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ビジョントレーニングは、発達支援の現場だけでなく、動体視力、判断力向上のためアスリートも注目!
今回お話を伺った北出先生は、アメリカで検眼学(オプトメトリー)を学び、アメリカの国家資格「ドクター・オブ・オプトメトリー」を取得。2015~2018年は、ボクサー 村田諒太選手のビジョントレーニングも担当しています。
ビジョントレーニングは、欧米諸国では80年以上の歴史があり、子どもの注意欠如・多動症(ADHD)や学習障害(LD)、読み書き障害(ディスレクシア)など発達に課題がある子どもたちの改善・克服などに活用される発達支援の実践プログラムです。現在は、日本でも療育などの現場で取り入れられています。
また、ビジョントレーニングは、発達に課題がある子だけが対象ではありません。見る力を高めることにより動体視力、判断力、空間認知能力、身体能力などの向上が期待できるため、アスリートでも実践している人が多数います。
「手先が不器用」「誤字が多い」「音読が苦手」がビジョントレーニングで改善することも
発達に課題がない子でも、見る力に問題がないとは限りません。通常学級でも約半分ぐらいの子は、見る力に問題があると言われています。
見る力が未発達な子が増えている理由は、外遊びをする機会が減ったり、ボール遊びができる場所が限られたりしていることなどです。今の子どもたちは遊びを通して、見る力が育ちにくい環境の中で成長しています。
お母さんやお父さんの中には「ゲームでは見る力が育たないの? キャラクターを目で追ったりしているけど…」と思う人もいるかも知れませんが、見る力を育てるには目と体を使って動くことが大切です。ゲームでは見る力は育ちません。さらにスマホや携帯ゲーム機を長時間見続けることで、スマホ内斜視になる子も増えています。
また見る力が未発達だと、読み書きなどの学習面にも影響が出やすくなります。次の項目に1つでも該当する子は、家庭でビジョントレーニングを実践してみてください。
ビジョントレーニングが必要な10のサイン
お子さんの様子で、以下のチェックポイントに当てはまったら、ビジョントレーニングをおすすめします。
□本を読むとき、すぐにつかえたり、飛ばし読みをしたり、読んでいる場所がわからなくなったりする
□ノートのマスや行から字や数字がはみ出す
□ひらがな、漢字が正しく書けない。鏡文字を書く
□黒板をうつすのが苦手
□図形の問題が苦手
□球技が苦手。ボールを投げたり、キャッチするのが苦手
□目で追って物を見るとき黒目の動きがぎこちない(目で追うとき、顔を左右・上下に動かす)
□はさみで切る、ボタンを留める、ひもを結ぶなど手先を使う作業が苦手
□物や人にぶつかりやすい
□ダンスや体操などで人の動きを見てまねしたり、動きを覚えるのが苦手
ビジョントレーニングは短時間でもOK! 毎日続けることがカギ
家庭でビジョントレーニングをするときは、次のことを心がけましょう。ビジョントレーニングは、3歳ごろから始められます。
【ビジョントレーニング 4つのポイント】
1.楽しい雰囲気で行う
2.1日3~5分でもよいので毎日続ける
3.子どもが嫌がるときは、無理をしない。少し時間を空けて、遊び感覚で楽しめるトレーニングに誘う
4.忙しくてトレーニングの時間を設けるのが難しいときは、たとえば冷蔵庫の扉に専用のワークシートを貼っておき「クリアできたら冷蔵庫を開けていいよ」など、ゲーム感覚でルールを作る
家庭でできるビジョントレーニング
ご家庭ですぐに実践できるビジョントレーニングをご紹介します。
「お手玉タッチ」
1.お手玉に、手芸用のひもやビニールひもを結ぶ。お手玉からひもの端までは30~40cmが目安。
子どもの頭の上あたりでお手玉を揺らし、お手玉の動きをよく見ながら指でお手玉をタッチする。10回繰り返す。
2.子どもの体の前でお手玉を揺らし、サッカーのリフティングのように左右のひざで交互にタッチする。10回繰り返す。
3.「グーで」「左ひじで」など指示を出し、体のいろいろな部分でタッチする。10回繰り返す。
「コロコロキャッチ」
1.テーブルをはさみ、親子で向き合う。テーブルの端からスーパーボールを転がし、子どもに手でキャッチさせる。1分ぐらい続ける。
2.慣れてきたら、2個、3個と連続でスーパーボールを転がして、子どもにキャッチさせる。
「数字探し」
ワークシートを見て、1から順番に数字を見つけて「1、2、3…」と声を出しながら指で数字をタッチする。
出典:『発達の気になる子の学習・運動が楽しくなるビジョントレーニング』(ナツメ社)より
早いと3~6ヵ月で効果が! 漢字の書き間違えが減った子も
こうしたトレーニングを続けることで、見る力が次第に養われていきます。個人差はありますが3~6ヵ月ぐらいすると見る力がつき、「集中力」「読み書きする力」「運動能力」「記憶力」などが高まる子もいます。ビジョントレーニングを受けた子どもたちの効果を紹介します。
3ヶ月で苦手だった漢字テストで高得点を取った6年生
- 苦労して練習しても、下のような漢字を書いていた6年生の女の子。しかし3ヵ月のビジョントレーニングで、漢字テストで96点が取れるように。
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半年ほどで、図形の記憶模写ができるようになった5年生
- 図形を記憶し30分後に思い出して描くテストでは、小4の3学期はほとんど描くことができませんでした(図1)。しかしビジョントレーニングを続けたところ、小5の1学期にはかなり思い出して描けるように(図2)。
- *画像は「視機能トレーニングセンタージョイビジョン 神戸 米国オプトメトリードクター 北出勝也 (visiontraining.biz)」より使用。
もっと知りたい!「ビジョントレーニング」
「家庭でできるビジョントレーニングをもっと知りたい!」という方は、北出勝也先生監修の『発達の気になる子の学習・運動が楽しくなるビジョントレーニング』(ナツメ社)をチェックして!
北出先生監修のYouTube「ビジョントレーニング!コロナで外出自粛の中、気持ちもスッキリ!カンタンおうちで毎日出来るカンタン眼の体操 ビューティフルネーム」もあります。
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記事監修
北出勝也|視機能トレーニングセンター Joy Vision代表- 1999年 米国パシフィック大学で検眼学(オプトメトリー)を学び、米国の国家資格「ドクター・オブ・オプトメトリー」を取得。全国の小中学校、教育センターなどでビジョントレーニングの講演活動を行うほか、インストラクターの育成を行う。著書は「発達の気になる子の学習・運動が楽しくなるビジョントレーニング」(ナツメ社)など多数。一般社団法人 視覚トレーニング協会 代表理事も務める。
- 一般社団法人 視覚トレーニング協会 ZOOM講座
- 取材・構成/麻生珠恵 イラスト/横山さおり・なかのまいこ(『発達の気になる子の学習・運動が楽しくなるビジョントレーニング』ナツメ社より)