去る12月5日、HugKumでは教育ジャーナリスト・おおたとしまささんによるオンライン講演会、『二月の勝者』に学ぶ受験生の親のあり方〜コロナの影響は?これからの中学受験〜』を配信。事前申し込み制で、当初は300名の予定でしたが応募者が殺到したため、急遽増枠!計500名以上の方に受講いただきました。
目次
おおたとしまささんが語る、『二月の勝者』に学ぶ受験生の親のあり方
2020年6月末の発売以降、重版を重ねている、おおたさんの著書「二月の勝者 中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉」と週刊スピリッツの連載中の人気中学受験漫画『二月の勝者-絶対合格の教室-』がコラボレート。今、中学受験生の親としてもつべき心構えを、漫画や書籍の内容をふまえながら、わかりやすく解説していただきました。
コロナ禍の中学受験、親にできることは?
2020年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大で多くの学校や塾で休校が続き、学校説明会や運動会などのイベントも中止になりました。今までのようには学校選びができなかったり、健康管理にも例年以上に気を使う日々。たくさんの困難や不安を抱えながらも、ひたむきにがんばる子どもたちに我々親ができることはどんなことでしょうか。
親は「女優」「俳優」になったつもりで努めて明るく!自身の不安は隠して
おおたさん:コロナ禍でも基本的には、親がやらなきゃいけないことは変わりません。コロナの状況は今後どうなるかわかりませんし、親ががんばってもコントロールできるものではないのです。中学受験直前期は親御さんも焦ったり不安になるでしょう。しかし、親が不安がっていると子どもに伝染してしまいます。不安を表に出さず、気持ちとは裏腹でも「大丈夫だよ!」と笑顔でどんと構えること。女優や俳優になったつもりで演じてください。
学校選びはどこをどう見て判断すればいい?
学校を直接見る機会が減ってしまい、学校選びが難しいという声もよく聞きます。しかし、「文化祭や運動会はあくまでもお祭り。それらを見たからといって日常の様子がわかるわけではありません。最近では中学受験熱の高まりにより、学校行事が受験生の集客イベント化していた感じもするので、今年は生徒主体に原点回帰して良い面もあったと思う」とおおたさんは語ります。
では今後、学校見学が再開した際には、どんな点に気をつけて見学すればいいのでしょうか。
ポイントは「そこの学校にいる我が子を想像してしっくりするか」
おおたさん:文化祭や運動会を見学している際、ついつい「この学校はここがいい」「ここがイマイチ」と、学校を評価をする目で見てしまいがちですが、親がいちばん見なければいけないのは、その学校にいるときの自分の子どもの顔です。どの学校に行ったとき、子どもがどんな表情をしているか、よく観察してください。そこに学校選びの答えがあるはずです。
また、今までにない学校選びの観点、それが「コロナ禍での学校の対応」ではないでしょうか。おおたさん曰く「一斉休校後、すぐにオンラインに対応した学校が偉いのかというと一概にはそう言い切れない」そう。
対応が早ければいい、というものではない
おおたさん:なぜかというと、普段から民主的な学校運営をしている学校ほど先生たちの意見をまとめるのに苦労したはず。それは決して悪いことではありません。対応が早いところは、ともするとトップダウンの組織なのかもしれません。そういう観点で見ることもできますよね。
一日6時間、オンライン会議できますか?
そもそも、オンライン授業をたくさん行った学校が偉いのでしょうか?例えばですが、みなさんは一日6時間、オンラインで打ち合わせができますか?疲れ果ててしまいますよね。子供たちの負荷を考えると、“普段とは違う状況でいつも通り”、が必ずしもいいとは限らないと思います。
先日、漫画『二月の勝者』の作者・高瀬さんとお話ししたときに、「未曾有の状況の中で、学校としては慎重なくらいが子供の命を大切にしてくれているんだなと思えて私は好き」とおっしゃっていたのですが、僕も同じ感覚があります。
また、ある学校では、“一学期の成績を無理につけなくていい”という判断をしたんです。これは英断だと思います。柔軟な対応ができているかどうかも学校選びのひとつの観点になると思います。
学校や塾をビジネスライクに選ばないで
おおたさん:塾選びに関しても同じことが言えます。コロナに関係なく、受験生が何を学ばなくてはいけないのか、どういう風に学ぶべきなのかは変わりません。「コロナだから塾を変えるべき?」などとは考えなくてもいいでしょう。
学校選びは「結婚」に似ている!?
親御さんは普段仕事をしながら、子どもの中学受験に向き合っていると、ついつい「オンライン対応が早い」「プレゼンが上手」といったビジネス的な感覚で学校や塾を評価しがちです。しかし、子どもの教育に関することはビジネス的な観点よりも、結婚相手を選ぶ感覚で考えていった方がうまくいくと思いますよ。
大学入試改革、学力観の変化は?
大学入試改革が議論されていたり、新しい学習指導要領が始まったりなど、これからは学力観が変わると言われている昨今、それらは中学入試にどういった影響をもたらすのか、おおたさんに聞きました。
おおたさん:最近よく“学力観が変わる”ということを耳にしますが、みなさん大きな誤解をしています。もともと文部科学省は「知識の詰め込みが大切」とは言っていません。僕らが勝手にそう解釈してしまっていただけなんです。だから、文科省は学習指導要領を改訂するたびに、あの手この手で言い方を変えて「そうじゃないよ」ということを思い出させようとしているんです。新しい世界にいきなり連れていかれるわけでないので、そう身構える必要もないですよ。
難関校ほど「考える力」を求める面白い問題を出す
おおたさん:中学受験に関していえば、いわゆる難関校ほど思考力が求められる、暗記だけでは通用しない問題を出します。問題が難しくなればなるほど面白いんです!
下のクラスの子ほどしんどい勉強をがんばっている!
おおたさん:一方で下のクラスの子どもたちほど、暗記や繰り返し練習をする面白くない問題を解かされ続けています。これが中学受験のシビアな現実です。
親御さんから見ると「不甲斐ない……」と思ってしまうこともあるかもしれません。しかし見方を変えれば「うちの子、がんばっているんだ」と気づけるはずです。しんどい勉強を一生懸命がんばっている、そんな我が子をぜひ誇りに思って欲しいのです。もし、そういう子たちを馬鹿にする子がいたら私は許しません!
進む「入試の多様化」
おおたさん:最近の流れとして、いわゆる中堅校において、入試の多様化も進んでいます。国語・算数・理科・社会という教科の枠を超えた「思考型入試」などと言われるものです。例えばプログラミングをやらせてみたり、ブロックを作らせてみたり。その子のいいところを見て判断しようという入試方法です。そういう入試で受かった子は「この学校は自分のいいところを見てくれた」と、入学後の自己肯定感が高いそう。
「思考型入試」には対策は不要です。ありのままのその子を出してくれればいいという入試方法なのですから。学校では、入試の体験会や体験授業も実施しているので、興味があったら参加してみてくださいね。「面白かった!」とお子さんが興味を持ったのであれば併願校の一つに考えてみるのもおすすめです。
こういった新しい入試方法は、今までの偏差値とは違うところから見ています。なので塾の先生が知見が乏しい可能性も。塾の先生の意見も参考にしつつ、最終的には親御さんとお子さんで判断したほうがよいと思います。
公立中高一貫校の増加も話題
また、最近首都圏では公立中高一貫校が増加したり、私立のトップ校が軒並み高校受験を募集停止したりしています。その流れは関西にも。「高校から入る学校がなくなってしまうのでは?」と思われるかもしれませんが、逆に中堅校の高校募集を再開するという流れもあります。「中学受験をしないと行ける高校がなくなってしまう!」というわけではないので、中学受験をするかどうかも親子で冷静に判断してください。
中学受験はやらなくていいこと
そもそも中学受験をしたほうがいいのかどうか、皆さんも一度は考えたことがあるのではないでしょうか。“たかだか12歳の受験で人生が決まるわけじゃない。それでもがんばること自体が尊いこと”。受験生の親子の心にグッとくる言葉ですよね。
おおたさん:中学受験を通して、親がやらなきゃいけないことは、お尻を叩いて成績をあげることではありません。受験を通して人生観のようなものを12歳の時点で伝える大きなチャンスです。
損得勘定で考えているときは子どもの方を見ていない
おおたさん:中学受験は「勝ち負け」みたいな考えになってしまい、「どうしたら効率的に勝てるのか」という発想に陥りがちです。しかし、「結果に関わらず、私たちがんばったよね!」と今までの努力を誇りに思えるというところまで、親子で到達できるのかどうかが非常に重要だと思います。
「どういう勉強をしたら効率がいいか」「どういう風に学校を選ぶのが正解なのか」「いちばんいい学校はどこですか」なんて質問をいただくこともあるのですが、それは成果主義的で、損得勘定に囚われているのでは?
すべての答えは子どもの中にある!
親が子どもの教育について「どうしたら得なのか?」と、損得勘定で考えているときには、先のことばかり考えしまい、肝心な子どものことを見ていない。子どもが置いてきぼりになっているケースがよくあります。
色々な教育現場を見て、私が確信を持って言えることは、“教育に関するあらゆる答えは子どもの中にある”、ということ。外に答えを求めるのではなく、とにかく子ども自身を見てください。
中学受験を通して学べること
おおたさんもよく言われているように、中学受験はただ、志望校の合格を勝ち取ることがすべてではありません。受験を通して多くのことを子どもたち、そして親も学べるのです。それに親子で気がつけるかどうかが今後の人生に大きくかかわってくる気がします。
おおたさん:中学受験ができるという自体、ものすごく恵まれていることです。その恵まれた環境を最大限に生かして、世の中にどう還元していくか。まだ12歳に理解するのは難しいかもしれません。今後、中学受験を終えて高校卒業時くらいにでも、そういうことに気がつけるといいですね。これこそ中学受験を通した究極の学びではないでしょうか。
では、中学受験をさせられる親が偉いのか、そんなことはありませんよね。ただ、あなたも恵まれていた……。それを忘れてはいけません。
セミナーでお答えした質問を一部ご紹介します!
オンラインセミナー中には、受講した方々からたくさんのメッセージが届きました。セミナーで取り上げた質問をいくつか振り返ります。
質問1:「家庭の懐事情のことを子どもに話すべき?」
<おおたさんのお答え>
これは家庭の考え方が試されるものだと思うんです。「お金のことは心配しないで」というのも一つの家庭の方針。一方で、現実問題として中学受験はものすごくお金がかかること。お金の話をして子どもが萎縮したり、過度に気を使ってしまうのは良くないと思いますが、その子に理解する力があると判断したのであれば、しっかり話をするのも手かなと思います。
質問2:「子どもが第一志望校以外、興味を示さないのですが……」
<おおたさんのお答え>
本人が意思を明確にしていていることは素晴らしい財産です。ただ、1校だけの受験というのも現実的ではありません。「他の学校も見てみようよ」と親御さんがいうと「僕が受からないと思っているの?」と子どもも不安に思ってしまうかもしれません。そこで、「君は第一志望を目指してがんばれ!その第一志望と同じくらい素敵な学校もたくさんあるんだよ。お父さんお母さんで、そちらは調べておくから任せて。いい学校があったらそれも見に行こうよ」と言ってあげるのはどうでしょうか?
質問3;「姉と同じ学校を目指したいようですが、成績が足りなくて」
<おおたさんのお答え>
確かにお姉さんの学校を受けて残念な結果だった場合、一時的に妹さんの自己肯定感が下がるということはあると思いますが、その心配のために、受かる可能性があるのに受けさせないというのも違うと思います。お子さんがチャレンジしたいのであれば応援してあげてください。しかし、妹さんが意地になっている可能性もあります。「あなたとお姉ちゃんは違うからあなたに合った学校があるかもしれない。他の学校も見てみましょう」としっかり伝えてあげてください。また、模試を活用して、「○月までに模試で合格率50%を取れない場合は他の志望校も考えてみよう」など期間を決めて判断材料にしてもいいと思います。自分の人生、自分の選択なんだと思わせてあげられるかが重要です。
乗り越えた後、親子で笑っていられる受験を目指そう!
おおたさんのお話は「中学受験」だけでなく、子育て全般や人生にも役立つアドバイスがたくさんありました。今回のセミナーで学んだ、親のあり方、子どもへの寄り添い方は、これからの子育てにぜひ心に留めておきたいものです。
おおたさん:漫画『二月の勝者』の登場人物・佐倉が気づいたように、受験の勝ちはひとつじゃない。第一志望校への合格がすべてではありません。必ずしも希望の学校に合格でなかったにせよ、笑って中学受験を終えることはできるはずです。必勝ならぬ「必“笑”」を目指して欲しいと思います。
どうやったら笑顔で受験を終えられるのか、親子でぜひ考えてみてください。最後にこのメッセージを皆さんに送ります!「目指せ!二月の笑者」。
セミナーの様子はこちらから視聴できます!
おおたさんの力強いメッセージ、心に響きましたね。今回のオンラインセミナーは以下のチャンネルから視聴できます。
さあ、いよいよ中学受験本番が近づいてきましたが、漫画『二月の勝者』でも2021年1月12日発売の第10集ではついに、2月入試本番を迎えます……!こちらもぜひお手に取ってみてくださいね。
では受験生親子の皆さん、体調には十分気をつけながら、お子さんのこれまでの努力を信じて、二月の笑者目指してあと一息がんばりましょう!
次回の記事では、オンラインセミナーでご紹介できなかった視聴者の方から寄せられた質問に、おおたさんに特別にお答えいただく予定です。ぜひご覧ください。
おおたとしまささん プロフィール
1973年東京生まれ。育児・教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。リクルートを脱サラ独立後、育児・教育をテーマに取材・執筆・講演・メディア出演などを行う。中高の教員免許を持ち、小学校教員の経験もある。著書は『ルポ塾歴社会』、『名門校とは何か?』、『ルポ教育虐待』、『ルポ父親たちの葛藤』、『なぜ、東大生の3人に1人が公文式なのか?』、『21世紀の「男の子」の親たちへ』『21世紀の「女の子」の親たちへ』など計60冊以上。おおたとしまさオフィシャルサイト
ビックコミックスピリッツで大ヒット連載中の中学受験漫画『二月の勝者-絶対合格の教室-』と気鋭の教育ジャーナリストのコラボレーション。「中学受験における親の役割は、子どもの偏差値を上げることではなく、人生を教えること」と著者は言います。決して楽ではない中学受験という機会を通して親が子に伝えるべき100のメッセージに、『二月の勝者』の名場面がそれぞれ対応しており、言葉と画の両面からわが子を想う親の心を鷲づかみにします。
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文・構成/HugKum編集部