「絵を知って世界が変わった」西洋絵画に魅了された小説家・七海まちさんの原点、著書『雨色のキャンバス』に込めた思い

美術館で、西洋絵画を観たことはありますか?
何が描いてあるかよくわからない、なんとなく高尚なもの、という印象を持っている方もいるかもしれません。あまり観る機会がなかったという方も多いでしょう。
しかし、日本国内にも世界中の名画が見られる美術館は数多く存在します。上野の森美術館では、8月12日まで「大ゴッホ展 夜のカフェテラス」を開催中です。
西洋絵画に魅せられ、「大ゴッホ展」も心待ちにしていたという作家の七海まちさんにお話を伺いました。

初めて“絵画”にふれた中学時代

――“西洋絵画”に興味をもったのはいつですか?

七海まちさん(以下、七海さん中学2年生のときの美術の授業が、おもしろかったんです。モネやルノワールの作品など、有名絵画の模写をするというものでした。模写することで、“絵”を細部までじっくり見られましたし、たくさんの画家や作品を知ることができ、“西洋絵画”に興味を持つきっかけになりました。

――そこから、美術館に行ってみよう! とはならなかったのですか?

七海さん:なりませんでしたね。中学生にとっては、美術館への行き方もチケットの入手方法も、よくわからなくて……。そもそも、有名な作品は海外にあるのだろうと思っていました。

授業ではおもしろいと思いながらも、そこから行動に移すことはできませんでした。

おもしろさに気づいた大学時代

――では、七海さんが“西洋絵画”の魅力にのめり込んだのはいつでしょうか?

七海さん:大学で受けた西洋美術の講義です。先輩からおもしろいと聞いて軽い気持ちで取ってみたのですが、ここで“絵の見え方”がガラッと変わりました!

それまでは、絵を見ても、画家がどんな意図でどんなシーンを描いているのか、よくわかりませんでした。

でも、アトリビュート(特定の人物に結びつけられた衣服、持ち物、小道具など)を学び、西洋絵画の主題として多く描かれる聖書や神話についての知識を得て、一目でその絵が何について描かれているのか、わかるようになったんです。

「絵」は、画家が自由に描くものだと思っていました。しかし、色やアイテムなど「約束事」のうえで描かれたものがたくさんあると知りました。そのあと改めて絵を観ると、以前とは全然印象が違って……、その感覚の変化がおもしろかったです。世界がパーッと広がっていくような気がしました。

――これまでご覧になった展覧会で、特に印象的だったものはありますか?

七海さん:いくつかありますが、ひとつは2021年に東京都美術館で行われた「ゴッホ展」です。一度にたくさんのゴッホの絵を観たのは、このときが初めてでしたが、写真とは全然違う! と衝撃を受けました。

ゴッホはインパスト(厚塗り)技法を用いて絵を描いていますが、絵の具の盛り上がりや筆の跡を間近で観たら、迫力がすごかったです。“実物を見ること”の意味を肌で感じた瞬間でした。

美術館に行ったら、記念にマグネットを買うことにしていると語る七海まちさん。小さくて場所を取らないのがお気に入りの理由とのこと。

――今、まさに上野にゴッホの絵が来ています。ゴッホの作品に対する思いを聞かせてください。

七海さん:ゴッホの絵は、1889年の『アイリス』が好きです。自身で耳を切ってしまったあと、入院した療養院の庭に咲いていた花を描いた作品です。絶望していてもおかしくない時期に描かれているのに、生命力や生きる希望が感じられる気がして、すごく好きなんです

ゴッホの人生は、辛い思いをしている時期が多いように感じますが、絵はとても力強くて……。そういうところに人を魅了する力があるんだろうなと感じます。

「大ゴッホ展」の表題にもなっている『夜のカフェテラス』は、私が手掛けた小説『雨色のキャンバス』(小学館)のなかでも非常に重要な意味を持つので、ぜひこの目で観たいです!

「絵画」の見方は、ひとつじゃない

――『雨色のキャンバス』(小学館)は七海さんの“西洋絵画”への思いを詰め込んだ作品なのですね。

七海さん:はい。大学で西洋美術を学んで以来、ずっと魅力を伝えたいとは考えていましたが、わかりやすく物語の内容に落とし込むのが難しい気がして、書けずにいました。

でもあるとき、ヤナギさんのキャラクターが、パッと浮かんできたんです。西洋美術にほれ込み、語りだすと止まらなくなるヤナギさんに導かれるように、どんどんアイディアがわき、一気に書きあげることができました。

――主人公のあざみは、初め独特な視点で“絵画”を観ます。どのような意図で書かれたのでしょうか?

七海さん:私自身の経験を、かなり誇張したイメージで書きました。

あざみは、エル・グレコの『受胎告知』を、魔法少女のアニメにたとえます。絵の主題を知らなければ、そう見えることもあると思いますし、私も絵から勝手に物語を想像して当てはめていたことがありました。

決して間違った見方ではないと思います。でもそこから、本当は何が描かれているのか知りたくなると思うんです。

自由に絵を観るのも楽しいですが、「実はこういうものが描かれていたんだ」と知ったらもっとおもしろいし、さらに絵のことを知りたくなるんじゃないかと思って、あざみというキャラクターを作りあげました。

――“西洋絵画”はちょっと敷居が高い……と思っている方に、ぜひメッセージをお願いします

七海さん:絵を観るとき、技法や主題などの詳しい知識がないといけないということはありません。自分の目で観て「これが好きだな」と思えたら、それで充分だと思います。

『雨色のキャンバス』のあざみも、絵画のことは何も知らない子でした。でも、ヤナギさんから“絵の見方”を教わって、“世界の見方”を変えました。見方を知ったら“絵”がグッと身近になるし、あなたの世界も変わると思います

もし、『雨色のキャンバス』を通して「西洋絵画っておもしろいな」と思っていただけたら。あなたの世界の見方がほんの少しでも変わったなら……、これ以上にうれしいことはありません。

――ありがとうございました。

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作/七海まち 小学館 1650円(税込)

西洋絵画に出合い、“世界の見方”を変えていく少女たちの物語。ゴッホ『夜のカフェテラス』 、ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』、モネ『睡蓮』など、誰もが一度は目にしたことのある有名なものから、ちょっとニッチなものまで、様々な作品が登場します。

構成・文/小学館児童創作編集部

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