Q : 子どもの病気とは、どう向き合う?
子どもが病気になると親も子も不安な気持ちになります。お母さんの対応の仕方や医療の受け方を知っておきましょう。
A : 今の一般の小児医療は「予防重視」です
幼児がかかりやすい病気で圧倒的に多いのは、感染症です。感染症というのは、ウイルスや細菌などが体に侵入して増殖し、いろいろな症状を引き起こしたり、人から人にうつったりする病気です。普通の風邪を始め、秋~冬に流行するインフルエンザなどの呼吸器感染症や、ノロウイルスなどによる胃腸炎、春の風邪や溶連菌感染症、夏~秋に流行する夏風邪はみんな、感染症です。
かつては日本でも、重い感染症(昔は伝染病と言った)で命を落とす子が多くいましたが、近年はほとんどいません。子どもの栄養や、社会・家庭の衛生状態がよくなったこと、医療や経済が発達し、治療を受けられる環境が整ってきたこと、加えて予防接種の普及が、命に関わったり重いを残す感染症を激減させたのです。(はしか)、結核、百日、日本脳炎などは、予防接種のおかげで、飛躍的に死亡率が低下した例でしょう。
このような状況から、今の一般の小児医療は「予防重視」になってきており、予防接種や健診などを充実させ、子どもや家族をサポートする予防医学や育児相談に重きを置く小児科が増えています。
医療や小児科医の役割
小児科を受診する子どもの8~9割は、ウイルス感染症です。ウイルス感染症に効く薬はありません。ほとんどは本人の力(免疫力・体力など)で自然に治ります。小児科医の役割は、ウイルス感染症の中に「積極的な治療が必要な感染症」が紛れ込んでいないか、あるいは「緊急を要する重大な病気」が隠れていないかをすること。そして軽度のウイルス感染症と診断したら、親に病気の説明をして、家庭でのケアを助言することです。
病状によっては、症状を緩和する対症療法をしますが、治すのはあくまでも本人の力です。医療(医師)は、力をアップするためのサポートと考えましょう。ただし、重い病気になると、医療(医師)の役割が大きくなってきます。
親の役割
病気を治すのに大切なのは、本人の力、医療(医師)の力、そして欠かせないのが親の力(受け止め方や看病)です。
私は3歳の頃、ネフローゼ症候群(腎臓の働きが悪くなり、たんぱく尿が出て、全身にさまざまな症状が出る病気)になり、7歳頃までに、長期の入院を4回繰り返しました。当時は治療法も確立していなくて、生死の境をさまよったこともあったとか。親はかなり不安に思い、将来を案じたそうです。それでも、そのうちなんとかなるだろうと、大らかなとらえ方で接してくれていたようです。
子どもが大病をすると、親は、病気と闘っている姿を見て愛おしく思ったり、逆に励まされたり、子どものことを再発見したり。子どもは親の愛情に包まれて安心したり。親子の絆が強まることは、確かにあると思います。そうして病気を乗り切ることで、親も子も、生きることの喜びや自信を得るように感じます。
風邪や胃腸炎などのウイルス感染症でも、親子のストレスは大きいと思います。そんな時も、診断を受けたら「今の状況は必ずよくなる」と努めて気持ちを大らかに持ち、看病をしっかりしてください。子どもは軽度の感染症に繰り返しかかり、病気に負けない体になっていきます。
私が小児科医になろうとした動機は、幼少の頃に小児科の主治医の先生にお世話になったことが大きいのですが、今改めて、医療では医師との信頼関係が重要だと思います。子どもが病気になった時、病気と上手につき合い、乗り切る方法を身につけることが、親にとっても子ども自身の将来にとっても、とても大切なこと。病気とのつき合い方を教えてくれる、かかりつけの小児科があるといいですね。
粂川 好男先生
杉並堀ノ内クリニック院長
信州大学医学部卒。立教大学卒業後、出版社に4年勤務した後、医学部入学。国立国際医療センター、愛和病院で小児科全般の臨床経験を積む。小児科専門医。
イラスト/松木祐子 構成/河又えり子
『めばえ』2016年3月号