自炊する人を増やすことをモットーに、“自炊料理家”というオリジナルの肩書きで幅広く精力的に活動している山口祐加さん。最近始められた子ども向けのオンラインレッスンも好評です。そんな山口さんが考える料理とは?食育とは? お話を伺いました。
「ちゃんとした料理」なんてない!
料理が苦手な人や料理初心者を中心に、心地よく続けられる自炊の方法を教えている山口さん。これまで400人以上の生徒さんに教えてきて感じるのは、「人々の料理に対する肩こり具合のひどさ」だと言います。
「なぜかみなさん『料理はちゃんとしなきゃ』と思っているようなのですが、私は逆に、『ちゃんとした料理って何?』と思ってしまいます。正しい掃除、正しい洗濯がないように、正しい料理もない。なのに、料理に苦手意識を持っている人ほど、『ちゃんとしなきゃ』と思ってしまうんですよね。
山口さんが自身の活動を通じて広めていきたいのは「心地よい“食”」
「料理って、正解的なことはいろいろあるし、こうした方がおいしくなるっていうコツはたくさんあるけれど、もっと自由でいいと思うんです。
大人は定型文から外れたくない人が多い印象があります。失敗したくないのでレシピから離れられなくなるんですよね。でも、例えばもやしのひげ根を取るなんて、日常ではなかなかできないじゃないですか。そういうことがレシピ本にサラッと書かれているから挫折しやすい。もやしのひげ根は確かに取ったらおいしい。でも、日々の料理ではそこまで頑張らなくてもいい。手の抜き加減を知ることも大事です」
山口さんが “自炊料理家”と名乗っているのは、生活者の側でありたいから。おいしい・楽しい・面白い・感動といった心地よさを、あらゆる人に実感してほしいと話します。
料理は感覚的に理解すれば楽しめる
山口さんが行っている料理レッスンは、子ども向けも大人向けも基本的にはほぼ同じ。料理のレシピや技術を教えるというよりも、感覚を育てることを大事にしているそうです。
「私のレッスンでは味見をよくします。例えば、子どもたちとさつま揚げの味噌汁を作った時は、まずはさつま揚げから出ただしの味を確認し、そこに野菜を追加するとさらにだしが出てくることを確認しました。
また、味噌や醤油、お酢のにおいをかいだりなめてみたり、みりんを煮切るとどんな味になるか確認したり。これは大人のレッスンでもやっています。
そういう体験をしないで、よくわからないけれどみりんを入れたり酒を入れたりしているから、加減の仕方がわからない。その調味料や素材がどんな役割をしていて、入れるとどんな風に味が変わるのかがわからないから、いつまでたっても料理がよくわからず、なんとなくは作れるけれど自信が持てないんです。
大事なのは感覚。『この調味料を組み合わせるとこういう味だから、この野菜が合いそうだな』とかっていう感覚を育てることで、料理はもっと自由になり、楽しくなるはず。そこは、大人も子どもも同じなんですよね」
料理は学びの要素がいっぱい!
山口さんの料理の感覚は、小中学生時代に育まれたと振り返ります。
「私が料理を始めたのは7歳の頃。母と一緒にうどんを作った時に、料理の面白さに目覚めました。野菜に火が入ると柔らかくなるとか、鶏からは脂が出てだしになるとか、とにかく発見が多い。しかも食べてもおいしいし、親も喜んでくれて、いいことばかり。こんなに楽しいことはないと思ったんですよね。以降、仕事で忙しい母親から、「今日は祐加ちゃんがご飯を作らないと食べられないの」
また、私は中学時代が寮生活だったのですが、そこで3年間、寮母さんの手伝いをしながら、一通り料理を学ばせてもらいました。その中で、親のありがたさにも気づけましたね」
そうしたご自身の経験からも、子どものうちに料理に触れる機会を持つことは大事だと思うと山口さん。
「料理って、作って終わりじゃないんですよね。頑張って作ったんだから残さないで食べようとか、食べる人のことを思って作ることも大事だとか、当たり前のことに気づける。コンビニやスーパーのお惣菜だって誰かが作っているわけで、そこに思いを巡らすことも大事だし、フードロスの問題、肥満の問題、お米が食べられていない問題など、社会問題の好奇心の入口でもあり、様々な学びの要素が含まれているんですよね。そういうことは、できれば早く知っておいてもらいたいですよね」
それには、日常的に子どもをキッチンに招き入れるといいと山口さん。
「夕飯の献立を考える時に子どもをキッチンに呼んで、冷蔵庫をのぞきながら材料や調味料を子どもに選ばせてみてはどうでしょうか。そして、カッコいい料理名を一緒に付けちゃう。そんな風に巻き込んでしまえば、たとえおいしくできなかったとしても、子どもも共犯者になりますから(笑)。
私はよく、家で作る料理はパジャマ、部屋着だと言っています。つまり、誰に見せる物でもないんだから、そんなに必死になる必要はないということ。日々やっていることを共にするだけで、十分食育になると思いますよ」
“料理”を奪い合う家事に
山口さんは、料理に対しこんな思いも抱いているそう。
「私は、“家庭料理”という言葉もなくなればいいんじゃないかと思っています。今の日本は、世帯の形としては一人暮らしが一番多いですし、生活スタイルも一緒に暮らす人も多様になっている。なのに、家で作る料理が家庭料理のままなのも不思議だなと。
また、料理ができるから女子力が高いとか、弁当男子とかっていう感覚もなくなればいい。料理にジェンダー的な価値観を持ち込まないでほしいですよね」
正直、料理をしなくても生きていける世の中です。それでも、山口さんは自炊をする人を増やしたいと言います。
「だって、自分の好きなもの、今食べたいもの、食べたい味を自分の手で作れるって幸せじゃないですか。自分で作って食べるって、遠回りそうに見えて一番近道だと思うんです。
子どもにレッスンをしていると、『僕に切らせろ』『私にやらせろ』と奪い合って料理しているのに、大人になると料理は押し付け合いの家事に。その間に何があったのかと(笑)。
料理ほど楽しい遊びはない。こんなに楽しいことを誰かに任せるなんてもったいない。そんな風に思ってもらえる料理ネイティブを増やし、いつか、料理を奪い合う家事にしたいですね」
自炊料理家
山口祐加(やまぐちゆか)さん
自炊する人を増やすために活動する自炊料理家®。料理が苦手な人や料理初心者に向けた対面・オンラインでの「自炊レッスン」、子ども向けの「子どもオンライン自炊レッスン」などを主宰。その他、法人向けの料理レッスンやセミナー、企業コラボの動画配信、出張社食、執筆業など、幅広く活躍中。
・5月から新しく子ども向け料理教室も開始。詳しくはこちら>>
・パーソナル自炊レッスンもスタートします。詳しくはこちら>>
取材・文/鈴木友紀