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過集中の力でできることがアートに!?稼げる道を探ることに
当初、アートをやる気は全くありませんでした。
ツイッターで1日1回、ADHDのことを発信していくうちに、だんだんネタが無くなり、今日は何を書こうという日が増えました。そんな頃に、たまたま受講した講座の課題を解いた後の時間が余り、プリントに細かいものをびっちり落書きしたら、それが格好良く見えて、色を塗り分けたらアートっぽくなりそう!と思いつきました。
早速、ツイッターにあげたら思ったより反応がよく、絵が描けなくても「ADHDの過集中の力でできることもある」例としてアートを提示してみました。しかし、2枚、3枚と続けるうちに反応は落ち、次々と別のアートにチャレンジしました。細かい作業が好きだった僕には切り絵は向いていて、一時期は紙の切り絵もやりました。しかし、細かい切り絵は仕上げるのに1週間以上かかり、SNSでアップしてもすぐに埋れてしまう。趣味でやるにはいいけど、お金にかえるのは難しいと感じました。
葉っぱ切り絵をSNSにアップする中で、受ける作品の傾向がわかった!
切り絵の技術には自信がありました。紙以外の面白いものを見つけたらバズるかもと探して、海外の葉っぱ切り絵を見つけて、「おもしろい」「かわいい」と思って作り始めました。
それが2020年1月頃です。葉っぱ切り絵をアップすると、いつも見てくれる常連さんたちからは「リトさん、また新しいこと始めたんですね」くらいの薄い反応で、それが半年くらい続きました。葉っぱ切り絵でもブレークは難しいのかと思いつつ、どんな作品の反応がよくて、どれの反応が薄かったかを検証しました。すると、細かい技術をひけらかしたような精密なものは、労力のわりには反応が薄く、いっぽうで童話の世界や、1枚の絵の中にストーリー性があるようなものが支持をあつめているということがわかりました。
フォロワーの数が4倍に増えた作品
ブランドやビジネスについて学び、自分の価値を上げる
貯金を食いつぶしてやってきて、残金は2万円くらい。実家で食べさせてもらっていましたが、親にも申し訳なくて、1日でも早くお金にしなければいけない!と追い詰められていました。だからこそ必死になれ、これは違うと思ったらすぐに捨てて、次へ行くことができました。趣味の延長だったり、アーティストになるんだと夢を追いかけていたりしたら、こうはならなかったと思います。
自分がやりたい、ではなく、何が喜ばれるか、価値になるか
自分が満足する作品を作るのではダメ。お金にするのなら、買ってくれる人たちに満足してもらえないといけない。
アートの勉強は今さらやっても、とてもプロの人にはとても追いつけない。そこで、葉っぱ切り絵をやりながら、ビジネス本を読んでブランドやビジネスについて勉強をしました。そして、自分の作品の価値を高める努力を地道に続けました。応援してくれる人を大切にして、みんなのコメントに返信して、「作品がすごいね」ではなく、「これを作っているリトさんが好き」といってもらえるようになろうと思っていました。ツイッターなどにアップする文章も、「こう言うと角が立たないか?」「誰かを傷つけないか?」とすごく考えて、1つのツイートをするのに2時間くらいかけることもあります。そうやって信頼を積み重ねていきました。
ADHDの特性の過集中力と細かいことが好きな気質。「葉っぱアート」が僕に向いているワケ
人に真似されないことをやるには、「細かいことが好き」で、1日に何十時間やり続けても苦にならない「過集中」の力を生かすしかないと思いました。また、僕は絵が得意じゃないから、リアルな人や動物を描くより、ウサギやゾウなどシルエットでキャラがわかりやすいものが向いている。
着彩するアートだと陰影や遠近法などが必要だけど、切り絵なら色をつけなくていいなど、僕が得意な面だけが出るアートとして切り絵を選びました。また、大きな紙の切り絵だと制作に何カ月もかかるけど、葉っぱを使うとこの1枚だけの世界なので、毎日SNSにアップできる。自分ができるこれとこれでできるのは何だ?と消去法で考えると、葉っぱ切り絵アートは、とても僕に向いていたのです。
自分の特性を理解して、既存の競争に入らず、自分を売り出せる方法を考えた
突き抜けるためには、既存の競争に入らないことが大事だと思います。
みんな不安だから、同じレールを走りたがりますが、そこにいる間はなかなか芽が出ない。同じことをやっている人がたくさんいる中で、自分だけを注目してもらえるわけがないんです。既存のものの中で成功するのは難しいなら、自分で場所を作ればいい。
自分のできないことを箇条書きにして、何ができるかを見出す
僕はむしろ、既存のものから脱却することばかりを考え、下手に友達を増やさず、人との交流も持たないようにしました。得意な武器が少ないなら、それが生かせるものを世の中で探すのではなく、自分で作った方が早いと思います。芽が出ない間は不安だし、暗い洞窟の中を歩いている気がするけど、その先にゴールがあると信じて、やり続けることが大事だと思います。
子ども時代は幅広い体験を大切にしてほしい。時間はたっぷりあるから焦らないで
発達障害のあるお子さんをお持ちの親御さんからは、「リトさんの生き方を見て、明るい指標になった」「こういう育て方もあるんだと思えました」と言ってくださる方も多くて嬉しく思います。
一方で「この子の将来が心配です」という方もいらっしゃいます。しかし、安心できる未来なんてありません。サラリーマンだって5年後の会社がどうなっているかわかりません。
10年以上も先の心配などせず、子どもの頃にはいろいろなことを体験することが大事だと思います。そのなかで、何が得意で何ができるのかが見えてくるかもしれません。僕自身、学生時代にゲームに夢中になったことも無駄になっていないし、小さい頃に読んでもらった絵本の内容や、ディズニーランドに行って楽しかったことなどが、今の作品の世界につながっています。僕は30歳を過ぎていたから必死でやったけど、子どもたちには時間がたっぷりあるのだから、慌てないで、好きなことを楽しんでほしいです。
前半のインタビューはこちら
教えてくれたのは
リト@葉っぱ切り絵
自身のADHDによる偏った集中力やこだわりを前向きに生かすために、2020年より葉っぱ切り絵を独学でスタート。TwitterとInstagramに毎日のように投稿すると、たちまち注目があつまり、その作品はテレビや新聞などのメディアで次々と紹介されるようになり、その人気は海外にも広がっている。2021年5月に初の作品集『いつでも君のそばにいる 小さなちいさな優しい世界』(講談社)を刊行。
Instagram @lito_leafart
Twitter @lito_leafart
取材/構成 江頭恵子 写真(リトさん)/五十嵐美弥 *作品写真は、すべて『いつでも君のそばにいる~小さなちいさな優しい世界』より