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最初の気づきは「発語がない」こと
中尾きみかさん(以下、中尾さん):朝陽の成長が気になり始めたのは、1歳から1歳半検診で言葉が出なかったことです。素人の私が見ても、明らかに他の子よりも言葉が出ていないことがわかりました。ただ、小児科医からは、「2歳まで様子を見ましょう」と言われていたので、それほど気にしてはいませんでした。
兄弟3人それぞれに、長男は真面目で優しい子、次男は人懐っこくてものおじしない子、そして朝陽は活発でやんちゃな子というように、三者三様の個性。ですが、朝陽が3歳くらいになると“やんちゃな子”では済まされなくなっていきました。園生活でも集団行動ができずに、教室から飛び出してしまうことも多く、そういう子は幼稚園には朝陽しかいませんでした。
普通ではない別の育児が始まってしまうようで、息子の障害を認めたくなかった
中尾さん:発達障害の診断は、するしないよりも、母親がその子にどんな特性があるのかを理解していることの方が大事だと、今はわかります。でも、当時は障害を持っていると診断することで別の育児が始まってしまうのではないか、普通の育児ではない世界にいってしまうのではないか、という怖さから朝陽の障害を認めることができませんでした。
初めて療育の場所を訪れたときも、朝陽は「こういう場所に行く子なんだ」と否定的に捉えてしまい、モヤモヤしたことを覚えています。
療育に行き、少しずつ視野が広がる
中尾さん:いろいろな療育を見学していくうちに、孤独を感じていた私は「うちの子だけじゃないんだ」「結構仲間はいるんだな」と少しずつ励まされるようになりました。
幼稚園の中で朝陽を見ていると、当然目立ってしまうんですけど、療育に行くといろんな特性を持った子がたくさんいて、それぞれに違った個性があることに気づいたんです。それまでは、自分の息子だけが自閉スペクトラム症であるかのように思い込んでいたことに気づき、見えていなかった世界を知ることができました。
また、療育に通い始めた頃は朝陽の障害を受け入れられてない時期だったので、「私、全然(育児が)楽しくないんだけど」と思っていた私には、障害を持ったお子さんの親御さんが、自分よりも明るく楽しそうに子育てができていることが衝撃でした。
診断することで子どもの過ごす環境を整えてあげられることも
中尾さん:障害を受け入れることに壁を感じてしまう理由の一つには、デメリットが多いと考えてしまうことなのではないでしょうか。しかし、障害者手帳を持つことで、公的な援助が必要な子であれば手当てがついたり、難しかった家族旅行にも行きやすくなるなどのメリットも。
気持ちの面では診断は必要ないものだと感じていますが、診断を受けることでのメリットもあることは知っておいて損はありません。地域によっては、診断書を提出すれば補助金が出て、加配*の先生を付けてもらうこともできますので、子どもの過ごす環境を整えることにもつながります。
*加配…主に発達障害、自閉症、言葉の遅れや障害と認められた子3人に対して1人、保育園の先生を余分に付ける国の制度
「障害は恥ずかしいことではない」動画で成長記録、音声配信で仲間と情報交換
中尾さん:YouTubeをはじめたきっかけは、朝陽の成長を記録しておきたと思ったからです。各種SNSも、「障害は恥ずかしいことじゃないんだよ」と思って情報を発信しています。自分が仲間に勇気づけられたように、同じように悩んでいる人たちを勇気づけたい。YouTubeでは、朝陽の成長に感動したというコメントも頂いたりして、一緒に成長を見届けていただいている気がして心強く感じています。
ただ、応援してくれる方が多い中でも、朝陽に対して差別的な言葉で傷つけてくる人もいます。朝陽がこれから高学年や中学生になった時に、今とは違った新たな悩みが出てくるのかもしれません。
Voicyも開始。悩みや情報をシェアできる場に
中尾さん:また、朝陽が成長をしていくと、映像として出ない日もあるだろうなと思ったので、自分一人で情報を発信することができる音声配信「Voicy」もはじめました。YouTubeは我が子の成長を一緒に見守ってくれる人がいるのが励みになりますが、Voicyは情報をシェアできる場所になっています。同じ悩みを持つ仲間(虹友さん)と繋がることができるのはとてもありがたいです。
SNSは心配なこともありますが、発信した情報を取り入れてくださる学校の先生もいるので、それはとてもありがたく思っています。自分や我が子が、今何に困っていてどうして欲しいのか、情報発信をしたり、思い切って身近な人に伝えてみることも大切だと感じています。
兄弟関係について
中尾さん:成長に差が出ている時期は、お兄ちゃんたちも離れたい時期もあったようですが、朝陽が成長したことで一緒にできることが増えたので、喧嘩もしますが仲良く遊んでいます。一緒に小学校に通える時期は、朝陽が疲れて歩けなくなると長男がランドセルやバッグを持ったりして、よく助けてくれていました。
でも、親には話してくれませんでしたが、お友達に朝陽の障害のことで傷つくことを言われたりしたこともあったと思います。私も子どもの頃に、お友達から仲間外れにされた時は親に話すことができなかったので、お兄ちゃんたちも我慢していたんだろうなとは思います。
悩みは抱え込まないで!相談できる療育や施設、相談員、医師を見つけてほしい
中尾さん:私は朝陽の障害をなかなか受け入れられなかったことで、つらいことや悩みを一人で抱え込んで孤独になってしまっていました。でも、今の状況をどうにかしたいと思うならば、信頼して相談できる人を一人でも多く、早く見つけて欲しいと思います。一歩を踏み出すことが、必ずしも悪い方向に進むわけではありません。
目の前にいる子どもを一緒に見守ってくれる人は、たくさんいる方が心強いです。つらい時に「つらい」と言える友人がいるだけでも救われます。
朝陽のことをよく知っているクリニックの先生、朝陽のことをよく知っている学校の先生、朝陽のことをよく知っている療育の先生、朝陽のことも私のこともよく知っている友人。我が子を実際に見てよく理解してくれている人達に相談することで、救われることが多々あります。
もし周りの方達の理解があまり得られなく孤独を感じていたら、ぜひ「虹色の朝陽」を活用してほしいと思います。同じような境遇の方はいっぱいいます。
障害を受け入れることは自分の価値観から抜け出すこと
中尾さん:表面的に子どもの障害を受け入れることはできますが、心から子どもの障害を受容していくことはなかなか難しいと痛感しています。朝陽の場合は、日によっては目を合わせることもできるし「本当にそう(自閉スペクトラム症)なのかな?」と思う時期もあって、否定したり、逃げたくなったりを繰り返していました。
それでも徐々に受け入れることができたのは、自分の価値観を子どもに押し付けないようにしようと考えられるようになったからです。
例えば、友達は多い方がいいのでは?と思うのは私の価値観。一人で遊んでいても、本人(朝陽)がそう過ごしたいと思ったらそれでいいんだなと思えるようになること。そうすることで、朝陽を受け入れることができるようになり、障害であることを受け止められるようになりました。
我が子の障害は、すぐに受け入れられる人もいれば、なかなか受け入れられない人もいると思います。
自分の価値観で子どもを見るのではなく、我が子であっても別の人格で、違う価値観の中で生きていることを理解しようとすると、自然に受け入れられるようになってくるような気がします。
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文・構成/鬼石有紀