筆圧が下がっているから鉛筆が2Bになった?
最近よく聞かれる「筆圧が下がっているから濃い(2B)鉛筆になった」という話が筆者はとても気になっていました。

その理由はこのように語られています。
子どもたちが電子機器に触れることが多い
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文字を鉛筆で書かなくなった
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筆圧が下がって薄い字しか書けず
こんな話をよく聞きますが本当なのでしょうか?率直に質問をしてみました。
筆圧が下がった傾向はない
今回の取材時に2023年10月に朝日新聞Webに掲載された記事を見せていただきました。ここには、書写教育を研究している大学院の教授の言葉として、「以前の調査結果と近年のデータと比較しても、子どもの筆圧低下の傾向は見られない」旨が書かれています。
教授は続けて、「就学前教育が進んだことで、いまの子どもたちは幼いころから鉛筆に慣れ、筆圧の調整能力が高くなっている可能性はある。これが”薄くなっている”と言われる背景ではないか」「長く書いても疲れないとされる2Bが推奨されやすいのではないか」「大切なのは、相手が読みやすいよう適切な濃さで書くこと。それを理解した上で、自分にあった硬さを選ぶこともよいでしょう」と助言しています。
2Bの割合が増えた理由
ただし、2B鉛筆は鉛筆の売り上げの割合の大部分を示すようになってきています。それに対して広報担当者から補足として「昔は図面を書いたり、事務仕事であったりで鉛筆を使うことが多かったのですが、そこで使われていたのが基準ともなっている濃さのHB。ですが、最近のIT化に影響を受けて、HBの売り上げが急激に下がっています。それにより、鉛筆の濃さ別の売り上げ比率を求めると2Bの割合が高くなります」と説明がありました。
もう一つ、先生や学校からの推薦や指定があることで、2Bの鉛筆を用意することになっているのも大きな理由の一つです。1999年から始めた調査の結果でも2Bの鉛筆の売り上げは実際に年々上がっているそうです。
トンボ鉛筆が初めて児童への販売を目的とするキャンペーンを行ったのが1979年のこと。そのときから、学童分野では2Bの鉛筆の売り上げが1位を占めていました。芯に適度な柔らかさがあり、長く書いても疲れないとされるので、特に新入学時には2Bが選ばれているのではないかと伺うことができました。
三角軸から六角軸に移行する理由
未就学児専用に販売されている鉛筆は圧倒的に三角のものが多いです。トンボ鉛筆でも「Yo-iブランド」で「おけいこえんぴつ」を販売しています。しかし、かきかたえんぴつは「低学年用かきかたえんぴつ」「しっかりもてるかきかたえんぴつ」が三角である他は六角軸です。
3の倍数が持ちやすい

水谷さん「鉛筆は3本の指で持つので3の倍数である、三角・六角が自然に持てると言われています」
従来の鉛筆は六角形または丸いものが標準的で、日本で三角鉛筆が広まったのは比較的最近。幼児の学習教材や文具を展開する会社が広めたようです。三角軸を渡されたときに、自然と3つの指で持つように、持ち方の習慣をつけるのにちょうどいいからです。ただ、長時間使っていると徐々に書きづらさを感じてきます。
回転できないと、書きづらさを感じてしまう
鉛筆は持つ位置を固定してしまうと、芯が一方向だけ削れてしまいます。
学年が上がるとともに鉛筆で書く量も増えていき、書くほどに芯の減り方のバランスが崩れます。それでは書きづらさを感じるため、自然に「鉛筆を回して書くこと」を身につけていくため、回転角度がより大きくなる三角軸より緩やかになる六角軸に行き着きます。実際に書いてみるとわかるのですが、筆者も無意識に鉛筆を回しながら書いていました。
入学時にそろえる鉛筆は何が最適なのか
どの鉛筆が最適ですか?
水谷さん「『かきかたえんぴつ』とそれ以外の鉛筆では基本的に大きな違いはありませんので、お子さんが気に入ったものを選んでいただくのが良いと思います。ただ、学校の入学説明会で、濃さや鉛筆の形に指定をされた場合には、まずはそれに従ってください」

筆者の娘が入学前にガイダンスで言われたのは、2Bを4本、4Bを1本、赤青えんぴつ1本でしたので、その通りに渡して持たせていました。
地域差・学校ごとの差が生まれる
例えば、特に埼玉県には「硬筆書写」という鉛筆で書道のように文字を書く授業が盛んで、その時に使う専用の鉛筆も市販されています。学校によってはより濃い4Bや6Bの鉛筆で授業を受けるように指定されるといったことも他県より多いそうです。
かきかたえんぴつは子ども専用?

トンボ鉛筆の「かきかたえんぴつ」は、学校に持っていくことを前提に考えられていて、デザイン面でそのときそのときの時代の変化に合わせていたり、握りやすかったり、消しゴムで消しやすかったりといった特徴のものもあります。「かきかたえんぴつ」という表記は保護者の方々が選ぶときに安心できる目印と考えても良さそうです。
鉛筆メーカーとしての考え方
品質面の担保
大日方さん「鉛筆メーカーとして一番大切にしていることは品質面です。削ってすぐに折れてしまう鉛筆ですと使用する方の勉強や作業の妨げになります。そこで、品質を第一にして作っています。優れた品質のものをメーカーとして製造してユーザーに届ける。その先、ユーザーがどの製品で何を書くのかは自由です」
優れた製品を作っているからこそ、しっかりと断言できるのですね。
トンボ鉛筆がデザイン面で気をつけていること
水谷さん「弊社で学童向けの商品を作るときに気をつけているのが、シンプルだけれど『かわいい』『かっこいい』というデザインです」

詳しく伺うと、学校によってはキャラクターものだけではなく、柄物も禁止になっている場合があるそうです。
理由としては、低学年では授業中にキャラクターや柄に夢中になって授業を聞かなくなってしまうことがある。高学年では「キラキラした鉛筆がなくなってしまった。誰かが持っていったかもしれない」というトラブルを避けたいなどがあるようです。
水谷さん「無地であったり、シンプルでありながら、やはり気に入ったものを使って勉強に楽しく取り組んでほしいという願いもあって、小学生の流行色を取り入れた軸色の製品を作っています」

数年前には柔らかな色が児童の間で人気になっていることからパステルカラー6色のセットが大ヒット。今年の新学期に向けての最新の製品は、「かっこいい」デザインでは金や銀での単色、「かわいい」デザインでは1本の鉛筆にパステルカラー3色がグラデーションでつながるより柔らかな色の軸をリリース。どちらもホログラムで入れられた文字やマークがワンポイントとなっています。
まとめ
今まで先生に聞いてもわからなかった「筆圧低下している」という話、子どもにどの鉛筆を購入すれば良いのかという話、それぞれの答えをいただき、また、鉛筆メーカーであることの誇りも感じることができました。水谷さん・大日方さん、ありがとうございました。
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文・構成:ふじいなおみ