つまずきやすい算数の「できないところこそ宝物!」苦手を「楽しい」に変える家庭の関わり方【元小学校教師・たけさんに聞いた】

「うちの子、算数が苦手かも」と思った時、見直したいのは問題の解き方だけではありません。「苦手は、周りの反応によって作られることもある」と語るのは、Instagramフォロワー12万人超の元小学校教師・たけさん。文章題でつまずく理由や、子どもの「わからない」を伸びしろに変える家庭の関わり方を聞きました。

「好きな教科」も「嫌いな教科」も1位は算数。そこに可能性を感じた

――小学校の先生をされていたそうですね。保護者に向けて発信を始めたきっかけを教えてください。

小学校で働いていたときは、算数を中心に研究し、ほかの学校に呼んでいただいて飛び込み授業をすることもありました。

算数は「好きな教科」と「嫌いな教科」の両方で1位になることがあります。嫌いな子が多い一方、好きな子も多い。そこに可能性を感じたんです。

実際、その子に合った教え方で「算数が嫌いだったけど、好きになった」という子をたくさん見てきました。ただ、学校では一人ひとりに合わせるのが難しい場面もあります。そこで、家庭でできる工夫を伝えたいと思ったのが発信のきっかけです。

算数が伸びる子は、すぐに答えが出なくても「考えられる」

――算数が伸びる子と、つまずきやすい子の違いはどこにあるのでしょうか。

いろいろな要因がありますが、算数が伸びる子は「考えられる子」だと思います。

1年生の計算や文章題は比較的わかりやすく、単元名を見れば式がわかることも多い。九九も、覚えれば反射的に答えられます。すると「算数はパッと答えが出るもの」と思い、すぐに答えが出ない問題では、考える前に「わからない」となる子がいるんです。

式を二つ組み合わせる文章題になった途端、正答率が下がることもあります。能力というより、それまでに「考え方」を十分経験していないことが原因の場合もあるのです。

――考える習慣は、家庭でも育てられますか。

正解していても「どうしてこの答えになったの?」と聞いてみてください。説明するために、子どもは自分の考えをたどり直します。それを「そうやって考えたんだね」と受け止める。この積み重ねで、「考えるとはどういうことか」がわかるようになります。

「自分から宿題を始める小学生」は、そもそも少ない

――宿題や家庭学習をなかなか始めない子には、どう関わればいいでしょうか。

家に帰って自分から宿題を始める子は、僕の感覚では1割か2割ぐらい。さらに自分で苦手なところまで練習できる小学生は、ほとんどいません。まず、それを前提にしたほうがいいと思います。

何度も「やりなさい」と言うより、始めやすい環境を作ります。例えば、ゲームをしている子の横にワークと鉛筆を用意し、終わったときに「この一問だけやってみようか」と声をかける。始めるまでのハードルを、親が下げてあげるんです。

――そこまで用意すると、甘えになりませんか。

まず「やってみたらできた」という経験がなければ、自分からやりたいとも思いにくい。最初はたくさんお膳立てしていいと思います。

僕は、小学6年生でも用意してあげて構わないと考えています。小学校を退職後、学校に行きづらい中学生や、発達特性のある高校生を見てきたのですが、進路が見えてきたときに自分から動き始める子は多いんです。そのときに動けるよう、小学生のうちは環境を整え、基礎を残してあげればいいと思います。

子どもが「考えているとき」は、声をかけない

――親が手伝う場面と、子どもに考えさせる場面は、どう見極めればいいですか。

子どもの頭の中は見えないので、難しいですよね。ただ、考えているときは声をかけないことが大切です。違う方向に考えていても、途中で話しかけられると、思考が止まってしまう子もいます。

一方、鉛筆が止まっていても、考えているとは限りません。普段の様子から「考えているのか、困っているのか」を見る必要があります。

大人でも、考え事の途中で話しかけられて「あれ、何を考えていたんだっけ」となることがありますよね。子どもも同じです。大人から見て遠回りでも、考え続けているなら少し待つ。その子なりに考える時間を守ることが大切です。

そのためにも、「わからない」「教えてほしい」と言える関係を作っておきたいですね。

――子どもが自分から助けを求められる関係ですね。

「ここがわからない」と言えれば、そこから教えてもらえます。でも、間違えて怒られたり、「なんでこんな問題もわからないの」と言われたりすると、だんだん言えなくなります。

昨日教えたことでも、同じテンションでもう一度説明する。悪い点数のテストでも、まず見せてくれたことを認める。間違いや「わからない」を隠さなくていい関係が、その後の伸びにつながります。

僕も娘に「なんでできないんだろう」と思うことはあります。でも、その気持ちを子どもにぶつけないことが大事です。たった一度の反応で、「わからない」と言えなくなる子もいるからです。

「算数が苦手な親」は、子どもと一緒に悩めばいい

――親自身が算数を苦手としている場合は、どうすればいいでしょうか。

一緒に悩めばいいと思います。僕も教師時代、「先生もわからないから、一緒に考えたり調べたりしよう」と言うことがありました。それで信頼を失うことはなく、むしろ関係が深まることもあったのです。

家庭でも教科書やツールで調べればいい。今なら親子でAIに「小学○年生にもわかる解き方を3つ教えて」と聞き、試す方法を選ぶこともできます。答えだけを出させるのではなく、親子で考えるために使うのが大切です。

文章題は「文章→イメージ→式」。式の前に絵や図を描く

――「計算はできるのに文章題が解けない」という悩みは、なぜ起きるのでしょうか。

算数の悩みで最も多いと言っていいほど、よく聞く相談です。

1年生では、足し算の単元に足し算の文章題、引き算の単元に引き算の文章題が出ます。ところが2年生になると足し算か引き算かを選ぶ問題、3年生ではかけ算か割り算かを選ぶ問題が出てくる。数字だけを見て式を作ってきた子は、ここでつまずきます

文章題で大切なのは、式の前に場面をイメージすることです。「クッキーが5枚あり、3枚食べた」なら、5枚から3枚が減る場面が見えるから引き算になる。文章、イメージ、式の順番です。

教科書やテストでは、文章のすぐ下に式を書く欄があるため、イメージできているかまではわかりません。単元を手がかりに式を選べば、低学年の間は正解できてしまうこともあります。

そのため、1、2年生ではできていたのに、複数の計算方法から選ぶ問題が増える2、3年生で、急につまずいたように見えることがあります。実際には、それまで見えにくかった「場面を捉える力」の課題が表れたとも考えられます。

――場面をイメージできているかはどう確かめるとよいのでしょうか。

「どんな場面?」と聞き、式の前に絵や図を描いてもらいます。ただ、難しい問題でつまずいている子に、いきなり描かせるのは大変です。1年生の簡単な問題まで戻って始めてもいいんです。

式を立てる前に、文章の場面をイメージし、絵や図に表す(noteより)

最初はクッキーを一枚ずつ描き、慣れると丸や線で表すようになる。これが抽象化です。教科書に出てくる線分図は便利ですが、かなり抽象化された図でもあります。具体的な絵から丸や線へ、少しずつ変える経験が必要です。

大人にはわかりやすい線分図でも、子どもには「この線のどこにクッキーがあるの?」と感じられることがあります。いきなり完成された図の描き方を教えるのではなく、具体的な絵を簡単な記号に置き換える過程を経験することが大切です。

すでに式を先に書く癖がある子には、正解できた簡単な問題で「頭の中を絵にしてみて」と聞きます。描けなければ、親が見本を描いても構いません。絵や図も、式と同じように小さい頃から習慣にすることが大切です。

隙間時間でOK!1分間の「ホワイトボード」復習

――たけさんご自身は、お子さんの家庭学習にどう関わっていますか。

娘が2人いて、今は小学6年生と3年生です。教員時代は朝早く家を出て帰宅も遅く、上の娘の勉強をほとんど見られませんでした。その娘が2年生で文章題が難しくなったとき、完全につまずいてしまったんです。そこで初めて、家庭でのフォローの大切さに気づきました。

退職後、家で関われるようになると娘は少しずつ伸び、今は大きく苦労せずに学習を進めています。塾に通わせたり、宿題以外に長時間勉強させたりしたわけではありません。使ったのは、生活の中の隙間時間です。

例えばダイニングテーブルに100円ショップの小さなホワイトボードを置き、宿題でつまずいた問題をメモしておくんです。教えた1時間後や、動画のCM中の1分ほどで「もう一回解いてみて」と渡します。

解ければ理解できている。解けなければ、まだフォローが必要だとわかる。短いので娘も嫌がらず、習慣になっています。

「苦手」は周りの反応で作られることもある

――子どもが算数嫌いになるきっかけは、どこにあるのでしょうか。

大きく二つあります。一つは、算数が積み上げ型の教科であること。足し算でつまずくと、その後の引き算やかけ算にも影響します。一方、学校では一人のために前の単元まで戻るのが難しい場合もあります。

もう一つは、周りの反応です。できないところばかり指摘されると、「自分は苦手だ」と思ってしまう。

できない姿だけを見て、すぐに「算数が苦手」と決めつけないことが大切(Instagramより)

僕は料理が上手ではありませんが、苦手だとはあまり思っていません。作れば周りが「おいしい」と言い、改善点も前向きに返してくれるからです。できないことの全てが苦手になるわけではない。「苦手」は、周りの反応によって作られる部分もあると思っています。

――すでにつまずいている場合は、どこから支えればいいですか。

今の問題を少し教えても難しそうなら、前の段階まで戻ります。繰り上がりの足し算でつまずいているなら、繰り上がりのない足し算はできるか確かめる。それも難しければ、さらに戻る。

「ここならできる」という場所を探す旅に出る感覚です。 できる場所で練習してから、今の単元へ進みます。どこへ戻ればいいかわからないときは、教科書会社が公開している、単元のつながりを示す「系統表」も参考になります。

学年別、とくに「つまずきやすい」ポイント

――学年ごとに、とくに注意したいつまずきはありますか。

1年生:繰り上がり・繰り下がり

数をきちんと捉えられているかが表れる、その後の学習にもつながるポイントです。

2年生:九九と、足し算・引き算を選ぶ文章題

九九は意味を理解しながら、反射的に言えるまで覚えたいところです。文章題では、足し算か引き算か迷う「逆思考」の問題が登場します。絵を描いて場面を考える経験が大切です。

3年生:あまりのある割り算

九九だけでは解けず、割り算の意味を理解して考える必要があります。

4年生:割り算の筆算

3桁÷2桁などの筆算が始まります。苦労する場合は、前の学年の割り算や九九まで戻ります。

5年生:割合

かけ算か割り算かで迷い、選択肢が増えます。それまでに絵や図で場面を捉える習慣があると理解しやすくなります。

6年生:比

二つの数量の関係を捉える必要があり、中学校の数学にもつながる大切な内容です。

6年生でつまずきやすい「比」の単元(Instagramより)

市販教材は「全部できるもの」より、目的を絞って選ぶ

――市販教材は、どのように選べばいいですか。

「算数を克服する」ではなく、「この計算を練習する」など目的を絞ります。薄く、1ページの問題数が少ないものがいいですね。親が中身を見て2、3冊に絞り、そこから子どもに選んでもらうのがおすすめです。

何から始めるか迷うなら、まずは計算です。計算は算数における体力のようなもの。文章題をイメージできても、途中の計算で間違えると気持ちが下がります。苦手があれば、少しずつ補っていきます。

一冊で計算も文章題も図形も、全て克服しようとしなくて大丈夫です。今のつまずきに合う教材を一冊終えるほうが、子どもも達成感を持ちやすいと思います。

苦手克服の鍵は、親のメンタル。「できない」は伸びしろ

――家庭で算数に関わる保護者へ、いちばん伝えたいことは何ですか。

苦手克服の鍵は「親のメンタル」だと思います。何より、焦らないでほしいんです。

50メートル走が遅くても、すぐに「このままではまずい」と焦る親は多くありません。でも、3年生が3年生の宿題を解けないと焦ってしまう。運動と同じように、勉強の成長にも個人差があります。

できていないところを見つけたら、「宝物を見つけた」と考えてほしい。できないことがわかるのは、できるようになるために必要なこと。そこは伸びしろです。

時計でつまずくという相談も多いのですが、時計は60進法を使う抽象的な学習です。それでも生活の中で毎日触れるうちに、スッとわかるときが来ることもあります。

中学生や高校生になり、勉強が自分の進路とつながったときに、スイッチが入る子も見てきました。どの段階からでも巻き返すことはできます。

フォローは必要ですが、今できないからといって、ずっとできないわけではありません。焦らず、できていることを見ながら支える。子どもが自分から動き出すときを待っていてほしいと思います

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たけさんの著書

たけ 日本能率協会マネジメントセンター 1,760円(税込)

「子どもが算数を嫌いになる前に、家庭でできることは何か?」
就学前〜小学生の子どもを持つ保護者に向けて、日常生活の中で自然と「算数の力」を育てる方法を伝える一冊です。塾やドリルに頼る前に、親子のかかわりの中でできる実践や、算数への苦手意識を防ぐ声かけの工夫などを紹介します。
著者は元小学校教員であり、現在は発達特性や不登校など、さまざまな背景を持つ子どもたちと日々向き合う教育実践者です。学校と家庭の両方に精通しているからこそ、「家庭でできるけれど、家庭でしかできないこと」を提示できます。本書は、子どもが「できた!」と感じる瞬間を増やし、算数に自信を持てるようになるための、親の伴走ガイドです。

お話を聞いたのは

たけ 元小学校教員の教育実践者

元小学校教師。小学校で12年間勤務し、算数教育を中心に研究。校外で飛び込み授業なども行う。退職後は、学校に行きづらい中学生の支援施設に2年間勤務。現在は、発達特性があり勉強を苦手とする高校生を支援しながら、家庭でできる算数やおうち学習についてSNSで発信。Instagramのフォロワーは12万人を超える。小学6年生と3年生の2人の娘の父。著書に『「苦手」が「楽しい!」に変わる わくわくおうち算数』(日本能率協会マネジメントセンター)など。https://www.instagram.com/take_homestudy/

この記事を書いたのは

酒井千佳 フリーキャスター、気象予報士、保育士

京都大学 工学部建築学科卒業。北陸放送アナウンサー、テレビ大阪アナウンサーを経て2012年よりフリーキャスターに。NHK「おはよう日本」、フジテレビ「Live news イット!」、読売テレビ「ミヤネ屋」などで気象キャスターを務める。現在は株式会社トウキト代表として陶芸の普及に努めているほか、2歳からの空の教室「そらり」を主宰、子どもの防災教育に携わっている。

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