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ダイアナ元妃の揺れる心の内を深掘りしていく
イギリスの君主として歴代最長の70年にわたって在位してきたエリザベス女王の国葬で、全世界から哀悼の声が上がり、イギリスのロイヤルファミリーにも熱い視線が注がれました。そんななか、奇しくもダイアナ元妃の人生をたどる世界初のドキュメンタリー映画『プリンセス・ダイアナ』が、9月30日より公開され、話題を呼んでいます。
本作には“世界で最も愛されたプリンセス”と言われたダイアナ元妃の輝かしい足跡とともに、おそらく英国王室としては蒸し返してほしくないと思われるスキャンダルも容赦なく盛り込まれていて、率直な感想を述べると、下手な劇映画よりも悲劇的かつドラマチックな内容の映画だと思いました。
そして観終わったあと「一体なぜ、彼女は若くして死ななければならなかったのか?」というやるせない憤りをかみしめてしまいました。王妃であり、妻であり、母でもあったダイアナ元妃は、壮絶な葛藤を抱えていたようで、映画ではそこをひも解いていきます。
「夫を支え、良妻賢母でありたい」というダイアナ妃の願い
時間軸としては、まだ“公人”となる前の16歳のダイアナから、ゴージャスなロイヤルウェディング、公務に明け暮れながら2人の息子を育てていく母としての顔、そして忌まわしい事故の報道を経て、全世界25億人が見守ったダイアナ元妃の“国民葬”までを追っていきます。
16歳でチャールズ皇太子と出会い、20歳で王妃となったダイアナ。2人は恋愛結婚で、おとぎ話のようなシンデレラストーリーとして世界から羨望の的となっていました。ダイアナは「夫を支え、良妻賢母でありたい」と口にしていましたが、やがて彼女が信じていた夫の愛が偽りのものだったことが露呈されます。
チャールズ皇太子の心は結婚当初からすでに、現カミラ夫人のものだったとか。ダイアナ妃はいつしか心のなかで声なき悲鳴を挙げ、自殺未遂まで起こしていたそうです。
紆余曲折を経て、ダイアナとチャールズ皇太子が別居後、皇太子とカミラが愛をささやき合っている音声が報道されたことで、皇太子は窮地に立たされます。さらに追い打ちをかけるように、ダイアナの不倫相手だった元騎兵連隊将校ジェームズ・ヒューイットが、ダイアナと自分の不倫についての暴露本『恋するプリンセス(Princess in Love)』を出版。続くBBCテレビ番組でダイアナが語った衝撃の告白に、世界中が戦慄しました。
ただ、それまでの経緯を見てみると、チャールズ皇太子にも、同情の余地があるなと思ってしまいます。なぜならすべての報道において、あまりにもダイアナだけがフォーカスされていて、皇太子自身がまるで彼女の付き人のような扱いを受けていることが随所でうかがえるからです。
また、毎日ダイアナを追いかけ、ハイエナのようにたかるパパラッチの姿を見ていると、ロイヤルファミリーの方々は、“公人”という名の下で常に好奇の目にさらされていたんだなと、本当に胸が痛くなります。そんななかで、あの事故は起こるべきして起こったのだと、今更ながらに痛感させられました。
エイズの赤ちゃんを抱き上げる聖母のようなダイアナ
ダイアナ元妃は、妻や母である前に、常に王妃でいなければいけませんでした。例えば、第一子のウィリアム王子が生まれた時のお披露目では、たくさんのフラッシュを浴びるなか、息子が泣き出してもミルクをあげることができません。仕方なく、自分の小指をウィリアムに吸わせるという母・ダイアナの表情が切なかったです。
また、チャールズ皇太子との仲が冷え切ったあとでも、仮面夫婦を装わなければいけませんでした。チャールズからのキスを拒むダイアナ妃の胸中を思うと、もはや言葉になりません。
チャールズと離婚後、ダイアナが国際的な慈善活動を精力的に行うようになったのは周知のとおり。特にエイズ問題、ハンセン病問題、地雷除去問題への取り組みがよく知られているところです。その情熱には一点の曇もなく、エイズの赤ちゃんを抱き上げるダイアナは、まるで聖母のように見えました。
きっと心がとても美しい人だったに違いないダイアナ元妃。プリンセスに選ばれていなかったら、きっと違う幸せを手にしていたのではないかと。ダイアナ元妃が事故死した当時、ウィリアム王子とヘンリー王子は、まだ15歳と12歳ということで、涙を禁じえません。
ただ、彼女がプリンセスとして残した功績は、これからも末永く語り続けられると思いますし、きっと彼女の高潔な魂はウィリアムたちにも受け継がれているはず。いろんな思いが巡る本作を、ぜひ多くの方に観ていただきたいです。
監督:エド・パーキンズ 公式HP:diana-movie.com/
クリステン・スチュワート主演の映画『スペンサー ダイアナの決意』も公開
ダイアナ元妃没後25年ということで、もう1本、ダイアナ元妃を描く映画『スペンサー ダイアナの決意』が、10月14日(金)より公開されます。
本作で描かれるのは、すでにダイアナ妃とチャールズ皇太子の夫婦関係が冷え切っていた時期の物語。不倫や離婚の噂が飛び交うなかで、精神的に追い詰められたダイアナが、生まれ故郷のサンドリンガムで、今後の人生を決める一大決心をすることに。
ダイアナ元妃を演じるのは、『トワイライト』シリーズの人気女優クリステン・スチュワート。クリステンのキャリア史上、最高の演技だと絶賛され、アカデミー賞主演女優賞に初めてノミネートを果たしました。こちらもぜひ合わせてご覧いただきたいです。
監督:パプロ・ラライン
主演:クリステン・スチュワート、ジャック・ファーシング、ティモシー・スポール、サリー・ホーキンス、ショーン・ハリス
公式HP:https://spencer-movie.com
©2021 KOMPLIZEN SPENCER GmbH & SPENCER PRODUCTIONS LIMITED
『エリザベス 女王陛下の微笑み』も追悼上映中
96年の生涯を閉じた英国エリザベス女王を追悼し、今年6月に公開された、エリザベス女王初の長編ドキュメンタリー映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』が、全国の劇場にて追悼上映されています。
昨年9月に急逝した『ノッティングヒルの恋人』(99)のロジャー・ミッシェル監督がメガホンをとった本作では、チャーミングでキュートな“素顔の女王陛下”の魅力がフィーチャーされています。
また、ザ・ビートルズ、エルトン・ジョン、ダニエル・クレイグ、マリリン・モンローらスーパースターや、歴史に残る政治家、錚々たるセレブが華を添える貴重な映像や楽曲も満載。女王への深い愛と畏敬の念を込めて編集された愛すべき映画をぜひ堪能していただきたいです。
監督:ロジャー・ミッシェル
出演:エリザベス2世、フィリップ王配、チャールズ皇太子、ウィリアム王子、ジョージ王子、ダイアナ元妃、ザ・ビートルズ、ダニエル・クレイグ、マリリン・モンロー、ウィンストン・チャーチル……ほか
(※称号は2022年6月劇場公開当時のもの)
公式HP:elizabethmovie70.com
©Elizabeth Productions Limited 2021
文/山崎伸子