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「脳機能の問題」が原因なので「努力不足」ではない!
DCDは「脳機能の問題に起因して起こる症状」であるということが、昨今のさまざまな研究から分かってきています。本人や親御さんの努力不足が原因ではないことを、まずは多くの方に知ってほしいと思います。
また、同じ動作の不器用さがあるお子さんが複数いたとしても、その原因やつまずきの箇所は一人ひとり違う可能性があるため、原因を分析した上で「個別の練習方法」や「道具や環境の調整」を考えていく必要があります。療育機関や病院のリハビリテーションの専門家につながればよいですが、そういった機関につながるまでには現在、長い時間を要するのも事実です。
そこで今回は、日ごろから実践している練習方法の中から、自宅でも簡単に行える方法を紹介します。まずは親子で楽しみながら試してみてください。
事例①イスに座ったまま正しい姿勢を保持するのが難しいYくん
学校生活では、イスに座って授業を受けることを避けては通れません。授業中に離席をしたり、床に寝転がってしまったりといった行動がみられ場合、実はDCDに関連する「姿勢を維持するための“筋肉の張り”を調整できていない」ことが原因で、正しい姿勢で座っていることが難しい可能性もあるのです。
発達障害の特性を持つお子さんは、筋肉の張りを調整する脳の部位が上手く働かないことが原因で、生まれつき筋肉の張りを上手にコントロールできない「低緊張」の症状が多いといわれています。
姿勢の安定には、インナーマッスル(深層筋)の働きが大切。遊びのなかで座位の姿勢を保つための体幹を育てる動きとして、赤ちゃんが行う「ハイハイ」がおすすめです。「低緊張」の特徴を持つお子さんの中には、乳児の頃に「ハイハイ運動」をあまりしてこなかった子もいるので、今からでも「ハイハイ運動」を復習してみましょう。
■「ハイハイ」や「動物のマネ」で体幹を育てよう!
◎親子でトンネル遊び
親御さんが体でトンネルを作り、その中をハイハイで通り抜けて遊びましょう。トンネルを小さくすると「ずり這い」も促せます。また、「ハイハイ鬼ごっこ」など、より遊びの要素を取り入れて練習してみるのもよいでしょう。
◎動物体操で動物園ごっこ
「くま歩き」「あざらし歩き」「くも歩き」などさまざまな動物の動きを親子でマネしながら、インナーマッスルを鍛えましょう。
■座る姿勢の環境設定
◎体幹を育てつつ座位を保つためには、環境設定も重要です。イスは両足の裏が床に付く高さに、机は肘を90度に曲げてちょうど乗る高さに設定しましょう。
◎イスの上に滑り止めを敷いてみたり、ユラユラ揺れるバランスクッションを置くなどして、お尻からの感覚を入れてあげることで安定するお子さんもいます。道具を使って心地よく座る工夫も大切です。
■姿勢の多様性を受け入れる
◎正しい姿勢を長い時間にわたり保ち続けるのは、とても大変なこと。低緊張の症状があればなおさらです。姿勢の崩れを多様性のひとつとして捉え、勉強に集中している時などは多少姿勢が崩れても許容し、指摘した際に本人が気付いて少しだけ修正できればそれで十分。周りが受け入れることも重要だと思います。
事例②立ったまま着替えをすることが苦手なKさん
小学生になると体育の授業の前後に、自分の席のスペースで立ったまま着替える必要が出てきます。DCDの特性のあるお子さんのなかには、それができずに時間がかかってしまい、「授業開始に間に合わない」といった困りごとが起こりがちです。
立ったままの状態で体操着に着替えるには、さまざまな工程を踏む必要がありますが、Kさんの姿を観察してみると、ズボンを着替えるために片足立ちをすることが特に苦手なよう。そんなお子さんには以下のような練習法がおすすめです。
■ズボン着替えの練習方法
◎座って履く練習
まずは、自分でできるところから始めてみましょう。
◎壁を使って練習
次に、壁に背中をよりかけた状態でズボンを履く練習をしてみます。壁を使うことで片足立ちが安定します。上手になったら、徐々に壁から離れて練習してみましょう。
◎タオルを使用した片足立ちの練習
1)フェイスタオルを用意し、半分に折るなどして体の幅よりも少し広い長さにしてから、右手と左手でそれぞれ端を握ります。
2)そのタオルを右足でまたぎ、次に左足でまたぎます。
3)膝の後ろにタオルがくるので、再び片足ずつタオルをまたぎ、最初の状態に戻します。
4)「お風呂あがりに立ったまま、足の裏を拭いてみる」など、日常生活のなかに片足立ちの習慣を取り入れてみることもおすすめです。
子どもの「困りごと」を理解し、環境を整える工夫を
DCDの特性を持つ子どもが、運動や手先の極端な不器用さに自ら気付き、自分からSOSを出すことは非常に難しいように思います。一人ひとりのお子さんが、自信を持って、自分らしく日常生活を送るために、まずは周囲の大人たちが日常生活に潜む「困りごと」を理解した上で、一緒に練習をしたり、環境を整えてあげることが何よりも大切だと思うのです。
ボール遊び、鉄棒など体育の動作が苦手な子にはこちら
著者プロフィール
理学療法士、保育士、公認心理師
2009年に神奈川県相模原市にある「相模原療育園」に入職し、以後15年にわたり重症心身障害児や発達障害児の理学療法に携わる。児童発達支援センターの理学療法士訪問や、特別支援学校訪問なども行い、発達障害の方々やその家族の相談に応じている。
取材・文/小嶋美樹