年倶楽部プレミアム」など担当。
2015年から千代田区立麹町中学校でアドバイザーとして学校改革をサポート。2022年から横浜創英中学・高等学校でサイエンスコース講師を担当。発達障害学習支援シニアサポーター、発達障害コミュニケーション指導者などの資格を持つ。早稲田大学ビジネススクール(MBA)2017年卒 優秀修了者。発達障害専門メディア インクルボックス運営。incluvox | インクルボックス

取材・文/三輪 泉 写真/五十嵐美弥

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