【偏差値33からの逆転中学受験】「落ちたとき」がすべての始まりだった。僕の中学受験リベンジ記録・最終回

源先生の教え

「こんなにやったんだから、受かると思ってた――」。ゲームや友だちと遊ぶことも我慢して、人生の中で一番勉強した。なのに、第一志望校の「思考型入試」は不合格。絶望の中で、僕は自分の甘さに気づいた。悔しさを力に変え、20日後に迎えた一般入試。そこには、別人のように成長した自分がいた――。

【前回までの流れ】

●不安や焦りに振り回されず、今できることに集中する。
●試験に向かうときは、時間に余裕を持ち、持ち物を確認してから向かう。
●第一志望校に集中するために、「すべり止めの合否は見ない」とはじめに決めておく。
●「不安」があれば取り除く工夫が必要。小さくても自信をつけることが大切である。

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【偏差値33からの逆転中学受験】不合格から8日。すべり止め受験当日に恐怖のトラブル発生「アレがない!!」

第一志望校の一般入試まで、残された時間はわずか20日。冬休みに入っても、僕の生活はほとんど受験一色だった。

12月に受けた「思考型入試」での不合格。あの悔しさが、ずっと胸の奥に残っていた。思い返してみると、あのとき「自分は受かるかもしれない」と都合よく思い込んでいた。その理由は、自分の人生の中でこれほど机に向かって勉強したことはなかったし、ゲームも我慢したし、友だちと遊ぶことも我慢した。「こんなにやったんだから、大丈夫だろう」と高をくくっていたのだ。

でも、あとになって気づいた。わからない問題をそのままにしていたし、何の根拠もない自信を持ち、合格すると思い込んでいただけだった。

今度こそは、ちゃんと準備して試験に臨みたい――。思考型入試で不合格になって以来、僕の中で何かが変わった。

鬼門の算数と理科を中心に、毎日毎日、源先生と向き合った。大晦日と元旦を除いて、すべての日を勉強に注いだ。わからないところは残さず、過去問も5年分を3周解いた。

それでも、源先生にちょっとひねった問題を出されると、たちまち解けない…。先生からは「根本的にわかってないんだよ」と突っ込まれることもあった。でも、そのことが後々とても役に立った。

焦りはあったけど、「絶対に受かりたい」という気持ちが、僕の背中を押していた。

天満宮へのお参り|2時間歩いて、合格を願った元旦の朝

塾の友だちの多くが元旦には合格祈願に行くというので、僕もお母さんと行くことにした。ただ、合格祈願をするのではなく、歩いて行くことに決めた。それは、苦しい思いをしたほうが、なんとなく願いをかなえてくれるんじゃないかと思ったからだ。

元旦の朝、僕は凍てつく寒さの中、ダウンジャケットを着こんで外に出た。向かうのは、家から10キロほど離れた天満宮。学問の神様・菅原道真が祀られている神社だ。

深夜2時の暗闇の中、お母さんと2人、黙々と歩きだした。冷たい空気がほおに刺さるようだったけれど、不思議と気持ちは澄んでいた。

歩きながら、これまでのことをいろいろと思い返した。友だちと遊ぶために通い始めた塾。だけど宿題もやらなければ、復習もしない。先生から注意されると答えを写して提出し、まったく塾に行く意味なんてなかった。

そういう自分のいい加減さが、今になって跳ね返ってきたこと――。歩けば歩くほど、昔の自分の情けなさに腹が立った。もし、そのときに戻れるなら、自分をこっぴどく叱ってやりたい。

ようやくたどり着いた天満宮で、僕は絵馬にこう書いた。
「絶対にS中学校に合格できますように!」

そして、心の中でそっと付け加えた。
(もう、悔しい思いはしたくない。ちゃんと努力してきた。だから、どうか僕の気持ちが届きますように。受験の神様、お願いします)

冷え切った手を合わせ、強く強く、祈った。

第一志望校の入試前夜|あの日の「浮かれた自分」とは違う

第一志望校の一般入試を翌日に控えた日、僕と母は前回と同じホテルにチェックインした。思考型入試のときに泊まったホテルだ。あのときは、どこか気持ちがゆるんでいた。ビュッフェに並んだたくさんの種類の料理にはしゃぎ、ホテルの大浴場に浮かれて、まるで小旅行のように楽しんでいた自分がいた。

でも今回はそんなことはなかった。チェックインをして部屋に入ると、15時半から源先生にZoomで苦手な算数と理科の授業をしてもらう。食事もそそくさと終えて、その後もさらに授業を続けてもらった。

源先生は「やるべきこと、押さえるべきことは全部できている。それでも不安なところがあったら聞きなさい」と言われたので、算数の「整数の性質と規則性」「立体図形と平面図形」を確認した。

23時にベッドに入り、緊張してなかなか寝付くことはできなかったが、疲れもあったのか気づいたら眠っていた。

朝は5時前に起きて、6時から源先生と最後の作戦会議。試験に向けての心構え、特に算数と理科に対して、「難しい問題が出てきたとき、すぐにわからないときには、後回しにして、できる問題から解きなさい」「算数の途中式をメモしておけば、見直しができる」と僕の欠点を的確に見抜き、アドバイスをしてくれた。

7時になったところで、ビュッフェで朝食をとるためレストランに向かった。特に緊張することもなく、普段通り食欲があり、好きなものを十分に味わって、試験に向かうためのエネルギーにした。

ホテルに出ると、冷たい北風が吹いていたけれど、気合を入れて僕は試験会場へと足を進めた。

第一志望校の入試本番|「鬼門の算数」でつかんだ手応え

「行ってくる」
そう言って、僕はお母さんと別れて試験会場に入った。

いよいよ、本番。最初の科目は国語。これまでに解いてきた過去問とほぼ同じようなレベルの問題だった。頭の中では、源先生が伴走者のように「問題文はていねいに読みなさいよ。はや飲み込みをしてないか?」と問いかけてくるようだった。焦らず、落ち着いて取り組めたと思う。

源先生からのアドバイス
源先生からのアドバイス

そして、次はいよいよ苦手な算数。源先生から「算数が合否を分ける」と何度も言われてきた、「鬼門の科目」だ。答案用紙をめくった瞬間、驚いた。

――これ、昨日先生と解いた問題に似てる!
1問目、2問目、3問目…、先生と練習した過去問に出てきた出題確率の高い問題だった。
しかも、直前のZoom授業で確認した内容が、そのまま出題されていた。

「できる、できる!」
そう思った直後、源先生の「しょうもないミスで間違えたら、その問題に費やした時間はパーだぞ!」という声が聞こえてきた気がして、落ち着いて、途中式を書きながら、ていねいに解いていった。

いつもは焦って飛ばしがちなところも、先生のアドバイスを思い出して冷静に取り組んだ。

昼休み。「今日は、今まででいちばん算数ができたかもしれない!」そう思ったら、自然と気持ちが軽くなった。

午後の社会は、これまで通りの内容で大きな戸惑いもなく解けた。理科は少し難しい問題もあったけれど、「これはできる」と思った問題にはきちんと向き合えた。

振り返れば、この1か月で何度も過去問を解き直し、間違えた問題をやり直してきた。あの努力が、ようやく自分の中で「手応え」という形になって現れてくれた気がした。

試験が終わった帰り道|笑顔が止まらなかった理由

試験がすべて終わり、校舎を出ると、お母さんが待ってくれていた。お母さんの顔を見た瞬間、僕は表情がゆるみ、ニヤニヤとしてしまった。

その顔を見たお母さんから「どうしたの、ニタニタして?」と聞かれ、「算数がめちゃくちゃできたんだ! 昨日、源先生とやった算数の問題がいくつも出てさ、4教科の中でいちばんできた!」と言った。

お母さんは「本当なの!?」と言うから「算数の試験のときは、周りの音が聞こえないくらい集中できたんだ」と話した。それでも、お母さんはどこか半信半疑の様子だった。

飛行場に向かう電車に乗ると、周りは同じように受験を終えた子どもたちと、その保護者でいっぱいだった。周囲からは「理科が難しかったよ」とか「社会であれが出た」など悲喜こもごもの声が飛び交っていた。

けれど、僕は算数ができたことがうれしくて、すっかり舞い上がっていた。顔がゆるみっぱなしだった。そんな僕をよそに、お母さんはこれまでの疲れが出たのか眠ってしまった。それでも、僕は興奮がおさまらなかった。そこで、「帰宅したら、すぐに源先生に答え合わせしてもらおう!」と思い、問題用紙を出して、忘れないうちにどの問題にどう答えたかを書き込んでいった。

やがて電車が空港に到着し、搭乗手続きを終え、飛行機に乗るまでの間、少し時間があった。そのとき、お母さんが「お母さんはずいぶん前に結果を知っているんだけど、第2志望の合否を確認する?」と話しかけてきた。前は早く知りたいと思っていたけれど、このときはドキドキもワクワクもせずに「うん」と返事をした。

お母さんのスマホで結果を確認すると、合格していた。「もし、今日の試験がダメだったとしても大丈夫だね!」と安心感が広がった。その後、飛行機の中では泥のように眠ってしまった。

帰宅後、すぐに答え合わせ|ついに見えた合格圏

家に帰ると、翌日には源先生の元へ向かった。あいさつもそこそこに、僕はバッグから問題用紙を取り出した。

「先生、これ! 答え合わせしてほしい!」
源先生はすぐに僕のメモを見ながら採点を始めてくれた。緊張しながら先生の顔を見ていると、やがて先生が言った。

「おお、これは……算数、過去最高じゃないか!
そのひと言に、心の中でガッツポーズをした。続いて理科もチェックしてくれた。苦手だった理科も、これまでのどの模試よりも点が高かった。

「全体で見ると……去年の合格最低点より、20点は上回ってるな」
ついに、「合格圏」に届いた。

この1か月間、遊ぶ時間も眠る時間も全部削って、ただ合格のために走り続けてきた。それが、ちゃんと結果として表れた。

「できた」という感触はあったけど、どこか自信がなかった。けれど、こうして源先生に採点してもらったことで、「もしかしたら、受かるかもしれない!」という気持ちが強くなった。

でも、お母さんは先生が採点してくれたにも関わらず、「発表があるまで、私は信じない。だって、翔太が『できた』と言っても、点がよかった試しがないんだから…。私は発表があるまで喜んだりしない」と言っていた。

僕は合格発表の日が待ち遠しくて仕方がなかった。

ついに合格発表の日 |「合格」の二文字に、声が出た

合格発表の日は朝から、何をしても落ち着かなかった。前日の夜も興奮してなかなか眠れず、寝不足のまま起きたのは、いつもより30分も早い時間だった。

「10時まで、あと何分だろう?」
時計を何度も見ても、時間はなかなか進まない。朝ごはんの味も、まったく覚えていない。ついに、発表の30分前。僕はパソコンの前に座った。とはいえ、ただ画面を見つめるばかりで、落ち着かない。

そして、10時ちょうど。
「自分で見る」と宣言して、手が震えるのをこらえながら、合格発表のページをクリックした。

――その瞬間、画面に浮かび上がった「合格」の二文字。
「やったーーーっ!!!」
気づいたら大声で叫んでいた。そして、そのまま声が詰まって、涙があふれてきた。1分…3分…大きな声を上げて、僕は泣き続けた。気持ちが落ち着くまで、5分くらいは泣いていたと思う。横でお母さんも、目を赤くしていた。

僕は、とうとうやり遂げた。思考型入試で落ちたあの日から、ずっと「リベンジしたい」と思っていた。それが今日、現実になったのだ。どんなに苦しかった日々も、この瞬間のためにあったんだと思えた。

「達成感ってこういうことなんだ」ということもわかった。

中学受験を終えて|苦しかった日々が、自信に変わった

合格発表から数日が経ち、ようやく日常が戻ってきた。僕が難関校に合格したといううわさが周囲に広まっていくと、徐々に周りの僕を見る目や態度は変わった。

身近なところで祖父母は「翔太に中学受験は早いんじゃない、高校受験でいいんじゃないの?」と言って反対していたにも関わらず、合格すると近所には言いふらし、「さすが私たちの孫だ!」と悦に入る有り様。

日頃から「底辺クラス〜」と言って馬鹿にしていた友だちは手のひらを返したように、「お前って、本当は頭よかったんだな」と急に取り巻きが多くなった。挙げ句の果てには、これまで「翔太っ」と呼び流していた担任の先生までもが「翔太くん」と呼び方が変わり、クラスの保護者の間でもしばらくの間僕の話題は一大トピックとなっていたようだ。

世間の評価や見る目ってこんなにも変わるものなのか…、とつくづくと思い知らされた。

一方、僕は、明らかに「自分は変わったこと」を実感していた。それは、自分に自信が持てるようになったことだ。中学受験に合格するまで、僕は何一つ誇れるものを持っていなかった。

けれど、難関校に合格したことで、「あきらめずに努力すれば、夢はかなうんだ」という体験をした。「どうしても入りたい学校」を決め、その学校に入るために何をすべきかを明らかにし、日々努力する。これは、「念願は人格を決定する」「継続は力なり」という古人の教えにつながる。

・わからないのに、わかったふりをする。
・やるべきことをすぐにやらず、先送りにする。
・面倒くさいことを避ける。

それらは必ずしっぺ返しとなって、自分が苦しむことを悟った。

そういう自分を変えなきゃ、合格なんて絶対に無理だった。でも僕は、少しずつ積み上げて、最後には自分の「壁」を越えることができた。

これからも苦しいことはあるだろう。そんなとき、僕は中学受験の苦しかった経験を思い起こして、乗り越えていきたいと思う。

今回の「僕の逆転 中学受験」の学びと反省
●「わかったつもり」では通用しない
理解した気になっているだけでは、本番で力は発揮できない。わからないところは必ず残さず、徹底的に見直すことの大切さを痛感した。


●自信は「努力の積み重ね」の先にある
自信は、自分に都合のいい解釈からではなく、地道な努力の積み重ねから生まれるものだと学んだ。


●「変わりたい」と思ったときが、変われるとき
思考型入試の不合格がきっかけで、本気で「変わろう」と思えた。逃げずに自分と向き合い、行動を変えることが逆転への第一歩だった。

【偏差値33からの逆転中学受験】を最初から読む

https://hugkum.sho.jp/645273

僕の母目線で書かれた【シングルマザーの中学受験・奮闘実録】はこちら

https://hugkum.sho.jp/705958

執筆/清宮翔太

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