電動歯ブラシはどれくらいの人が使っている?
電動歯ブラシはその名の通り、電気の力で動く歯ブラシです。日本では1990年代から普及が始まり、2000年以降は口腔ケア意識の高まりを受けて普及率が増え、市場規模は現在も年々拡大しています。
その一方で、2021年にパナソニック株式会社が報告したアンケート調査では、ドイツとアメリカ、日本で電動歯ブラシの使用率を比較すると、ドイツでは半数を超える53%に達したのに対し、日本ではわずか16%にとどまり、普及率の低さが浮き彫りになりました(図1)。

つまり、日本における電動歯ブラシの需要は増えてはいるものの、まだマイナーな存在だと言えるでしょう。
その理由として、「値段が高い」「歯ぐきを傷める不安感がある」といったマイナスイメージのほか、「手磨きで満足している」という意見もあり、「電動歯ブラシを使わなくても困らない」人が大多数を占めていることがうかがえます。
では、電動歯ブラシとは具体的にどのようなものなのか、詳しく解説します。
電動歯ブラシの種類や効果

電動歯ブラシは、ブラシヘッドの動きや作り出す水流などにより、いくつかの種類に分類されます。
回転式
回転式は、丸い形をしたブラシを回転させて歯を磨くタイプです。丸型ブラシが上下運動しながら高速回転し、立体的(3D)な動きで清掃します。
他の種類よりもパワフルに磨けるため、プラーク(歯垢)を除去する力に優れている反面、歯や歯ぐきにかかる負担が大きいため、歯を優しく磨きたい人には不向きです。
過度なブラッシング圧が加わったときに自然と停止する安全機能が付いた商品もあります。
振動式
振動させたブラシで磨くタイプです。
回転式と比べると歯垢を除去する力が劣りますが、かかる圧が弱いため優しく歯を磨きたい人に適しています。
音波式・超音波式
数百~数万Hz(ヘルツ)の音波・超音波振動で細かい泡や複雑な水流を発生させ、ブラシの毛先が接しにくい狭い隙間の歯垢まで除去します。
超音波式では歯垢の除去だけでなく、歯の表面に強力に粘着したバイオフィルムも除去できるとされますが、振動自体は弱いため、通常の歯磨き同様にブラシを左右に動かして磨く必要があります。
心臓のペースメーカーなどの精密機器に対して誤作動を起こさせる可能性があるため、使用前には必ず取扱説明書で安全性の確認をしましょう。
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その他として、発生させたイオンの効果をうたう製品や舌苔を除去する効果がある舌ブラシも備えた製品など、AIも搭載されて多機能化が進んでいます。しかし、実際にどれを使えばいいか、どれが自分に合っているのか、判断に迷うのではないでしょうか?
電動歯ブラシはどのように選ぶ?
電動歯ブラシのメリット・デメリットを挙げますので、しっかり理解した上で商品選択するときの参考にしてください。
メリット1)手用の歯ブラシより短時間で効率的に磨くことができる
手では不可能な、細かくて速い動きや振動が可能なため、少ない労力でスピーディーに歯磨きすることができます。
メリット2)手が不自由でも歯磨きができる
手先が不自由、握力が弱い、ハンディキャップがあるなど、手用歯ブラシでは歯磨きが困難な人でも歯をキレイにすることが可能です。

デメリット1)手用の歯ブラシより高価・重い、電力源が必要
性能や仕様にもよりますが、1000円未満から数万円に至るまで幅広い価格帯があります。また、ブラシ部の交換が可能な商品では、替えブラシの費用もその都度かかります。
一方、本体にはAIが内蔵されるなど、精密機器が使われているため重量が重くなるだけでなく、電力源も必要です。
デメリット2)ブラシの振動が苦手な人がいる
機械による人工的な振動に馴染めない人がいます。使い続けると慣れることもありますが、人それぞれだと言えるでしょう
デメリット3)下手に使うと歯ぐきを傷めるなど、逆効果も
うまく使えば効果的な電動歯ブラシですが、使い方次第では歯や歯ぐきを傷付けることもあります。特に、腫れや痛みのある炎症を起こしている歯ぐきは、ブラシの機械的刺激に対して弱くなっているため、パワフルな電動歯ブラシには要注意です。
デメリット4)「歯磨きできた」と錯覚するリスクも
電動歯ブラシを使ったら、それだけで「十分磨けた」と思い込んでしまい、多くの磨き残しができてしまうことがあります。
電動歯ブラシは、子どもでも使えるの?
現在、子ども用の電動歯ブラシはいくつか市販されており、日本学校歯科医会の推薦品の中に含まれる商品もあります。子ども用電動歯ブラシの特徴として、いくつか挙げてみましょう。
・3歳頃から使える商品がある。
・子どもでも持ちやすいように軽い。
・人気キャラクターやカラフルな色など、楽しく歯磨きできる仕様のものが多い。
・ブラシヘッドが子どもの口の大きさに合うように、小さくて厚みが薄く、幅が狭い。
・歯に強く押し付けると安全アラームが鳴る。
このように親が行う仕上げ磨きだけでなく、子ども自身でも使いやすい工夫がされており、効果的に使うと虫歯予防効果が期待できます。
ただし、正しい歯磨きを習得する前に電動歯ブラシで楽な歯磨きに慣れてしまうのは、好ましくありません。
子どもはもちろんですが、大人でも手用の歯ブラシによる正しい歯磨き法を習得してから、安全かつ効果的に電動歯ブラシを使うようにしましょう。

電動歯ブラシは本当に歯をキレイにできるの?
2005年に鶴見大学歯学部の研究グループが、電動歯ブラシと手用歯ブラシの歯垢除去効果について比較した文献を解析し、統計を出しました。
その結果、矯正装置を装着した患者では電動歯ブラシのほうが効果的だったとする文献数が6であったのに対して、手用歯ブラシは1、同様に小児では電動歯ブラシの5に対して手用歯ブラシが0となりました。
すなわち、全体としては電動歯ブラシのほうが、手用歯ブラシよりも清掃効果が高いことが示唆されました(図2)。

しかし、電動歯ブラシを使っても意外に効果が認められなかったとする報告が少なからず含まれることから、使い方次第で電動歯ブラシの優れた効果を発揮できない可能性があることが分かります。
ですから、電動歯ブラシを有効活用するために、磨きたいところにしっかり歯ブラシの毛先を当てるという基本を守るようにしてください。
また、電動歯ブラシを使う場合でも、その効果を過信せず、歯の間は歯間ブラシやデンタルフロスなどの補助清掃用具を使って、清掃効果を上げるようにしましょう。
ちなみに、筆者は手用歯ブラシ派です。難しい理屈は抜きにして、単なる好みといったところでしょうか。シャカシャカと自分で磨く感覚に慣れ親しんでいますから、特に不自由を感じませんしね。
皆さんも、自分の好みやライフスタイルに合った歯ブラシを選んで、効果的に活用するようにしましょう。
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記事執筆

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。X(旧Twitter)も更新中。HugKumでの過去の執筆記事はこちら≪
参考:
・パナソニック株式会社:日本・アメリカ・ドイツのオーラルケア事情を徹底調査.2021.
・鈴木丈一郎:電動歯ブラシ UPDATE.デンタルハイジーン31(11):1181-1185,2011.
・新井高:電動歯ブラシと手用歯ブラシのプラーク除去と歯肉の炎症への効果.日歯周誌47(1):1-10,2005.