「三銃士」はフランスの冒険物語
「三銃士」は映画やアニメにもなっている、世界中で大人気の冒険物語です。主人公のダルタニャンが活躍した当時のパリは、どのような状況だったのでしょうか。
作者はアレクサンドル・デュマ
「三銃士」の作者は、フランス生まれの作家アレクサンドル・デュマ(1802~1870年)です。息子に、「椿姫(つばきひめ)」の作者で同名のアレクサンドル・デュマがいます。父子を区別するために、父を大デュマ(デュマ・ペール)、子を小デュマ(デュマ・フィス)と称しています。
大デュマは数多くの歴史小説を新聞に連載しており、代表作には「三銃士」のほか、「モンテクリスト伯(巌窟王・がんくつおう)」「王妃マルゴ」などがあります。
「三銃士」は波乱に満ちたストーリーと、主役4人の性格の書き分けが素晴らしい、歴史小説の傑作です。特に、史実と創作を織り交ぜたスピーディな展開は痛快です。
17世紀のフランスが舞台
三銃士の舞台は17世紀初頭のフランスで、絶対王政が確立する前の激動の時代です。実権をにぎっていたのは、ルイ13世の宰相リシュリューです。リシュリューは新教徒の反乱(ラ・ロシェルの戦い)や農民の反乱を鎮圧し、絶対王政の基礎を築きました。
また、17世紀は決闘の時代でもありました。決闘とは名誉を傷つけられたことを理由に、個人と個人が闘う「果たし合い」です。禁止されても隠れて闘う者が後を絶たず、決闘に応じない者は臆病者として軽蔑されました。
このような波乱に満ちた時代だからこそ、ダルタニャンと三銃士の活躍の場があったのでしょう。
主人公はダルタニャンと3人の銃士たち
物語の主人公はダルタニャンという若者です。ダルタニャンと同じくらい重要な役割を果たす三銃士についても解説します。
ガスコーニュ出身の爽快な若者、ダルタニャン
ダルタニャンは、国王に仕える近衛銃士となるために、ガスコーニュ地方という田舎から都に出てきた若者です。ガスコーニュ人(ガスコン)であることにプライドを持っていて、「笑われた」というだけで決闘騒ぎを起こすくらいの熱血漢です。
後に仲間となる三銃士との出会いも、ダルタニャンが3人と次々に決闘の約束をすることから始まります。
ダルタニャンには、銃士隊長シャルル・ド・ダルタニャンという実在のモデルがいました。シャルルの部下であるクルティス・ド・サンドラがシャルルを題材にした創作物を書き、そこから発想を得たデュマの手によって、ダルタニャンはフランスの国民的英雄となりました。
陽気な三銃士、アトス・アラミス・ポルトス
ダルタニャンの仲間で、個性豊かな三銃士を紹介しましょう。
●アトス
アトスは最年長でリーダー格の銃士です。過去に暗い経験があるのか、ときおり影のある様子を見せます。破天荒な面も持ち合わせており、宿屋のワイン蔵に立てこもってワインを飲みつくしたという経歴を持っています。
●アラミス
アラミスはダルタニャンよりも少し年上で、女性に大人気の美青年です。聖職者になることを夢みていますが、剣術にも優れています。三銃士のなかでは頭脳派で、作戦を考えたり、情報収集をしたりします。
●ポルトス
ポルトスは、力は誰にも負けない大男です。傲慢で見栄っ張りという欠点はあるものの、わからないことについては人の意見を素直に聞くかわいらしい面も持ち合わせています。年齢はアトスとアラミスの中間です。
他にも個性豊かな登場人物が大勢
三銃士には、他にもユニークな登場人物がたくさん出てきます。
●コンスタンス・ボナシュー
ダルタニャンの家主の妻で、王妃に侍女として仕えています。のちにダルタニャンと恋仲になる、物語のキーパーソンの1人です。優しい美人ですが、夫を出し抜く勇敢な面もあります。
●ミラディー
リシュリューの手先として暗躍する妖艶な美女です。その魅力は「この女が話しかけたからには、もう安心はできない」といわれるほどで、実際に見張りを誘惑して何度も脱走に成功しています。
●プランシェ
ダルタニャンの従者で、気働きのできる勇敢な男です。三銃士にもそれぞれ従者がいますが、そのなかで最も頭が良いとされています。
「三銃士」のあらすじ
ダルタニャンと三銃士がどのような冒険に巻き込まれるのか、少しだけみてみましょう。結末は、実際に本を読んで確かめてみるのがおすすめです。
王妃の首飾りをめぐる大冒険
近衛銃士として召し抱えられたダルタニャンは、リシュリューの策略で危機に陥った王妃を助けるために、三銃士とともにイギリスへ向かいました。目的は王妃の首飾りを取り戻すことです。
道中、リシュリューの追手によって数々の災難にみまわれます。三銃士たちは1人、また1人と脱落していき、とうとうダルタニャンだけになってしまいます。
ダルタニャンと従者のプランシェは剣の腕と知略を働かせて、なんとかロンドンに到着しました。事情を知った王妃の恋人・バッキンガム公爵は、王妃のために権力の限りをつくしてダルタニャンたちを援護します。
しかし、イギリスがフランスに宣戦布告したことで、ドーバー海峡は封鎖されてしまいました。ダルタニャンはパリへ戻って来られるでしょうか。
ダルタニャンの恋
血気盛んな青年は女性に対しても敏感です。ダルタニャンは家主ボナシューの妻・コンスタンスに恋をしてしまい、コンスタンスもダルタニャンに惹かれていきます。
コンスタンスは知恵を働かせてダルタニャンたちを窮地から救いますが、ついにリシュリューに捕らえられてしまいました。
ダルタニャンはコンスタンスを探しながらも、ミラディーにも惹かれ始めます。しかし、危ういところでミラディーの本性に気づいて思いとどまり、本当に愛しているのはコンスタンスだと気づくのです。
ダルタニャンはコンスタンスを救い出そうと奮闘します。無事に助け出せたのかは、実際に読んで確かめてみてください。
「三銃士」は大長編物語の第1部
「三銃士」は主人公たちの若き日の冒険を描いた物語ですが、実は続編があります。物語のなかでは数十年のときが流れており、主人公たちが歳を重ねていく姿が魅力的に描かれています。
終盤には「鉄仮面」も登場
「三銃士」は、「二十年後」「ブラジュロンヌ子爵」と続く大長編の第1部です。三部作を合わせて「ダルタニャン物語」ということもあります。
物語の終盤には有名な「鉄仮面」が登場し、ルイ14世とともに重要な役割を果たすことになります。
続編では「三銃士」の20年後、30年後を描いているので、ダルタニャンは血気盛んな若者ではなく、思慮深い老紳士に変わっています。それでも許せないことには反応が速く、剣の腕も衰えていません。
ダルタニャンと三銃士の魅力的な人物像が、「三銃士」を世界的な文学作品に押し上げているのでしょう。
「三銃士」を読むなら
三銃士 上 (岩波少年文庫)
冒頭には「ルイ13世」や「リシュリュー」といった歴史上の人物に関する解説があり、世界史の知識がない子どもでも物語の背景を理解したうえで読める構成になっています。画像は上・下2巻のうちの上巻。
三銃士 上 (角川文庫)
児童書として翻案されたものではなく、原典の雰囲気を楽しみたいならこちら。名訳で味わう上中下3巻仕立てで、画像は上巻。
小学館世界J文学館 三銃士(電子版)
1冊に125作品をおさめた『小学館世界J文学館』に収蔵されている「三銃士」電子版。このタイトルだけを単独で購入することもできます。
子どものころ読んだ名作を読み直してみよう
「三銃士」はアレクサンドル・デュマが書いた、冒険物語の名作です。17世紀のフランスを舞台に、王妃の首飾りをめぐる闘いが繰り広げられます。
小説を読んだり、映画やアニメを子どもと一緒に見たりするのはいかがでしょうか。子どものころにはわからなかった魅力に、気づけるかもしれません。血気盛んで爽やかな青年・ダルタニャンの物語を楽しみましょう。
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構成・文/HugKum編集部