目次
PT(理学療法士)とはどんな職業?
まずは、PT(理学療法士)が活躍する、リハビリテーションの分野についてご説明します。
リハビリテーションは、けがや病気などによってもともとできていた生活ができなくなってしまった人が、もとの生活を取り戻せるようになるために行う訓練のことです。
しかし、子どもを対象とする小児PTの場合は少し事情が違います。
中には後天的な怪我や病気により通うお子さんもいますが、生まれつきハンディキャップがあることで、何らかの特別な支援を受けて生きていくお子さんが対象になることが多いです。
リハビリの「リ」は「戻す」という意味です。
そのため、お子さんの場合は「ハビリテーション」であって、これから身体機能を獲得していくために行う支援だと考えられています。
小児リハビリテーションの分野には、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)の大きく分けて3つの立場があります。
それらのリハビリテーションの専門家に加え、支援員さんや保育士さんなど複数人がチームになって、一つのご家庭やお子さんをサポートしていくのが一般的な支援の形です。
本当に親御さんに伝えたいことが伝えられないもどかしさから独立を決意
かめきちさんも、最初は病院や療育などの組織に属し、チームでリハビリの仕事をしていました。
しかし、大きな組織の中で働いていると、どうしても規則に縛られて思うようにサポートできず、何度も歯がゆい思いをしたそうです。
「本当はここを親御さんにアドバイスしたいけれど、お医者さんから言ってはダメと言われているから言えない」
「本当は親御さんはこういうことを望んでいるはずなのに、病院の決まりで言えない」
「上司から言われているから言えない」
組織に属したPTという立場では、自分の100%をお子さんと親御さんに向けて出せない状態だと感じていたそうです。
そんな思いを抱えた日々を過ごす中で、「この状況はあまり建設的ではない」と感じたかめきちさん。
自分の人生の残りの時間をどうすごそうかと考えたときに、もっと親御さんに寄り添えるような小児専門のPTになりたいと考えました。
そして、独立開業することを決めたそうです。
直接相談できる「かめリハ」&オンライン相談の「かめサポ」
かめきちさんは、組織に勤めているPTさんとは少し方向性が違う事業の仕方をしています。
かめきちさんが主に行っている事業スタイルは、大きく分けて2つ。
1つは、かめきちさんが開いているリハビリの教室に、お子さんの発達に不安を抱えている親御さんが直接相談に来る「かめリハ」です。
もう1つはzoomを使ったオンライン相談で、全国どこからでも親御さんたちのお悩みを聞いてサポートする、「かめサポ」です。
相談を受ける形がオンラインであっても実際にお会いする形であっても、やることの大まかな流れは変わりません。
お子さんの様子を見せていただいて、かめきちさんがそのお子さんの評価をし、評価結果やこれからやっていったほうが良いことなどをお伝えします。
あとは、ラインで相談を受けることもあるそうです。
リハビリテーションにもいろいろな分野がありますが、どの親御さんも、子どもの発達に不安を抱えている点では同じです。
障害の種類や困りごとの垣根を超えて、発達に不安があるお子さんの親御さんを対象にお子さんをみさせていただくのが、かめきちさんがやっている小児PTのお仕事です。
では、「かめリハ」が向いているお子さんと「かめサポ」が向いているお子さんにはどのような違いがあるのでしょうか?
かめきちさん曰く、どちらが向いているかを判断するのは「親御さんの不安感」だそうです。
親御さんが「直接見てもらいたい」と思っているのなら「かめリハ」、そうではないのなら「かめサポ」と、あくまで考え方次第かと思います。
あとは、日常生活を助ける道具の調整を求めている場合は、直接来ていただく「かめリハ」の方が、座位保持椅子などの調整をかめきちさんがやってくれるため、効果的かもしれません。
オンラインリハビリ「かめサポ」はどんなメリットがあるの?
かめきちさんは、教室でのリハビリの他に、オンラインリハビリも行っています。
しかし「オンラインリハビリ」というと、具体的にどのような方法で行うのか、イメージがつきづらい方も多いのではないでしょうか?
かめきちさんは、zoomの画面ごしでもお子さんの様子を見ることで、お子さんの状態はわかると言い切ってくれました。
もちろん、細かい筋肉の状態、例えば触ってみてやわらかいかどうかなどはわかりません。
しかし、そういうことも含めて親御さんに全て確認するので、オンライン上でも充分リハビリはできるとおっしゃいます。
むしろ、実際に対面で会ったとしても、まだ幼いお子さんの場合、お子さんの状態は親御さんからの聞き取りが中心になることが多いのではないでしょうか?
かめきちさんからの問いかけが親御さんが子どもの状態を把握するきっかけに
「お子さんの胸を触ってみてゴロゴロしますか?」
「お子さんのこのあたりを触ると筋肉がやわらかい感じはしますか?」
などのお子さんの状態は、PTが特別な能力を持っているからわかるというわけではありません。
親御さんでも充分わかることなのです。
そのため、かめきちさんはzoomでまずは親御さんから困りごとの相談を受けた後、「お子さんの体の様子を見させてもらいますね」と言って、カメラをお子さんに向けてもらいます。
お子さんがずりばいをしている様子や遊んでいる様子、ごはんを食べる様子などを見ることで、お子さんの状態を把握し、かめきちさんがその場でアドバイスをしていくそうです。
何となく、リハビリの専門職の方は、肌感覚のようなもので感じ取って指導していく特殊な能力があるように想像してしまうことがあります。
しかし、かめきちさんはそんなことはないとおっしゃいました。
もちろん、中にはそういう方もいるのだとは思います。
しかし、たとえ特別な能力がある方にみてもらってその場で結果が出たとしても、その子の日常である家で結果が出なかったとしたら、意味がないのではないでしょうか?
お子さんの日常に一番携わるのはお父さんとお母さんです。
だからこそ、教室に来てその場で「はい!わかりました!」となるだけでは、あまり継続的ではなく、指導者のエゴになってしまうかもしれません。
お子さんの人生を考えたとき、やはり親御さんが日常的にできる関わり方を考えていくことが、最も重要なことなのだと思います。
だって、「リハビリではできても家ではできない」では意味が無いのですから。
そして、オンラインリハビリにはもう一つメリットがあります。
どうしてもリハビリの場に行くと、普段とは違う仰々しい雰囲気に緊張してしまうお子さんもいるでしょう。
でも、そういうお子さんも、家だったらリラックスして普段の様子を見せることができるかもしれません。
お母さんたちは「お母さん」であるだけでがんばっている
かめきちさんは、「かめリハ」や「かめサポ」といったリハビリだけではなく、SNSでの発信も精力的に行っています。
その中で、かめきちさんが親御さんたちから言われて一番嬉しい言葉は、
「子育てが楽しくなりました」
「子どもと向き合うのが楽しくなりました」
という言葉だそうです。
親御さんたちに対して、組織の決まりに縛られず、道筋をたててしっかり説明するかめきちさんは、
「かめきちさんと話すとスッキリする」
という言葉も多くもらうそうです。
せっかくリハビリを受けに行ったのに、あまり具体的な説明を受けられなかったり、はっきりしたことを言ってもらえなかったということもよくあります。
そういう経験をした親御さんにとっては、かめきちさんとの出会いは、「何がなんだかわからない!」という状況から抜け出せたように感じるのかもしれません。
かめきちさんは、情報発信を始めた3年前から一貫して言い続けていることがあります。
それは、「お母さんってお母さんでいるだけですばらしい」ということです。
妊娠して、自分の体を気遣いながら出産して、24時間目を離さずにいないと死んでしまうかのような小さな存在を、命からがら育てていく。
それは本当に素晴らしいことだと思います。
だからこそ、お母さんはお母さんであるだけで100点満点です!
そんな中、もし自分の子どもに障害があったとしたら……考えて悩むだけで、想像を絶する心苦しさではないでしょうか。
そういう状況にある親御さんが、不安から血眼になってネットで探した情報が、あまり精度が高くない情報だったとしたら?
必死な親御さんたちはその情報にすがってしまうと思いますが、その時間はとても辛い時間でしょう。ですからかめきちさんは、その時間をパッと精度の高い情報にしてあげたいとおっしゃいます。
そしてその分、親御さんがお子さんと豊かに過ごせる時間が1分1秒でも長くなってほしいと願っています。
「もしも今、1人でネットでいっぱい検索したり、考え込んだりして病んでしまっているお母さんがいたら、私のところに相談してください、いつでも頼って下さいね」
取材の最後に、かめきちさんはそう語りかけてくれました。
あなたにはこの記事もおすすめ
記事監修
新型コロナウイルス流行による緊急事態宣言をきっかけに、家庭でできるリハビリの情報発信をSNSで始め、大きな反響を得る。
2021年 「こどもリハビリかめきち」を開業。
対面式の直接相談「かめリハ」、家にいながらオンラインで相談できる「かめサポ」で、誰もが受けやすい小児リハビリを事業として確立。「日本一リアルタイムに相談できる小児PT」をキャッチフレーズに、発達に悩む多くの親子を支援し続けている。
取材・構成/べっこうあめアマミ 写真提供/かめきちさん tobiaco