道具で発達を応援するネットのお店tobiraco店主が、発達障害の子の「困り感」を解決する道具をご紹介します。今回は「見える化」で支援するツールです。
目次
「あと何分」を見せて不安解消。時間を見える化
「いつも、突然始まって、突然終わるから頭にくるんだよね」
自閉症スペクトラムの子にこう言われて驚いたのは、安部博志先生。筑波大学附属大塚特別支援学校の教諭時代の話です。
時間の長さや量を実感できないと、始まりも終わりも「いきなり」と感じてしまいます。
夢中でしていることが、前ぶれなくスパッと終わってしまう。不安に陥るし恐怖ですらありますよね。パニックを起こす子もいるそうです。
タイムタイマーパーソナル(オーディブル)
タイムタイマーパーソナル(オーディブル)
サイズ 75×75×厚み30mm 機能 アラーム:終了アラームON/OFF機能あり。計測可能時間:1分間〜60分間 電源 単3電池1本(電池は付属していません)取扱説明書、保証書(6カ月保証)付 参考価格4,700円 メーカー Time Timer/大手通販サイトで販売。※価格は通販サイトの出品者により異なります。
そこで、教室に取り入れたのが「タイムタイマー」です。写真は家庭でも使えるサイズですが、教室ではもう少し大きな掛け時計型。赤いタイマーディスクの面積が時間の経過とともに少なくなるので、「そろそろ終わる」を目で確かめることができます。
終了はアラームで知らせてくれますが、できればアラームが鳴る3分くらい前に「あと3分で終わり」という合図があればなおよかった、と安部先生。
「いきなり」感からくる不安や恐怖を与えないためには、見通しを立てられるように予告するといいと思います。
「時計の針が5のところで終わりにしようね」とか「あと1分で時計の針が5のところに来るよ」というように。
日にちの見える化。1日単位、1週間単位の行動を絵カードに。
「昨日」「今日」「明日」は抽象的で目に見えません。
前述の安部博志先生の話です。「明日にしよう」といっても通用せずに、「明日は今じゃないから待てない」という言う生徒がいたそうです。
そこで、安部先生はその生徒に1日のスケジュール、1週間のスケジュールを見える化して教えたところ、「明日まで待つ」ことができるようになりました。
「いつ、なにをやるか」。見通しを立てることが苦手な子には、絵カードとポケットカレンダーの組み合わせがおすすめ。
写真左は1日の見通しを、右は1週間の見通しをそれぞれ見える化しています。まずは1日の見通しを立てられるようになってから、週間スケジュールを。
「スケジュールポケット」
スケジュールポケット3点セット<時計・日にち・曜日カード付き>(左)
素材 胴体:綿 ポケット:塩化ビニール リング:金属 サイズ 上段:21×14cm 中段:21×62cm 下段:21×15cm セット内容 時計カード、月と日にちのカード、リング ※絵カードは別売り(2,700円) 価格 2,800円
ウィークリースケジュール&絵カードシールセット(右)
素材 胴体:綿 ポケット:塩化ビニール リング:金属 サイズ 42×60cm
色 生成り、紺 セット内容 ウィークリースケジュール用ポケット、曜日・日付カード、リング4個、絵カードシール(49種 72枚 無地カード60枚) 価格 5,200円 発売元・問い合わせ/アドプラス http://www.addplus.jp
「あの予定はいつ?」のもやもや解消。過ぎた日数・残りの日数が量でわかる
特別支援学校の備品は「見える化」されたものがたくさんあります。
「ビニールポケットカレンダー」は、1か月を1日ごとに区切ったポケット付。終わった日にカバーを差し込むことで、過ぎた日数や残りの日数を量としてとらえることができます。
ポケットに行事の予定を書いたカードを入れておくと、行事の日までの日数が見える化できて、子どもたちも安心です。見通しが立たないと不安で、毎日のように「遠足、いつ?」と聞いてばかり。こんなこともなくなりますよね。
もともとは、障害のある子のために作られたカレンダーではありません。ところが、特別支援学校で見通しを立てるためのカレンダーとして活用されると、口コミで広がりました。筑波大学附属大塚特別支援学校でも全教室でビニールポケットカレンダーを使っています。
「ビニールポケットカレンダー」
ビニールポケットカレンダー
サイズ 75.7×52cm ポケットシート(ビニール製)+表紙+12枚 壁掛け 月めくり 日曜始まり 天金 価格:2500円 発売元・問い合わせ 株式会社シーガル http://seagull-calendar.com
歯科治療の恐怖と不安を絵カードで解消。治療の順序が絵でわかる
診察台に横になったまま行われる歯科治療は、治療器具も見えず、次に何をされるのかがわからない不安があります。
予測のつかない事態が起きることを苦手とする自閉症スペクトラムの子なら、なおさらです。恐怖すら覚えるかもしれません。
障害児(者)を専門に診る口腔センター(歯も含めた口腔全体)では、治療の手順を見える化した絵カードを用意しています。希望する場合、診察室に入る前に、これから行われる治療を絵カードを見せながら説明して、心の準備ができるようにしています。
歯医者さんを極端に嫌がる場合、絵カードを試してみてはいかがですか。
もうひとつ。見える化とは別になりますが、治療の機械の音に恐怖を感じる聴覚過敏の子の場合は、防音用のイヤーマフやノイズキャンセラーを使ってみてください。恐怖や不安がやわらぐと思います。
「歯科診療絵カード」
東京都立心身障害者口腔保健センターでは、絵カードを無料でダウンロードできます。
絵カードのダウンロードは、こちら。
声のボリュームの見える化で自分の声の大きさを自覚。
場違いな大きい声を出している子に「もっと小さな声で」と注意したら、声が小さすぎて聞こえなかった。こう話してくれたお母さんに「声メーター」をすすめました。
メーターといっても、紙製で200円とお手頃な価格。「声メーター」は、声のボリュームを「0」から「4」まで数値化。子どもにわかりやすい例を示しています。たとえば「4」なら校庭で叫ぶ声、「2」ならとなりの人と話す声。「1」はないしょ話をする時の小さい声。
声メーターは、手のひらサイズでカバンに入れて携帯できます。電車の中で大きいな声を出したら、声メーターで「いま、4だよ。2にしようね」と具体的に教えることができます。
「声メーター」
声メーター
素材 本体:紙(ラミネート加工) 矢印クリップ:プラスティック サイズ 10×14.8㎝ 価格 200円 発売元・問い合わせ 発達障害サポートショップFLY!BIRD https://fbird.jp/shop5/
気持ちの見える化。自分の今の気持ちを伝える
写真のポスターは、教材用に作成されていますが、安部先生は家庭での活用もすすめています。
「いま、どんなきもち」(感情ポスター)
こちらから無料でダウンロードできます。
制作:大阪府人権教育研究協議会 http://daijinkyo.in.coocan.jp/
このように使います。
子どもが、イライラした顔をしていたら、ポスターの「ムカつくー」の顔を示して、「いまの気持ち、これだね」と切り出します。そして何にムカついているのかを聞いてみましょう。
自分の気持ちや感情を自覚して表現することを、専門的には「感情のラベリング」といいます。発達障害の子のなかには、感情のラベリングがうまくできない子もいます。
こんな話を聞いたことがあります。
成人の自閉症スペクトラムの男性です。ドラマを見て涙を流していることを親から指摘されて、はじめて自分はいま「悲しい気持ち」なんだと自覚できたというのです。
感情のラベリングができるようになると、他人の気持ちも理解できるようになるそうです。他人を理解するためには、まず自分を理解することから、というわけです。
このポスターのいいところは、子どもの表情がいきいきと描かれているところです。喜怒哀楽の表情が記号のようだと、リアリティがありませんよね。もうひとついい点は、プラスとマイナスの感情を単純にくっきり2つに分けてレイアウトしていないところです。感情にいい悪いがないということが、このポスターから伝わってきます。
コミュニケーションゲームで自分の気持ちを伝える楽しさを
コミュニケーションゲームは発達障害の子がコミュニケーションの楽しさを体験できるとして人気です。
カードに書かれた質問に答える(話し手)。その答えをひたすら聴く(聴き手)。このやりとりで自分の話を聴いてもらえている安心感が生まれます。聴き手の気持ちを「見える化」すると、話し手は聴いてもらっていることが実感できて、ゲームの楽しさは倍増。
筑波大学附属大塚特別支援学校の佐藤義竹先生は、気持ちをあらわす言葉「いいね」「なるほど」「すてきだね」などと書いたボードを使ったところ、ゲームがとても盛り上がりました。
自分の気持ちをボードを通して言葉にすることで自己理解にもつながるそうです。tobiracoは、佐藤先生考案のボードを「きもち・つたえる・ボード」として製品化しています。
「きもち・つたえる・ボード」
きもち・つたえる・ボード
素材 紙 サイズ:13×23cm セット内容:ボード4枚 (両面で異なるイラストと言葉で8種) 収納ケース1個 考案 筑波大学附属大塚特別支援学校 教諭 佐藤義竹 価格:2,000円 発売元・問い合わせ 株式会社tobiraco https://tobiraco.co.jp
11月中旬発売予定
特別支援学校を訪ねて気づくのは、教材・教具から備品に至るまで「見える化」の工夫が施されているものが多いことです。「見える化」を専門的には「視覚支援」といいます。曖昧な表現、抽象的な言葉が苦手な発達障害の子にとって視覚支援は大きな助けになります。
「もっと」「ちゃんと」「しっかり」などはすべて曖昧な表現です。見える化したり、数値化したりして、イメージしやすいように伝えると、親も子もストレスがなくなります。
「発達障害の子を道具で応援!」は今回で終了します。特性ゆえに苦手だったり、できなかったりするのは、その子のせいではありません。道具という知恵や配慮があれば、その子らしく振る舞うことができます。このことを連載で少しでもお伝えすることができていたらとてもうれしいです。ご愛読、ありがとうございました。 tobiraco(トビラコ)店主より
発達障害の「困った」、道具であっさり解決しましょう。
『発達障害の子のためのすごい道具』(安部博志・著 tobiraco・編集)小学館
トビラコ店主
元子育て雑誌編集者。編集者時代に出会った特別支援学校の先生と現場で効果のあった教材を商品化。「tobiraco」というネットショップで販売。ヒット商品は「きいて はなして はなして きいて トーキングゲーム」「見る目をかえる 自分をはげますかえるカード」。「療育アロマ」も快走中。
お知らせ
筑波大学附属大塚特別支援学校 佐藤義竹先生自作の教材をクラウドファンディングで製品化中。10/30 18:00までおトクな価格で予約販売受付中!
詳しくは、マクアケのサイトからどうぞ。