歴史好きキッズも楽しめる! 夏休みの旅行におすすめの国内の世界遺産6選! 世界遺産検定マイスター・尾之上剣成さんが厳選

夏休みの旅行先はもう決めましたか? 実はまだ悩んでいる…というご家庭は、ぜひ世界遺産という視点で旅先を選んでみてはいかがでしょうか?
今回は、世界遺産検定マイスターの資格を持つ尾之上剣成さんに、夏休みの旅行先としておすすめの世界遺産を厳選していただきました! 歴史好きキッズも大興奮のお城や、存在は知っていたけど「魅力は何?」と思っていた場所まで、見るべきポイントや事前準備のことまで詳しく教えていただきました。ぜひ参考にしてみてくださいね。

そもそも世界遺産って?

世界遺産とは、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が定める「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づいて登録された、遺跡、建造物、自然などのこと。人類共通の財産として、国際的に守っていこうと定められています。

世界遺産は3つに分類されます 

世界遺産は大きく分けて①文化遺産 ②自然遺産 ③複合遺産の3つに分類されます。
これらの世界遺産は、各国の推薦に基づいてユネスコの世界遺産委員会によって登録され、大切にすべき宝物として認められているんです。

世界遺産の魅力はタイムスリップできること⁉︎

大学入試の共通テストの問題で、『ル・コルビュジエ(20世紀を代表するフランスの建築家)』の作品が出てきたことで世界遺産に興味を持った尾之上さん。世界遺産の魅力は、地球の歴史を目で見て確認できることだと言います。「世界遺産を見にいくたび、私はその時代に”タイムスリップ”した気分になります。お子さんにも、ぜひ現地で昔の気分を味わってみてほしいと思います」

世界遺産検定で、1級よりも上位となるマイスターの資格を持つ尾之上剣成さん。検定時にはマイスターの最高得点を獲得し世界遺産アカデミー賞を受賞。現在大学3年生。

なぜ世界遺産に認定されたのか、ポイントを押さえて見に行こう!

せっかく世界遺産を見に行くなら、細かく調べてからと思う方もいるかもしれませんが、現地の資料館や自然センターなどで学ぶことも可能だそう。「あまり気負わずに関連する出来事や、その時代に生きた人の伝記や漫画などを読む程度でも大丈夫です」と尾之上さん。

唯一押さえていると良いのは、「どんな理由で世界遺産に認定されたのか(世界遺産の登録基準)」。これを押さえておくと、見るべきポイントが明確になって理解が深まりやすくなるそうです。
※世界遺産10の登録基準は最後にまとめてありますので、気になる方はチェックしてみてください!

それでは早速、尾之上さんがおすすめの国内の世界遺産を、実際に訪れたときのお写真も含めて6つご紹介します。

夏休みにおすすめ! 歴史好きキッズも喜ぶ日本国内の世界遺産5選

1.姫路城(兵庫県) 登録基準:①、④

JRの姫路駅を降りると、目の前に『姫路城』がドーンと構えているので、圧倒されます!(尾之上さん撮影)

尾之上さん:私のイチオシは『姫路城』です。『姫路城』は日本で最初に世界遺産に登録されました。(姫路城と同時に法隆寺、屋久島、白神山地の4つが世界遺産に認定)

別名『シラサギ城』とも呼ばれる白漆喰が美しいのが魅力ですが、防衛能力も見どころです。『姫路城』の壁には、狭間(さま)という三角、四角、丸などの穴が空いているのですが、そこから鉄砲や槍などで敵を攻撃ができるようになっていたり、急に傾斜が変わる石垣は、登りにくくする工夫がされていたりします。

さらに、石垣と白漆喰の間にある四角い隙間からは石を落とせるようになっていて、天守閣までたどり着くまでが迷路のようになっていることにも驚かされます。ぜひ、お子さんは当時の武将になった気分で歩いてみてください。

『姫路城』周辺は開発が規制されている地域で、全体の景観美が計算されて作られています。そういったところも、世界遺産として登録される理由でもあるので、注目していただければと思います。

2.原爆ドーム(広島県) 登録基準:⑥

戦争の悲惨さを、その存在で伝える『原爆ドーム』 (尾之上さん撮影)

尾之上さん:広島にある『原爆ドーム』は、それ自体を見るだけでも当時の惨劇が伝わってきますが、資料館にもたくさんの記録が残っています。

世界遺産学習を通じてさまざまな文化や歴史を理解・尊重することが世界平和につながるため、世界遺産は”平和の象徴”とも言えるので、子どもたちにも一度は行っていただきたい場所だと思っています。

小学生ならば、戦争の映画や漫画、物語などの本を読んでから行くと、「この川にみんなが飛び込んでいったんだろうな…」とか、「これがあの場所か」と、イメージが膨らみやすくなると思います。

広島駅から行く際は、『原爆ドーム』を見てから平和記念公園を通り、公園のモニュメントを見ながら、資料館へ行くルートがおすすめ

資料館ではモニュメントのことも学ぶことができますし、原爆のことを学んでから最後にもう一度『原爆ドーム』を見ると、最初に見たときには気づかなかったところにも気づくことができます。

3.厳島神社(広島県) 登録基準:①、②、④、⑥

引き潮のときには鳥居の近くに行くことができます。(尾之上さん撮影)

尾之上さん:広島にはもうひとつの世界遺産『厳島神社』があります。社会科の資料集などでも見たことがあるお子さんもいると思いますが、実際に見るとその鳥居の大きさに驚きます!

今ある鳥居は9代目。実はこの鳥居、海の中に置いてあるだけで、地中に埋まってはいないんです。鳥居の笠木と島木に石が詰まっていて、それが重りになっているだけという仕組みです。

『厳島神社』が世界遺産に登録された理由のひとつに、日本人の精神文化であることが挙げられています。平安時代から、厳島(宮島)は島自体が崇拝の対象となっており、人々は島の中の弥山(みせん)という高い山を信仰していました。

そこで、御神体に建物を建てるのは失礼だということで、海の上に神社を建て、弥山を「築山(つきやま)」、瀬戸内海を寝殿造りにおける池に見立て、平安時代の建築様式『寝殿造』に見立てていると言われています。

お楽しみのひとつとして、『厳島神社』ではぜひおみくじを引いてみてください。他の神社にはない「平」という結果が出ることもあります。また、広島は食べ物がおいしい場所。お子さんと、もみじまんじゅうや瀬戸内海で獲れる牡蠣などのご当地グルメも楽しんでください。

4.大浦天主堂(長崎県) 登録基準:③

美しいステンドグラスは必見です。(尾之上さん撮影)

尾之上さん:日本に居ながら日本ではないように感じられる場所。ここにはオランダやポルトガルなどのヨーロッパ諸国からさまざまな文化が伝わってきた歴史がたくさん残っていますが、そのひとつに『大浦天主堂』があります。

『大浦天主堂』は現存する日本最古の教会であり、当時迫害されていたキリスト教信者が信仰を続けていた場所です。建物はとても珍しく、中に入ると100年以上前のステンドグラスを見ることができます。

この場所を訪れると、当時の人々のなかでどのような文化が流行していたのかを地域全体で感じることができ、まさにタイムスリップしたかのような感覚を味わうことができます。

5.屋久島(鹿児島県) 登録基準:⑦、⑨

ご紹介する中で唯一行けていないという『屋久島』。これから行きたい場所のひとつだそう。

尾之上さん:夏の旅行なら、自然遺産の中のひとつ『屋久島』もおすすめです。登録基準は⑦と⑨なので、景観美と独特な生態系に注目してほしいと思います。

『屋久島』にある宮之浦岳という山は、頂上と麓では気候が全然違います。頂上付近では高山植物が見られ雪も降りますが、麓の方は亜熱帯性。生き物や植物も独特です。夏は海岸でウミガメの産卵も見られるので、大人気の場所です。

また、ジブリの『もののけ姫』の舞台になっているところも、アニメが好きなお子さんには魅力的かもしれません。昔は『屋久島』も陸続きになっていました。長い年月をかけて、陸から離れ、海の中に沈んでしまったり、それがまた隆起したりしてできた島です。そんな地球の歴史にも目を向けて見てほしいと思います。

『屋久島』の自然といえば縄文杉も有名です。しかし『屋久島』は“月に35日雨が降る”と例えられるほど、雨の多い土地ですので、お子さんと見に行く際にはぜひ雨対策も行ってください。

6.富士山 登録基準:③、⑥

子どもの頃から見てきた『富士山』。今後も大事にしていきたい(尾之上さん撮影)

尾之上さん:最後は、私の地元 静岡県から見える『富士山』です。夏の富士山は雪がなくなりますが、その景色もすごく美しいです。特に、羽衣伝説がある『三保の松原』から見る『富士山』は絶景です。

『富士山』の登録基準は③と⑥。信仰の対象と芸術の源泉として評価されています。また、江戸時代には浮世絵にも登場し、海外の芸術家にも影響を与えています。

『富士山』の信仰形態は、遠く離れた場所から拝む『遥拝(ようはい)』と、登ることで拝む『登拝(とはい)』の二種類あります。今は登山しようと思えばできますが、昔は麓まで行くことが簡単にできなかったうえ、神聖な場所で安易に登ることができなかったため『遥拝』が広まりました。

最近は、登山をする方々が軽装で登ってしまって事故に遭ったり、ゴミを捨ててきてしまったりと、マナーが問題視されています。これにより世界遺産としての価値が危ぶまれていますので、皆さんも登る際にはマナーや準備をしっかりしてから登ってくださいね。

世界遺産の10の登録基準

世界遺産に認定される際の基準をご紹介します。気になる世界遺産があれば、その登録理由をぜひ調べてみてください。

文化遺産 6つの登録基準

①人類の創造的才能を表す傑作:
人類の創造的な才能を表現した傑作であること。
②建築や都市計画、景観設計における交流:
ある時代や地域の文化交流を証明する、建築、芸術、都市計画、景観設計の発展における重要な価値を示すもの。
③ある文明の証拠:
過去の文化や文明を証明する、唯一または稀有な証拠となるもの。
④人類の歴史を示す建築物や景観:
人類の歴史における重要な段階を示す建築物や景観の代表的な例であること。
⑤伝統的な集落や土地利用の例:
伝統的な集落や、人間と環境の関わりを示す例であること。
⑥出来事や思想、信仰、芸術に関連するもの:
顕著な普遍的な価値を持つ出来事や、現存する伝統、思想、信仰、芸術と、直接的または明白に関連するもの。

自然遺産 4つの登録基準

⑦地形や地質:
顕著な普遍的な価値を持つ、地形や地質、あるいは地形の変化を示すもの。
⑧生態系:
地球の生態学的、生物学的進化や発展の顕著な例であるもの。
⑨自然景観:
類まれな自然美や美的価値を持つ、自然現象や地域を含むもの。
⑩生物多様性:
生物多様性の保全において、絶滅危惧種を含む生物の生息地として重要なもの。

これらの基準は、世界遺産として認められるための重要な要素であり、文化遺産と自然遺産でそれぞれ異なる基準が設けられています。

世界遺産は“人類の宝物”! お子さんと一緒に訪れてみては?

「世界遺産は、世界平和のために守られるべきものでもあり、いわば“人類の宝物”」と語る尾之上さん。今後も、世界中の世界遺産を見に行くと同時に、大好きな『富士山』の魅力について海外の人に知ってもらう活動や、世界遺産としての価値が維持できるようなサポート活動も行いたいそうです。

長い夏休み。旅行先は、子どもの学びの視点も合わせて選んでみてはいかがでしょうか?

お話を伺ったのは

尾之上剣成 世界遺産マイスター・世界遺産アカデミー認定講師

静岡県出身。第56回世界遺産検定試験にて1級を取得。第58回の検定でマイスターを取得した際に、最高点を獲得して世界遺産アカデミー賞を受賞。現在大学3年生。

取材・文/鬼石有紀

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