目次
松島伸浩さん「受験生の親として気をつけたい子どものリアル」
パート1では、受験勉強で通るそれぞれの場面に対して親がどうするべきか、これまで受験生を数多く送り出してきた松島先生のお話です。
子どものリアル① 偏差値は薬にもなるし毒にもなる
松島先生 偏差値は子どもの学力と受験合格率を冷静に見られるモノサシであり、上手く付き合うことが大切です。親御さんにとって偏差値が毒になることは想像しやすいと思うのですが、目標として偏差値を活用すればお子さんにとって薬になることもあります。
薬になる例
模試の成績が振るわずクラスを落としたお子さんがいましたが、偏差値を目安にしながら、毎朝社会の復習をしました。それによって偏差値が上がり元のクラスに戻れ、自分の自信にもなったという事例です。この場合は、偏差値は子どもにとっては、明確な目の前の目標となります。
ただし、偏差値にはあまり注目し過ぎず、上がっても下がっても一言声をかけるぐらいアッサリした態度でいてください。大切なのは、お子さんをしっかり見てあげることです。
本人ががんばったのに、周りの子もたまたま良くできていて偏差値が上がらないこともあります。その時はお子さんの正答率を見て「よくがんばってるね」と声をかけてあげてください。子どものモチベーションを上げるために偏差値を上手く使う。これが親御さんの腕の見せ所です。
子どものリアル②本当は好きなことしかやりたくない
松島先生 時間に余裕があるうちにお子さんの自信を育ててあげましょう。苦手科目に注目することは、子どもにとってはできないことばかり言われていることになり、それが受験勉強全体に対してのやる気を落としてしまう可能性があります。
逆に、自信のある得意科目は武器になります。もし同じ1時間勉強するなら、得意科目に時間を使った方が総合的に見ると点数が上がりますよね。受験は総合点なので、効率的に点数を伸ばすためにも得意科目に時間を使うのは正解なのです。
苦手に取り組むベストタイミング
自分自身で「これはまずい」と気づいた時です。周りから「やりなさい」と指示するのではなく、本人が「どうしたら苦手科目を伸ばせるのか?」と聞いてきてやる気になっているタイミングがチャンスです。
子どものリアル③ 宿題を写している。カンニングをしている。
松島先生 実はこれはよくあることなんです。宿題の量が現在の学力に見合っていない場合やクラスのレベルが合っていない場合にカンニングしてしまうことがあります。「うちの子に限って!」とショックを受けてしまって抱え込まず、大切なのは見逃さないことと迅速に対応すること。
大人の対応
親御さんは時々ノートを見て状況を把握すること。カンニングの傾向にいち早く気づくこと。そして気づいたら、まずは本人と話してください。これを長い間放置すると、ズルが定着してしまい学力をつけられないまま受験に間に合わなくなることがあります。
子どものリアル④ 些細な褒めでも子どもはやる気になる
松島先生 『二月の勝者』に出てくる直江樹里ちゃんという女の子は、算数は得意だけど漢字が苦手なタイプの子です。塾友で漢字が得意な子と一緒に勉強したことで成果が出たというエピソードがあります。そのことに親御さんが気づいて褒めてあげられたのが良かったですよね。
子どもは結局、お父さんとお母さんが大好きなんです。
「見ているよ」サインを送り続ける
親が自分を「ちゃんと見ていてくれる」と感じられると子どもは安心してがんばることができます。これは親御さんが忙しくても、怠らないでほしいです。「見てるよ」というサインを小さくても送り続けてあげることが、ゆくゆくは大きな違いに繋がっていきます。
子どものリアル⑤ 素直な子ほど親の良かれが逆効果になることもある
松島先生 前の話と関係しているのですが、子どもは親の言うことを大切に守る一面もあります。
塾に実際にいた子の話ですが、暗算でできる部分も全部筆算する子がいて、なぜそうしてるのか聞くと、お母さんにそう言われたと答えるのです。
子どもが自分で判断する力を身につける機会を奪ってしまうことにもなりかねないので、親御さんが判断して決めつけるのではなく、そこはプロに任せてほしいなと思います。素直な子ほど親御さんから言われたことと違うことをするのは難しく、思考停止にさせてしまう可能性があります。
おおたとしまささんから「受験生の親に5つの問いかけ」
中学受験をやってると視野が狭くなり、目の前のことで一喜一憂するメンタルになりがちです。パート2では、そんな時に立ち返ってみてほしい5つのポイントをおおたとしまささんに伺いました。
おおたさん 多分、他人のお子さんなら冷静に選べると思うんですが、我が子だと脅したくなっちゃうと思うんです。
恐怖で支配すれば、子どもは自主的に勉強するとは、思います。でもこの行動は恐怖をモチベーションとするもので本当の自主性ではありません。
思い通りにいかないことなんて世の中にはいっぱいあると伝えていくのが親の大切な役目の一つですよね。世界中どこにいっても生きていける子を育てることが本質的な目的であるはずです。
おおたさん つい言葉であれこれ言いたくなるんですが、落ち込んでいる時には言葉が無力だったりするので、まずは親がそれを受け止めましょう。こういう時は、余計な言葉をかけるよりも「ケーキを買ってきたから一緒に食べよう」と態度で示してあげてください。良い時も悪い時もあなたのことを見ているよと、行動でしっかり伝わります。
前に向かせてあげることも大切です。例えば、テストの点数が悪かった時、決して子どもを責めるのではなく、できた問題を見て「よくできたね!」と声をかけてあげてください。
状況が悪い時こそ、いいところに焦点をあててあげるのが親御さんができる最善のことだと思います。
おおたさん これはミラクルクエスチョンです。こんなことは絶対に起きませんが、もしこれにイエスと言ってしまう自分がいたら、心理状態がおかしくなっていると気づく必要があります。
仮に実力不足なのにズルをして合格したら入った後に苦労するのは本人ですよね。そして、逆に実力があった場合は、実力を試す機会を奪ってしまったことになりますし、一生、誰にも言えない傷としてその子が抱えることになります。
でも、それでも入試問題を見せてほしいと思ってしまうのが中学受験をする子の親心だと思います。もし自分がダークサイドに片足突っ込んでいる状況だとしたら、それを客観視するために、たまにこの質問をしてみるといいと思います。
おおたさん 第一志望に向かって頑張っているから報われてほしい。親として当然の気持ちだと思います。だけどそれが叶わなかったとして「人生」において何が困るのか?具体的に何か挙げられることはありますか?
強く思い焦がれたものがスルッと自分の手からこぼれ落ちる瞬間は、とても傷つきます。大人になっても引きずっている人は確かにいます。それでも、それを糧にして生きていく必要がありますよね。その経験を糧にして強く生きられる子になってほしい。
例えば野球少年。県大会2回戦で負けてしまったとして、毎日素振り練習をしていた子には、悔しいけど、「でも、よくやってた」って言葉をかけられるじゃないですか。その努力こそが、この先この子を支えてくれるって分かっていると思います。
『二月の勝者』では、まさに今、ページをめくるごとに出てくるシーンですが、自分の身にも起こり得ることなので、予行練習と思ってぜひ読んでいただきたいですね。
おおたさん 中学受験をする意味っていうのは、3年間をかけていろんな試練を受けて、勉強だけでなく人生訓を学んでいくことだと思うんです。そして進学した中学校では、それぞれの学校の美学を子ども達の細胞に染み渡らせていく。
大学で同じクラスになった一人ひとり、その旅の行程が全く違います。どっちがいいとかではなく、旅路にどのような意味を持たせるか。そこじゃないでしょうか。
保護者のお悩みQ&Aコーナー
参加者からの質問のほんの一部ですが、二月の勝者のキャラクターとも照らし合わせながらお2人にご回答いただきました。
子どもが自分から勉強しない
−間違った問題だけを集めたノートを親が作っても子が直しをしない。泣いて黙っているだけで、本当にイライラします
おおたさん ゲームばかりで勉強しない王羅くんという男の子が『二月の勝者』にも登場しますね。まずは、お子さん自身が勉強できる環境、状態であるかその子自身をよく見てあげてください。自分から勉強しない場合、言葉には出していないけれど態度でプレッシャーを与えてしまっているケースもあると思います。急かしているうちは自主的にはなれません。
松島先生 これは子どもができないことを叩きつけられているものなので、嫌になります。親御さんへのアドバイスは、ノートは作ってもご自身で持っておくことです。長く続けていると、できるようになっていくことに気づくと思います。
そして6年生とか、本人が自分から振り返りができるようになったタイミングで子どもがほしいと言ってきたら渡してあげてください。
子どもが追い込まれていないか不安
−成績が落ちてしまい以前にも増して焦燥感にかられ勉強し続ける子。放っておいていいのでしょうか?
おおたさん まず親が気づいているのが素晴らしいと思います。勉強しない子を見るのも辛いですが、し過ぎる子を見るのも辛いものですよね。
『二月の勝者』前田花恋ちゃんが夜中まで勉強していてお母さんが止めても続ける子がでてきます。この子が脱毛症になるというシーンがありますが、女の子にこういうケースはありがちです。親御さんは買い物に誘ってあげるなど、本人の視野が狭くなっているときに息抜きができるように支えてあげてほしいです。
松島先生 がんばっても結果が出ない場合は勉強法が間違っている可能性もあるので、一度塾の先生に相談してほしいです。ポイントとしては、子どもには先生に相談することは伝えなくていいです。思春期は、心の底では親に頼りたいのに、表面的にはそれを嫌がるものなので、そんなデリケートなお子さんの気持ちも分かってあげてほしいです。
父親の関わり方
難関校合格を目指す島津家は、成績の伸び悩みに焦った父親が高圧的に勉強させるシーンが描かれており、逆に武田家では、スマホゲームばかりして受験に後ろ向きな父親が描かれています。
–子どもは反抗期にさしかかっているのに父親の態度が変わりません。
おおたさん このお父さんには、『二月の勝者』『勇者たちの中学受験』『中学受験親のかかわり方大全』、この3冊の本をそっと渡して読んでもらい、自分で気付いてもらうことをお勧めします。
–夫婦間の意見が合わない場合に気をつけるべきポイントは?
松島先生 保護者会や説明会に一緒に参加するなど、中学受験に一緒に関わってもらうことがまず大切です。昔はこうだったといった思い込みや、視野が狭いケースがあるので、同じ情報を共有して目線を合わせていけると良いと思います。
母親の気持ちが不安定、誰に頼ったらいいか
–新小6になり、周りのママ友が急によそよそしくなり、受験への不安などを相談できなくなりました。ネットなどで情報収集すると余計に不安が募って。どのように精神の安定を得るべき?
おおたさん どこかに正解があると思って検索したくなる気持ちも分かりますが、大切なのはその子をよく見てあげることです。わが子の目が輝いていればそれでいいんだと思える親になることが親の目標でしょうか。それは簡単なことではないので、大いに右往左往してください。中学受験の3年間を通してそれができるようになればいいと思います。
最後にお二人からメッセージ
受験は単なる買い物とは違います。受験までの過程が大切です。
親も初めてのことで、人に頼ったり、自分の考えを大切にしたり、迷ったり悩んだりします。大切なのは子ども自身をよく見ること。そして子どもの思いを親が受け取ってあげること。勉強を一生懸命させる以前にやってほしいことです。
親は一人で抱え込まないでください。塾の先生もいます、周りの人を頼ってください。
(松島伸浩先生)
不安じゃない親はいないと思います。大金を払ってわざわざ不安を買っているのが中学受験です。でも、親であれば受験をしなくてもいつか味わう苦々しさなので、せっかく中学受験するなら、それを存分に味わっていただいたらいいんじゃないかと思います。
その状況自体を自分の学びに変えられると良いと思います。
(おおたとしまささん)
HugKumでは、今後も中学受験にまつわる記事を配信していきます。
中学受験の記事、こちらもおすすめ
『二月の勝者 17巻』好評発売中
中学受験のリアルを描いた漫画が大反響。最新17巻では、2月1日の合否続々!学校の多くが合否を当日に発表する中学受験。
2月1日の18時、吉祥寺校 最初の合格発表5人の結果は?
文・構成/田邊紗耶香