算数が苦手でもワクワクするマンガ『数字であそぼ。』の作者・絹田村子さんを直撃!「数学」をテーマにした作品の魅力に迫る

『数字であそぼ。』で第69回小学館漫画賞を受賞した絹田村子先生のインタビューが実現。「数学」をテーマに漫画を描こうと思ったきっかけや登場する個性的なキャラクターについてなど、作品への思いを語ってもらいました。

今までの「数学」のイメージを一変する出会いがあった

『数字であそぼ。』で、第69回小学館漫画賞(2024年1月発表)を受賞されたお気持ちを教えてください。

純粋に嬉しかったです!「数学」というニッチなジャンルがテーマの漫画なので、業界のすみっこで描いていたイメージだったんですけど、読んでくれていた人がたくさんいたんだと改めて実感できてすごくホッとしました。

普通の人には、ちょっととっつきにくいと思われる「数学」ですが、深いところまでは理解できなくても、コメディーとして楽しんでもらえるように意識して描いているので、それが読者のみなさんにちゃんと届いていてよかったなと思いました。

『数字であそぼ。』は、大学で学ぶ「数学」がテーマです。第1巻のあとがきに「数学が苦手だった」とありましたが、苦手な数学をテーマにしようと思ったきっかけを教えてください。

ちょうど漫画のテーマを決めようと思っていたときに、「数学」をやっている人と知り合ったんです。お話ししていたら、どうも今まで感じてきた「数学」のイメージとは全然違うなと思えてきたのがきっかけです。

例えば「1から100まで足す計算」を「面積で考える」というお話を聞きました。数字を面積の一辺に置き換えると、どんどん三角形の形になっていくらしくって…。面積って、図形の大きさを求めるだけのものって思っていたのですが、そういう捉え方もするんだと知り、「数学」って本当はどういうものなんだろうと興味を持ちました。

もともと「数学」に苦手意識はありましたが、取材対象が身近にいるのでいろいろ聞けそうだと思ったのと、私自身「知らない世界」について描くことが好きなので、「数学」をテーマに描いてみようと思いました。

個性的と言われるキャラは、「普通の人」というつもりで描いていた

主人公の“横辺建己(よこべたてき)”は一度見たものを記憶できてしまい、高校まで「天才」と呼ばれてきたのに大学で「数学」を専攻することで挫折します。主人公をこのようなキャラクターにしようと思ったのはどうしてですか。

横辺が通う大学は京都大学がモデルなんですけど、合格するにはそれなりの学力がなくてはダメですよね。塾講師をしていた知人から、「数学」を本当の意味で分かっていなくても、ものすごい記憶力があれば受験年度によってはもしかしたら合格できる場合があるかもしれないと聞いたんです。 

あと、「数学」は横辺みたいに特別な記憶力がなくても全然学べる学問なんですけど、「数学」が得意な人と正反対というか、対極な感じの人がいいなと思って、横辺のキャラクターを決めました。

「数学」に頭を悩ませる横辺ですが、読者さんからは「ほかの学部に入学すればよかったのに」という声も届きますね(笑)。

魅力的なキャラがいっぱい!

横辺の周りに集まる仲間たちがとても個性的ですが、キャラクター作りでこだわった点を教えてください。

個性的とよく言われるんですが、私的には「普通の人だよね」というつもりで描いていたんです。私は美術系の大学に通っていたのですが、面白い人がたくさんいたんですね。そういう環境に慣れていたのもあって、数学系の人に社会人として会うと、すごくきちんとされている印象に感じたんですよね。

でも描いていくうちに変なところが出てきちゃって(笑)。例えば、ギャンブル大好きな“北方創介(きたかたそうすけ)”とか、お金に執着心が強い“猫田賢(ねこたけん)”は、実際にそういう人が知人にいて、描いているキャラより個性が強いんですよ。そんな感じで、周りの人や見聞きした人物の要素を少しずついただいたり混ぜたりしながらキャラクターを作っていった結果、個性的になった感じです。

ご自身でお気に入りのキャラクターはいますか。

誰かが特別というのはあまりないんですけど、多分横辺の周りで1番の常識人というか普通の感覚の女の子が“平坂世見子(ひらさかよみこ)”で、「何々をしよう」とか新しいことを言い出してくれるので、描いていて便利ですね。あと、動物を描くのが好きなので横辺の下宿先で飼われている犬の“だんご”も描くのが好きです。

右の女性が平坂さん

難しい数学理論は、「日本語として理解できる」レベルにして描く

横辺たちが語る数学理論はとても難しいですが、数学理論を漫画で展開する上でこだわっていることを教えてください。

まず私が日本語として理解できないものは描かないようにしています。その理論の内容を深く理解できなくても、とにかく「日本語として理解できる」レベルにして描くということを大事にしています。

あと1巻の第2話で、公式をまだ習っていない状況で円の面積を問われ、トイレットペーパーに切り込みを入れて三角形にしてその面積を求める展開があります。それは、知人が小学校の時に本で見たことを教えてくれたんですけど、文字だけの小説ならわかりにくいけど、絵があるから理解できるという部分もあると思うので、漫画だからこそ展開できているとは思いますね。

数字であそぼ。第1巻/第2話より

10巻からは主人公たちも大学院に進学し、さらに難しい理論が展開されていますが、ご自身ではどんな風に数学を勉強されていますか。

数学は本当に積み重ねです。理解するには中学とか高校レベルまで戻ってやらないと絶対無理なので、私自身も深くは理解できていないのが前提ですが、知人から教えてもらうのはもちろん、SNSとかで数論幾何学、とかゲーム理論など話題になるものをチェックして、本や雑誌を読んでいます。

数学の本にも、巻頭に「この本はこういう内容です」というようにあらすじみたいのがあるんですが、そこは日本語として読めるので、そこを読んで漫画に落とし込めるかどうかを考えています。科学雑誌の「Newton」もよく参考にしています。

読者さんからの間違いの指摘は本当にありがたい

だいたい1話を描くにあたり、どのぐらい勉強するのですか。

例えば何かの定理が出てくるとしたら、その関連本を1冊は手に取ります。その定理だけだと心許ないので、その定理に関連することも調べたり、数学ネタ以外も京都のこととか調べることがたくさんあるので、あちらこちら調べながら締め切りに向かっていくって感じですね。量とか時間ははっきりわからないです。

そうやって勉強したり調べたりしても、連載で描き間違えることがあるんですけど、親切な読者さんが「ここ違いますよ」と教えてくれるので、コミックスでは修正を入れています。間違いを指摘してくれるのは本当にありがたいです。

これからの「数字であそぼ。」で描いてみたいテーマはありますか。

数論などをまだあまり紹介できていないので、一回は何をやっているかぐらいは描きたいと思っています。

特に“夏目まふゆ”がやっている数論幾何学は、抽象度が高くかなり難しいジャンルということもあるので、そのほかの代数学や解析学なども合わせて、数学のジャンルの紹介はしていきたいです。

インタビュー後編では絹田村子先生の子どもの頃のお話やご両親のお話、影響された漫画などを語っていただきます。

『数字であそぼ。』の漫画家・絹田村子さん「なりきりごっこ遊びがキャラクター作りに活きている」、漫画好きで自由な子ども時代を語る
編集部のお便りから当選者発表まで、漫画雑誌を隅から隅まで読破 子どもが憧れる人気のお仕事「漫画家になりたい!」というお子さんも多いですよね...

お話しを伺った方

【絹田村子】

9月24日生まれ、天秤座。B型。奈良県出身。「月刊flowers」2008年9月号掲載の『道行き』(第36回コミックオーディション銀の花賞受賞)でデビュー。代表作は『さんすくみ』『重要参考人探偵』など。現在『月刊flowers』で連載中の「数字であそぼ。」で、第69回小学館漫画賞を受賞。

 

絹田村子|550円(税込)

驚異の記憶力で京都の名門大学理学部に入学するも、暗記ではなく“理解”が必要な数学につまずき2留した建己。個性あふれる友人達と出会って再び数学に向き合うが、その道は前途多難で…!? 爆笑×数学キャンパスライフコメディ!

 

取材・文/綱島深雪

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