菅田将暉が田舎にお試し移住!ディープな人間関係や暮らしぶりがやけにリアルで見応えあり!映画『サンセット・サンライズ』【本日公開】

今週公開作でイチオシの菅田将暉主演映画『サンセット・サンライズ』。主人公はコロナ禍でいきなり都会からやってきて“お試し移住”をすることになったサラリーマンですが、移住をテーマに、コロナ禍の日本、地方の過疎化、震災などの社会問題も織り込んだ、非常に深みのあるヒューマン・コメディとなっています。

菅田将暉、岸善幸監督、宮藤官九郎のミラクルタッグ作!

Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

菅田将暉が『あゝ、荒野』(17)以来、7年ぶりに岸善幸監督と組み、脚本に宮藤官九郎を迎えた『サンセット・サンライズ』。まずは映画ファンとして、この座組を聞いただけで、非常にそそられました。

『あゝ、荒野』2部作は、菅田さんが日本アカデミー賞最優秀主演男優賞など数々の映画賞を受賞した代表作の1本ですし、岸監督が初のコメディ映画を撮る、しかも宮藤さんの脚本で!と聞いたら、間違いなく菅田さんの新しい一面を切り取ってくれるはずだと期待せずにはいられません。

Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

実際にその予想はドンピシャの大当たり!菅田さんが演じるのは、都会から南三陸の町に移住してきた主人公のサラリーマン・西尾晋作役ですが、移住後の生き生きとした笑顔の破壊力、最高です。

また、井上真央、竹原ピストル、山本浩司、好井まさお、三宅健、小日向文世、中村雅俊ら豪華キャストのアンサンブル演技も素晴らしい。宮藤さんの脚本の登場人物には捨て駒がないし、小ネタも満載。胸キュンシーンにまで笑いをぶちこんできますので覚悟して(笑)。

でも、この作品の奥深さは、そこだけではありません。原作は楡周平による同名小説ですが、宮藤さん特有のユーモアを交えつつ、地方への移住をきれいごとだけではなく、きちんと現実問題をベースに描きこんでいるので、かなり見応えがあります。

コロナあるあるに失笑しつつ、三陸の美味しそうなグルメにうっとり

Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

新型コロナウイルスのパンデミックにより、リモートワークが広がった2020年。東京の大企業に勤める晋作(菅田将暉)は、ネットで海が近い南三陸の宇田濱町で、家賃6万円の好物件を見つけ、“お試し移住”をすることに。とはいえ、東京からの移住ということで、2週間の自主隔離期間を設けなければならず。

毎日の食事など、日々の生活の面倒を見てくれることになったのは、大家の百香(井上真央)とその父の章男(中村雅俊)。晋作はリモートで仕事をしながらも、海へ出かけて大好きな釣りを楽しんだり、釣った魚を居酒屋に持ち込んだりと、移住ライフを満喫していきます。最初は東京から来た晋作のことを“よそ者”として見ていた地元民たちでしたが、晋作はポジティブな性格でいつしか町に溶け込んでいきます。

Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

まずは、マスクや消毒液、2mのソーシャルディスタンスがマストという、コロナ時代の生活習慣を見て「そういえば、そうだった」と懐かしくなります。晋作が、初めてマスクを外した百香を見て、彼女のかわいい素顔にノックアウトされるというくだりも“コロナ禍あるある”だなと(笑)。

そんなコロナ禍でスタートした移住ライフですが、晋作が毎日、目を輝かせるのは、地元ならではのおいしそうな郷土グルメ。海の幸が自慢の三陸だけあって、豪快な刺盛りや魚の煮付け、どんこ汁など、見ただけでお腹が鳴りそうな料理が多数登場します。

Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

なかでも、きりこみ(塩辛)と白ワインとのマリアージュや、ジューシーなメカジキの塩焼き「ハモニカ焼き」は手でほおばって食べるなど、ジモティーならではの料理の提案は観ていてうれしくなります。個人的にはお酒のあてにぴったりな「モウカノホシ」というネズミザメの心臓の刺し身に興味津々。竹原ピストル演じる居酒屋の店長いわく「都会では絶対に食べられない」ということで、これは現地入りするしかない!とも思いました(笑)。

そんな魅力いっぱいの三陸の町。野菜や米、釣った魚などを物々交換し合うという人々の交流も温かいけど、逆に人間関係がディープすぎるところにもツッコミを入れているところが実にリアル。晋作が改めて移住の酸いも甘いも噛み分けていく中、仲良くなったある一人暮らしの老女が、地震が起きたあともここに居続けたいとつぶやいたのを聞いた時、思わずはっとさせられました。

“対岸の火事”ではない地震の被災者と被災してない人々との境界線を問う

Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

本作の舞台である南三陸の宇田濱町というのは架空の町ですが、本作は東日本大震災の被災地・気仙沼でメインのロケを敢行しています。宮城県出身の宮藤さんは、朝ドラ「あまちゃん」の脚本家でもあり、同作では東日本大震災についても触れましたし、ちょうど本作の脚本を書き始めた2022年は、仮設住宅に住む人たちの人間ドラマ「季節のない街」(ディズニープラス配信中)を準備していた頃だったとか。

宮藤さんは当時について「震災の話になると、僕は疎外感を味わうというか、なんかこう切なくなるんですよね。だから晋作が言う『外の人間はどうしていいか、何が正解かわからなくて』というのは僕の本音です」と語っていますが、本作ではそこから新たな着地点を見出しています。

すなわち被災者の方々と、晋作のような“外の人間”がどう向き合うかというニュアンスではなく、同じ立場で同じ目線で相手のことを思いやることの大切さに改めて気付かされ、目頭が熱くなりました。

Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

また、岸監督といえば、稲垣吾郎、新垣結衣共演の『正欲』(23)も話題になりましたが、以前からドキュメンタリーの取材や演出で被災地の人々と対話を重ねてきた監督なので、きっと本作にも並々ならぬ想いを投影したのではないかと。


昨年の元旦に起きた能登半島地震の復興も思うように進んでない中、地震はあちこちで起きていますし、南海トラフ巨大地震が今後30年以内で「80%程度」起こる可能性があるという発表も出ました。地震はいわば“対岸の火事”ではないです。そういう意味でも、1995年に起きた阪神・淡路大震災からちょうど30年となった本日1月17日(金)に本作が公開されたことも非常に意味深いなと、個人的に思いました。

いろいろな意味で、多くの方に観ていただきたい『サンセット・サンライズ』。菅田さんたちキャストによる生き生きとした人間ドラマや、三陸の魅力がたっぷり詰まっていますし、そのタイトルを雄大に表す、太陽に照らされた海のシーンもすごく尊くて、見ていて心が洗われそう。この週末、ぜひ親子で映画館へ足を運んでいただきたいです!

『サンセット・サンライズ』は公開中
監督:岸善幸 原作:楡周平『サンセット・サンライズ』(講談社文庫) 脚本:宮藤官九郎
出演:菅田将暉、井上真央、竹原ピストル、山本浩司、好井まさお、藤間爽子、茅島みずき、白川和子、ビートきよし、半海一晃、宮崎吐夢、少路勇介、松尾貴史、三宅健、池脇千鶴、小日向文世/中村雅俊…ほか
公式HP:sunsetsunrise-movie.jp

Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

文/山崎伸子

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