福山雅治と石田ゆり子が紡ぐ『マチネの終わりに』は大人に捧げる芳香なラブストーリー【ママが観たい映画】

ママたちはきっと、こういう映画を待っていたのでは？11月1日（金）より公開された、俳優・福山雅治と石田ゆり子共演の『マチネの終わりに』は、大人が観るに値する、至高のラブストーリーに仕上がっています。原作は芥川賞作家・平野啓一郎の同名小説ですが、原作ファンもうなるキャスティングで映像化されたのではないかと。

本作で綴られるのは、東京、パリ、ニューヨークを舞台に、音楽家とジャーナリストの男女二人が織りなす運命的な愛。メガホンをとったのは、福山さん主演の「ガリレオ」シリーズでおなじみの西谷弘監督ですが、『アマルフィ 女神の報酬』や『アンダルシア 女神の報復』の時と同様に、風光明媚な海外のロケーションに、ドラマティックな物語を絡ませる名手だと思っています。

福山さんが演じるのは、天才ギタリストでありながら、完璧主義のため、自分の演奏に満足が得られず、苦悩する蒔野聡史役。ミュージシャンである福山さんだけに、ギターを弾く所作にも説得力があります。石田さんは、蒔野と激しく惹かれ合うジャーナリスト・小峰洋子役。『記憶にございません！』のコメディエンヌぶりとは打って変わり、仕事に情熱を燃やすキャリアウーマン役を好演しています。

たった3度しか会ってない相手が、人生を捧げたい最愛の人に

まず、本作が芳醇で味わい深いドラマに仕上がった勝因は、福山さんと石田さんという、人生の酸いも甘いも知り尽くした大人な2人のキャスティングにあると思います。

本作に必要なものは、ボジョレーヌーボーのような爽快な若々しさではなく、静かに熟成されたボルドーワインのようなかぐわしい大人の色気ではないかと。2人が目と目を合わせるシーン１つを取っても、情感があふれ出ています。

名作「マディソン郡の橋」では、たった4日間しか過ごさなかった2人の時間が、一生に一度の恋として描かれました。本作でも、蒔野と洋子は、たった3回しか会ってないのに、お互いが一生を捧げたいと思える相手となりましたが、福山さんたちの逢瀬のシーンを見ていると、そこも自然に納得させられます。

また、共演も、伊勢谷友介、桜井ユキ、木南晴夏、風吹ジュン、板谷由夏、古谷一行と、実力派俳優陣が、それぞれの役どころで存在感を発揮。特に、蒔野と洋子の間に揺さぶりをかけていく蒔野のマネージャー、三谷早苗役の桜井さんが出色です。この早苗の葛藤が生々しく掘り下げられていることで、蒔野たちの愛の純度がより一層増していく気がします。しかも、洋子と早苗が、蒔野を思う深い愛は、お互いに引けを取っていません。おそらく女性なら、洋子と早苗の両方に感情移入できるではないでしょうか。

世界の分断という社会派ドラマの要素も深い

2人の出会いから6年間が描かれる本作ですが、その間に、ジャーナリストの洋子は、テロに遭遇し、そのトラウマも描かれていきます。本作はただのラブストーリーではなく、“世界の分断”という社会情勢もきちんと背景に描くことで、より含蓄のある物語になっています。

誰の人生においても、抗うことのできない運命的な事件に遭遇することがあります。洋子が、そんな荒波を受けつつも、凛としてジャーナリストを続ける姿が実に気高く美しい。2人は、ある意味、人生で闘い続ける同士でもあったのではないかと。また、そんな洋子だからこそ、蒔野は心から彼女に惹かれ、共鳴していったのではないでしょうか。

とにかくラブストーリーとしても人間ドラマとしても、見応えのある作品に仕上がった『マチネの終わりに』。日常に追われているママたちも、たまには映画館で羽を休め、極上の物語に身を委ねてみてはいかがでしょう？そういう“大人時間”を堪能できる作品となっています。

文／山崎伸子