※ここからは『ギフテッド応援ブック』(小学館)の一部から引用・再構成しています。
ギフテッド研究者・当事者・保護者に繰り返し取材をした著者と、取材データを結晶させて生まれた架空のキャラクターとのQ&A形式で進みます。
ギフテッドは能力の発達がアンバランス
非同期発達
一般的に、知的能力(認知能力や言語能力)、社会的な能力、情緒的な能力、運動能力は、相互に関連しながら、年齢とともに一緒に発達していきます。「発達が同期している(相互に関係がある)」状態に対して、ギフテッドの場合は発達が同期していないように見えることが多いため、「非同期発達(発達の非同期性)」と、呼ばれます。得意な領域の発達が目覚ましく、他の能力の発達と大きな開きが出てくることがあるのです。
得意な領域や、発達がゆっくりな領域は、個々のギフテッドで異なり、一概には言えません。それは個々で「好き」が異なるからです。嫌いなものや苦手なものは伸びていきませんが、好きなものは、どんどん伸びていきます。
実際は、発達の同期が全くないわけではありません。遅れていた能力が成長とともに追いつくこともあります。ただ、情緒面では同年齢の子より幼さが見られることもあるほか、運動能力も比較的ばらつきが大きいかもしれませんね。
運動の不器用さにも着目を!
学校生活の中では、大人が思うより、運動の不器用さというのは本人の負荷が高いものです。運動能力は、「友人関係の築きにくさやメンタルヘルス、学力などと関係深い」とする研究もあります。
また、自分が運動が苦手であるということを、本人は「こんなものなんだ」と思い、「運動が苦手でつらいんだ」と言語化できていない場合もあります。
DCD(発達性協調運動症)の知識も少しあると、より配慮や支援の見落としが減るかもしれません。
一 DCD(発達性協調運動症)って、何ですか?
LD (限局性学習症)、ADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)の概念は認知されつつありますが、運動や手先の不器用さであるDCDについては、見落とされることが多い印象です。DCDという名称だけでも、頭の片隅に置いておけるといいですね。
ギフテッドの人格発達の特徴
過度激動
ここからは、ギフテッドに多く見られるもう1つの特徴である、過度激動の話をします。ギフテッド当事者からの相談は、世間から注目されがちな「才能開発」の分野だけではないのです。
過度激動は、ポーランドの精神科医カジミシェ・ドンブロフスキ先生が提案した概念です。ドンブロフスキ先生は、ギフテッドの人格発達には3つの特徴があるとしました。
1)優れた能力 知能、運動能力、音楽や芸術などの才能
2)第3要因 Dynamics(ダイナミクス)
3)過度激動 Overexcitability(オーバーエキサイタビリティ)
一 1つ目の「優れた能力」は、わかります。
2つ目は、 ダイナミクス。ダイナミクスとは、「先天的な要因」や「環境的な要因」を第1、第2の要因とするならば、「第3の要因」と言われ、「これを表現したい」「こういう自分になりたい」という強い動機づけ・自律性を持っていることを指します。
そして3つ目が、 Overexcitability(過度激動)です。過度激動とは、文字通り、過度な感情や行動を示す状態です。多くの人が自然に受け入れることができる物事に過剰に反応してしまうなど、過度激動があると集団生活の中で苦しいことがあります。
※Overexcitability は、「OE」と略されることが多い
過度激動5つのタイプ
❶ 活動的でエネルギッシュ【精神運動性OE】
精神運動性OEの特徴は、活動的でエネルギッシュであることです。
私が出会ったある子は、絶えず部屋の中を歩き回ったり、寝転んだりしながら学習支援を受けていました。一見すると、活動に飽きたり、質問を聞いていないように見えるのですが、この子にとっては、集中を維持するために、むしろ身体を動かすといった刺激が不可欠なのです。本人にとっては必要な行動でも、それが「 ふつう」のルールや行動から逸脱してしまうこともあります。ギフテッドのこうした行動特性は、単なる多動ではありません。
ADHDの場合、何か磁石に引きつけられるようにその場から離れたり、秩序なく動き回ったりするのですが、ギフテッドの場合、目的が定まっていたり、動きに理由があったりします。さらに、有り余るエネルギーは自分の興味のある方向に向けられ、高い集中力として表れます。
【どう付き合う?】エネルギー発散の方法を見つける
激しい動きは周囲をかき回したりするので、付き合う保護者は疲れてしまいます。私は、習い事でスポーツをするのをお勧めしています。そのほかにも、好きなことに打ち込んだり、楽しいことをどんどんしたりしてみましょう。
❷ 感覚体験が人よりも強い【感覚性OE】
感覚性OEは、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚といった環境からの刺激によって生じる感覚体験が人よりも強いことが特徴です。いわゆる感覚過敏です。感覚過敏は本人にしかわからないので、子どもが1人でつらさを抱え込んでしまっていることがあります。
子どもが刺激を避けたり、不安を強く示したり、不快な感覚を我慢してストレスをため込んでしまうことがある、ということを、まずは、保護者や支援者に知ってほしいと思います。
感覚性OEには、ポジティブな側面もたくさんあります。例えば、色合いや物の質感、音やメロディに対して強い興味や悦びを感じるといった側面にフォーカスできると、些細な日常に彩りや豊かさを感じることができます。感受性が強かったり、他人を思いやったり、芸術的センスがある子もいます。共感覚や絶対音感などを持っている人も比較的多いです。
【どう付き合う?】ポジティブな側面に着目する
感覚の過敏さは、環境の調整で乗り切りましょう。不快な刺激を取り除くだけでも随分楽になります。
逆に好きな刺激を取り込むことで、気持ちを落ち着けることもできます。
例えば、好きな感覚が得られる道具や小物、好きな活動を知っておくと、ストレスを和らげることができます。
❸ 空想の世界に没入しがち【想像性OE】
想像性OEは、豊かな想像力が特徴です。空想に没入するあまり、ボーッとしているように見えることもあります。イマジナリーフレンド(想像上のお友達)を持つ子どももいます。豊かな想像力は、絵や工作、小説などにも表れて、どんどん作品を生み出したりしますが、没入しすぎて、必要なことをおろそかにしてしまうこともあります。
【どう付き合う?】相談できる相手をつくる
良いことも悪いことも考えてしまうため、悪いことをどんどん膨らませて不安を強く示すこともあります。悪いことを考えそうだったら、何か楽しいことに没入できるように環境を設定しましょう。
それでも不安が大きくなる場合、自分で対処するのが難しいので、いつでも相談できる相手(可能であれば、保護者や先生のほかにも気の許せる友達など)をつくるのがよいです。
授業中などボーッとすることで、時間をやり過ごすことがありますが、他人の声が耳に入っていないため、大事なことを聞き逃すことがあります。その際は、話者に注意を向けてもらい、伝えたことを改めて確認するといいでしょう。
聞いていないからといって怒らないでほしいです。「聞いていない」のではなく、「聞こえていない」ので、聞こえるようにしてあげてほしいと思います。
➍ 論理的な思考を好む【知性OE】
知性OEの特徴は、本などで吸収した語彙が豊富で、自分の考えを持ち、好奇心が旺盛なことです。自分が関心を持ったことはどんどん吸収し、課題については粘り強く取り組みます。話し好きで、興味のあることは延々と話していることもあります。論理的な思考を好み、「なぜ?」「どうして?」と質問をしたり、調べたり、思索に没頭したりします。
非常に論理的な思考をするので、無駄を嫌い、本人が魅力を感じない事柄に対しては、「しないといけないものだ」といった説明だけでは、なかなか動きません。常に本を読んでいることもあり、活動の参加に消極的だと映ることがあります。
【どう付き合う?】話し合いの時間を意識的に確保
理不尽なことやルールを逸脱したことについては、追及の手を緩めず、兄弟姉妹の行った悪事(?)を報告して喧嘩になったり、保護者も時々うんざりすることもあるでしょう。
一方的な理屈をつけてきたり、自分なりのマイルールが論争の元になることもあります。
ただ、論理的であるがゆえに、丁寧に話し合いをして本人が納得すれば、一気に解決することもあります。
保護者としては、回数を重ねると正直、議論することや話を聞くことに疲れてしまいます。保護者には、話を受け止めた上で上手に聞き流すスキルも重要かもしれません。
❺ 感情の起伏が大きい【情動性OE】
情動性OEの特徴は、ポジティブな感情もネガティブな感情も強く増幅され、激しい感情として表れることです。この激しさから、平常時との落差が大きく、本人も周囲もその感情の影響を受け、疲れ果ててしまうこともあります。時には癇癪として表れることもあります。
ただ、こうした感情の激しさは一過性のものであることが多く、時間が経てば落ち着きます。そのため、本人は平静に戻ったとしても、周囲の子どもや大人は火の粉を浴びたままくすぶっているので、気持ちの整理がつかずにイライラが収まらないこともあるでしょう。
【どう付き合う?】スポーツはお勧めです
激しい感情はそれ自体、物事を進めていくエネルギーにもなります。感情の表出自体は悪いことではなく、癇癪なども無理に抑えると、別な形でエネルギーが出てくることもあります。
正直、幼少期はしばらく付き合うしかありません。学齢期くらいになると、私はスポーツをすることをお勧めしています。スポーツをすることで、よい方向にエネルギーを出すことができ、癇癪が収まった例もあります。
なお、ギフテッドの中にも協調運動が苦手な子どもがいます。その場合は、水泳かスキーをお勧めしています。オリンピック選手を目指すわけではないので、入れ込まず、体を動かして楽しいと思える運動を勧めてみてください。
※ここまでは『ギフテッド応援ブック』(小学館)の一部から引用・再構成しています。
本人のつらさに気づいてあげて
前編でもお話したように、ギフテッドという概念がまだあまり浸透していないうえに、人数も少ないため、ギフテッドの子どもは、仲間に出会えない苦しみを抱えています。
前編はこちらをチェック
「ふつう」であることを求められると、適応できない自分の何かが悪いのだと思い、とても強いストレスを感じてしまいます。
本記事で解説した、「非同期発達」や「過度激動」を周りの大人の方々がまずは理解し、心身の不調、行き渋り、不登校、反抗的態度などを見逃さずにサポートしてあげてくださいね。
「ギフテッドの子どもたちの生きづらさ」をテーマにしたマンガ連載も公開中
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ギフテッド親子に贈る応援の書
幼児期から高い知能を示し、絵にも突出した才能を示していた少女、小川結衣。彼女はその能力と発達のアンバランスさゆえ、徐々に学校生活に適応できなくなり、小学5年生の春、ついに不登校になってしまう。困り果てた結衣とその母・さやかだったが、ある日、ギフテッドの子供たちのために居場所を提供している人物と出会う。その出会いが結衣の人生を大きく変えることになろうとは、その時の彼女は思いもしなかったーー。
本書は、こんなストーリーのマンガで始まります。
その後の解説本文では、最新の研究成果と知見を踏まえ、ギフテッドを理解するための基礎知識を専門用語を避けてわかりやすく解説。さらに、当事者たちの「生きづらさ」を「らしさ」に変えるために必要なサポートのあり方についても提案します。
マンガのストーリー後半、結衣とその仲間たちの成長を支えたものは、一体、何か?
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構成・文/HugKum編集部