「子どもとデジタル、どう付き合うのが正解?」プログラミング達人ふたりの対談

テクノロジーの力を使って学びを変革したい。一貫した想いで20年前からNPO法人・CANVASで活動を続けてきた石戸奈々子さん。

新時代教育のキーマン・石戸さんと讃井康智さんの対談「アフターコロナ時代の教育クエスト」第3回の後編では、「子どもとデジタルの関わり」について深掘りしていきます。

幼児や小学生にとって、デジタルとの関わり方に正解はあるのでしょうか。

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新しいメディアが普及するのは、利便性がデメリットを超えたとき

讃井 子どもとデジタルの関わりで悩む親は多くいます。ゲームばかりすると学力が下がる、体に悪いなど反対する動きも現実にはありますよね。デジタルに抵抗感のある人たちに対して、石戸さんはどう向き合ってこられましたか?

石戸 私たちの活動は、デジタルだけを使ったものではなく、2002年からデジタルとアナログ、リアルとバーチャルのハイブリッドです。デジタルはツールとして、適材適所で使ってきました。

そしてデジタルの普及という点では、正直、どんなメディアが出てきても、子どもとの関係でいうとはじめは悪く言われるんですよ。万年筆やボールペンが出てきたときも言われました。本が出てきたら、本なんか読んでいないで、おじいちゃんおばあちゃんの話を聞きなさいみたいな(笑)。テレビが出てきたら、一億総白痴化すると言われたけど、今は視聴覚教育という領域もあって、学校の中でも子どもたちの学びの動機付けとしてもテレビを使います。さらにゲームが出てきたら、ゲームは馬鹿になる、脳に悪いと言われたけれども、最近はゲーミフィケーションといって、集中の分野でも効果的に使うことで、子どもたちの学習意欲を大きくあげることができるんじゃないかという話になっています。青少年とケータイ等デジタルメディアの関係も同じです。

讃井 テレビもゲームもいい面がある。使い方がポイントですね。

石戸 どんな技術も、メリットデメリットがあります。でも利便性がデメリットを超えたときに一気に普及するわけです。

今の子どもたちは、ネットワークにつながったディバイスを使わずに生きることは到底できない。だからこそ大事なことは使い方なわけです。子どもたちはすでにコンピュータに囲まれて生きています。お風呂に入るのも、冷蔵庫で何かを冷やすのも、信号を渡るのも、病院でも、何でもコンピュータによって制御されています。

私たちの生活、文化、経済、ありとあらゆるものに影響を与えるものとしてもコンピュータというのは存在しています。だからこそ、コンピューターを教育問題として議論しなくてはいけないし、しっかりと使いこなせるリテラシーを育まなきゃいけないと思います。それがプログラミング教育の必修化の背景です。

規制するのは楽な選択。でも長期的に見ると?

讃井 コンピューターの規制についてはどうでしょうか。

石戸 包丁だって、料理に使えば便利だけど、間違った使い方っていうのもある。新しい便利なツールが出てきたときに、規制してしまうのは、楽なわけですよ。だって、何のトラブルにも遭わないわけですから。

だけど、子どもたちに規制をして使わせないようにしておくということは、ある日、突然、荒波にぽーんと放り投げる行為をすることになってしまうのです。

デジタルを使うと百害一利といわれたことがありますが、百害一利じゃなくて、百利一害にする使い方を、幼少期にしっかりと教えてあげることが大人の責務だと思います。子どもたちがテクノロジーをどう使うか。何もかもOKではなく、適切な使い方をすることによって、よい効果があるのです。

讃井 本当にその通りで、百利になる使い方を大人が教えることが大事ですね。完全規制でなく部分規制をするフィルタリングについてはいかがですか。

石戸 フィルタリングを入れるということは技術的に対処するということです。それはある程度機能するので、私はうまく導入したほうがいいと思います。ただ技術は常にいたちごっこなので、常に新しい技術に破られるリスクを抱えています。

だからこそ長期的には教育での解決が重要です。子どもたち自身が安全かつ安心して活用する方法をしっかり教えていくこと。これらを学ぶことのできる環境を整えることが最も大事だと思います。幼少期からICTを適切に使いこなすリテラシーを育んでいくことは重要です。

風向きが変わったデジタル教科書の話

必要に応じて学習者用デジタル教科書も併用できるよう制度化された(文科省HPより)

讃井 そんな中2010年から、デジタル教科書の導入が謳われるようになりました。従来の規制する方向から180度の方向転換です。これは2005年から、石戸さんが提唱されていた「デジタルランドセル構想」がようやく実現したということでしょうか。

石戸 そうですね、私たちはデジタルランドセル構想として1人1台端末をもって学ぶ環境を整備することを提言してきました。2010年に初めて政府が取り入れてくれて、2020年までに一人一台情報端末を持って、学ぶ環境を整えようとなりました。それがないと学べない環境を作りましょうと。それまでの規制する方向から180度の方向転換になったわけです。私たちは小学生の象徴はランドセルだと思い「デジタルランドセル構想」としていたのですが、一緒に旗振りをしてくださったソフトバンクの孫正義さんが電子教科書でしょうと。間をとってデジタル教科書としました。

しかし、デジタル教科書の実現に向けては、紙でないと教科書にならないという法律があったため、法改正が必要であることが後日わかり、結果としては孫さんのネーミングセンスがよかったということですね(笑)。時間はかかりましたが、同じく訴えてきたプログラミング教育の必修化や、教育の情報化を推進する法律も成立しました。まずは制度面で準備できたという状況です。

まだ日本はキャッチアップの段階ですから、諸外国からかなり遅れをとっています。というのも、日本国内でも世の中のデジタル化はとうに終わっているのに、教育だけがデジタル化が進んでないからです。

讃井 僕らが描いていた21世紀の学びが、20年経ってようやくスタート地点に立ったという感じですね。

保護者からよく聞かれる質問。答えは…

讃井 子どものデジタルとの関わりについては、保護者の方からどんな質問を受けますか。

石戸 保護者の方からよく聞かれるのは「何歳から携帯を持たせたらいいんですか」「プログラミングは何歳からやったほうがいいですか」「どういうアプリがいいですか」などです。みなさん、そうやって悩まれている。だけど、それらは、答えがない質問で、だれも答えはわからないし、答えは一つじゃないわけです。ご家庭でどういう教育環境をつくりたいと思っているか、子ども自身の成熟具合や興味関心によっても全然違ってきます。

答えを教えてもらいたいと思うのは、答えは一つだと思っていて、そこにいかに間違わずにたどり着けるかを考えているということです。これまでの教育の名残りといえるかもしれませんが、そうではない時代です。答えは誰にもわからない。答えは複数あるかもしれない。

まさにコロナがそうですよね。誰も解決方法がわからない極めて困難な課題に、世界中の多様な人たちが知恵を出し合いながら対応しようとしているわけです。子どもたちに答えがない時代を生きる力を求めるのであれば、親自身もそういう姿勢を身につけなきゃいけないと、我が身を振り返りつつ思います。

讃井 まさに親がどういう教育環境をつくりたいかが重要だということですね。

子どもとデジタル、使い方の4つのポイント

讃井 唯一絶対の答えがなく、答えが多様な時代。でも、指針がないとどこから始めれば良いかわからない保護者も多いはずです。僕らが伝えられることは絶対解ではないけれど、どう考えていけば良いかという思考のステップや、そのときに大事にしてほしい基準なのかもしれません。敢えて「スマホやデジタル機器を何歳から使っていいですか」という問いに向き合うならば、何かアドバイスはありますか。

石戸 私の立場で何歳ですとはお答えできませんが、使い方に関しては4つお伝えしたいことがあります。

創造するコンテンツを選ぶ

石戸 一つ目は、消費するのではなくて、創造するコンテンツを選んでほしいなと思ってます。

讃井 創造的な学びがあるかどうかは大事なポイントだと思います。ゲームで遊ぶだけで学びがない状態だと親もやめさせたくなりますよね。黙ってゲームをしていても、例えばマインクラフトでこだわった建築をつくっていれば、これはクレヨンで熱心に絵を描いているのと一緒で、創造的だと思うわけです。

石戸 そうなりますね。

親子のコミュニケーションのツールとなる使い方

石戸 二つ目は、できたら一人で使うのではなくて、親子コミュニケーションのツールとなるような使い方をしてほしいと思ってます。

讃井 これは僕もそう思います。例えば、スマホゲームのパズドラでも、親子でコミュニケーションしながら、消し方を考えたり議論したりすれば、パズドラの遊びが創造的になる。ちょっと厳しい言い方になるかもしれないですが、デジタルが良い悪いとかではなく、親が子どもとコミュニケーションしながらデジタルな体験の中で学びある活動をつくれているかが大事です。

バランスを考えた使い方

石戸 三つ目には、何でもバランスというのは大事で、勉強だけしていてもダメだし、遊んでるだけでもダメなわけです。デジタルだけでもダメだし、外遊びだけでもダメ。生活の中でもバランスをしっかりと考えた使い方をすることが大事だと思っています。

讃井 外遊びだけではダメって、それはほんとだなと思って(笑)デジタルか外遊びかどっちかだみたいな話になりがちじゃないですか。

石戸 そう。教育って、いつも二項対立にされるんです。デジタルVSアナログとか、創造性VS基礎学力とか。基礎学力も否定していないし、アナログも否定していなくて、両方うまく組み合わせて、ベストミックスを考えましょうっていう話です。適材適所でツールを使い分けましょうという話。なぜか二項対立にするっていうのが問題なんじゃないかと思いますよね。

讃井 そうですよね。適切にバランスをとればいいんですよね。

石戸 そう! 別に過去のものを何も否定してはいないんです。

表現のツールとしては、まだ幼い頃ほど身体的にもクレヨンや粘土のほうが楽しいんですよ。でもそれはメディアとして、クレヨンと粘土のほうが、今はまだ成熟しているからだと思うんです。テクノロジーは、コミュニケーションや発信のツールとしてはアナログにはできない力を発揮しているけれど、表現のツールとしては粘土にはまだ勝てない部分があるわけです。

紙の歴史とデジタルの歴史って、長さが全然違うわけなので、これから先のテクノロジーの発展に期待したいところです。

讃井 面白いですね。ということは、デジタルが発展していくと粘土を超えていく可能性もあるっていうことですか…?

石戸 そうですよ。

讃井 確かにテクノロジーの進化の速さを考えれば、すぐ起きても不思議ではないですね。そして、また別の観点ですが、デジタルを使うと一人の世界にこもるって思われがちなこともそもそも間違いですよね。

石戸 最近はeスポーツの教育的効果も言われていて、共同してやるようなゲームをしたりつくったりして、コミュニケーションを学ぶ子もいるかもしれない。それに何かをつくろうと思ったら、インプットが必要になってくるでしょう。インプットがないとアウトプットができないので、徹底的にゲームをやった末にすごいゲームをつくるかもしれないわけじゃないですか。それは、そのゲームをしている瞬間だけを見ていてはわからないことですよね。

讃井 ゲームの中における学習転移といったりもしますが、ゲームにも勉強や部活、将来の仕事など他のところに転移する学びの要素があります。何かに夢中になれることも大切な体験です。
ゲームを遊ぶ中で学べることって何だろうという視点を親が持っておけば、ゲームをさせる・させないの二項対立で単純化しなくなると思います。他のやるべきこととのバランスの中で一定の時間制限はしつつ、ゲームの良いところは親子で大切にしていけるんじゃないかと思います。

親子の対話でルールを決める

石戸 四つ目に、デジタルの使い方は過渡期だし、まだ試行錯誤もあるので、親子の間でしっかりとルールを決めて使うことが大事だなと思っています。

讃井 親子の間でルールを決める対話って、結局、親が決めちゃいがちだという不安もありますが、ルール決めで大切にすべきことはありますか。

石戸 ルールに関してはある程度は大人主導にならざるを得ない部分もあると思いますが、納得しているかいないかで大きく違ってくると思います。対話の中で「こういう理由だからこれのほうがいいよね」「確かにそうだね」とか、「これには何時間使いたい」「それならいいね」とか。そういう会話があるかないかで、ルールの位置づけが違ってくると思います。校則みたいに、理由がさっぱりわからないけど禁止!というルールではなく、親子がしっかりと対話の末に導き出したルールをつくり、一緒につくったんだから守ろうね、というのが大事ではないかと思います。

もちろん、子どものこれまでの経験だけでは想像できないこともある。そのときには、「あなたはそう思うかもしれないけど、こういうリスクがあって、だから、こういうルールが必要だよね」と、大人が主導する部分もありますよね。

讃井 なるほど。その対話でルールを決める経験は、シティズンシップ教育のように、一人の市民として社会をより良くしていくために、対話をしてルールを変えることができるんだという体験にもつながっていくんじゃないかなと思います。

石戸さんのお話で面白いなと思ったのは、デジタルへの関わりを考えることが、社会に対して子どもたちがどう接していくのか、デジタルを超えたもっと大きなテーマの根本を学ぶきっかけになるということです。

石戸 私が出た中学校はとても自由な学校だったんです。校則もない。しかし、「あなたたちは自由です。自由だということは自分で責任をとるということです」と毎日のように言われるのです。自由と責任をしっかり理解した上で、できるだけ自主性に任せた取り組みが、私は一番いいなと思います。

コロナ禍、変化を楽しむ力を子どもに見せたい

讃井 最後に、コロナで世の中は大きく変わりました。その変化の中で、親は子どもにどう接していけばいいでしょうか。

石戸 コロナによる変化は大変ですよね。しかし、その中でも楽しみを見出して、次に向かって、新しい未来をつくっていこうと思う人もいます。変化が激しい時代において、その変化に適応する力はとても大事です。変化に適応する力というのは、変化を楽しむ力と、変化に対応できるように学び続ける力だと思います。

親も含めて、子どもと一緒に変化を楽しみ、楽しく学び続けることが大事ではないかと思うんです。

例えば、プログラミング教育を子どもにさせたいけれど自分は分かりません!ではなく、子どもと一緒にやってみようとするのもいいですよね。親子で一緒に新しいことにチャレンジしてみたりする心構えは大事だと思います。その姿勢から子どもたちは大人になっても学び続けるということを学ぶのではないでしょうか。

讃井 親と子が上下関係ではなく、親も一学習者として一緒に学んでいく。子どもが親を尊敬することもあれば、親が子どものことを尊敬することもある。そんな関係が理想なのかもしれませんね。

石戸 そうですね。親が全部知ってる必要はなですよね。そんなことは不可能ですし。子どものほうが詳しいことは子どもから教えてもらえばいい。コンピュータの使い方だって、子どものほうがすぐマスターしますから。だけど、親には親にしか伝えられない、今まで生きてきた人生の知恵があります。親子で教え合い、学び合いをすればいいんじゃないかと、私は思っています。

讃井 親の方が全てをわかっている必要はない、一緒に学んでいけばいいんだと、親がまずは肩の力を抜くことが大事ですね。変化を楽しめる心の余裕をまずは持とうと。私自身にも言えることです(笑)

 

◆対談を終えて

石戸さんとの対談では、まず「学ぶことは楽しいものだ」という原点に立ち返らせてもらいました。子どもたちだけでなく、大人も同じ。何歳になっても何かを学び・創ることは楽しいと感じられる場づくりを、石戸さんはずっと続けてこられています。

デジタルツールと子どもたちとの関わりを考える際には、大人もわからないことがあるという前提に立った上で、子どもたちと一緒に学んだり、対話をしてルールを決めたりすることが重要ということでした。
デジタルツールを使わずに生きることはもはや不可能な時代です。デジタルかアナログかの二項対立に陥るのではなく、子どもの状況に合わせて、最適なバランスを親子で一緒に考えることが、デジタルツールと子どもたちの未来志向の良き関係を作っていくことでしょう。

讃井康智

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プロフィール

CANVAS代表 / 一般社団法人超教育協会理事長/ 慶応義塾大学 教授
石戸 奈々子

東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、NPO法人CANVAS、株式会社デジタルえほん、一般社団法人超教育協会等を設立、代表に就任。慶應義塾大学教授。総務省情報通信審議会委員など省庁の委員多数。NHK中央放送番組審議会委員、デジタルサイネージコンソーシアム理事等を兼任。政策・メディア博士。

著書には「子どもの創造力スイッチ!」、「日本のオンライン教育最前線──アフターコロナの学びを考える」、「プログラミング教育ってなに?親が知りたい45のギモン」、「デジタル教育宣言」をはじめ、監修としても「マンガでなるほど! 親子で学ぶ プログラミング教育」など多数。

これまでに開催したワークショップは 3000回、約50万人の子どもたちが参加。実行委員長をつとめる子ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は、2日間で10万人を動員する。デジタルえほん作家&一児の母としても奮闘中。

 

CANVAS は全国のこども向け創造・表現活動にまつわる情報を WEB サイトやメールマガジンでお届けしています。是非お近くのワークショップにご参加ください。また、ワークショップ実践者等の関係者からの情報のご提供も、随時、受付中です。

https://canvas.ws

プロフィール

讃井康智|ライフイズテック取締役

東京大学教育学部卒業後、東京大学教育学研究科にて研究者として博士課程まで在籍。専門は教育政策・学習科学。2010年にライフイズテックを創業。ITキャンプ・スクールには累計4万6千人以上が参加し、中高生向けIT教育サービスでは世界2位まで成長。ディズニーとコラボした「テクノロジア魔法学校」や学校向け教材「ライフイズテックレッスン」などオンライン教材も提供。現在は各地の教育委員会の専門委員やNewsPicksのプロピッカー(教育領域)も務める。


撮影/五十嵐美弥

写真提供/NPO法人 CANVAS

文・構成/HugKum編集部

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