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裁判所に「親権者の変更」の申し立てをして認められれば「共同親権」に変更が可能

――これから離婚をする夫婦は新たな民法の下で、「親権」を決めることになるのですが、すでに離婚をして「単独親権」の父母の場合でも「共同親権」にすることができますか?
はい。「単独親権」から「共同親権」へ変更することは可能です。もし「共同親権」にしたいという意向があれば、家庭裁判所に「親権者の変更」の申し立てをすることができます。この申し立ては、父母をはじめ、子どもの親族や、子ども本人がすることが可能です。ただし、申し立てをしたからといって、必ず変更できるとは限りません。家庭裁判所がその申し立てを認めた場合に「共同親権」に変更できます。
知っておきたい「子どもの手続代理人制度」

――子ども自身も申し立てができるのですね。その場合、年齢制限などはあるのでしょうか?
明確に年齢は定められていませんが、意思能力(自分の行為の結果を判断できる能力)があれば申し立てをすることができるとされています。その場合、子どもが「子どもの手続代理人」を選任して申し立てることや、家庭裁判所が、申し立てをした子どものために、職権で「子どもの手続代理人」を選任して手続きを進めることが考えられます。
「子どもの手続代理人」というのは、以前から設けられている制度で、父母が子どもに関することを話し合う調停(離婚や親子交流など)や審判の際に、弁護士が子どもの代理人として手続きに参加して、子どもの意見や意向を代弁して伝えるとともに、子どもの意思形成を支援する役割を担うというものです。それが、今回の法改正で「親権者の変更」の申し立てをする際にも機能することが期待できます。
「子どもの手続代理人」制度は、子どもの意見や意向を尊重する手続きを実現するものとして、今後ますます活用が求められます。ただし、「子どもの手続代理人」制度を利用するには費用がかかります。それが、利用のハードルにもなっています。費用の公費化などが今後の課題です。
「共同親権」から「単独親権」への変更も可能
なお、「親権者の変更」は、「単独親権」から「共同親権」への変更だけでなく、その反対に「共同親権」から「単独親権」に変更を申し立てることもできます。離婚時に「共同親権」にしたけれど、離婚後、事情が変わったので「単独親権」にしたいという場合も手続きをして認められれば変更できます。
――「親権者の変更」の申し立てがあった場合、裁判所は何を基準に判断を下すのでしょうか?
親権者を決めたときの協議の経緯について確認します。例えば、親権者を決めたときDVがあったかどうかを確認したり、当事者の話し合いで決めたのか、家庭裁判所や民間のADR※(裁判外紛争解決手続)団体など、第三者の関与によって決めたのか確認するわけです。また、協議の結果を、公正証書に残しているかどうかなども確認します。
※ADRとは離婚に向けて話し合いがうまくいかないとき、裁判所以外の機関によって解決を目指す手続きのこと
第三者の関与によって親権を決めた場合は、一般的に、協議の経過に問題があった可能性は低いと考えられます。他方、当事者だけで決めた場合は、どちらかの圧力で、その合意が適切であったとは言えない可能性もあります。また、取り決めをした事柄を文書として残してあるかどうかも重要です。特に、公正証書は第三者が立ち会って作る文書なので、一般には、不適切な合意が生じにくいと考えられます。
以上のような点を考慮した上で、親権者変更の申し立てがどうして起きたのか、最初に親権者を決めたときからこれまでにどのような事情があったのかを検討します。
裁判所は、以上のような観点を総合的に考慮して、「親権者の変更」を行うことが、子どもの利益のために必要があるのかどうかを判断します。それまで子どもに対する責任を果たしてきたかどうかという点も重要でしょう。
例えば、離婚後、共同親権と決め、養育費についても取り決めしていながら、長期間に渡って養育費が支払われていなかった場合など、その事情によっては、単独親権に変更する要素になることも考えられます。
「父母双方が互いに人格を尊重して協力をしなければならない」という新たな条文

今回の民法改正では、「父母は、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない」という新たな条文が加わりました。
父母が子どもに対する責任を共同して果たす以上、相手に不当な干渉をしたり、相手を誹謗中傷したりしてはならず、互いの人格を尊重して協力する必要があることを定めるものです。離婚の話し合いをする際にも、この点を頭に留めて進める必要があります。
新たな制度に呼応して、人や社会も変革していくことが必要です
――「選択的共同親権制度」の導入は、離婚後の子どもの未来を守る上でとてもいいことだと思うのですが、実際にこの制度が現場でどのように動いていくのかは、理性ではなく感情的な問題も絡んでくるので、大変な気がします。
そうですね。私も運用に関して課題が多くあると思っています。だからこそ、家庭裁判所だけでなく、弁護士や民間のADRなどの関与や支援が、より一層必要になるのではないかと考えています。
「選択的共同親権制度」の導入によって、「親権」などを決める際に、必要以上に父母の対立が先鋭化したり、ボタンの掛け違いで争いが生じたりするケースも一定の割合で出てくるだろうと思うのです。自治体や民間団体、もしくは私たち法律家などが、子どもに対する責任を果たしてもらえるように、お父さんやお母さんをサポートしていくことで、この新たな法律がよい形で活きていくのではないかと思います。
--「選択的共同親権制度」のこれからの課題はどのようなことが考えられますか
具体的には、家庭裁判所をもっと利用しやすくするほか、民間の第三者機関が父母の間に入って意思疎通を図り、父母双方の事情を考慮しながら子どもの養育を決定していくようなシステムの構築と、そのプロセスに対する理解と支援が社会に浸透することが必要だと考えています。
裁判所のあり方や私たち弁護士の対応も変えていく必要があると思います。父母を対立させて、裁判で勝ち負けを決めればよいという姿勢ではなく、父母双方の事情に配慮し、将来に目を向けることが、これまで以上に重要になってくるのではないでしょうか。
「子どもの利益」を優先的に考える
今回の民法改正は、「子の利益」を実現しようとするものですから、子どもに対する配慮は欠かせません。子どもの気持ちに寄り添い、その意見や意向を把握し、離婚後の養育に反映させていくことが大切です。
「共同親権」を採用している諸外国でも、「子の利益」を実現するため、悩みもありながら奮闘しています。民間のNGO団体が頑張っていたり、裁判所と支援民間団体の連携を強化していたり、さまざまな工夫をしながら運用しています。
「共同親権」が“いま”導入された理由

――これまでのお話を伺っていると、「共同親権」は離婚家庭の子どもにとって必要不可欠な制度だと感じるのですが、日本ではなぜこれまで採用されてこなかったのでしょうか?
「共同親権」に対しては、立場や考え方の違いで、さまざまな捉え方があるのですが、「単独親権」が採用されていた背景としては、日本における子育てに対する社会通念が影響しています。
当たり前になった父母の育児分担
日本では、以前はお母さんがひとりで頑張って子育てをするのが当たり前のような風潮があって、「単独親権」という制度と結びついていました。
しかし、子育てに対する考え方も時代とともに変化して、父親の育休取得の普及などに象徴されるように、近年は父親も子育てに参加して、母親と協力・分担をしながら子どもを育てることが推進されています。そのような世の中の潮流が大きくなるにつれて、法律もそれに呼応する形で「選択的共同親権制度」を取り入れなければならないという考えに至ったのです。
3割程度にとどまっている養育費の支払い履行率
また、日本では、厚生労働省の「令和3年度 全国ひとり親世帯調査」によれば、離婚後の養育費の支払い履行率、及び、親子交流をする割合が低く、共に、統計上は約3割程度しかありません。
特に養育費の不払いは深刻な問題となっていて、離婚時に養育費の取り決めもされていないケースも多いのです。それを打開するためにも「選択的共同親権制度」の導入が必要でした。
海外で問題視された、子どもを連れて帰ってしまう「子の連れ去り」事例
さらに、「選択的共同親権」を導入した背景には、グローバル化が進む中で、諸外国から親権制度の是正を求める要請に応えることが迫られていたこともあると考えられます。
世界的には、離婚時に「共同親権」を原則としている国が多く、日本のように「単独親権」としている国は少ないのです。日本でも国際結婚が増えていますよね。これまで、離婚後、外国にいる親と子どもの交流が途絶えてしまう事例や、子どもの連れ去りが問題視されるなど、さまざまな課題がありました。
「共同親権」の親にとってのメリットとは?

――懸念や課題はありますが、「共同親権」がうまく機能していけば、離婚後の子どもにとっては大きなメリットがありますね。
ええ、その通りです。今回の法改正は、離婚後の子どもの未来を守るために、両親がお互い尊重して、協力して子どもを養育することが必要であるということを示したものです。
離婚原因がDVや虐待などの場合は論外ですが、「選択的共同親権制度」の導入によって、各家庭の事情に応じて、いろいろな養育のあり方が選択できるようになりました。
共同親権によって、親、子、双方に期待できる心理的な負担の軽減
「選択的共同親権制度」がうまく機能すれば、子どもは、そのときどきの事情で両方の親と接しながら成長していくことができます。例えば、日常生活の中で何らかの悩みがあったとき、両親のどちらにも気兼ねなく相談することができるようになるのではないかと思います。
子どもだけでなく、父母にもメリットがあると思います。例えば、これまでは「単独親権」で、ひとりで子どもを育てなければならないといった覚悟で子育てをしていた方が、「共同親権」にしたことで、親としての責任や負担をお互いに分担できるようになると思います。
まず、新しい制度を正確に知ることが大切。情報の入手方法はいろいろあります

子育てをしている方は、まずはこの新しい制度を正確に知ってほしいと思います。自治体が設けているセミナーや法律相談などでも情報を得ることができますし、女性センターなどに行って知りたい情報を入手するのもいいと思います。
私たち弁護士に相談に来ていただいても構いません。現在、離婚で争っていなくても、新しい制度について聞きたいということで問い合わせをしてください。家庭の事件に関心を持って仕事をしている弁護士であれば、対応してもらえると思います。あとは、WEBサイトから情報を得るのもいいと思います。さまざまな情報がアップロードされていますが、現在の裁判所の考え方や情報の正確性を期すなら、法務省のWEBサイトで確認してみてください。
法務省:民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について〔令和8年4月1日施行〕
この改正によって、私は親の離婚によって悩み苦しむ子どもが少しでも減っていくことを心から願っています。「選択的共同親権制度」の導入に関しては、これからさまざまな課題が出てくると思いますが、離婚するご夫婦が、お子さんのことを中心に据えて、安心して安全に話し合いに臨み、十分に納得したうえで決断してほしいと思います。
共同親権とはどういう制度なのかは、こちらの記事で
記事監修
京都大学法学部卒業後、会社勤務を経て2000年に弁護士登録。以来25年間、離婚事件を中心とした家事事件に取り組む。その豊富な経験と依頼者一人ひとりに寄り添う温かな人柄で多くの信頼を集めている。子の養育に注力しつつ、国際案件にも対応し、数多くのセミナーも開催。日本弁護士連合会では、ハーグ条約事件対応弁護士紹介名簿登録、家事法制委員会副委員長、司法制度調査会委員長、ADRセンター委員などと、多くの役職にて責務を果たしている。国際私法学会、仲裁ADR法学会、日本離婚・再婚家族と子ども研究学会に所属。
この記事を書いたのは
大学卒業後、出版社勤務を経てフリーランスに。主に子育て、食・旅・美術関連の取材記事を担当。これまで手がけた小学館での単行本には、『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(佐々木正美:著)『自分の番を生きるということ』(佐々木正美:著、相田みつを:書)、『池波正太郎の愛した味』(佐藤隆介:著)、『楽しく脳活 クイズで学ぶ浮世絵入門』(監修:藤澤紫)などがある。