飲み方次第で、ペットボトルは雑菌だらけに!
ペットボトルは軽くて割れにくく、キャップをしっかり閉めれば中身が漏れる心配がないため、多くの人が日常的にドリンク飲料で利用しています。
しかし、缶のドリンクならばフタができない(あるいは、しにくい)ため、すぐに飲み干す必要がありますが、ペットボトルはフタができるため、口を付けて飲んだ後に飲み残して放置してしまうことはありませんか?
ここで気をつけたいのは、ペットボトルなどの飲料を直接口を付けて飲む、つまり直飲みした場合、口内の細菌が容器内に入り込んでしまう危険性が高いということです。
しかも、ドリンク内にはさまざまな成分が含まれるため、細菌の種類によってはそれらを栄養源に莫大に増殖し、飲料の品質が落ちたり腐敗したりして、下痢や嘔吐などの食中毒症状が出る可能性が考えられます。
では、実際にペットボトルの中で、細菌はどれくらい増えていくのでしょうか。
飲料の種類により細菌の増え方が異なる

2024年に栃木県宇都宮市の衛生環境試験所が、ペットボトル飲料を直飲みした後の細菌数の変化を調査し、ホームページ上で報告しています。
この調査では、5種類のペットボトル飲料(ミルクコーヒー、麦茶、スポーツ飲料、果汁100%オレンジジュース、緑茶)を使用し、容器に口を付けて半分程度飲み、残りを夏場の室内の気温を想定した30℃の孵卵器(ふらんき)に静置しました。その後、飲んだ直後から48時間後までの一定時間の経過後に、それぞれの菌数を計測しました。
その結果、最も多く細菌が増殖したのはミルクコーヒーでした。飲んだ直後はあまり変化がないものの、6時間を過ぎた頃から菌が徐々に増え始め、24時間後には930万、48時間経過後にはさらに30倍以上の3億個の細菌が確認されました。
このように爆発的に増殖した原因として、ミルクコーヒー内には細菌のエサとなる糖分やタンパク質などの栄養素が豊富に含まれていることが考えられます。
また、麦茶の菌数は24時間後には約3倍となる9100個になり、48時間後には約10倍となる30000個まで増殖しました(図1)。

この増殖の原因として、麦茶の原料である大麦には細菌の栄養源になる炭水化物が比較的多く含まれていることが考えられました。
一方、緑茶やオレンジジュース、スポーツ飲料では菌の増殖が認められず、逆に減少する傾向が認められました。
その理由として、緑茶には菌の増殖を抑えるカテキン成分が含まれること、オレンジジュースやスポーツ飲料では強い酸性のため菌の増殖が抑制されたことなどが推測されます。
このようにドリンクに含まれる成分で菌の増え方は異なりますが、飲料水の場合は大丈夫なのでしょうか?
ペットボトルの水は放置してもいいの?

高度に消毒処理された水道水ではなく、天然のミネラルウォーターのペットボトルを直飲みして放置したら、どうなるのでしょうか。2022年に鹿児島県の学校給食会が報告した調査内容を紹介しましょう。
この調査では、市販のミネラルウォーターを直飲みした後、冷蔵庫(5℃以下)、クーラーをかけた室内(約26℃)および屋外(約37℃)でそれぞれ5時間放置しました。
その結果、冷蔵庫で保管したものは24個/mlとなったのに対し、室内では44個/ml、屋外では180個/mlに増殖しました(図2)。

つまり、温度の高い条件では放置しないほうが安全であることがうかがえます。
一方、2023年にウェザーニュースが実施したアンケート調査では、男女約1万人を対象に、ペットボトル飲料を直飲みした後、飲み残したらどうするかについて尋ねました。
その結果、男女とも半数以上が冷蔵庫で保管すると回答しましたが、室温で保管する人も少数ながらもおり、特に男性では女性の2倍に達することが明らかになりました(図3)。

室内保存は水でも安全でなく、しかも他の成分を豊富に含むミルク飲料などは、さらに危険です。飲み残しがある場合は、速やかに冷所保存するようにしましょう。
菌が増えるとペットボトルが破損する!?
直飲みのリスクは、これまで記した衛生面の危険性だけではありません。口から飲料中に侵入した微生物によって、ペットボトルが破損する事故の事例も報告されているのです。
微生物の中でも酵母菌(パンを膨らませるパン酵母の仲間)が増殖して発酵すると、多量の二酸化炭素(CO₂)が発生してペットボトルの内圧が上昇します。
その結果、ペットボトルが膨張し、ひどい場合は破裂して破損した破片により骨折や目の損傷などのケガをした事例も報告されています。国民生活センターのホームページでは、いくつかの事故事例が記載されています。
一方、2018年に和歌山県立医科大学・保健看護学部のグループが報告した研究では、看護系大学生がペットボトル飲料を飲み干すまでの時間を調査しています。
その結果、4時間未満はわずか8%にとどまり、40%近くが12時間以上という長い時間をかけて飲み干していることが明らかになりました(図4)。

菌の増殖は時間の経過とともに強まる傾向があるため、ペットボトル破損のリスクも上昇します。そのような観点からも、外傷による安全面も含めた飲み方の対策が重要だと言えるでしょう。
ペットボトル飲料の安全な飲み方の提案
内閣府・食品安全委員会の資料では、「ペットボトル飲料は、できるだけ一度で飲みきるのが望ましく、もし何度かに分けて飲む場合は、口をつけずにコップに注いで飲むようにしてください」と呼びかけています。
ペットボトル飲料を飲む際の注意事項をいくつか挙げてみましょう。
1) なるべく早く飲みきる
直飲みだけでなく、ペットボトルは開封した時点で、空気中に浮遊している微生物が侵入する可能性があります。
直飲みはなおさら菌の混入リスクが高まりますので、開封したらできるだけ早く飲み干すようにしましょう。
2) 飲みきれないときは、冷所に保存する
気温によっては菌が爆発的に増殖しますので、特に暑い季節など、数時間でも放置する場合は、冷蔵庫やクーラーボックスなどの冷たい場所に保管することを心がけてください。
虫歯菌のミュータンス菌のように強い酸性の環境下でも生き延びることができる菌も少なくないので、ジュースやスポーツ飲料でも油断しないように対応してください。
3) コップに注いで飲む
直飲みをせず、コップに注いで飲むように心がけましょう。
キャンプなどのアウトドアで大人数が飲む場合は、使い捨てできる紙コップが便利ですので活用するようにしてください。

4) 飲み終わったコップは必ず洗う
紙コップは適切な廃棄場所に捨てる、あるいは持ち帰って処分することが大切ですが、ガラス製などの再利用できるコップやグラスは、飲んだ後に必ず洗剤で洗ってしっかり乾燥させましょう。
洗わずに繰り返して使用した場合は、コップに付着した菌が飲料に混入する可能性がありますので要注意です。
もちろん缶のドリンクも、なるべく早く飲みきるのが基本です。適切な飲み方で安全に水分補給をしてくださいね。
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参考:宇都宮市・衛生環境試験所:口をつけたペットボトル飲料、飲み残しは飲まない方がいい?.2024年3月8日配信.
:公益財団法人鹿児島県学校給食会:口をつけた“飲みかけペットボトル”細菌の増殖に注意!.食品検査室だより うみなぎ.2023年7月号.
:ウェザーニュース:口をつけて飲んだペットボトル、飲み残したらどうする?.2023年7月11~12日調査実施,2023.
:森岡郁晴ほか:ペットボトル飲料の直接飲用による細菌汚染状態と看護系大学生の汚染意識.日衛誌73;373-378,2018.
:内閣府・食品安全委員会:生活の中の食品安全-ペットボトル、飲み残しに気をつけよう-その1.2017年5月12日配信.

