前編では診断前後の幼少期のお話を伺いました
目次
短期記憶が弱いキョウタくん。大事なことを忘れないように、思い出すきっかけを
ADHDがある子どもにありがちな困りごととして、「忘れ物が多い」「宿題がなかなか進まない」などがよく挙げられます。例にもれず、キョウタも忘れ物や、宿題の中でも特に漢字の書き取りの宿題には苦戦してきましたが、私なりの対策をして、小学校時代を乗りきりました。
キョウタの特性である「短期記憶が弱いこと」が困りごとの原因
まずは忘れ物の多さ。キョウタに学校の中でも思い出すきっかけを作ってもらおうと、筆箱の中や連絡帳に、「プリントを持ち帰ってきてね」「宿題を持ち帰ってきてね」などと書いたメモを貼っていきました。
キョウタは脳内多動でもあるので、目の前にあるものが気になりそれを優先しがちです。そのため、忘れているわけではないけれど、今「目の前にあるもの」で頭がいっぱいになってしまい、「やるべきこと」が後ろに行ってしまうことが多いのです。そんな時、後ろに行ってしまった「やるべきこと」を出してあげるきっかけさえあれば、行動に移せるなと考えてのことでした。
苦戦した漢字の宿題。独自の方法を先生と相談した
漢字の書き取りについても同様です。
キョウタは短期記憶が弱いがゆえに、教科書で見た字をノートに書き写すまでの間でも、正確に記憶が運べないのだということがわかりました。そのため、私はキョウタが書きながら見ることができるくらい近く、つまりはノートの「漢字を書く欄」の真横に見本の漢字を書いてあげるという、独自の方法を実践しました。そして、本人に「正しく書けた」という成功体験を積ませていくことを、先生に相談して実行していくことにしました。
結果として、キョウタはこの方法を取り入れてから、漢字をずっとよく覚えられるようになりました。
普通級+通級で6年間、いろいろな先生に支えられて学校生活を送ったキョウタくん
キョウタの漢字の書き取りのように、その子の特性に沿って柔軟にやり方を変えられるのは理想ですが、先生によってはそれが難しい場合もあります。その子その子の困り感をスッと理解してくれる先生もいれば、みんなと同じことができることを何よりも大事にしている先生もいるのが現状。
私は、「この先生にはちょっと頼みづらいな」と感じた場合は、スクールカウンセラーさんに間に入ってもらい、対応を変える有意義さなどについて、一緒に先生に説明してもらいました。
スクールカウンセラーさん以外にも、学校には頼れる存在がいました。キョウタは普通級に通っていましたが、通級指導教室にも6年間お世話になりました。そのため、苦手な国語を重点的に見てもらったり、担任の先生と通級の先生でやりとりをしながら、キョウタがつまづきそうなところをフォローしてもらうことができました。
ただ、私にとって通級は、キョウタの学習面のフォローだけでなく、精神面も安心して過ごせる場所があるといいなという気持ちで利用していました。担任の先生は年度ごとに変わるなか、たまたまではありますが通級の先生は6年間変わらなかったので、きっとキョウタにとっても、ずっと自分を理解してくれる先生がいたことは心強かったことと思います。
お友達との距離感に課題があったキョウタくん、母ができる声かけは?
小学2年生のころ、お友だちとの距離感のつかみ方に課題があったキョウタ。どうしても人との距離が近くなりがちでした。また、感情が高ぶると、周りの子とテンションに温度差が生じてしまうこともありました。
また、発達障害がある方には多い傾向かと思いますが、一般的に冗談として言われることを冗談として受け止められず、ちょっとしたことを100%受け止めて傷ついてしまったりすることも多かったです。
私は、学校ではキョウタの側にずっといることはできないので、距離感の問題が生じる度に何かしてあげることはできません。代わりに、放課後や休日に、公園などで知らないお子さんとキョウタが遊んだりするときは、ちょうどいい距離感がとれていたときに「今のすごく良かったね」と褒めるようにしていました。
一応予告として、「こういう行動はだめだよ」ということも教えたりはしましたが、「だめだよ」と教えるより「今の行動が良かった」と教えるほうが、何倍もキョウタの中に刻まれていると感じました。
「褒めてもらえた嬉しさ」の効果は本当に大きくて、成功体験となって、次につながりやすいと思います。
何かにつまずいた時は「スモールステップ」が効果的
私が育児で特に大事にしていることに、「何かの出来事につまづいたとき、無理強いはしないけど、誘うことはしてみる」というものがあります。
ADHDがある子どもたちはこだわりが強い子が多く、自分で決めたルールを変えることができない、という特性がよく見られます。キョウタもトイレトレーニングのときに、どうしても変えられないことがありました。それは、「ウンチだけはオムツでする」ということ。このことをリハビリセンターの先生に相談したときに受けたアドバイスが、私の育児の指針になりました。
先生に言われたのは、こだわりが強い子に無理強いして何かをやらせることは逆効果ということです。
そのため、まずはトイレに1秒座らせて、1秒座れたことを褒めて、その次は3秒座らせて、「この前より長くなったね」と3秒座れたことを褒める、という成長段階を何回も経ていく方法を教わりました。そのやり方を実践していく過程で、子ども自身が納得できる状態に持っていくことが一番大事だということを感じた私。時間はかかりますが、こだわりが強い子の育児においてはこの方法が一番の近道なんだと学びました。
発達障害の有無に関わらず、このやり方が良いことを実感した私は、キョウタだけでなく、次男のアイキの育児にもスモールステップ法を取り入れて行動し、困難を乗り越えていきました。
療育で習ったペアレントトレーニング、兄弟それぞれの良いところを褒めて育てた
私は、幼少期にキョウタが通っていた療育で、「ペアレントトレーニング」も習っていました。ペアレントトレーニング(以下ペアトレ)とは、子どもの障害などに対応するために、家庭でできる療育を支援するプログラムのことです。
ペアトレで習った褒め方のひとつ、「リアルタイムで具体的に褒める」ということを意識し、私はキョウタとアイキを褒めていきました。
2人は全然違うタイプなので、何か1つのことに焦点をあてて比べたら、どうしても差が出てきてしまいます。しかし、私は2人を比較して叱ることはしないようにし、「あなたはここが得意だよね」とできる部分を褒めるように努めました。キョウタとアイキ、それぞれが、「ぼくたちは認められている」と思っていてくれたら、とても嬉しく思います。
中学生になったキョウタくん、自分の特性はどう理解している?
現在、中学生になったキョウタですが、私はキョウタに「ADHD」という診断名を伝えてはいません。しかし、忘れ物やなくし物が多いことや、短期記憶に弱いこと、得意不得意の差が大きいことなどは、本人もちゃんと理解して、自覚もしています。特に診断名を伝えなくても、そういった自分の癖や特性を理解していればいいのではないかと思ったからです。
キョウタの課題になる部分も、キョウタの努力不足ではなく、生まれつき脳みそがそういう形をしていて、吸収しにくいものは吸収しにくいようになっている、という表現で伝えることで、本人も理解ができているようです。本人がここまでわかっているなら、ADHDという言葉で伝えなくても、伝えていることと同じなのかなと思っています。
今の課題は「帰宅後の行動」、良い流れのルーティン化を目指す
幼少期には大変なことも多かったキョウタですが、本人なりに成長を遂げ、今は中学3年生、受験生です。私としては、やはり受験生なので、帰宅後の行動がルーティーン化できたらいいなというのが、今直面している課題です。
キョウタはテレビや漫画が大好きなので、ついそちらにかなり時間をとってしまいます。そのため、今度、帰宅後どういう風に過ごすかというスケジュール表をキョウタ自身に書いてもらい、壁に貼ろうかと考えています。
キョウタは自分でも、「やらなきゃいけない」というのはわかっているようです。小学生の時にも、朝のやることをルーティーン化してうまくいった成功体験がありますし、この課題も同様に乗り越えていってくれたらいいなと思います。
キョウタの持つ特性や苦手なことを、「克服しよう」などとは思いませんが、これからも工夫していくことは工夫していきながら、本人がより楽しく安定した気持ちで過ごしていってくれたらいいなと思っています。
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お話を伺ったのは
文・構成/佐藤麻貴