学校現場で、早生まれの子どもには違いを感じる?
早生まれのお子さんがこの春に入学を控えている、そんな状況のパパ・ママの皆さん。「うちの子大丈夫かな」「周りの子に置いていかれないだろうか」「他の子に比べて体も小さいし、ついていけるだろうか」などと気にしているのではないでしょうか。
学校に入ってから少しでも苦労しないようにこの時期に何か準備させてあげたい、そう思う親心は当然あると思います。では、具体的には、小学校入学を控えた早生まれの子どもたちには、どんな準備が必要なのでしょうか。
今回話を聞いた専門家は、小中学校の教員・教頭・主任指導主事を岐阜県内で務め、公立学校2校で校長、私立学校でも教頭を務めた、教育者として40年以上のキャリアを誇る柘植(つげ)英次さんです。
その柘植さんに率直に「早生まれの子どもは教室で違いを感じるか」と聞くと、経験則としてはやはり違いを感じると言います。
「1年生・2年生を担任していた時、のんびりしている・勉強の理解に少し時間がかかる子が教室にいて、不思議だなと思って調べると、早生まれの子どもだったという経験はよくありました。
早生まれの子どもの中でも、お兄ちゃんやお姉ちゃんがいる子は、兄弟姉妹の関係の中でもまれているので、早生まれを感じさせないケースも多いです。
ただ、4月生まれの子どもと比べて、1年近い経験の差があるので、肉体的・精神的に幼さがあって当たり前だと思います」(柘植)
親の「子どもへの要求」が入学後の子どもを追いつめる
早生まれの子どもにはやはり、ちょっとしたサポートが必要だと分かりました。では、入学前のこの時期に何をすればいいのでしょうか。
「早生まれの子どもの保護者に限らず、就学を控えたお子さんをお持ちの親御さんは、自分でも気付かないうちに子どもへの接し方が変わってしまう事実にまず、自覚的になるといいかもしれません。
お子さんが生まれてから、幼稚園・保育所に通っているうちは、なんでも肯定してあげられていたはずです。しかし、子どもが小学校に上がると、どうしても『価値創造』の評価に傾いてしまいがちです。『価値創造』の評価とは簡単に言えば、足し算のテストでいい点数を取ったら褒めるといった話です。
親御さんとしては、小1の勉強に遅れないでほしい、将来的にはいい学校に進学してほしいなどと、どうしても考えてしまうと思います。その結果、いつの間にか、何かの達成を子どもに要求するようになり、逆に、何かを禁止するような発言も増えてしまいます。
『もう小学生になるんだし、こんなことができないと困るよ』だとか『こんな自分勝手だと、友達に嫌われていじめられるよ』などと、脅すような口調がもう始まっていないでしょうか。子どもからすれば、天と地が入れ替わるくらいの変化に思えて、不安に感じているはずです。
早生まれのお子さんをお持ちの親御さんには特に、わが子が遅れて見えてしまいがちです。だからこそ、自分の変化に自覚的になっておくと、苦手意識をわが子に与えたり、学校が怖いと思わせたりせずに済むのかなと思います」(柘植さん)
根気強く「経験値の積み重ね」を
心構えは分かりました。では、具体的に、どのような準備が大事になってくるのでしょうか。
「経験値の積み重ねが特に大事になります。先ほど、お兄ちゃんやお姉ちゃんのいる早生まれのお子さんには、早生まれの子特有の違いが目立たないケースが多いと言いました。その理由は、いろいろな経験を兄弟姉妹の関係の中で積み重ねられているからです。
経験の豊富さは、子どもの学力にも学校生活にも影響します。
例えば、お兄ちゃんお姉ちゃんとお菓子を分ける時、きょうだいのいる子に何が起きているかと言えば、どちらが多い・少ないを頭を働かせて瞬時に計算しています。それでけんかしたとしても、こうした『サバイバル経験』が、算数の計算能力を育てているのです。
生活面に関する就学前の準備も一緒で、お兄ちゃんやお姉ちゃんが学校から帰ってきてかばんを元の場所に戻す、学校の配布物を親に渡す姿を見ていれば、自分が学校に入っても対処できるようになります。
やはり、未経験の出来事に子どもは対処できません。
お兄ちゃんお姉ちゃんがいないご家庭では、保育所・幼稚園から帰ってきたら、かばんを同じ場所に戻させるだとか、もらってきた配布物をかばんから出して決められた場所に置かせるだとか、自分でやる経験を積み重ねてあげてください。
プラスして、自分の思い・考えを意思表示できる状態に入学前にさせてあげられると理想的です。保育所や幼稚園から帰ってきたお子さんに、1日に起きた出来事を聞いて、今日あった出来事をたくさん話させてください。
小学校に入ってからも、先生や友達と意思疎通ができれば、学校生活で困る場面も少なくなるはずです」(柘植さん)
にらみを利かせるような接し方は控えたい
就学前の準備としては、多彩な経験を日常の中で積ませる、1日の出来事を普段から聞いてあげる工夫を教えてもらいました。
ここまでは、学校に入るまでの期間にできる準備です。では、学校に入ってからは何が重要になってくるのでしょうか。
「40年以上の教員経験の中でほぼ断言できますが、基本的な学習習慣は1~2年生のうちに身に付けないと、その後は定着が難しいです。よほどの出来事がない限り、高学年からでは学習習慣は身に付きません。
その意味で言えば、早生まれのお子さんが遅れているように思えても、周りと比較し、にらみを利かせるような接し方はできるだけ控えたいです。大事な1~2年生の時期に、勉強に対する苦手意識が生まれ、学校生活が楽しくないという気持ちが出てきてしまいます。
お子さんが生まれてから保育所や幼稚園で過ごしてきた時間と同じく、就学後の1~2年はとにかく褒めてあげてください。潜在意識の部分に、ネガティブな言葉がたまっていかないようにしたいです。
例えば、家に帰ってきて、宿題・自学になかなか向き合えない姿を見ても頭ごなしに怒るのではなく『宿題の仕方を一緒に覚えようか。まずどんな宿題が出ているかなあ?』などと言葉や態度を柔らかくし、温かく応援してあげてください。
宿題や自学の時間を、親子の愛情確認の場にしてみてはいかがでしょうか?」(柘植さん)
子育てのゴールを考える
とはいえ……。頭では分かっているけれど、周りと比べて、遅れているように見えるわが子につい、多くを求めてしまう、禁止してしまう、おどすような物言いをしてしまう親御さんも少なくないのではないでしょうか。
夫婦共働きで、親の側にも余裕がなく、子どもに接することのできる時間が少ないと、余計に不安が増すと思います。
「私の子は、どうしてこんな簡単な問題を解けないんだろう」などと思ってしまう、表情や態度に出てしまう、口うるさく言ってしまう、にらみを利かせてしまう場合は、どうすればいいのでしょうか。
「子育てのゴールをあらためて考えてみてはいかがでしょうか。
私には、4人の子どもがいます。私の場合、子育てのゴールは『それぞれが幸せな家庭を持って、世の中に貢献できる人間になってほしい』でした。
その最後のゴールから逆算して、目の前のわが子が抱える問題にどう接するべきかを考えると、大きな間違いはしなくなると思います。周りの子ができる算数の問題を、わが子だけが解けなかったとしても、大した問題ではないと思えるはずです。
『全人教育』を提唱された小原国芳(おばらくによし)先生や、東京学芸大学の名誉教授である鹿沼景揚(かぬまけいよう)先生などがおっしゃるように、そもそも人間は、生きているだけで素晴らしい存在です。お子さんがお生まれになった時は、無条件に『私の子は素晴らしい』と感じられたと思います。
その気持ちに立ち返り、長期的なゴールを見据え続ければ、過剰に反応する自分に対処できるはずです。
親が焦らず、子どもを焦らせず、わが子を信じて温かく応援し続ければ、遅れているように見える早生まれの子も、3年生や4年生くらいで、優秀だった子に追い付き、追い越していきますので」(柘植さん)
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以上、柘植先生による、早生まれの子どもを持つパパ・ママの心構えと対策を紹介しましたが、いかがでしたか?
単なるテクニックではなく、子育ての最終目標を意識しながらわが子を信じて褒める、早生まれ特有の子どものペースに合わせて宿題や自学に可能な限り付き合う、温かい姿勢で励まし続けるなどが大事なのですね。
ちなみに、柘植さんは、40年以上の教員生活でつちかった経験を、惜しみなくブログでも公開しています。早生まれの子どもの問題のみならず、教育に関する貴重な話がいろいろ学べますので、併せてチェックしてみてくださいね。
【柘植英次さんのブログ】
英ちゃんの家庭教育法
お話を伺ったのは…
柘植英次さん
岐阜県出身。岐阜県の教員・教頭・可児市主任指導主事・校長を経験。4人の子どもの父親。趣味は読書と魚釣り。
取材・文/坂本正敬