公立vs私立、共学vs別学、何年生から塾に?中学受験のギモンを知窓学舎・矢萩先生にぶつけてみた

2020年から教育改革が始まり、詰め込み型の学びより、生きていく力をつけるような学びに注目が集まっています。では、中学受験も変わっていくでしょうか。旧来の勉強法や受験のやり方でいいの…? そこで、探究学習と中学受験の両方を充実させる知窓学舎塾長の矢萩邦彦先生に、「今ドキの受験」についてギモンをぶつけてみました。なるほどと、腹落ちする解答がいっぱいです!

改めて中学受験はすべき?子どもの主体性はどんどん変わるから…

――前回は、中学受験にまつわる最近の状況や社会的背景から、「好きなこと」を見つけることの大事さを教えていただきました。とはいえ、中学受験をするのかしないのか、というギモンはどう解決すればいいでしょうか?

 

矢萩先生:それは主体性の問題でしょう。どんな理由であれ、本人が「したい」と言うのならサポートしてあげましょう。そうしないとできないのが、中学受験です。子どもひとりの力で塾を選んだり学校を選んだり、手続きしたりできませんよね。

「受験したい」理由は、子どもですから、大人が不安になるようなことかもしれません。仲良しの友達が受験するからとか、その学校の制服がカッコイイからとか。そんな理由だとしても、「したい」というなら受け入れるべきです。

やると言ったんだから最後までやりなさい、はNG

しかし、子どもたちの主体性はコロコロと変わります。少し前までは受験したがっていたけれど、仲良しの友達とケンカしたとか、彼が公立に行きたいからやっぱり地元の公立がいい、なんて言うと、親御さんは「そんなふうに友達に引っ張られるなんて」と思いますよね。それでも話し合いをした上で、変更に対応してあげましょう。

「一度始めるって言ったんだから最後までやりなさい」

「これだけお金がかかったんだから続けないと」

なんて言ってはいけないと思っています。やりたくないのに無理矢理続けても、主体性のない学びは害にしかなりません

 

塾はいったん通ったら辞められない? そんなことはありません!

――――「やめたい」と塾に言うと、全力で止めにかかってきそうです。

 

矢萩先生:塾はビジネスですから、生徒ひとりやめさせないように必死ですからね。でも、塾のためにガマンするなんてバカバカしいでしょう。

子どもが「やめたい」と言ったら、いったんやめればいいんです。塾は「1カ月休んだらもう取り戻せない」とか言いますが、そこをフォローするのが、本来塾ですから、個別最適化ができていないということになるんです。

塾を変えるのもありですよ。相性が悪い塾とがまんして付き合う必要はありません。あるいは個別塾に換えてもいいし、自力の勉強でもいい。何もかもすんなりうまくいくことはなかなかないかもしれませんが、子どもが「自分なりに考えて決断する」という経験をし、納得のいく勉強をすることが大事です。

もちろん「もとの塾にもう一度行きたい」もありです。一回辞めて戻ってきた子を歓迎して、その子らしく学ばせることができる塾がいい塾ですよ。

 

1年生から塾通いは必要? 6年生の2学期からでもいい!

――そもそも何年生から塾に行けばいいのでしょうか。最近は1年生から塾通いしている子もいますね。

矢萩先生:塾は「5年生のうちに志望校を決めてください」って言いますね。ということは5年生のときにはもう塾に行っている前提です。

1から塾通いする子が多くなったのは、ここ3~4年でしょうか。早くやればやるほど受験生には有利と思っている親御さんもいますが、時期は気にしなくていいのです。

子どもが本当に受験したくなったときが塾の行きどきではないでしょうか。6年生の2学期に急に「私は私立の中学に行きたい」となったら、そこが塾の行きどきです。

6年生の2学期ですと、国語算数理科社会と4教科をこれから勉強してもなかなか難しいかもしれません。2教科受験にする、思考力を問うような試験をする中学を選ぶなど少し狭まりますが、それもいいじゃないですか。とにかく本人の主体性を中心に考えましょう。

 

均質な子がいる私立なのか、多様性を求めて公立なのか

――私立の一貫校と地元の公立中学、そして公立の一貫校ではどう違いますか?

 

矢萩先生:私立はそれぞれ個性のある教育方針を立てていますし、同じような偏差値、価値観を持った子どもたちが集まります。地元の公立中学は、だれでも入学できる分、多様性があります。また、公立の中高一貫校は私立ほどの個性はないものの、より満足のいく大学進学を目指して入学する子が多く、進学指導などもさかんです。私立の中高一貫校とは別の受験対策も必要と言われます。

私立の場合は学費が高いですが、「その分、すばらしい教育が受けられる」とは限りません。パンフレットに書かれた教育方針も、外注してコピーライターが「そそる」ように書いているという事実もあります。また私立の先生がとりわけ優秀でやる気があるというわけでもないと思います。ある程度均質な生徒がそろっていて、難関校などは大学受験にみんなが向かっていくモチベーションが高いところに価値があるのかもしれません。

 

共学と男子校・女子校、決めるのは大人じゃない!

――共学と男子校、女子校はそれぞれどんな特徴がありますか?

矢萩先生女子校、男子校は、パパママも出身者が多い印象です。良くも悪くも校風が強くてトラディショナル。悪いほうでいえば閉鎖的(笑)。最近、共学に人気がありますし、共学が増えてきましたね。

 

ただ、これもどちらがいいのか、本人の意向を大事にしてあげてください。親子でちゃんと対話して合意ができていることが大事です。

私は、本人よりも本人を取り巻く大人の意見が乖離していて、子どもを悩ませているケースも気になっています。パパが「絶対女子校がいい」、ママは「共学よ」、スポンサーでもあるおじいちゃんおばあちゃんは「伝統校に行ってほしい」みたいに主張されると、子どもは自分の意見が言えず、つらくなります。

とにかく、周囲の大人も含めて合意形成することがマストです。

 

早く準備しすぎないこと。子どもは毎日変わっていきます

――志望校はいつ頃決めればいいのでしょうか。

矢萩先生:よく、塾は「5年生のうちに決めてください」って言うけれど、そんな早いうちから子どもが主体的に決めるのはほぼ不可能です。子どもはまず、中学というところがどんなところかもわからないですから。たいていは偏差値が合う合わないとか、「この学校は親が気に入っている」とかで決めてしまうでしょう? そんなふうに周囲に振り回されて決めないほうがいい。

 

極端な話、決めるのは前日まででいい。本人が、「この学校とあの学校、どっちがいいかわからない」って思っているなら、試験料はかかってしまうけれど、ふたつエントリーすればいい。子どもって、1月から2月の受験日の間にもグングン成長しますし、学力も伸びます。今日決められないことが明日決められるようになるかもしれない。そんな子どもの伸びしろを信じてあげましょう。

 

最近、いろんな「活」があるじゃないですか。

子どもをつくるための「妊活」、保育園に入るための「保活」、「育活」「就活」そして最後は「終活」まで。これらは全部、何かをやる前の準備です。中学受験もそうでしょう?「大学受験をスムーズにするために」「将来の就職のために」って、小学生から準備する。そんなに前から準備する必要ってありますか? 時期になったらまったく価値観が変わるかもしれないでしょう?

 

準備しすぎなくていいと思います。子どもの「今」を大事にしながら、中学受験と付き合ってもらいたいですね。

 

――ありがとうございました。HugKumではこれからも子どもと親の教育と受験を幅広い角度で見つめ、「今ドキの中学受験」にまつわる記事を発信していきたいと思います。

 

 前半はこちら

知窓学舎塾長・矢萩邦彦さんに訊く「中学受験はしたほうがいい?」答えは意外にも、親の毎日の過ごし方に関係が!
小学校では将来社会の即戦力になるための力を養う ――中学受験について、よくわかっていないうちに「受験しなきゃ、塾に行かなき...

記事監修

矢萩邦彦(やはぎ・くにひこ)
アルスコンビネーター、知窓学舎塾長、多摩大学大学院客員教授。1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究する学びを、子どもたちに授けてくれる教育者。2万人を超える直接指導経験を活かし「すべての学習に教養と哲学を」をコンセプトに「探究×受験」を実践する統合型学習塾『知窓学舎』を運営。「現場で授業を担当し続けること」をモットーに学校・民間を問わず多様な現場で授業・講演・研修・監修顧問などを展開している。
『子どもが「学びたくなる」育て方』(ダイヤモンド社)『新装版・中学受験を考えたときに読む本』(二見書房)の2冊が2022年10月に発売される

 取材・文/三輪 泉

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