連ドラ化もされた人気コミックを、有村架純✕森田剛を迎えて映像化
『花束みたいな恋をした』（21）や『るろうに剣心 最終章 The Final／The Beginning』（21）などの大ヒットも記憶に新しい有村架純と、『ヒメアノ～ル』（16）以来６年ぶりの映画出演となった森田剛の共演で放つ『前科者』が、1月28日より公開されました。マスコミ試写の段階でも非常に評判が良かったので、公開後も口コミでも広がりを見せていきそうな1作です。
本作は「ビッグコミックオリジナル」（小学館）で連載中である、原作・香川まさひと、作画・月島冬二による同名コミックの実写映像化作品ですが、WOWOWでもひと足先に連続ドラマ化されています。もちろん映画単体として観ても十分深みのある作品に仕上がっていますのでご安心を。
有村さん演じる主人公の阿川佳代は、コンビニ勤務をしながら、犯罪や非行に走った人たちの社会更正をサポートする保護司を務めています。まず驚かされたのは、保護司が非常勤で無報酬の国家公務員であること、すなわちボランティアであることでした。
保護司として、様々な問題を抱える前科者たちを、献身的に手助けしていく佳代。それにしてもなぜ彼女は、見ず知らずの前科者のために、尽くせるのでしょうか？そんな佳代の葛藤を通して、人を信じることへの希望と再生のドラマが綴られていきます。
罪を犯した人だけを責められない、彼らが抱えるバックグラウンド
佳代がサポートする前科者たちのなかには、やむを得ず一線を越えてしまった者もいるようです。特に、自動車修理工場で生真面目に働いている工藤誠（森田剛）は、職場で壮絶ないじめを受けたため、同僚を殺害してしまったようですが、もともと家庭環境もすさまじかったようです。でも彼は、佳代が親身に相談にのってくれたことで、本気で更生しようと日々努力しています。
ところが、そんな工藤の前に、ある男が現れたことで事態は急変。工藤は、佳代の保護観察終了前の最終面接にも現れず、忽然と姿を消してしまいます。折しも、連続殺人事件が起こっていき、容疑者として工藤の名前が挙がっていきます！
殺人という重大な罪を犯した工藤ですが、そんな彼の真面目な人柄を理解し、自動車修理工場の社長は社員登用も考えてくれていました。それなのに、予想外の事件に巻き込まれてしまうという展開がなんとも切ない。
それでも事件が発覚後、佳代だけは断固、工藤を信じ抜こうとしますが……。罪を犯した者が更生することは、ここまで難しいことなのかと、改めて現実を突きつけられ、胸が苦しくなります。
佳代が懸命に工藤を信じようとすることが、まるで苦行のように思えてきますが、そこが切ないほど、後半での展開に心を奪われることになります。
辛い時は辛いと叫ぶことの大切さを再確認
本作で、罪人を再生へと導くという偉大なミッションを担う佳代は、決して“聖人”ではありません。だからこそ、佳代は他人の痛みを自分のことのように受け止められるし、同じ目線で希望を見出そうとしていきます。
佳代の保護観察対象者の１人である斉藤みどり（石橋静河）が、奮闘しすぎてパンク寸前の佳代を見て「弱いからこそ、人の気持ちがわかる。先生みたいな人間が必要です」と声をかけますが、そこは大いに納得しました。
実は、佳代自身も辛い過去を抱えていて、それを乗り越えようとしているからこそ、同じ弱者である工藤の苦悩を察することができたんだと思います。佳代の誠実さと、魂の清廉潔白さを、有村さんは、余すことなく体現しています。
「辛い時は辛いと叫んでください」と工藤に訴える佳代。それは前科者に限らず、自分の身内や親しい人とのやりとりにおいても大切なことかもしれません。そういう声なき叫びやギリギリのSOSを察知することがあったとしたら、相手の立場で物事を考え、繊細に受け止めていかないとダメだなと、改めて思わされました。
タイトル『前科者』と聞くと、少しヘビーな印象を受けると思いますが、観終わったあとは、どこか心が軽くなるような希望を受け取ることができます。そして人を許すこと、受け入れることの大切さをかみしめる１作なので、心がギスギスした今の時代に、多くの方に観ていただきたい１作となりました。
監督・脚本・編集：岸善幸 原作／香川まさひと・月島冬二「前科者」（小学館「ビッグコミックオリジナル」連載）
出演：有村架純、磯村勇斗、若葉竜也、マキタスポーツ、石橋静河、北村有起哉、宇野祥平、リリー・フランキー、木村多江／森田剛…ほか
公式HP：zenkamono-movie.jp
文／山崎伸子
©2021 香川まさひと・月島冬二・小学館／映画「前科者」製作委員会