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大企業への就職はせずに自ら家庭教師派遣の起業を
――後藤さんは、東大在学中は『東大王』の番組に出られたり、2023年のミスター東大に選ばれたりと、大活躍でした。2024年3月に東京大学工学部を卒業し、大学院に進学した直後に起業されたと伺いました。
後藤弘さん(以下、後藤さん):そうなんです。株式会社bestieeという会社を作り、「ベストティーチ」という家庭教師による個別指導サービスを始めました。東大や早慶、医学部の優秀な先生の授業を単発から受けることができるのが特徴です。
入会金も年会費もなく、1回から授業を受けられるので、「この単元だけ教えてほしい」「この模試の解き直しを手伝ってほしい」といったご要望にもお応えできます。
後藤さん:あるいは、単発から何人かの先生の授業を受けてみて、一番相性がよかった先生に定期的に教わるという使い方も可能です。
年の近い兄・姉のような存在の言葉は勉強力をアップさせる
後藤さん:僕は小学生の頃はSAPIXに通って中学受験のためにかなり勉強をしたのですが、開成に入学したら勉強へのモチベーションを失いました。
特に英語のやる気は全く出ず、アルファベットのbとdの区別もつかないくらい危機的な状況でした。見かねた母が「英語は今のうちに手をつけないと後で苦労するよ」と言ったけれど、ちっとも言うことを聞きませんでした。
尊敬する筑波大附属駒場高校の高校生に言われた言葉でやる気がでた!
そんな折、僕より3つ上で、僕がもともと行きたかった筑波大附属駒場高校に余裕で合格した知り合いのお兄さんに、こう言われたんです。
「僕は英語をサボりすぎて、いま本当に勉強で苦労している。弘くんはそんな過ちをしないでがんばれ」って。
後藤さん:母親に言われても聞く耳を持たなかったけれど、好きで尊敬していたお兄さんに言われたら、実感を持って「このままじゃまずい」って思えるようになったんです。それがきっかけでスイッチが入り英語を勉強するようになり、ほかの教科もがんばるようになったら、高校生のときには定期試験が満点、全体でも1位になりました。
年の近い若いお兄さん、お姉さんのメッセージって、子どもにはすごく響くんだな、と実体験で知りました。そのようなやる気のスイッチを入れてくれる存在との出会いを、少しでも多くのお子さんに提供したい。そこで家庭教師サービスを起業することにしました。
理系東大生は大学卒業時には就職しないケースがほとんど
――理系の東大生には珍しいキャリアですか?
後藤さん:東大工学部では大学院に志願して合格する学生は85%。多くが修士課程にすすみます。そして2年間の修士課程を修了したらメーカーや商社、コンサルティングファームなどの大企業に就職する人が多いですね。僕も大学院にすすむところはみんなと同じですが、その学歴を使って企業に就職するのではなくて、自分が興した事業に集中しようと思っています。
――東大卒、東大院卒なら、大手企業からも引く手あまたですよね?
後藤さん:たしかに周囲はそういう道に進む方も多いです。大企業はキャリアも給料も安定しています。でも、僕個人としては安定よりも3年後5年後、自分がどうなっているかわからない状況のほうがやりがいがあると思っています。
できあがった企業に入ってその企業に合わせていくというより、自分が「こういう事業が世の中に必要なんだ」と気づき、「だからこそ自分で作って自分で広めていきたい」という気持ちが強いです。
父親は「若いうちにさまざまな仕事をしてリスクをとっておけ!」と
――ご両親はどう思われているでしょうか。後藤さんは開成中高の出身、中学受験からお母様のサポートはたくさんあったでしょうし、一般的にキャリアや給与が安定していると言われる大手企業への就職を望みませんでしたか?
後藤さん:母親に関しては少し安定志向かもしれませんね。でも、父は自分が大学生の時は、起業をするという選択肢がそもそも頭になかったこともあって、むしろ「若いうちはどんどんやりたいことをやれ、リスクはとれるだけとっておけ」と言ってくれています。「家庭を持つとリスクがとりにくい。若くて独身のうちがチャンスだよ」と。
後藤さん:今は母親も僕がやりたいこと尊重して見守ってくれています。
東大王メンバーも事業に関わる
後藤さん:株式会社bestieeは開成中高の同期と共同創業をし、彼とは週休0日で一緒に働いています(笑)。そのほか、優秀なデザイナーやエンジニアもチームに加わっています。
後藤さん:さらに、『東大王』で一緒だった伊藤七海や大道麻優子も、中核メンバーとしてイベントなどの企画段階から関わってもらっています。現在、100名ほどの学生が家庭教師として登録してくれています。
将来的にはAIを取り入れて、学習の個別最適化を目指したい
――学部生のときに培った工学の力はどのように発揮・応用しようと思っていますか?
後藤さん:僕らの会社が近い将来やりたいのはAI×教育です。教師選びや学習のやり方なども、AIの力を借りてひとりひとりのお子さんの個性や学習のしかたなどに最適なものを提供していきたい。さらにAIを活用した新しい教育も提案できるだろうと考えています。大学で工学を学んだことも生きてくると思います。
僕のまわりにも、東大在学中に起業している人はたくさんいます。例えば、僕の開成・東大同期の千葉駿介くんは、3年前に生成AIの分野で起業し、先日Forbes Japanの「次世代を担う30才未満の30人」にも選出されました。
後藤さん:僕ら東大出身者は、知を土台にして起業をし、イノベーションを起こして日本を変えることも望まれているのかな、と思います。
――世界で大きな活躍をする日本企業が少ない今の社会状況では、社会も起業する若者を求め応援しているのかもしれません。考えさせられます。
前編は後藤さんの中学受験経験談!
開成中学・高校から東大に進まれている後藤さんですが、第一志望不合格の経験があるとか…小学生の頃の話やご両親の学習サポートなど、前編では後藤さんの中学受験についてお話を伺いました。
撮影/五十嵐美弥 取材・文/三輪泉