【療育の専門家がレクチャー】発達障害のある子どもに「お手伝い療育」のすすめ!食卓を拭くお手伝いは2歳からチャレンジできる

この連載では、発達障害のある子どもの療育に長年携わってこられた言語聴覚士・社会福祉士の原 哲也先生が、家事のお手伝いを通じて行う療育をご紹介します。子どもの自尊心を育てながら、家族も喜ぶ「お手伝い療育」。今回のテーマは「食卓拭き」です。

家事の中で「ルールを理解し、ルールに則って行動できる力」を育てる

家事にはルールがあります。家事のルールを理解し、ルールに則って家事ができるようになることで、子どもは、世の中にはルールがあり、人はルールに則って行動することを理解します。
それが「ルールを理解し、ルールに則って行動する」という、社会で生きていく上で欠かせない力につながります。

いきなり完璧を求めず、ステップアップしながら進めましょう

今月のテーマに入る前に、子どもが家事ができるようになるまでのステップについてお話します。これは、どんな家事でも基本的に同じです。

ステップ1:見学や観察をしながらルールに触れ「ちょこっとやる」

やりたがったときだけでもOK。選ぶだけ、入れるだけ、混ぜるだけ、やりたいところだけでもOK。興味を持った家事をちょこっとだけ体験させてあげましょう

子どもの状況

保護者が家事をするのをちらっと見たり、近づいてくる

目標

家事のルールに触れ、「ちょこっと」やってみる

保護者のサポート

①保護者が家事をやってみせ、子どもがそれを十分に「見学」「観察」して家事のルールを理解できるようにする。

例:大人が箒で玄関を掃くのを見て、箒の使い方や掃く順番のルールを理解する

②子どもがやりたがるなら、「ちょこっと」だけやってみてもらう。

気をつけること

「ちょこっとやる」は、子どもが興味あることを子どもの望む量や時間で行います。親が回数や内容を決めることはしません。
最初は失敗もしますが、家事を実際にやってみることはとても大事なので、子どもが興味を示したら、機会を逃さずやってもらい、成功するようサポートしましょう。

ステップ2:ルールを理解し「どんどんやる」

「やりたい!」という気持ちを尊重することが大切

子どもの状況

家事のルールをある程度理解し、自分でやりたがる。

目標

ルールの理解を深め、家事のお手伝いをどんどんする。

保護者のサポート

やりたい気持ちを大事にして、うまくいくようにサポートする

気をつけること

お手伝いの回数を重ねると子どもは、「これ、ボク知っている」と主張し、「自分でやりたい」と言います。
知っている、できる、だからやってみたい!という思いは、子どもの成長や発達にとって非常に大切。ぜひ叶えてあげたいところです。
ただ、まだ上手にできないことも多いので、その場合は実際にやりかたを見せながらうまくいくようにアドバイスをします。わかりやすく、しっかり、でもさりげなく、が大事です。
集中力が続かずやりきれないこともありますが、その場合は、保護者がほとんどをやり、子どもが仕上げをするようにします。最後をやると家事の終了地点を理解でき、かつ「できた!」と感じられます。
子どもが仕上げをしたら「できたね!」「ありがとう」と言いましょう。

ステップ3:ルールに則って、「自分で責任をもっておこなう」

任されることで、自分が役に立っていると感じられる

子どもの状況

いつやるか、なぜやるか、どうやるかなどのルールの理解が深まる。

目標

最初から最後までひとりでできるようになる。

(子ども自身がやりたがるのであれば)その家事を子どもが「仕事」として行う

気を付けること

ある家事をひとりでやり遂げられるようになったら、子どもにやる気があれば、その家事を「仕事」として任せることを考えます。
「任される」ことは子どもにとっては誇らしく、自分は役に立っているという感覚を得られ責任感も生まれます
しかし、これはあくまでも子どもがやる気であれば、です。任せられるようにならなくてはだめということは全くありませんし、強制することでもありません。
ただ、任せられることによる誇りや責任感は得難いものです。子どもにもちかけてみる価値はあると思います。
「自分がやる」といったから任せたのに、やらなくなってしまうことはよくあります。その場合は「やるっていったのにどうしたの?」と責めずに、その後どうするかを、しばらく静かに観察します。
それでもやる気配がなかったら、どうしてしないのか子どもの考えを聞き、親の思いを伝えながら、その後の方針を決めます。

第3回 食卓を拭く

第3回目のテーマは「食卓を拭く」です。

対象年齢

2、3歳~

期待できる効果

・「食卓が汚れたら台ふきんで拭いて、清潔な状態に戻す」というルールを理解できる
・ゴミや汚れがないかを確かめる注意力を育てる
・上下左右、角、隅などのことばの意味を理解する
・両手の協調運動を経験できる
・拭き始めから終わりをめざして拭く中で、ゴールする達成感を経験できる。
・台ふきんを使いこなしたり、手指を使って台ふきんを絞る経験(上級者)ができる。
・台ふきんの置き場所に行く→持ってくる→使った台ふきんを洗う→片付けるなど、
一連の作業を一貫してやり遂げる経験ができる
・家族の役に立つ経験ができる

 準備するもの

・台ふきん

子どもの両手に納まる大きさ(小さな子どもでは、通常の雑巾の半分くらいの大きさ)が適しています。
薄すぎると扱いにくいので、厚めのものがよいです。

1.食卓を拭く様子を十分に見せる

まず、食卓を拭くルールが理解できるように、発達段階に応じた拭き方で食卓を拭く場面を子どもに十分に「見学」「観察」してもらいます(上記ステップ1)。

12歳前後の発達段階の子どもの場合(両手で上→下に拭く)

台ふきんを両手で押さえ、机の下端→上端、少し横に台ふきんをずらして今度は上端→下端を拭き、机の最終の端まで拭きます。

3歳以降の発達段階の子どもの場合(片手で左→右に拭く)

左手で机の端を押さえながら、机の上部左から右に片手で台ふきんを動かして拭く、右端についたら、少し下に台ふきんをずらして、今度は右から左に拭く。

「お皿が片付いたから、次は、テーブルをピッカピッカにするわよ」
「きれいな机でご飯を食べるとおいしいものね」「さあ、きれいになった。うれしいわ」
など、食卓を拭く意義やルールを理解できるようなことばを聞かせます。

2.やってみる

① 机の上にある食べかすなどを捨て、拭くだけの状態にする

② 台ふきんを子どもに渡し、スタート地点を示す
特に低年齢の場合は、スタート地点を指で示すなど実際に見える形で伝えます。
拭く動作に合わせて「フキフキ」「サッと動かして・・」等のオノマトペを言ってみましょう。

③ 机の端まできたら台ふきんを移動させる場所を示し、拭く方向を指で指示する。
拭いている途中で、「右のはじっこを拭いてね」などと指示をすることがありますが、上、下、右、左、角、隅などの抽象的なことばは、まずことばだけで伝え、そのあとに指で示すようにします

まずことばだけで伝えることで、子どもは「右ってどっち?」と少し考えることになり、その直後に指で示されることで「合ってた」や「あれ?ちがった。こっちか」などと考えます。それはことばの獲得に有効です。
これでいいのかなと子どもが不安にならないように「そうそう」「いいね」「きれいに拭けてるじゃない」等のことばをかけたり、作業がスムーズにいくように「端についたら、下に・・」などのサポートを身振りやジェスチャーを添えながらします

④ 台ふきんが汚れたら、保護者がすすいで絞って渡す

⑤ 終わったらありがとうを伝える
「ピッカピカ!」と驚きながら喜びましょう。子どもはやってよかったと思うでしょう。

上級者編

「食卓拭き」を完遂するには、拭くだけでなく、食卓のゴミを捨てる、台ふきんを持ってくる、終わったら台ふきんを片付ける、台ふきんの汚れを確認する、汚れたら洗って絞るなどの作業が必要です。子どもの様子をみながら、少しずつできるように励まします。

台ふきんの絞り方 

① 台ふきんを筒状に丸める

② 左手を下、右手を上にして図のように持つ

③ 両手で台ふきんをねじって絞る

この絞り方だと、手首だけではなく腕の力も加わり、強く絞れます。

3.食卓拭きを任せる

全部を一貫してできるようになったら、子どもにやりたい気持ちがあれば、「食卓拭き」を子どもの仕事として任せ、責任をもってやってもらうのも非常によいことです(上記ステップ3)。

気をつけること

.台ふきが不十分な時

せっかくやったのに注意されると意欲が削がれます。最初のうちは拭き残しなどがあっても注意などせず、「ありがとう」を言い、子どもがいなくなったあとで仕上げます。

2.子どもの集中力を考慮する

途中でやめてしまっても、そのことを責めるやり取りは避けたいものです。子どもの様子を観察したうえで、「お母さんも拭きたいな。ここやっていい?」と言ってみる、「ここを拭いてくれる?」と集中力が持ちそうな範囲にスペースを限定する、など工夫をしましょう。

3.ゴールは子どもがする

最初は、子どもはフィニッシュの部分だけをするので十分です。完了したら「ありがとう」「助かった」などとことばをかけましょう。子どもはゴールの達成感と役に立った喜びを感じます(上記ステップ2)。

4.やりたいタイミングをとらえる

食卓拭きの場面を十分に見せた上で、子どもの「やってみたい気持ち」が膨らむのを待ちます(上記ステップ1)。そして、子どもが「わかった」「やってみたい」「できるかも」と思うその「瞬間」を見逃さず、「ちょこっとだけ」やってもらう、そして「ありがとう」を言う。これが、子どもをお手伝いに誘うコツだと思います。

取り組みやすい「食卓拭き」で「お手伝い療育」を始めてみましょう

「食卓拭き」は、小さな子どももできる、危険がない、台ふきんひとつで始められる、食事の度に機会があるなど、比較的取り組みやすい家事です。そして、発達障害の特性がある子でも、意欲を示しやすい家事です。冒頭でお話したお手伝い療育のステップを意識して取り組んでみてはいかがでしょうか。

 

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この記事を書いたのは…

原 哲也|言語聴覚士・社会福祉士
一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業、国立身体障害者リハビリテーション学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダのブリティッシュコロンビア州の障害者グループホーム、東京都文京区の障害者施設職員、長野県の信濃医療福祉センター・リハビリテーション部での勤務の後、『発達障害のある子の家族を幸せにする』ことを志に、一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPANを長野県諏訪市に創設。発達障害のある子のプライベートレッスンやワークショップ、保育士や教諭を対象にした講座を運営している。著書に『発達障害のある子と家族が幸せになる方法』(学苑社)、『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)がある。

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