合理的配慮とは、障害のある子が、障害のない子と同じ学習の機会を保障する法律
合理的配慮は、障害のある子が、障害のない子と同じ学習の機会を保障する法律です。我が子の教育の機会が奪われないために、配慮の提供を申し出ることは、わがままでもモンスターペアレントでもありません。しかし、ルールに則って申し出ることが大切です。まずは、合理的配慮のルールを知りましょう。
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合理的配慮を申し出る前に知っておきたいルール
1)合理的配慮の目的を明確に
障害の特性ゆえ、全員一律の方法では十分な学習ができない子の学びを保障するのが合理的配慮です。たとえば、読みに障害があると、紙の教科書の内容を理解するのに時間がかかるため学習が不十分になります。そこで、一例として読み上げ機能を搭載した音声教材の使用が考えられるわけです。
2)約束の相手は学校設置者、学校
実際に配慮をするのは担任の先生であっても、配慮の提供を決めるのは個人ではなく、学校設置者や学校です。学校設置者とは、〇〇市立××小学校なら〇〇市教育委員会、学校とは校長や園長を指します。一度配慮が決まると、約束するのは担任ではありませんので、担任が変わっても同じ配慮を受けることができます。
3)「困り感」を具体的にはっきり。一度決めても、変更・調整は可能です
障害が同じでも困り感は子どもによって違います。ひとくちに聴覚過敏といっても、苦手な音は子どもによって違います。また場面によっても変わってきます。単に「聴覚過敏」というのではなく、どのような音が苦手なのか、どのような場面で配慮がほしいのかを伝えるようにします。 また、一度決めた配慮でも、子どもに合っていない、もっとよい方法があるなどの理由で、変更をお願いすることも可能です。
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宿題も合理的配慮が適用されます
宿題をこなすのが難しい、時間がかかるという場合も合理的配慮の提供を申し出ることができます。
大事なのは宿題の目的をはっきりさせることです。
ひとつの漢字を10回書いて提出する宿題の場合、書くことに困難を抱えた子にとってはハードルの高いものとなります。でも、漢字を覚えるのが宿題の目的なら、書かずに覚える方法でもいいわけです。漢字を覚えるための歌やパソコンで書き順を見て覚えることができる子もいます。その子が覚えやすい方法を先生と話してみましょう。
4)配慮の内容が過度に学校に負担をかけていないか
合理的配慮が学校設置者や学校にとって過度な負担になるときには、提供を断る選択肢が学校側にはあります。過度な負担になる場合はお互いに代替案を出して、話し合いで決めます。
合理的配慮が決定するまでの流れ
1 本人の「こうしてほしい」からスタート
合理的配慮は、本人抜きに決めてしまうと、その効果が十分に発揮できない場合があります。保護者や先生が良かれと思っても、本人が嫌がる合理的配慮はうまくいかないケースもありますので、本人の気持ちを確かめるようにします。合理的配慮は、「私たち抜きに、私たちのことは決めないで(Nothing About us Without us)」という障害者権利条約に端を発した障害者差別解消法の一環だからです。
2 当事者&保護者と学校。双方の話し合いによって決める
こちらの要求がそのまま通るとは限りません。学校側にも事情があります。子どもの困り感を具体的に伝え、できない理由を確認した上で、互いに歩み寄るようにします。
合理的配慮は双方の建設的な話し合いで決めることが大切です。難しいと言われたら、代替案を出し合いながら、話し合って決めるようにします。話し合いに応じず、要求の一点張りは避けてください。子どもの学習の機会が奪われてしまいます。
学校側と折り合いをつけて解決した例を挙げてみます。
【事例】DCDのある5年生。家庭科の指編みの課題が授業時間に終わらず、持ち帰りも許されなかった
発達性協調運動障害 (DCD=Developmental Coordination Disorder)のある小学5年生。家庭科で指編みが授業時間内に終えることができないため、家に持ち帰って完成させたいと申し出たところ、担任の先生から、本人が完成させたかどうかが判断できないという理由で断られる。しかし、本人は、焦りと不安でますます指編みができなくなるから、と居残りで指編みをさせられることをとても嫌がり、家で完成させたいと強く希望。 保護者が先生と協議した結果、家庭で指網みを完成させるまでを動画に撮影して提出することで合意を得られた。
3 決定した事項は確認して、必ず、控えを
合理的配慮は学校設置者や学校との約束事です。決定したら必ず個別の教育支援計画等に記載するなどして、文書化しておきましょう。
学校や学年が変わっても同じ配慮を受けることができます。見直しが必要になった場合も書面をもとに、検討することもできます。合理的配慮は、通常、個別の教育支援計画等に書かれますが、個別の教育支援計画等がない場合、「合理的配慮の事項」として、やはり書面に残しておきましょう。
<確認ポイント>
1. 曖昧な書き方ではなく、誰が読んでも配慮の内容がわかるように書かれているか確認。
2. 書かれた内容は、コピーをとるか、スマホで撮影しておく。
3. 使っている道具があれば、その写真を添付する
「合理的配慮の事項」決定の記入例
・体育館内での音の反響にが気になり、体育の授業や行事に集中できないため、イヤーマフを着用。
・教室内での騒音(廊下を走る足音、校庭から聞こえる大声)が気になり、教師の話に集中できないため、教室内での授業ではノイズキャンセラーを使用。
・学校指定の体操服が触覚過敏のため着用できず、似たデザインの体操服を自宅から持参して着用。
4 子どもの成長とともに見直すことを忘れずに
一度決定した合理的配慮は、おなじ配慮が必要だとは限りません。子どもは成長し、障害の状態も変わります。学級が変わると、環境も変わります。定期的に見直してメンテナンスすることが必要です。
5 担任が変わった場合は、配慮が引き継がれているか確認
合理的配慮は担任が変わっても引継ぐ必要があります。もし引き継ぎがなれていないようなら、申し出てください。
6 場合によっては、外部の情報や専門家に頼る事も必要
学校との話し合いだけではうまくいかなかったり、うまくいかないことが想定されたりしたら、医師、心理士、作業療法士など、専門家に話し合いの場に同席してもらうことも一案です。
「合理的配慮」のスタートラインは障害のある当事者からの要望
これまでは学校任せだったかもしれない配慮を、障害のある当事者の「こうしてほしい」とからスタートして申し出るのが合理的配慮です。
合理的配慮は、「私たちのことを私たち抜きに決めないで(Nothing About us Without us)」という障害者権利条約を基に成立した障害者差別解消法(日本は2016年施行、2021年改正)の8条2項に定められています。
「困り感」と「こうしてほしい」を伝えられる能力は、社会に出て働くようになった時に大きな助けになります。学校時代に合理的配慮を身近なものにしておくことは、将来のためにもなるのです。